公認心理師 2018-75

大学在学中に自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉の診断を受けている24歳男性の事例です。

「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉」という表現はDSM-5のものですから、診断基準を問うタイプの問題ならDSM-5の基準を思い浮かべながら解く必要がありますね(この問題は診断基準を問うものではありませんが)。

問75 24歳の男性A。Aは大学在学中に自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉の診断を受けた。一般就労を希望し、何社もの就職試験を受けたが採用されなかった。そこで、発達障害者支援センターに来所し、障害者として就労できる会社を紹介され勤務したが、業
務上の失敗が多いため再度来所した。
 この時点でのAへの支援として、不適切なものを1つ選べ。
① ジョブコーチをつける。
② 障害者職業センターを紹介する。
③ 介護給付の1つである行動援護を行う。
④ 勤務している会社にAの特性を説明する。
⑤ 訓練等給付の1つである就労移行支援を行う。

この時点でのAへの支援として考えられるものを選択する問題です。

すなわち、発達障害者支援センターが行う支援について把握しておくことが重要な問題と言えます。

発達障害者支援センターについては、発達障害者支援法第14条に都道府県が設置できることとその役割が記載されています。

「都道府県知事は、次に掲げる業務を、社会福祉法人その他の政令で定める法人であって当該業務を適正かつ確実に行うことができると認めて指定した者(以下「発達障害者支援センター」という)に行わせ、又は自ら行うことができる」

なお、その役割は同条第1項以下に記載があります。

  1. 発達障害の早期発見、早期の発達支援等に資するよう、発達障害者及びその家族その他の関係者に対し、専門的に、その相談に応じ、又は情報の提供若しくは助言を行うこと。
  2. 発達障害者に対し、専門的な発達支援及び就労の支援を行うこと。
  3. 医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対し発達障害についての情報の提供及び研修を行うこと。
  4. 発達障害に関して、医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体との連絡調整を行うこと。
  5. 前各号に掲げる業務に附帯する業務

センターの具体的な役割については、こちらの資料が詳しいです。 問題についてはより実践的な支援内容について問われていますね。      

解答のポイント

障害者総合支援法の「自立支援給付」について把握していること。

発達障害者支援センター、地域障害者職業センターなどの役割を把握していること。      

選択肢の解説

①ジョブコーチをつける

職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業は、職場にジョブコーチが出向いて、障害特性を踏まえた直接的で専門的な支援を行い、障害者の職場適応、定着を図ることを目的としています。

障害者の職場適応を容易にするため、職場にジョブコーチを派遣し、きめ細かな人的支援を行っています。

ジョブコーチ支援には、地域障害者職業センターに配置するジョブコーチによる支援のほか、就労支援ノウハウを有する社会福祉法人等や事業主が自らジョブコーチを配置し、ジョブコーチ助成金を活用して支援する場合があります。

Aの現状は、障害者として会社に就労しているが業務上の失敗が多いため来所したということですから「会社に留まっているA」への支援が重要になります。

配置型ジョブコーチ、訪問型ジョブコーチ等の形態はありますが、Aの現状にジョブコーチ支援は適切なものと考えることができます。

発達障害者支援法第14条第3項に「医療、保健、福祉、教育、労働等に関する業務を行う関係機関及び民間団体並びにこれに従事する者に対し発達障害についての情報の提供及び研修を行うこと」とありますので、発達障害者支援センターが地域障害者職業センター等と連携を取ってジョブコーチをつけることは支援として適切なものといえます。

よって、選択肢①は適切と判断でき、除外することができます。      

②障害者職業センターを紹介する

地域障害者職業センターでは、障害者一人ひとりのニーズに応じて、職業評価、職業指導、職業準備訓練及び職場適応援助等の各種の職業リハビリテーションを実施するとともに、事業主に対して、雇用管理に関する専門的な助言その他の支援を実施します。

