発達障害者が一般就労を行おうとしているときに利用するサービスを選択する問題です。
各サービスの根拠法や資料を理解しつつ解いていくことが大切ですね。
問101 発達障害者が一般就労を行おうとしているときに利用するサービスとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 行動援護
② 就労定着支援
③ 就労継続支援B型
④ リワークによる支援
⑤ ジョブコーチによる支援
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解答のポイント
障害者総合支援法、障害者雇用促進法などで定められている就労支援について把握している。
選択肢の解説
① 行動援護
② 就労定着支援
③ 就労継続支援B型
ここで挙げた選択肢は障害者総合福祉法第5条を根拠とした制度であり、「この法律において「障害福祉サービス」とは、居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、生活介護、短期入所、重度障害者等包括支援、施設入所支援、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援、就労定着支援、自立生活援助及び共同生活援助をいい…」とされており、障害福祉サービスの一つであることがわかりますね。
一つずつみていくことにしましょう。
選択肢①の「行動援護」とは、行動に著しい困難を有する知的障害や精神障害のある人が、行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護、外出時における移動中の介護、排泄、食事等の介護のほか、行動する際に必要な援助を行います。
障害の特性を理解した専門のヘルパーがこれらのサービスを行い、知的障害や精神障害のある人の社会参加と地域生活を支援します。
そして障害者総合福祉法第5条第5項では、行動援護の定義として「知的障害又は精神障害により行動上著しい困難を有する障害者等であって常時介護を要するものにつき、当該障害者等が行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護、外出時における移動中の介護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう」とされています。
選択肢②の「就労定着支援」とは、障害者総合福祉法第5条第15項によると「就労に向けた支援として厚生労働省令で定めるものを受けて通常の事業所に新たに雇用された障害者につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、当該事業所での就労の継続を図るために必要な当該事業所の事業主、障害福祉サービス事業を行う者、医療機関その他の者との連絡調整その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう」とされています。
一般就労を続けるうえで生じる生活面の課題としては例えば、生活リズムが崩れたりすることで生じる遅刻や欠勤の増加、身だしなみの乱れ、薬の飲み忘れなどが挙げられます。
このような生活面での課題は安定した就労に影響を与え、離職率を高めるリスクとなり得ますし、職場での職務や雰囲気へ慣れない、コミュニケーションがうまくできないなども離職の大きな原因となり得ます。
このような障害者が抱える課題に対する具体的な支援は以下のとおりです。
- 障害者との相談を通じて課題を把握する。
- 課題に対し、本人及び家族、その障害者を雇用している企業と課題解決に必要な関係機関、障害者が利用していた生活介護、自立訓練、就労移行支援、就労継続支援を行なう事業所や、例えば障害者職業・生活支援センターや医療機関、社会福祉協議会などとの連絡調整を行う。
- 課題解決に向けた支援を実施する。支援は障害者の自宅や企業等を訪問するなどして月1回は対面支援を行ない、また別に月1回はその障害者を雇用する企業を訪問する。
このように「就労定着支援」は、障害者の離職率が高いという問題に取り組もうとして新設された制度になるわけで、「一般就労を行おうとするときに利用するサービス」ではなく「一般就労をしている障害者が、その就労を継続するためのサービス」と言えますね。
選択肢③の「就労継続支援」とは、障害者総合福祉法第5条第14項によると「通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう」とされています。
そして障害者総合支援法施行規則第6条の10には、上記の規定に関する区分が以下のように規定されています。
- 就労継続支援A型:
