公認心理師 2018-127

特別支援教育における通級指導について、正しいものを2つ選ぶ問題です。
通級指導とは、日本の義務教育における特別支援教育の制度の一つで、通常の学級に在籍していながら個別的な特別支援教育を受けることの出来る制度です。

通級による指導の教育課程は、学校教育法施行規則第140条及び第141条において規定されています。
第140条では、障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、特別の教育課程によることができることが示されています。
第141条では、児童生徒が、その在籍する学校以外の学校において通級による指導を受ける場合(いわゆる他校通級の場合)、児童生徒が在籍する学校の校長が、他の学校で受けた授業を、在籍学校の特別の教育課程に係る授業とみなすことができることが規定されています。

解答のポイント

通級指導を定めた法律、通知等について把握していること。

選択肢の解説

『①中学校では行われない』

この点については、通級による指導について記した「学校教育法施行規則第140条及び第141条」にて確認ができます。

第140条:
小学校、中学校若しくは義務教育学校又は中等教育学校の前期課程において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第五十条第一項、第五十一条、第五十二条、第五十二条の三、第七十二条、第七十三条、第七十四条、第七十四条の三、第七十六条、第七十九条の五及び第百七条の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる

第141条:
「前条の規定により特別の教育課程による場合においては、校長は、児童又は生徒が、当該小学校、中学校、義務教育学校又は中等教育学校の設置者の定めるところにより他の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部若しくは中学部において受けた授業を、当該小学校、中学校若しくは義務教育学校又は中等教育学校の前期課程において受けた当該特別の教育課程に係る授業とみなすことができる」

上記の通り、通級指導については小学校及び中学校が対象になっていることがわかります。
加えて「学校教育法施行規則の一部を改正する省令等の公布について(通知)」では、高等学校での通級指導についても示されております。

以上より、選択肢①は誤りと言えます。

『②知的障害は対象にならない』

障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」において、「学校教育法施行規則第140条及び第141条の規定に基づき通級による指導を行う場合には、以下の各号に掲げる障害の種類及び程度の児童生徒のうち、その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、通級による指導を受けることが適当であると認める者を対象として、適切な教育を行うこと」とされています。

上記の「各号」については以下の通りです。

  1. 言語障害者:
    口蓋裂、構音器官のまひ等器質的又は機能的な構音障害のある者、吃音等話し言葉におけるリズムの障害のある者、話す、聞く等言語機能の基礎的事項に発達の遅れがある者、その他これに準じる者(これらの障害が主として他の障害に起因するものではない者に限る)で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度のもの
  2. 自閉症者:
    自閉症又はそれに類するもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度のもの
  3. 情緒障害者:
    主として心理的な要因による選択性かん黙等があるもので、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度のもの
  4. 弱視者:
    拡大鏡等の使用によっても通常の文字、図形等の視覚による認識が困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの
  5. 難聴者:
    補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが困難な程度の者で、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とするもの
  6. 学習障害者:
    全般的な知的発達に遅れはないが、聞く・話す・読む・書く・計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示すもので、一部特別な指導を必要とする程度のもの
  7. 注意欠陥多動性障害者:
    年齢又は発達に不釣り合いな注意力、又は衝動性・多動性が認められ、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすもので、一部特別な指導を必要とする程度のもの        
  8. 肢体不自由者、病弱者及び身体虚弱者:
    肢体不自由、病弱又は身体虚弱の程度が、通常の学級での学習におおむね参加でき、一部特別な指導を必要とする程度のもの

上記の通り、知的障害は該当しません。
よって、選択肢②は正しいと判断できます。

『③特別支援学校の教員が担当する』

特別支援学校の幼稚部、小学部、中学部、高等部における担任を行う教諭は、特別支援学校教諭免許状のほか各部に相当する学校の教員免許状を有する者でなければならないことが原則となっています(教育職員免許法第3条第3項)。

一方で、例外規定として、特別支援学校の教諭の普通免許状のほか、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校の「いずれか」の学校の教諭の普通免許状を有する者は、自立教科等以外の教科を担任することもできる(教育職員免許法第17条の3)とされており、加えて、附則の規定によって、「当分の間」は特別支援学校教諭の免許状が無くても特別支援学校の教員となることが出来ることとなっており(教育職員免許法附則16)、特別支援学校で教員を務めることは「特別支援学校教諭免許状」がなくても事実上可能になっています。

