教育心理学では、さまざまな学習法に関する理論が示されています。
心理学でおなじみの概念でも「教育心理学ではどのように表現するのか」を知っておくと、幅広い概念理解につながりますね。
なお、本問は「よくわかる教育心理学(ミネルヴァ書房)」から引用しつつ解説しています。
問24 学習者が自分の目標を決め、その目標を達成するために自らの計画を立て、実行段階で思考、感情及び行為をコントロールし、実行後に振り返り、自らの学習行動を評価するプロセスとして、正しいものを1つ選べ。
① 観察学習
② 自己調整学習
③ 認知的徒弟制
④ 古典的条件づけ
⑤ 有意味受容学習
解答のポイント
教育心理学における学習法について理解していること。
選択肢の解説
① 観察学習
④ 古典的条件づけ
これは行動主義的なアプローチ、すなわち経験がもたらす学習効果について示したものになります。
行動主義では、「心」を実証的に捉えるために、客観的に観察可能な行動を「心」の表れとして研究します。
この立場によると、学習は経験を通して獲得された行動の永続的な変化を意味します。
また、行動の変容は、疲労や病気による一時的なものや、成熟により生じる当然のものではなく、何らかの経験を通して新たな行動が形成されたり、刺激と反応との新たな連合が生まれることなどを指します。
学習は環境がどのような教育経験を与えるかに依存し、学習者は環境からの働きかけの受け手となるので、良い学習のためには適切な環境や経験を与えることが重要であると見なします。
行動主義的アプローチの一つとして、古典的条件づけによる学習があります。
古典的条件づけは生得的な反応を基礎にする刺激と反応の新たな連合の習得を指します。
Pavlovは犬の実験をもって、これを示しています。
つまり、餌(無条件刺激)を口にすると唾液が出ます(無条件反応)。
飼育係が餌を持ってくる足音がしますが、その際、餌と足音は対になって呈示されることになります。
これが繰り返されることで、餌(無条件刺激)と対呈示された任意の刺激(ここでは足音。これが条件刺激)が、次第に無条件反応(唾液分泌)と結び付き、同様の反応(唾液分泌。これは条件反応)を引き起こすようになります。
この現象を条件づけと呼び、唾液分泌は足音という刺激に連合された新たな反応ということになりますね。
ほかにも行動主義的アプローチの一つとして、モデリングによる学習があります。
人間は他者の行動を見ただけでその行動を取り入れることができます。
このような学習をBanduraは観察学習あるいはモデリングと呼びました。
バンデューラは行動の習得と遂行を区別しています。
モデルの行動は観察により学習者の頭に入ります(習得)。
その際、学習者への強化は必要ありませんが、習得されたモデルの行動を学習者が実際に遂行するかどうか(つまり行動に表すかどうか)には、モデルに与えられた代理強化が影響します。
知識としての学習と行動としての学習を区別する点で、バンデューラはその後の認知的学習の発展との繋がりを持っているということになります。
このほか、オペラント条件づけによる学習もありますね。
これは、ある刺激のもとで出現する多様な能動的行動の中の特定の反応に対してのみ報酬を与えることを繰り返し、刺激と特定の反応との新たな連合を作ることを指します。
教育的応用の例としては、Skinnerのプログラム学習があります。
以上のように、ここで挙げた選択肢の内容は、本問で示された記述とは合致しないことがわかります。
よって、選択肢①および選択肢④は誤りと判断できます。
② 自己調整学習
行動主義心理学が全盛だった頃、学習はオペラント行動だから、賞罰のコントロールさえ巧みに行えば学習がなされるだろうと考えられていました。
しかし、行動は習慣化すると自動化し、内容の適切性を吟味したり修正したりすることがなくなります。
惰性で教材の記入欄を埋めているだけでは内容の習得にはならないので、最近では「自己調整学習(自己制御学習ともいう)」が強調されるようになってきました。
学習者が、まず自分の目標を決め、その目標を達成するために自らの計画を立て、実行段階で思考、感情、行為をコントロールし、実行後に振り返って自らの学習行動を評価するプロセスを自己調整学習といいます。
