公認心理師 2019-149

問149はいじめの訴えがあったときの対応に関する問題です。
クラスメイトが訴えてきたという場合ですね。

問149 14歳の女子A、中学2年生。Aは、クラスメイトのBが複数の生徒から無視されたり、教科書を隠されるなどの嫌がらせを受けたりしていることをスクールカウンセラーに相談した。Aはこのような状況を何とかしてほしいが、自分が相談したことは内緒にしてほしいと強く希望している。
 現時点でのスクールカウンセラーの対応として、不適切なものを1つ選べ。
①Bから詳しい事情を聞く。
②Aが相談に来た勇気を認める。
③Aの承諾を得て、担任教師に連絡する。
④Aからいじめの事実について詳しく聞く。
⑤客観的に状況を把握するために、クラスの様子を見に行く。

いじめの対応については、杓子定規にやることはできませんが、それでも一定の手順というものがあります。
文部科学省からそういった資料も出ていますから、把握しておくとこういう問題を解く上でも役立つでしょう。

解答のポイント

いじめ対応の基本的な手順を把握していること。
いじめの事実確認のためにSCができる範囲を理解していること。

選択肢の解説

①Bから詳しい事情を聞く。

この対応はAの「自分が相談したことは内緒にしてほしいと強く希望している」という思いに反するものであると考えられます。
BにアプローチしたことがAに伝われば、適切な倫理観をもっていじめの事実を伝えてくれたAがSCや学校のことを信頼しなくなる恐れもあります(これは支援以上に、人としての信頼の話であると思います)

また、この対応はBにとっても望ましくありません
Bがいじめを受けているならば、その心理に疑心暗鬼を生じさせている可能性があり、周囲の出来事に対して強い過敏性をもっていることも予想できます。
そのような状況で、いじめに関する詳しい事情を聞くという対応は、「自分がいじめられていることが伝わってしまった」「誰が話したのか」「学校に知られることで何が起こるのか」などの不穏感情が強くなることが予想されるので、Bといじめに関して話し合うにはそれなりに状況を整えて臨むことが必要と言えます。

さらに、現時点ではAからそういった訴えがあったという段階であり、周辺情報からいじめの有無を検証していくことが順序としては大切になります
本選択肢の対応は、その順序を飛ばしており拙速であると判断できます。

以上より、選択肢①は不適切と判断でき、こちらを選択することが求められます。

②Aが相談に来た勇気を認める。

いじめの事実を学校に伝えるということは、生徒にとって(こういう表現が適切かわかりませんが)非常にリスキーな行為です。
そのことが明るみに出れば、A自身がいじめの対象になる可能性もありますし、特に子どもたちの間ではそのような認識があることが多いですね。
「大人に告げ口することは醜い行為である」という誤った倫理観を、いじめ環境は周囲に植え付けてしまいます(その修正も教育や心理の役割のひとつですね)。

相談を受けたSCは、Aがそんな中で声をあげてくれたということを理解しておくことが大切です
本選択肢のように勇気を認めるだけでなく、Aが相談室を出入りするときに「人に見られなかった?」「そういうことは大丈夫?」などと声掛けすること、もしも相談室に行っていたことが誰かに見られ「何話してたのか?」と聞かれた時にはどういう返し方をするのか話を合わせておく、などが大切です。
実際にこういうやり取りが現実化するというよりも、こういうことにまで気を配ることができるという在り方が「Aの勇気を認める」という言外のメッセージとなるのです
Aが思っている以上の範囲まで配慮が行き届いているというSCの姿は、Aに言葉で伝える以上の安心感を生じさせることができます

以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することが求められます。

③Aの承諾を得て、担任教師に連絡する。

言うまでもないことですが、重要なのは「Aの承認を得て」という部分です。
そしてAからの承認を得るためには、種々のSCの配慮が大切です。

まずは「Bを助けるために何か手を打ちたい」と伝えること、一方で、「Aがいじめの存在を伝えてくれたことは絶対に漏れないようにする」という強い保証が重要です
そして、この保証を確かなものにするために、現時点ではどういう手立てを取ろうと考えているかをAに伝えるという対応が必要だと、私は考えます。
Aからすれば、「伝わらないようにする」という曖昧な約束だけでは心許ないでしょうから、具体的に取る対応も伝えることで「それならば自分は守られる」という安心感を持ってもらうことが重要です

具体的な対応については他選択肢でも示されているものがその例と言えますが、そういう具体的な対応を取るためにも担任に伝えることが必要だという共有をAとSCで行うことが大切でしょう
選択肢②でも述べたような、クライエントの思う以上の配慮ができるということによって、安心して対応を任せて良い、自分のことは伝わらないという安心感につながり、担任に伝えるということについても納得してくれることが多くなります。
以上より、選択肢③は適切と判断でき、除外することが求められます。

④Aからいじめの事実について詳しく聞く。

先述したように、学校組織としては、まずいじめの事実について細やかに把握することが重要になります
そこでいじめが認められれば、具体的に対応を検討していくことになります。

よって、まずはAからいじめの事実について細やかに聞いていくということが、この面接内で行うことの一つとなるでしょう
現状では「クラスメイトのBが複数の生徒から無視されたり、教科書を隠されるなどの嫌がらせを受けたりしている」ということですが、具体的な加害生徒の氏名、いつから行われているか、暴力行為などはあるのか、クラスのどのくらいが把握していそうか、周囲はどんな反応をしているか、明らかにいじめに加担していないだろうと見なせる生徒は誰か、なども重要な情報となるでしょう。

担任や生徒指導主任が実際に聞き取りなどを行う上で、このような事実の把握をしておくことが大切になります。
どのような点が大切になるかは「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」や「子供の自殺が起きたときの背景調査の指針」などが参考になるかもしれません。

以上より、選択肢④は適切と判断でき、除外することが求められます。

⑤客観的に状況を把握するために、クラスの様子を見に行く。

もちろんAからの情報は重要なものですが、それだけでいじめと認定することはできません。
担任と話し合い、第三者としてクラスの様子を見に行くというアプローチも有効でしょう。
実際にBを取り巻く環境を見るため、授業や休み時間にそのクラスの前を通り、観察することが大切です。
これは、単に情報収集という目的を超えて大切なことです

まず、いじめという閉ざされた環境にSCという第三者が入り込むことは、それ自体がいじめの抑止になります
クラスの雰囲気がいわゆる「透明化」に至っているか、つまりはいじめが一つの風景としてその環境に埋没していないかを把握することが重要です。
透明化については中井久夫先生の「いじめの政治学」を読んでください。

透明化については傍目からの確認が難しい面もありますが、いじめの存在が確認できなくても、Bを直接見ることができれば様々なことが把握可能です
何よりも目の奥の緊張感は、いじめられ続けた人に特有の強張りを見せます。
虐待を受けた人の目を指して「凍りついた眼」と表現されますが、それに近いものがあります

このように、情報収集・支援の両面からみて、クラスの様子を見に行くという行為は大切なものと言えるでしょう。
よって、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することが求められます。

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