この点は通級指導でも同様で、特別支援学校教諭の免許状が必ずしも必要ではありません
通級指導の担当教員は、その学校の「特別支援教育の担当者」が校内人事にて定められることが多いとされています。
そして、通級指導の担当教員には以下のことが定められています。

  • 通級による指導の実施に当たっては、通級による指導の担当教員が、児童生徒の在籍学級(他の学校で通級による指導を受ける場合にあっては、在学している学校の在籍学級)の担任教員との間で定期的な情報交換を行ったり、助言を行ったりする等、両者の連携協力が図られるよう十分に配慮すること。
  • 通級による指導を担当する教員は、基本的には、この通知に示されたうちの一の障害の種類に該当する児童生徒を指導することとなるが、当該教員が有する専門性や指導方法の類似性等に応じて、当該障害の種類とは異なる障害の種類に該当する児童生徒を指導することができること。

なお、高校の通級指導の担当者については以下の通りです。

  1. 通級による指導を担当する教員は、高等学校教諭免許状を有する者である必要があり、加えて、特別支援教育に関する知識を有し、障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服することを目的とする指導に専門性や経験を有する教員であることが必要であるが、特定の教科の免許状を保有している必要はないこと。ただし、各教科の内容を取り扱いながら障害に応じた特別の指導を行う場合には、当該教科の免許状を有する教員も参画して、個別の指導計画の作成や指導を行うことが望ましいこと。
  2. 通級による指導の実施に当たっては、その担当教員が、特別支援教育コーディネーター等と連絡を取りつつ、生徒の在籍学級(他校通級の場合にあっては、在籍している学校の在籍学級)の担任教員との間で定期的な情報交換を行ったり、助言を行ったりするなど、両者の連携協力が図られるよう十分に配慮すること。
  3. 教員が、本務となる学校以外の学校において通級による指導を行う場合には、任命権を有する教育委員会が、兼務発令や非常勤講師の任命等により、当該教員の身分の取扱いを明確にすること。
  4. 通級による指導の担当教員の専門性向上のため、既に多くの教育委員会において実施されている高等学校段階の特別支援教育推進のための研修について、高等学校における通級による指導の制度化を踏まえた研修対象者の拡充や研修内容の充実に努めること。また、高等学校と特別支援学校の間で教員の人事交流を計画的に進めるなどの取組も有効であること。

上記より、高校においても「指導に専門性や経験を有する教員」であることが重視されており、その他の規定は「高等学校教諭免許状を有する」のみとされています。

通級指導の担当教員については、特別支援学校の教員である必要はなく、当該学校の「経験ある教員」が指名されると言えます。
よって、選択肢③は誤りと言えます。

『④障害者総合支援法に定められている』

上記にもあります通り、通級指導については以下に示されています

これに対し、障害者総合支援法は以下を目的とした法律となっています。
「障害者及び障害児が基本的人権を享有する個人としての尊厳にふさわしい日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付、地域生活支援事業その他の支援を総合的に行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的」
※障害者総合支援法には「通級指導」についての記載はありません。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤自立活動と各教科の補充指導が行われる』

学校教育法施行規則第141条の規定を受けて、小学校・中学校学習指導要領解説では、「特別の指導とは、障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とする指導である」ことを明確にした上で、通級による指導における教育課程の編成について以下のように示されています。

「…指導に当たっては、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考とし、例えば、障害による学習上又は生活上の困難の改善・克服を目的とした指導領域である「自立活動」の内容を取り入れるなどして、個々の児童(生徒)の障害の状態等に応じた具体的な目標や内容を定め、学習活動を行うことになる。また、これに加えて、特に必要があるときは、特別の指導として、児童(生徒)の障害の状態等に応じて各教科の内容を補充するための指導を一定時間内において行うこともできることになっている」

すなわち、通級による指導では、自立活動が指導の中心となります。
特に必要があるときは、障害の状態に応じて各教科の内容を補充するための特別の指導、いわゆる各教科の補充指導を含めることができます

ちなみに各教科の補充指導とは、障害の状態に応じた特別の補充指導であって、単なる教科の遅れを補充するための指導ではないことに留意する必要があります。
 言語障害のために遅れをきたしている国語の指導を行う→○
 言語障害とは直接関係のない算数の遅れの指導を行う→×

以上より、選択肢⑤は正しいと言えます。

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