つまり、学習を習慣的機械的にこなすのではなく、高い学習動機のもとに、目標達成に必要なことを段取りを決めて実行していくことが、習得や次の動機づけの好循環を生むと考えているわけです。
Zimmermanは、自己調整学習を、計画、実行、評価のサイクルで捉えたモデルを提示し、各段階で学習効果を高める要因を分析しています。
以下では自己調整学習の各段階を見ていきましょう。
まず学習計画の段階です。
学習者がどのような目標を立てるかは、その学習者の自己効力感が大きく影響します。
一般に自己効力感は成功体験によって高まるとされていますが、これは成功したときの方法が目標達成の見通しの中に自己成長の1ステップとして位置づけられた時に限ります。
つまり、易しい問題の試験で満点が取れたり、カンニングで高得点が取れても、自己効力感は高まりません。
従って、学習計画に当たっては、学習内容の計画だけでなく、学習方法の計画も重要になります。
続いて、学習実行の段階です。
実行段階では、自己学習のモニタリングとコントロールがうまく働くかどうかが大切です。
このような機能を持つメカニズムをメタ認知と言います。
注意の集中状況、記憶の確実性、意味は理解できているか、学習方法は適切か、予定通り学習が進んでいるか等を見守ることがモニタリング機能です。
そして、もう少し反復回数を増やしてみよう、忘れそうなので記録しておこう、この問題は逆から考えてみよう、別の学習方略を工夫してみよう、眠気と戦って学習を続けようなどと、自分の行動を調節するのがコントロール機能です。
学習内容がよりよく習得できるためには、学習の過程でメタ認知が十分に機能する必要がありますが、その働きには個人差が存在します。
次は振り返りの段階です。
学習後には、目標はどこまで達成されたか、習得に失敗した部分はどこかで成功した部分はどこか、成功や失敗の原因は何か、学習方法は適切であったか、今後の学習方針はどのようにたてたら良いか等を考えると、次の自己調整学習をより効果的に行うことができます。
定期テストは振り返りのきっかけと判断材料を与えてくれるので、定期テストを考慮した計画をはじめから作っておくことが望ましいと言えます。
教育は学習者を自立させるための活動ですから、学習自体も教師や教材の指示に従って他律的に進めるのではなく、自己調整学習として自律的に行われる必要があります。
学校に在籍する期間において、自己調整学習を積み上げていくことにより、社会に出てからも生涯にわたり自らを教育し続ける力を育てていくことができると考えられています。
以上のように、本選択肢の内容は本問で示された記述と合致することがわかりますね。
よって、選択肢②が正しいと判断できます。
③ 認知的徒弟制
学校教育における知識獲得も、状況や学習環境と独立になされるものではありません。
そこで、伝統的な徒弟制度における学びのシステムを踏まえながら、学校教育における認知的な学びを捉えようとする立場があり、それが「認知的徒弟制」というシステムの想定です。
アメリカの認知学者ブラウンやコリンズらによって提唱されました。
認知的徒弟制では、習得される知識や方略を多様な状況で用い練習できるように学習課題が配列され、またそれにより多様な場で使える一般化された知識の伝達がはかられます。
また、古典的な徒弟制では目に見える活動が伝達されるのに対して、認知的徒弟制では目に見えない内的な思考過程の明示が求められます。
認知的徒弟制においては、以下のような学習過程が機能するとされています。
- モデリング
師匠が弟子に自分の技を観察させるように、教師など教室の熟達者はその熟達した技能を生徒に観察させ、真似をさせる。 - コーチング
師匠が弟子に学んだ技能を使わせるように、教師は生徒にやらせ、必要に応じて足場としてのヒントやフィードバックを与える。 - スキャフォールディング
学習者が自分自身でさらに上達の道を歩んでいけるようにするための支援であり、熟達者は学習者に適度な課題の達成を求め、支援し、できるようになるにつれて足場を外していく。 - フェーディング
熟達者は学習者が独り立ちできるように少しずつ関わりを減らし、退いていく。 - 明瞭な表現
内的な過程である思考を外からもわかるように、理由や知識、問題解決過程を明瞭に表現させる。 - 反省
生徒の問題解決過程を熟達者や他の生徒のそれと比較させる。 - 探求
生徒が自立した学習者として自分自身で問題を設定し、解決していく。
