公認心理師 2020-99

文部科学省が示している資料が基になっている問題です。

「資料を見てないからわからない」と匙を投げず、「児童期の発達」を思い起こしつつ挑むことが大切だろうと思います。

 

問99 我が国のキャリア教育において、文部科学省が示した小学校段階のキャリア発達の特徴について、最も適切なものを1つ選べ。

① 低学年では、計画づくりの必要性に気づき、作業の手順が分かる。

② 低学年では、仕事における役割の関連性や変化に気づくようになる。

③ 中学年では、将来の夢や希望を持ち、実現を目指して努力しようとする。

④ 高学年では、自分のことは自分で行うようになる。

⑤ 高学年では、自分の長所や短所に気づき、自分らしさを発揮するようになる。

解答のポイント

文部科学省が示しているキャリア発達の特徴を把握している。

ただし、「児童期の発達」を細やかに把握しておく方が現実的だろう。

必要な知識・選択肢の解説

まず、本問を解くにあたっては、文部科学省が示しているキャリア発達の特徴に関する資料に目を通しておくことが求められます。

しかし、以下の解説を見てもらえばわかる通り、この資料の内容を「丸覚え」するのは無理があるだろうと思います。

となると、別視点での解き方を考えておく必要があります。

私ならば「小学校の発達の具合に合わせて、各項目が低学年・中学年・高学年のいずれに該当するだろうか?」と考えながら解くだろうと思います。

小学校の発達の具合を把握し、それを取っ掛かりに本問を解いていくというのが、おそらく真っ当なやり方ではないかと思うのです。

とは言え、学ぶ段階では以下のような「文部科学省が示している資料」に目を通しておき、上記の「小学校の発達の具合」の知識に補完的に活用していくようにしましょう。

以下では、その「文部科学省が示している資料」を中心に述べていくことにします。

本問は、文部科学省のHPにある「小学校キャリア教育の手引き(改訂版)」から出題されています。

特に「第1節 キャリア教育の必要性と意義(その1)」と「第1節 キャリア教育の必要性と意義(その2)」から引用しつつ、解説していきましょう。

まずは概論的に述べていきます。

「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議」では、キャリア教育推進のための方策を討議した際、「キャリア教育を理論的枠組みとする」という理念を実現するためには、「各発達段階における『能力や態度』」を明確化し、それらを獲得し、実践に移せることを目標とした学習プログラムの開発が必要であるという結論に至りました。

この調査研究協力者会議に先立って国立教育政策研究所生徒指導研究センターが発表した「職業観・勤労観を育む学習プログラムの枠組み開発」のための研究結果の中で、一つのモデル例として提示した「4領域8能力の枠組み」が、キャリア教育の枠組みの例として取り上げられました。

この4領域8能力の例については、その後「各学校においてキャリア教育を推進する際の参考として幅広く活用されることを期待したい」(「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書」より)と指摘されたことなどによって広く知られるようになりました。

以下に、4領域8能力の概要を示します。

【領域:人間関係形成能力】

他者の個性を尊重し,自己の個性を発揮しながら、様々な人々とコミュニ
ケーションを図り、協力・共同
してものごとに取り組む。

この領域の能力は以下の通り。

  • 自他の理解能力:自己理解を深め、他者の多様な個性を理解し、互いに認め合うことを大切にして行動していく能力。
  • コミュニケーション能力:多様な集団・組織の中で、コミュニケーションや豊かな人間関係を築きながら、自己の成長を果たしていく能力。

【領域:情報活用能力】

学ぶこと・働くことの意義や役割及びその多様性を理解し、幅広く情報を活用して、自己の進路や生き方の選択に生かす。

この領域の能力は以下の通り。

  • 情報収集・探索能力:進路や職業等に関する様々な情報を収集・探索するとともに、必要な情報を選択・活用し、自己の進路や生き方を考えていく能力。
  • 職業理解能力:様々な体験等を通して、学校で学ぶことと社会・職業生活との関連や、今しなければならないことなどを理解していく能力。

【領域:将来設計能力】

夢や希望をもって将来の生き方や生活を考え、社会の現実を踏まえながら、前向きに自己の将来を設計する。

この領域の能力は以下の通り。

  • 役割把握・認識能力:生活・仕事上の多様な役割や意義及びその関連等を理解し、自己の果たすべき役割等についての認識を深めていく能力。
  • 計画実行能力:目標とすべき将来の生き方や進路を考え、それを実現するための進路計画を立て、実際の選択行動等で実行していく能力。

【領域:意思決定能力】

自らの意思と責任でよりよい選択・決定を行うとともに、その過程で課題や葛藤に積極的に取り組み克服する。

この領域の能力は以下の通り。

  • 選択能力:様々な選択肢について比較検討したり、葛藤を克服したりして、主体的に判断し、自らにふさわしい選択・決定を行っていく能力。
  • 課題解決能力:意思決定に伴う責任を受け入れ、選択結果に適応するとともに、希望する進路の実現に向け、自らの課題を設定してその解決に取り組む能力。

これらの4領域8能力について、小学校低学年・中学年・高学年にそれぞれ「職業的(進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・態度」が示されており、本問はここから出題されています。