主な支援内容としては以下の通りです。

  • 職業評価:就職の希望などを把握した上で、職業能力等を評価し、それらを基に就職して職場に適応するために必要な支援内容・方法等を含む、個人の状況に応じた職業リハビリテーション計画を策定。
  • 職業準備支援:ハローワークにおける職業紹介、ジョブコーチ支援等の就職に向かう次の段階に着実に移行させるため、センター内での作業体験、職業準備講習、社会生活技能訓練を通じて、基本的な労働習慣の体得、作業遂行力や職業能力の向上、コミュニケーション能力・対人対応力の向上を支援。
  • 職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業:障害者の円滑な就職及び職場適応を図るため、事業所にジョブコーチを派遣し、障害者及び事業主に対して、雇用の前後を通じて障害特性を踏まえた直接的、専門的な援助を実施。
  • 精神障害者総合雇用支援:精神障害者及び事業主に対して、主治医等の医療関係者との連携の下、精神障害者の新規雇入れ、職場復帰、雇用継続のための様々な支援ニーズに対して、専門的・総合的な支援を実施。
  • 事業主に対する相談・援助:事業主に対して、障害者の従事しやすい職務の設計、わかりやすい指導の方法などを、雇入れの段階から定着に至るまで一貫して実施。
  • 地域の関係機関に対する職業リハビリテーションに関する助言・援助等の実施:障害者就業・生活支援センターその他の関係機関や事業主に対し、職業リハビリテーションに関する助言・援 助を行うほか、関係機関の職員等の知識・技術等の向上に資するため、マニュアルの作成や研修等を実施。

 上記の通り、障害者職業センターの支援内容は「障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス」ですので、Aの現状に合っているものと思われます。

ジョブコーチ支援や事業主への説明等の支援、現在の職場と能力とのマッチングを再評価することも可能であり、場合によっては再就職先を考えることもできます。

よって、選択肢②は適切と判断でき、除外することができます。      

③介護給付の1つである行動援護を行う

介護給付とは、障害者総合支援法に定められた自立支援給付の一つです。

同法第28条第1項に「介護給付費及び特例介護給付費の支給は、次に掲げる障害福祉サービスに関して次条及び第三十条の規定により支給する給付とする」とあり、以下の事項が対象となります(※同法第5条に記されている各事項の定義も記載します)。

  1. 居宅介護:
    「障害者等につき、居宅において入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」
  2. 重度訪問介護:
    「重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものとして厚生労働省令で定めるものにつき、居宅又はこれに相当する場所として厚生労働省令で定める場所における入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与すること」
  3. 同行援護:
    「視覚障害により、移動に著しい困難を有する障害者等につき、外出時において、当該障害者等に同行し、移動に必要な情報を提供するとともに、移動の援護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」
  4. 行動援護:
    「知的障害又は精神障害により行動上著しい困難を有する障害者等であって常時介護を要するものにつき、当該障害者等が行動する際に生じ得る危険を回避するために必要な援護、外出時における移動中の介護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」
  5. 療養介護(医療に係るものを除く):
    「医療を要する障害者であって常時介護を要するものとして厚生労働省令で定めるものにつき、主として昼間において、病院その他の厚生労働省令で定める施設において行われる機能訓練、療養上の管理、看護、医学的管理の下における介護及び日常生活上の世話の供与」
  6. 生活介護:
    「常時介護を要する障害者として厚生労働省令で定める者につき、主として昼間において、障害者支援施設その他の厚生労働省令で定める施設において行われる入浴、排せつ又は食事の介護、創作的活動又は生産活動の機会の提供その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」
  7. 短期入所:
    「居宅においてその介護を行う者の疾病その他の理由により、障害者支援施設その他の厚生労働省令で定める施設への短期間の入所を必要とする障害者等につき、当該施設に短期間の入所をさせ、入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」
  8. 重度障害者等包括支援:
    「常時介護を要する障害者等であって、その介護の必要の程度が著しく高いものとして厚生労働省令で定めるものにつき、居宅介護その他の厚生労働省令で定める障害福祉サービスを包括的に提供すること」
  9. 施設入所支援:
    「その施設に入所する障害者につき、主として夜間において、入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜を供与すること」

  上記の下線部の箇所はAの状況と合致しないものと考えられます。

よって、選択肢③は不適切な内容といえ、こちらを選択することが求められます。      

④勤務している会社にAの特性を説明する

発達障害者支援法第14条第1項に「発達障害の早期発見、早期の発達支援等に資するよう、発達障害者及びその家族その他の関係者に対し、専門的に、その相談に応じ、又は情報の提供若しくは助言を行うこと」とあり、「その他の関係者」にAが勤める会社を含めて問題ありません。

こうした支援は地域障害者職業センター、ジョブコーチなども行っていますが、発達障害者支援センターが行うこともあり得ます。

よって、選択肢④は適切といえ、除外することができます。      

⑤訓練等給付の1つである就労移行支援を行う

訓練等給付とは、障害者総合支援法に定められた自立支援給付の一つです。

同法第28条第2項に「訓練等給付費及び特例訓練等給付費の支給は、次に掲げる障害福祉サービスに関して次条及び第三十条の規定により支給する給付とする」とあり、以下の事項が対象となります(同法第5条の定義も併記します)。