通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が可能である者に対して行う雇用契約の締結等による就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援。 - 就労継続支援B型:
通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援。
これらが設置根拠になっているので、選択肢③を解く上の前提として把握しておきましょう。
簡単な弁別は以下の通りになります。
【就労継続支援A型事業】
- 障害者と雇用契約を結び、原則として最低賃金を保障するしくみの「雇用型」の福祉サービス。
- 対象者は「企業等に就労が困難な者であって、雇用契約に基づき、継続的に就労することが可能な65歳未満の者(利用開始時65歳未満の者)」となっている。
✔就労移行支援事業を利用したが、企業等の雇用に結びつかなかった者
✔特別支援学校を卒業して就職活動を行ったが、企業等の雇用に結びつかなかった者 - A型は雇用契約を結んで就労が可能と見込まれる人で、盲・聾支援学校卒業者や一般企業を離職した人が対象になりやすい。
- 事業所と雇用契約を結ぶため、収入の安定と各種保険の適用で、安心して職場で訓練が可能になる。
【就労継続支援B型事業】
- 雇用契約を結ばず、利用者が作業分のお金を工賃としてもらい、比較的自由に働ける「非雇用型」の福祉サービス。
- 対象者は「就労移行支援事業所等を利用したが、一般企業等の雇用に結びつかない者や、一定年齢に達している者などであって、就労の機会等を通じ、生産活動にかかる知識及び能力の向上や維持が期待される者」となっている。
✔就労移行支援事業を利用した結果、B型の利用が適当と判断された者 - B型は就労の機会を通して生産活動の知識や能力の向上が見込まれる人や過去に一般企業に就職していたが年齢や体力面の問題で雇用されることが困難になった人たちが対象になりやすい。
このように、就労継続支援B型とは「通常の事業所に雇用されることが困難であって、雇用契約に基づく就労が困難である障害者に対して行う就労の機会の提供及び生産活動の機会の提供その他の就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の必要な支援」であり「雇用契約を結ばず、利用者が作業分のお金を工賃としてもらい、比較的自由に働ける「非雇用型」の福祉サービス」であることがわかりますね。
ですから、「一般就労を行おうとするときに利用するサービス」ではないことがわかります。
このように、行動援護、就労定着支援、就労継続支援B型は「発達障害者が一般就労を行おうとしているときに利用するサービス」ではないことがわかりますね。
よって、選択肢①、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。
④ リワークによる支援
リワークとは、精神疾患とりわけ気分障害によって休職している労働者を対象とするプログラムで、医療機関や障害者職業センター、就労移行支援・就労継続支援事業所などの施設などを中心に行われていて、職場復帰を目指し、再休職の予防を最終目標とする治療プログラムです。
ストレス対処法を学ぶ演習や対人コミュニケーションのロールプレイなど、利用者の特性や体調に合わせたさまざまなプログラムが用意されています。
心の健康問題で休業している労働者が円滑に職場復帰するためには、職場復帰プログラムの策定や関連規程の整備等により、休業から復職までの流れをあらかじめ明確にしておくことが必要です。
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」では、実際の職場復帰にあたり、事業者が行う職場復帰支援の内容を総合的に示しています(厚生労働省の「15分でわかる職場復帰支援」がわかりやすいです)。
事業者はこれを参考にしながら、衛生委員会等において調査審議し、職場復帰支援に関する体制を整備・ルール化し、「職場復帰プログラム」の策定等を行った上で、教育の実施等により労働者への周知を図っていくことが求められています。
リワークの利用に関しては、一般に就労している人がうつ病などの疾患で休職した後に、復職を目指す際に活用されるものです(一般に復職準備に入ると、リワークプログラムを実施することが多いですね)。
その場合、精神科・心療内科で行うリワークになることが多く、精神疾患の症状の回復や症状悪化の防止、生活リズムの安定などのプログラムが充実しているところが多いことが特徴です。
また、各都道府県に設置されている障害者職業センター(地域障害者職業センター)では、職場での業務を想定した支援を中心にリワークプログラムを実施します。