このように伝統的な徒弟制の職業技術訓練をモデルとして、いわゆる見習い修行の学習過程を認知的に理論化した学習方法のことを認知的徒弟制と呼びます。
特に上の1~4についてが、認知的徒弟制において効果的かつ効率的に知識・技能の修得・継承ができるためのステップとされています。
認知的徒弟制の背景には、「学校の勉強は社会では役立たない」という意見に対する答えが含まれています。
こうした意見は、学んだ知識とそれを使う状況とが切り離されているために生じると考えられ、認知的徒弟制では、職人の見習い修行において顕著なやり方に類似した方法を用いて、知識を状況に埋め込まれた状態で学習を行うというやり方をするわけです。
認知的徒弟制では、学習するべきことを実際の場面に近い形で、その道のプロの考え方や技術を学ぶわけですが、この「考え方」も学ぶという点が「認知的」という言葉が付される理由になっています。
以上より、本選択肢の内容は本問の説明文とは異なっていることがわかります。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。
⑤ 有意味受容学習
Brunerは1960年に、学習者が原理原則を「発見学習」(学習者自らが試行錯誤して学ぶこと)できるように授業を組み立てる方法を提唱しました。
Ausubelはこれを、教師が知識内容を提示し学習者が「受容学習」(教員が学習者に一斉授業を行うタイプの学習のこと)を行う伝統的な教育方法と対峙するものとして位置づけました。
オーズベルは、現代では習得すべき学習内容が膨大であることから、すべてを発見学習で学ぶことは非現実的であるとして、受容学習の重要性を強調しました。
学習には有意味学習と機械的学習があります。
機械的学習は、意味を考えずに丸暗記する方法であり、こちらは記銘や想起が困難なうえ、確実に行うためにはリハーサルを大量に行う必要があります。
これに対し、有意味学習は記銘・再生や再認のどの段階も機械的学習よりも容易であり、保持期間も機械的記憶よりも長いという特徴があります。
この有意味学習には、「学習内容の有意味性」と、学習内容に対する「学習者の反応の仕方の有意味性」の2つの側面があります。
前者は、学習材料が潜在的に有意身であることで、本来意味のある内容の学習内容を指します。
つまり、学習内容が非恣意的な構造をもった学習材料であり、かつ学習者側にもそれを保持し得る認知構造が存在することが重要になります。
後者は、新しく学習される情報を、学習者の認知構造の対応する箇所に、種々の方法で結び付ける意図をもって学習者が対応する姿勢を指します。
有意味学習では、学習内容が認知構造に関連付けられて処理されているため、新たに学習すべき量が少ない、学習所要時間や記憶負担も少なく、意味的学習想起が生じやすい、問題解決場面に役立ちやすい、などの特徴を持つとされており、教科書をいかに有意味化するかが重要であるとされています。
こうした「発見学習 対 受容学習」「有意味 対 機械的」の4通りの組み合わせの中から、オーズベルが提唱したのは「有意味受容学習」です。
有意味受容学習とは、意味を理解しながら行われる受容学習であり、有意味受容学習を助けるものとして先行オーガナイザーがあります。
新たに学習する内容に関連する抽象的・概念的な枠組みを先に呈示しておくと、新たな内容を理解しやすくなることが分かっており、先行オーガナイザーとは、学習前にあらかじめ呈示する枠組みのことを言います。
すなわち、記憶内の既有知識が明確かつ適切に構造化され、しかも安定していれば、新しい学習内容は正確な意味づけがなされて構造化され、既有の意味ネットワークにうまく移植されることになりますが、既有知識の構造が曖昧で混沌とした状態で不安定な場合は、新しい情報の受容学習は妨害されて、定着は成功しないとオーズベルは考えました。
学校で授業を受ける前に、学習者個人が予習をすると効果的であることが知られていますね。
これは、予習が主体的な学習姿勢を形成すると同時に、予習内容が先行オーガナイザーの働きを持つためと考えられています。
以上より、本選択肢の内容は本問の説明文とは異なっていることがわかります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。