14歳の女子A、中学2年生の事例です。
事例の内容は以下の通りです。
- Aの母親Bは、Aの不登校について相談するために、中学校のスクールカウンセラーを訪ねてきた。
- Aは、朝に体調不良を訴えて2週間ほど欠席が続くようになった。
- Bが理由を聞いてもAは話したがらず、原因について分からない状態が続いていると、Bは家庭での様子を説明した。
- 学習の遅れも心配で、Aに対して登校を強く促す方が良いのか、黙って見守った方が良いのか判断がつかない。
- 「担任教師の心証を悪くしたくないので、まずは担任教師に内緒で家庭訪問をしてAの気持ちを聴いてほしい」とBから依頼された。
このときのスクールカウンセラーの対応として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
複数の可能性を考えられること、不登校についての基本的な理解力が求められていますね。
解答のポイント
不登校に対する基本的な理解があること。
SCという組織の一員としての振る舞いが理解できること。
選択肢の解説
『①Aが希望すれば家庭訪問をすると説明する』
この選択肢が不適切なのは「SC自身が家庭訪問することができるという判断を下している点」です。
家庭訪問ができるかどうかは、大きく言えば県の教育委員会の考え方によって変わってきます。
SCの初任者講習でも家庭訪問ができるか否か、できる場合であってもどのような状況で可とするのか、についてはしっかりと伝える県が多いと思います。
多くの場合「担任等の教員と同行して」という条件を設けているように思います。
なぜなら、SCが単独で家庭訪問した場合、その道中の事故や、不登校児が異性の場合で家族が不在だったら、などの課題がありますよね。
まず県の方針を踏まえ、その上で学校の管理職に家庭訪問の可否を検討することが重要になります。
ちなみに、家庭訪問するにあたっては、本人に事前に話すことが大切になります。
心理的支援において「不意打ち」はどのような場合においてもダメだと思います。
もちろん、事前に話すことで拒否されることもあるでしょう。
しかし、話さずにいきなり訪ねることで、母親やSCへの信頼を損ねる方が長期的に見てマイナスです。
「本人がきっと断るから」という理由で来訪を事前に伝えないという対応を見聞きしますが、これは子どもに一人の人間としての権利を有していることを失念した対応と言えます。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
『②管理職と相談して家庭訪問について検討する』
選択肢①の解説でも示した通り、管理職と相談することが大切になります。
家庭訪問に関するルールについて把握した上で、管理職にその可否を相談することが学校組織に勤める者としての適切な振る舞いとなります。
こうした組織として以外にも、臨床的にも考えていくことが大切です。
Aが理由を言わない背景に、担任との関係性があることも念頭に置いておくことが求められます。
Bが「担任教師の心証を悪くしたくない」と話している点も、少し気を遣いすぎだなという感じがあるので引っかかるところです。
本来、保護者は担任に相談を最初にするものですが、それが行われておりません。
その理由が保護者側にあるのか、担任にあるのかは現在のところ判断することは不可能です。
管理職との「相談」には、こうした点についての検証も含まれているでしょうし、そうしたことを踏まえて家庭訪問の可否を検討することが重要です。
SCとしては、最初の面接のときに「担任に最初に相談する人が多いけど、それがしづらいのには理由があるのですか?」と尋ねたいところですが、現場にしかわからない雰囲気というものもありますし聞けないこともあるのでしょう。
以上より、選択肢②は適切と判断できます。
『③Aの様子を聴き、医療機関で検査や治療を受けるよう勧める』
現状でAの医療機関受診を勧めねばならないような情報は出てきおりません。
もちろん、Aの家庭内の様子から精神病圏の問題が予想されるならば、その可能性はあります。
ただし、現状において母親はSCに家庭訪問を求めております。
まずはそこへの応答が重要であり、もしも家庭訪問が可能となれば医療機関受診の可能性を見立てることも併せて行うことができます。
少なくとも、医療機関を受診することを前提としたアプローチは不適切と言えるでしょう。
不登校という現象自体は、精神医学的な問題の有無にかかわらず生じるものであり、その一因として心理的・発達的課題が絡んでくることもあります。
そういった場合でも、そうした課題が共有できない状態では医療機関の勧めもしづらいものです。
例えば、発達障害が背景にあったとしても、その自覚がなければ受診を勧める根拠を示せません。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
『④「心配しなくても大丈夫です。そのうち解決しますよ」と励まし面談を終了する』
この対応については2つほど問題があります。
まず1つは安易に「そのうち解決する」と判断しているところです。
不登校の改善(何を持って改善とするかは、それぞれの立場で違うでしょうが)については、
不登校になったばかりの時点ではどのくらいの期間を要するか判断つかないというのが一般的です。
少なくとも、現在の情報には「そのうち解決する」と言い切るに足るものはありません。
もう1つは、母親の家庭訪問の依頼に対して何も答えていない点です。
「そのうち解決する」から家庭訪問が不要であるとするのであれば、「そのうち解決する」と見立てられる根拠を示す必要があります。
一体どのような状態であれば「そのうち解決する」ということができるのか?
それは一概には言い難いと思います。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
『⑤理由がはっきりしないのであれば、学校に行くよう促した方が良いと助言する』
これは前提が間違っています。
不登校児は「なぜ自分が不登校になったのか自覚していない」というのが前提です。
(もちろん、明らかないじめ事例などは除外です)
不登校児が理由を述べたとしても、それを改善しても登校できないのが一般的です。
本人が進んで理由を語る場合は、理由を聞かれ続けてきたという歴史があるとみて話を聞いていくと良いでしょう。
不登校の理由を自覚していない、ということを説明するためにはそれなりに長い論理展開が必要になるので省きますが、子どもだけでなく多くの人が「自分に起こった心理的不調の理由を自覚できないでいる」ということは言えるのではないでしょうか。
上記の点はさておき、本選択肢の「理由がはっきりしない」→「学校に行くように促す」という論理展開には誤りがあります。
これは「理由がはっきりしない」=「嫌なことがあるわけじゃないんだから行けるでしょう」と言っているようなものです。
先述したように、不登校児は不登校の理由が「ない」のではなく、「自覚できていない」だけです。
本人の自覚は無いけれども、何かしら元気が出ないような経緯があるとみて間違いはありません。
その経緯の見立てをもって、学校への促しを行うか否か、行うのであればその強度、タイミング、方法、行う人物などについて詳細に考えていくことが重要です。
少なくとも「理由がない」=「学校に行くよう促す」という関連は単純に成り立つことはありません。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。