なお、小学校全体は「進路の探索・選択にかかる基盤形成の時期」とされており、小学校全体を通しては以下のような「職業的 (進路) 発達課題」が示されています。

  • 自己及び他者への積極的関心の形成・発展
  • 身のまわりの仕事や環境への関心・意欲の向上
  • 夢や希望、憧れる自己イメージの獲得
  • 勤労を重んじ目標に向かって努力する態度の形成

なお、この「職業的 (進路) 発達課題」とは、「各発達段階において達成しておくべき課題を、進路・職業の選択能力及び将来の職業人として必要な資質の形成という側面から捉えたもの」とされています。

では、これらを前提として、各選択肢の解説に入っていきましょう。

① 低学年では、計画づくりの必要性に気づき、作業の手順が分かる。

こちらの選択肢は「将来設計能力」のひとつである「計画実行能力」から引用しています。

「計画実行能力」の低学年~高学年の「職業的(進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・態度」は以下の表のとおりです。

この表でわかる通り、本選択肢の内容は小学校中学年のものですね。

低学年では「作業の準備や片づけをする」「決められた時間やきまりを守ろうとする」が特徴となります。

低学年で「計画づくりの必要性に気付く」というのはなかなか難しいだろうと思います。

低学年は「言われたとおりにやることで、身体化していく時期」という印象であり、そうして何度も行って身体化したものに年齢の重なりにつれて意味が追い付いてくるという感じですね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 低学年では、仕事における役割の関連性や変化に気づくようになる。

こちらの選択肢は「将来設計能力」のひとつである「役割把握・認識能力」から引用しています。

「役割把握・認識能力」の低学年~高学年の「職業的(進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・態度」は以下の表のとおりです。

この表でわかる通り、本選択肢の内容は小学校高学年のものですね。

低学年では「家の手伝いや割り当てられた仕事・役割の必要性が分かる」が特徴となります。

本選択肢の内容は、目の前にあるもの以外の認識も必要になってきますから、目の前にあるものに引っ張られる低学年の発達段階では困難な特徴と言えそうです。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 中学年では、将来の夢や希望を持ち、実現を目指して努力しようとする。
④ 高学年では、自分のことは自分で行うようになる。

これらの選択肢は「意思決定能力」のひとつである「課題解決能力」から引用しています。

「課題解決能力」の低学年~高学年の「職業的(進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・態度」は以下の表のとおりです。

この表でわかる通り、選択肢③の内容は小学校高学年のものであり、選択肢④の内容は小学校低学年のものですね。

選択肢③では本来「高学年」の特徴が「中学年」のものとして示されており、選択肢④では本来「低学年」の特徴が「高学年」のものとして示されていますね。

自分のことは自分で行い(低学年)、責任をもって努力しやり通し(中学年)、自ら課題を見つけそれに向けて努力する(高学年)、といった順番になっていますね。

与えられたものを行い、それに意味を見出し、今度は自ら行うべきことを見つけ出す、と言い換えても良いでしょう。

このように見ておけば「児童期の発達」と重ねて考えてみることもしやすいだろうと思います。

以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 高学年では、自分の長所や短所に気づき、自分らしさを発揮するようになる。

こちらの選択肢は「人間関係形成能力」のひとつである「自他の理解能力」から引用しています。

「自他の理解能力」の低学年~高学年の「職業的(進路)発達を促すために育成することが期待される具体的な能力・態度」は以下の表のとおりです。

このように、本選択肢の内容は小学校高学年の特徴であると見て間違いありませんね。

この発達のプロセスを見てみると、「自分の好きなこと、嫌なことを言う」から始まり、「自分や他者の良いところを見つける」になり、「自分の長所や短所に気付く」となっていますね。

言い換えれば、自分の内側にある体験を認識し伝えることから始まり、自分らしさの発揮につながっていくということですね。

個人的な印象としては、「自分の欠点を自覚する」ためには、多少なりとも「自分にはこれができる」という感覚も必要な気がしています。

ですが、「自分にはこれができる」という感覚がそれほど強くなくても、乳幼児期から「無根拠に大切にされる体験」が深く根差していれば「自分の欠点を自覚する」ことも可能なのかもしれない…などとも思いますが、まだ私には判断がついていないというのが正直なところです。

些少な私個人の臨床体験を踏まえれば「重要な他者が、その子どもの欠点を認めつつも、それで価値づけせずに愛着を送っている」ということは大切だろうと思います。

ですが、やはり「自分にはこれができる」という体験も不可欠なのでは、という思いもいくつかの事例を見ていて思います。

そして「自分にはこれができる」という確かな感覚は、「苦しい努力の結果によってもたらされた」という経緯が大切であると考えています。

もしかしたら「苦しい努力」を行う個人を支えるものが「無根拠に大切にされる体験」なのかもしれない…とも思いますが、やはり自分の中で決定打はないですね。

「どうやれば人は自らの欠点を見つめることが、本当の意味でできるのか?」は、まだ私の中で物語を構築中ですね。

おそらく5年以内には出来上がるでしょう。

以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

本問の解説では「情報活用能力」に関して示されておりませんでしたから、どうせなので全体をお示ししましょう。

これが小学校における全体像になります。

目を通し、自分なりに「児童期の発達」と重ねながら把握しておくと良いでしょう。

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