公認心理師 2018追加-21

不登校について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

文部科学省が出している代表的な通知等を把握しておくことが求められます。
官公庁が示している不登校の捉え方に関しての問題は、これが初めてかなと思います。
この機会に、しっかりと押さえておきましょう。

解答のポイント

平成28年に文部科学省から出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」を一読しておくこと。

選択肢の解説

『①支援の目的は登校させることである』

平成28年に文部科学省から出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」には、「支援の視点」として以下のように示されております。
不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること。また、児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること」

上記のように、登校はあくまで結果であり、その中で何が行われているかが重要という捉え方です(もちろん学業の遅れについても記載がありますね)
よって、選択肢①は誤りと判断できます。

本選択肢の解説には上記の内容で十分だと思います。
一方で、臨床実践を行う上で、この選択肢のニュアンスに引っかかっておくことが大切です。
この「○○させる」という表現や方針は、臨床実践において採られないわけではありませんが、やはり敏感になっておきたいところです。

クライエントを方向づけることによって、その瞬間にクライエントがどの方向に進みたかったのかという情報が失われます。
不登校支援に限定した場合はなおさら、このような方向づけは控えておく姿勢が求められますね。

不登校児の生育歴で「手がかからなかった」「良い子だった」というのは多いものですが、これは敏感に空気を読み、自分を抑えて周囲の望む姿で過ごしてきた可能性を示しています。
子どもたちが10歳前後の個が芽生える発達段階にさしかかると、周囲の望む姿でいるという在り方と個を確立していくという自然な成長の間に深刻な矛盾が生じます。

このような流れが不登校の一因に成り得るのですが、こうした歴史のある不登校児に対して「○○させる」という方針は、それに従おうとするあまり無理をしてダウンするか、嫌悪感を伴う拒否という反応が示されることが多いです。

まずは不登校児が「元気になる」ように働きかけ、「登校することも休むことを選ぶこともできる」という状態にすることが大切です。
「元気になる」ことによって「選べるようになる」のであって、決して「登校する」のではないのです。
と言っても、元気になった不登校児の多くは登校に向けて動き出すのですが、それはやはり子どもが元気になったことのオマケのような捉え方をしておくくらいが良いように思います。

不登校児に対する指示の問題は、田中茂樹先生の「子どもを信じること」のなかに繰り返し述べられております。
不登校児への支援に関しては、さまざまな視点の書籍が乱立しておりますが、上記の書籍ほど信念をもって書かれているものは少ないのではないかと考えています。
子育てに悩む親御さんに出会ったときに、勧めることが多いですね。

『②支援策の策定は担任教師の責任において行う』

平成28年に文部科学省から出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」には、不登校児童生徒を支援する上での基本的な姿勢が以下のように記載されております。
「不登校については,その要因や背景が多様・複雑であることから、教育の観点のみで捉えて対応することが困難な場合があるが、一方で、児童生徒に対して教育が果たす役割が大きいことから、学校や教育関係者が一層充実した指導や家庭への働き掛け等を行うとともに、学校への支援体制や関係機関との連携協力等のネットワークによる支援等を図ることが必要である

上記のように、ネットワークによる支援の重要性が示されております。
また、同通知の中には「不登校に対する学校の基本姿勢」として、「校長のリーダーシップの下、教員だけでなく、様々な専門スタッフと連携協力し、組織的な支援体制を整えることが必要であること」とされています

このように担任教師の責任ではなく、ネットワークによる支援を中心に行っていくことが重要です。
担任に責任を負わせることによって、抱え込みすぎたり、逆に一定以上の支援が行えないなどの懸念が生じます。
チーム学校も、この辺と絡んでくるのでしょう。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③教育上の重大な問題行動であるという認識を持つことが必要である』

文部科学省が行っている「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」ですが、これは平成27年度までは「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」という名称でした。

「問題行動等生徒指導上の諸問題」→「問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題」と変更されております。
元々は「問題行動等」の中に不登校を含めておりましたが、不登校を問題行動扱いすることに批判が集まりました

