公認心理師 2019-34

問34は学校における自殺予防教育に関する問題です。
文部科学省のページに資料がありますね。

問34 学校における自殺予防教育について、最も適切なものを1つ選べ。
①プログラムは地域で共通のものを使用する。
②学級づくりのできるだけ早い段階に実施する。
③目標は早期の問題認識及び援助希求態度の育成である。
④いのちは大切なものであるという正しい価値観を提供する。
⑤自殺のリスクを抱える児童生徒のプログラム参加は避ける。

文部科学省のサイトにある「子供に伝えたい自殺予防-学校における自殺予防教育導入の手引」を参考にしつつ解説を進めていきましょう。
引用部分についてはそのページ数を付しております。

解答のポイント

文部科学省が示している資料に関する把握と理解。

選択肢の解説

①プログラムは地域で共通のものを使用する。

この選択肢は2通りの意味にとることができるように思えます。

  • 「その地域内の学校で共通のものを使用する」という捉え方。
  • 「その地域の関係機関等で自殺予防教育が行われる場合に共通のものを使用する」という捉え方。

ここでは上記に関しての解説を行っていきましょう。

まずプログラムについては以下のように示されております。
「具体的にどのような自殺予防教育プログラムを実施するかの検討を行います。その検討に際しては、学校、学年、学級の子供の実態把握が欠かせません(p10)」

このように、各学校や学年、学級の実態に応じてプログラムは工夫される必要があることが示唆されております
これらの状態に応じて、そのプログラムは多少の違いが出てくるということになるでしょう。
多くの場合は、どこを強調するのか、といった点が違ってくるものと思われます。

また、地域との関係性についても本資料には示されております。
自殺予防教育の実施に先立って、学校、保護者、地域の精神保健の専門家といった関係者との間に自殺予防教育について共通認識を得ておく必要があります

「子供対象の自殺予防教育を実施する上での協力依頼」として以下が示されております。
まず「地域の援助資源リストへの掲載に関する依頼」としては以下の通りです。
「子供に配布するリーフレットやカードには、実際に活用できる地域の援助資源の連絡先等を記載します。それに先立ち、関係機関に連絡を取り、その旨伝えて了解を取るとともに、改めて授業実施後に子供から連絡があった際に対応いただくよう、あらかじめお願いしておくことが望ましいと考えられます。第3章で示すように、授業の一環として実際に子供が援助機関に出向いて説明を受けることができると、訪れた子供はもちろんのこと、仲間の声を通してその実際に触れることで他の子供たちにとっても援助機関の存在が身近で現実的なものになります。そのような場合には、事前に担当教師が出向き、十分な協議をしておく必要があることは言うまでもありません(p12)」

また「ハイリスクの子供のフォローアップに関する依頼」に関しては以下の通りです。
「可能であれば、地域の専門機関に対して、子供対象の自殺予防教育プログラム実施後に、専門機関でのフォローが必要だと判断された子供を紹介する可能性があることを、あらかじめ伝え協力を依頼しておくことが望ましいと思われます(p12-13)」

更に、「ゲスト講師としての協力依頼」も地域との協力の中で行うことが望ましいとされています。
「地域の関係機関のスタッフが、子供対象の自殺予防教育にゲスト講師として来校し、校内スタッフとともに授業を実施することできれば、子供は学校外の援助資源についてより具体的に認識し、活用しやすくなると思われます(p13)」

このような点が地域との連携で重要になることとされています。
少なくとも地域で別々に自殺予防教育を行うのではなく、学校で行う自殺予防教育に協力してもらうという仕組みになると言えます

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

②学級づくりのできるだけ早い段階に実施する。

自殺予防教育を実施するためには、それに向けての下地づくりの教育が重要とされています。
「自殺予防を直接テーマとする教育を実施するためには、それ以前に子供の実態に合わせて、自殺予防教育につながる様々な取組を行うことが求められます。日頃、実施している教育活動の中に自殺予防に焦点化した教育の下地づくり(基盤)となる内容が多く含まれていることを認識し、自殺予防教育と連動させて行うことが、子供及び教師の抵抗感を少なくすることにつながると思われます。下地づくり(基盤)となる既存の教育活動として「生命を尊重する教育」や「心身の健康を育む教育」、「暖かい人間関係を築く教育」などを挙げることができます。また、これらの教育活動を充実させていくためには、子供たちの些細な言動から個々の置かれた状況や心理状態を推し量ることができる感性を高めることや、困ったときには何でも相談できる子供と教師との信頼関係づくり、相談しやすい雰囲気づくり、保健室、相談室などを気軽に利用しやすい所にする居場所づくりなど、子供の心に寄り添う「校内の環境づくり」も重要になります。下地づくりとなる教育活動の充実は、全ての子どもたちが生き生きと学校生活を送るためにも大切です(p28)」

こちらについては以下のような図が添付されています。
上記からも、自殺予防教育を実施するためには、日々の教育の中での関係性や行われる教育が重要になってくることがわかります
選択肢にあるように「学級づくりのできるだけ早い段階に実施」してしまうと、こうした下地を作ることなく行われることになるので、それ自体がどのような反応を引き出すか予測できないというリスクもあるでしょう
また、一定の人間関係がある人や環境の中で行われないと、たしかに効果が薄いだろうと素朴に感じますね。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③目標は早期の問題認識及び援助希求態度の育成である。

「自殺予防教育プログラムの目標と内容」では、「早期の問題認識(心の健康)」と「援助希求的態度の育成」が挙げられております(p14)