障害者職業センターでのリワークは休職者本人だけでなく事業者に対してもアドバイスや支援を行い、スムーズな復職をサポートします。
すでに医療機関にかかっている場合は、主治医とも連携しながら個人に合わせた支援プランを組んで実施しますし、本人・事業者・主治医・職業センターの担当者それぞれ合意の上で復職に向けて動くことができます。
更に、障害のある人の就労支援を行う就労移行支援事業所のなかには、休職者を対象としたリワークを実施しているところもあり、障害や疾患のある人の就労・就職に関するノウハウが豊富にある点が最大の強みです。
このようにリワークは「休職していた人が復職するためのもの」と考えられ、本問の「発達障害者が一般就労を行おうとしているときに利用するサービス」ということではありません。
これから一般就労をしようとしている人に「リワーク」というのは、それだけで違和感を覚えますね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ ジョブコーチによる支援
ジョブコーチの歴史は、1986年にアメリカのリハビリテーション法改正により「援助付き雇用」という制度が誕生したことから始まっています。
日本では「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」のもと、「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」が2002年から開始されました。
障害者雇用促進法第20条には障害者職業センターの役割として「職場適応援助者(身体障害者、知的障害者、精神障害者その他厚生労働省令で定める障害者(以下「知的障害者等」という)が職場に適応することを容易にするための援助を行う者をいう)の養成及び研修を行うこと」とされており、発達障害者もこの枠組みに含まれます。
職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業とは、障害者、事業主、そして障害者の家族に対して、職場適応に関するきめ細かな支援をする公的なサポート制度です(事業主や障害者へのアドバイスだけではなく、職場で共に働く上司や同僚、家族などにも助言、そして主治医などとも連携し、専門的な助言をもらうなどして周囲との調整も行います)。
職場適応援助者(ジョブコーチ)が一定期間事業所などを訪問、もしくは社内に在籍することにより障害者が職場に適応し、いずれは事業主が主体となって障害者の雇用管理ができる体制(ナチュラルサポート)にスムーズに移行していくことを目指しています。
障害者の職場適応を容易にするため、職場にジョブコーチを派遣し、きめ細かな人的支援を行っています。
ジョブコーチ支援には、地域障害者職業センターに配置するジョブコーチによる支援のほか、就労支援ノウハウを有する社会福祉法人等や事業主が自らジョブコーチを配置し、ジョブコーチ助成金を活用して支援する場合があります。
配置型(地域障害者職業センターに配置)、訪問型(障害者の就労支援を行う社会福祉法人等に雇用される)、企業在籍型(障害者を雇用する企業に雇用される)などがあり、主な支援内容としては以下の通りです。
①障害者本人に対する支援
- 職場内コミュニケーションの向上支援(挨拶、報告、職場内マナー等)
- 健康管理・生活リズムの構築支援(継続勤務、規則の遵守、生活リズムの構築等)
- 職務遂行能力の向上支援(職務内容の理解、作業遂行力の向上、作業態度の改善)
- 通勤等に係る支援
②雇用主に対する支援
- 障害に係る知識の伝達(障害特性の理解、障害に配慮した対応方法、医療機関との連携方法等)
- 職務内容の設定に関する助言(作業内容、工程、補助具等の設定等)
- 職務遂行に関わる指導方法の助言(指示や見本の提示方法、作業ミスの改善等)
- 従業員との関わり方(指示・注意の仕方、障害の知識に係る社内啓発の方策等)等に係る支援
③上司・同僚に対する支援
- 障害の理解に係わる社内啓発
- 障害者との関わり方に関する助言
- 指導方法に関する助言
④家族に対する支援
- 安定した職業生活を続けるための家族の関わり方に関する助言
発達障害者支援法第14条第3項に「医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対し発達障害についての情報の提供及び研修を行うこと」とありますので、本問のように発達障害者の一般就労に向けてジョブコーチをつけることは支援として適切なものといえます。
以上より、「発達障害者が一般就労を行おうとしているときに利用するサービス」としてジョブコーチによる支援は適切であることがわかりますね。
よって、選択肢⑤が適切と判断できます。