それを受け、平成28年に文部科学省から出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」には、不登校児童生徒を支援する上での基本的な姿勢が以下のように記載されております。
不登校とは、多様な要因・背景により、結果として不登校状態になっているということであり、その行為を「問題行動」と判断してはならない不登校児童生徒が悪いという根強い偏見を払拭し、学校・家庭・社会が不登校児童生徒に寄り添い共感的理解と受容の姿勢を持つことが、児童生徒の自己肯定感を高めるためにも重要であり、周囲の大人との信頼関係を構築していく過程が社会性や人間性の伸長につながり、結果として児童生徒の社会的自立につながることが期待される」

以上のように、「教育上の重大な問題行動であるという認識」が問題となって修正が行われたという経緯があります
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④病気や経済的理由を除き、年度間に連続して30日以上欠席したものをいう』

「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査-用語の解説」の中で不登校の定義が示されています。

  • 年度間に連続又は断続して30日以上欠席した児童生徒について調査している。
  • 「不登校」とは、何らかの心理的、情緒的、身体的、あるいは社会的要因・背景により、児童生徒が登校しないあるいはしたくともできない状況にある者(ただし、「病気」や「経済的理由」による者を除く)。

細かいところですが、「年度間に連続して」ではなく「年度間に連続又は断続して」が正しい表現となります

一方、こうした定義でも漏れてしまうパターンが多く存在します。
例えば、小学校では保護者が送り迎えをすることで「欠席」にはなっていないということが多く見られます。
また事例によっては「給食だけ食べにくる」「5時間目、6時間目の時間になって登校する」という場合もあり、これらは「遅刻」「早退」はついても「欠席」にはなりません。
よって、心理的な不登校傾向のある児童生徒の数は、調査で出ているよりもずっと多いと判断してよいでしょう。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤学業不振が要因の1つであることから、学習指導方法を工夫改善し、個に応じた指導の充実を図る』

平成28年に文部科学省から出された「不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」における「児童生徒の学習状況等に応じた指導・配慮の実施」の項目では以下のように示されております。
学業のつまずきから学校へ通うことが苦痛になる等、学業の不振が不登校のきっかけの一つとなっていることから、児童生徒が学習内容を確実に身に付けることができるよう、指導方法や指導体制を工夫改善し、個に応じた指導の充実を図ることが望まれること

後半部分の「個に応じた指導の充実を図る」については、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」の中でも示されております。
第3条にて「教育機会の確保等に関する施策は、次に掲げる事項を基本理念として行われなければならない」とされ、以下のように列挙されています。

  1. 全ての児童生徒が豊かな学校生活を送り、安心して教育を受けられるよう、学校における環境の確保が図られるようにすること。
  2. 不登校児童生徒が行う多様な学習活動の実情を踏まえ、個々の不登校児童生徒の状況に応じた必要な支援が行われるようにすること
  3. 不登校児童生徒が安心して教育を十分に受けられるよう、学校における環境の整備が図られるようにすること。
  4. 義務教育の段階における普通教育に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにするとともに、その者が、その教育を通じて、社会において自立的に生きる基礎を培い、豊かな人生を送ることができるよう、その教育水準の維持向上が図られるようにすること。
  5. 国、地方公共団体、教育機会の確保等に関する活動を行う民間の団体その他の関係者の相互の密接な連携の下に行われるようにすること。

以上のように、学業不振を不登校の要因の1つと定めた支援について述べられております。

実感としても、学業不振をきっかけとした不登校が増えていると感じます。
もちろん、単に学業不振だけで不登校になるというのも早計です。
例えば、「自分が理想としていた姿」と「実際の成績」にあまりに乖離があったときに、「自分が理想としていた姿」を下方修正できず、そういった環境から退却するというパターンがあり得ます

このように学業がきっかけの不登校であれば、どういった心理的仕組みによって不登校という事態に至ったのかを個別に考えていくことが重要です。

以上より、選択肢⑤が正しいと判断できます。

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