プログラムの内容は以下のように設定されております。

  • 自殺の深刻な実態を知る。
  • 心の危機のサインを理解する。
  • 心の危機に陥った自分自身や友人への関わり方を学ぶ。
  • 地域の援助機関を知る。

そしてこれらは、「長い人生において問題を抱えたり危機に陥ったりしたとき,問題を一人で背負い込まずに乗り越える力を培うこと」「自分自身や友達の危機に気付き,対処したり関わったりし,信頼できる大人につなぐことの重要性を伝えること」を主眼に置いたプログラムとされています

以上より、選択肢③が適切と判断できます。

④いのちは大切なものであるという正しい価値観を提供する。

自殺予防教育を実施するにあたっての前提条件としては、以下の3つが設定されています。

  1. 関係者間の合意形成
  2. 適切な教育内容
  3. ハイリスクの子供のフォローアップ
この中の「適切な教育内容」に関しては以下のような記述が見られます。

「自殺をおとしめたり、逆にひどく美化したりするような扱いをすべきではありません。このように教育すると、危機にある子供が適切な援助を求める態度に出られなくなってしまう恐れがあります。一方的な価値観や道徳観の押しつけも避けなければなりません。自殺の実態を中立的な立場で示し、データそのものが事態の深刻さを語るように伝えていくべきです(p7)」

また、「子供を対象とした自殺予防教育プログラムの方向性」も示されております。
その中の「プログラムの特徴」には以下のような記述が見られます。
「いのちは大切」といった価値観を一方的に与えるのではなく、五感を通じていのちについて考えることをねらいとしました。正しいと自明視されているものとして価値観を示されると、身近な人を自殺で亡くした人や自傷行為をしてしまう子供たちは、「いのちを大切にできない親(自分)は駄目な存在」と自らを責め、より一層自尊感情を低めてしまう恐れがあります。教師と子供が一緒に自殺や死の問題について考えることを通して、生きづらさを抱えている子供に少しでも寄り添うことを目指して、本プログラムを構想しました。また、それは、生涯にわたるメンタルヘルスの基礎を作ることでもあると考えています(p14-15)」
このように、ある特定の価値観や道徳心の押し付けは避けるよう明言されております
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
ちなみに、こうした価値観や道徳心とはどういうものなのか、それを考えていくことが我々のような専門職には求められます。
私個人は「このようにみんなが振る舞えば、良い世の中になると思えるような考え方・行動」だと思っています。
ですから、みんな各々その形が異なるのは当然と言えますし、大切なのはそれを自分が実践することだけです。
そういった価値観や道徳心を「押し付ける」のは、その人自身が自分の価値観や道徳心に息苦しさを感じているからです。
「こうしなくちゃいけないでしょ」と周りに押し付ける子ども(たいていは本人もできてない)は、内実は苦しさを抱えているのです
こうした価値感・道徳心のもとで生きていくと、余計な仕事や責任を引き受けること(道でごみを自主的に拾ってくれる人、通学路の雪かきをしてくれる人など)になります。
「こうした方が幸せになる場合が多くなるだろうな」という考え方ですからね。
これを実行するためには「これは私がすることだ」と思えること、そう思えるためには「世界からたくさんのものを与えられてきた」という言わば贈与への返礼という感覚が求められます。

⑤自殺のリスクを抱える児童生徒のプログラム参加は避ける。

先述したように、自殺予防教育を実施するにあたっての前提条件としては、以下の3つが設定されています。

  1. 関係者間の合意形成
  2. 適切な教育内容
  3. ハイリスクの子供のフォローアップ

なお、この「ハイリスクの子供」とは、身近な人を自殺で亡くした人、心の病のために治療中であったり、以前に自殺未遂に及んだことがあったりする生徒を指します

上記の「ハイリスクの子供のフォローアップ」に関しては以下のような記述が見られます。
「この種の予防教育を実施すると、当然、ハイリスクの子供が発見される事態が予想されます。そのようなときに、学校、家庭、地域の専門機関が協力して子供を支えていく体制を整えることも、自殺予防教育を実施する上での重要な前提条件となります。授業実施前後のアンケートや面談等を通して気付かれたハイリスクの子供については、学校内でどのように支えるのか、保護者に誰がどのようにリスクを説明するのか、そして、極めて自殺の危険が高いと判断された場合には精神保健の専門家による治療にどのように導入するのかといった点についても、前もって話し合っておいてください(p7)」

こうしたハイリスクの子供のフォローアップに関しては、以下のような方策も示されています。
「可能であれば、地域の専門機関に対して、子供対象の自殺予防教育プログラム実施後に、専門機関でのフォローが必要だと判断された子供を紹介する可能性があることを、あらかじめ伝え協力を依頼しておくことが望ましいと思われます(p12-13)」

以上のように重要とされているのは、プログラムに参加しないことではなく、プログラム実施前にフォロー体制を整えること、プログラム実施後にフォローアップを行うことだとされています

ただし、以下のようにも記載があります。
「年間自殺者約3万人という事態を考えると、身近な人の自殺を経験した子供が存在する可能性についても十分に配慮すべきです。当然、このような経験をしている子供はハイリスクと捉えるべきであり、健康な他の子供たちと一緒に一律な自殺予防教育の中に加えるべきか否かは事前に検討すべき課題です。なお、心の病のために治療中であったり、以前に自殺未遂に及んだことがあったりした子供についても同様の配慮が必要となります(p8)」

この点から「健康な他の子供たちと一緒に一律な自殺予防教育の中に加えるべきか否かは事前に検討すべき」ということが示されていますね。
ただし、本選択肢のように「プログラム参加を避ける」とするのではなく、子どもの特徴に応じて一律な自殺予防教育を行うか否かを「検討する」ということです
紋切り的に「プログラム参加は避ける」というのは、それこそ支援にならないでしょう。

自殺リスクのある子どもには当然ですが、何らかの支援が必要です。
その一つとして自殺予防教育があるわけですから、それが当人にきちんと届くように工夫することは当然のことと言えるでしょう。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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