  1. 自立訓練:障害者につき、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、厚生労働省令で定める期間にわたり、身体機能又は生活能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう。
  2. 就労移行支援:就労を希望する障害者につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう
  3. 就労継続支援:通常の事業所に雇用されることが困難な障害者につき、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会の提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう
  4. 就労定着支援:就労に向けた支援として厚生労働省令で定めるものを受けて通常の事業所に新たに雇用された障害者につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、当該事業所での就労の継続を図るために必要な当該事業所の事業主、障害福祉サービス事業を行う者、医療機関その他の者との連絡調整その他の厚生労働省令で定める便宜を供与することをいう
  5. 自立生活援助:施設入所支援又は共同生活援助を受けていた障害者その他の厚生労働省令で定める障害者が居宅における自立した日常生活を営む上での各般の問題につき、厚生労働省令で定める期間にわたり、定期的な巡回訪問により、又は随時通報を受け、当該障害者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言その他の厚生労働省令で定める援助を行うことをいう
  6. 共同生活援助 :障害者につき、主として夜間において、共同生活を営むべき住居において相談、入浴、排せつ又は食事の介護その他の日常生活上の援助を行うことをいう

Aは、ASDの診断があり、一般就労を目指したが叶わず、障害者として就労したが失敗が多いという状況での来所ですね。

この状況は、自立訓練は不要ですし、自立生活援助や共同生活援助も同様に不要ですね。

あり得るとするならば、就労移行支援(ミスが多いから、それを減らすことが目的)、就労継続支援(もしもAが障害者雇用の職場を辞めていればこちらもあり得る)、就労定借支援(Aが「新たに雇用された」に該当するかは不明だが、就労の継続を図るという目的には合致する)あたりかと考えられます。

この中で言えば、就労移行支援が「障害者雇用で働いているけど、ミスが多くて発達障害者支援センターに来所した」というAの状況に一番マッチしていると考えられますね。

よって、選択肢⑤は適切といえ、除外することができます。  

5件のコメント

  1. いつも丁寧な解説をありがとうございます。

    ⑤に関して、私も「就労定着支援」が適切と思ったのですが、問題文には「就労移行支援」と書かれています。

    調べたところ、就労定着支援は就職後6か月目から3年間受けられるとのことですが、問題文には時期の記載がありません。
    就労移行支援について「就職後の継続的なフォローアップ」に記載されているサイトがあったので、この問題はこれに該当するのかなと思いました。

    ご意見伺えますと有難く存じます。
    よろしくお願いいたします。

    1. コメントありがとうございます。

      どうやら問題文を読み違えて解説を書いていました。
      書き直したのでご確認ください。

      Aの状況は「障害者雇用で働いているけど、ミスが多くて来所」なので、就労移行支援が適切と言えます。
      定着支援もあり得ますが、「新たに雇用」という箇所が合致しない可能性もあります。
      職場との契約が維持されていると見なし、その中でのミスが多いということですから「就労に必要な知識及び能力の向上のために必要な訓練」を行う就労移行支援はAにマッチしたものと言えるでしょう。

  2. お世話になります。

    「⑤ 訓練等給付の1つである就労移行支援を行う。」についておうかがいします。24歳の男性Aは、未だ在職中かと考えます。しかし、⑤は離職した人または未就職の人が受けられるサービスが、基本であり、市町村によっては休職中のリワークにも適用可能かと考えます。しかし、設問には関連する記述が見当たりません。

    「⑤が適切」という事情が良くわかりません。
    ご多忙のところすみません。

    1. コメントありがとうございます。

      >⑤は離職した人または未就職の人が受けられるサービスが、基本であり、市町村によっては休職中のリワークにも適用可能かと考えます。
      確かに、就労移行支援は「今働けていない人が働けるようになるため」のものですから、基本的には在職中の人は対象に「なりにくい」です。

      一方で、法律等で「在職中の人は利用できない」という決まりも存在しません。
      よって、自治体がその人の置かれている状況を鑑みて決めていくことになります。

      事例では「発達障害者支援センターに来所し、障害者として就労できる会社を紹介され勤務」しており、この中で不適応になったという状況ですね。
      上記の「在職中の人は基本的に利用不可」は、一般就労場面を想定していることが多いです。
      一般就労であれば、就労しながら訓練に通うというのは現実的ではありませんからね。
      本事例の状況であれば、障害者雇用でもあり、その紹介元で訓練するという形ですから、時間の調整ともやりやすいと思います。
      こうした理由から、本事例では就労移行支援の利用が可能だと考えて解説しました。

      ただ、自治体がどう判断するかということに間違いはありませんから、もしかしたら不可の可能性も捨てきれませんね。
      この辺は難しいところです。
      とりあえず、法的根拠としては不可というルールはないというのが大切だろうと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です