公認心理師 2021-154

事例の状況を踏まえて、考えられる措置先を選択する問題です。

ポイントは「措置先」という用語であり、「措置制度」で利用できる施設や制度を選択する必要があるということですね。

問154 0歳の男児A。18歳の母親Bは、医療機関に受診のないまま緊急の分娩によりAを出産した。分娩自体は正常で、Aの健康状態に問題はなかったが、母子の状態が安定するまで医療機関に入院となった。医療機関から連絡を受けた児童相談所がBとの面談を実施したところ、Bは精神的に安定しているものの、Aを養育する意思がなかった。また、経済的な問題もみられ、Aの父親も不明であった。Aを養育することが可能な親族も見当たらない。
 この時点で考えられる主な措置先を2つ選べ。
① 乳児院
② 里親委託
③ 一時保護所
④ 児童自立支援施設
⑤ 母子生活支援施設

解答のポイント

事例の条件と各施設の要件を把握し、合致するものを選択できる。

選択肢の解説

① 乳児院

児童福祉法第三十七条に「乳児院は、乳児(保健上、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、幼児を含む)を入院させて、これを養育し、あわせて退院した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」と規定されています。

2016年児童福祉法改正では施設利用制限の設定や里親委託率の目標値を設けると共に、実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にしています。

乳児院は、原則として乳児(1歳未満)を入所させて養育する施設であるが、実際には2歳あるいは3歳まで入所していることも多く、低年齢児を養育するというところに特色があります。

上述の児童福祉法改正により、「保健上、安定した生活環境の確保その他の理由による特に必要のある場合」には就学前までの入所が可能となりました。

乳児院の在所期間の半数が6か月未満と短期であるが、長期在籍となる3歳以上の子どものほとんどは重い障害のある子どもやきょうだいが同じ施設にいる子どもなど保育看護の環境が必要な子どもです。

また、厚生労働省「乳児院運営指針」では、乳児院に入所している子どもの理由について、「両親の精神疾患を含む病気」「父母就労」「受刑」「虐待」が挙げられています。

さて、ここで事例のポイントに目を向けてみましょう。

本事例の特徴を挙げるとすると以下の通りになります。

  • 0歳というAの年齢:受け入れ先が法的にこの年齢の乳児を受け容れられるか否か?
  • 母親に養育する意思がない:母親と一緒に置いておくことが難しい。
  • 経済的問題あり、父親が不明、養育可能な親族なし:時間で解決しない問題を有している。

これらの条件をクリアする措置先を選択する必要があるわけです。

そして、本選択肢の乳児院に関しては、上記の年齢の問題をクリアしていますし、母親とは別々での養育になります。

もちろん、母親の意思が変わることも考慮せねばなりませんから、家族との連携・協働も行う(厚生労働省「乳児院運営指針」より)ことができる乳児院への措置はあり得る選択肢であると考えてよいでしょう。

以上より、選択肢①は事例の時点で考えられる措置先であると判断できます。

② 里親委託

里親委託は児童福祉法を根拠とする制度であり、何らかの事情により家庭での養育が困難となった子ども等に、家庭環境の下で養育を提供して子どもの健全な育成を図るものです。

厚生労働省の「里親委託ガイドライン」にその概要が示されており、ここから引用しつつその要件等を述べていきましょう。

まず「保護者による養育の可能性の有無」については以下の通りです。

  1. 棄児、保護者が死亡し又は養育を望めず、他に養育できる親族等がいない子ども
    長期的な安定した養育環境が必要であり、養育里親への委託と併せて、養子縁組を希望する里親を検討する。特に、特別養子縁組や普通養子縁組により法的にも安定した親子関係を築くことが望ましい。
  2. 将来は、家庭引き取りが見込めるが、当面保護者による養育が望めない子ども
    家庭において、特定の大人との愛着関係の下で養育される中で、健全な心身の成長や発達を促すことが必要なことから、積極的に養育里親への委託を検討する。また、家庭復帰に向けて、保護者と子どもの関係調整のために、引き取り後の家庭生活を想定し、必要な支援を行う。

本事例においては上記の1に該当することになりますね。

先々は特別養子縁組等で法的にも安定した親子関係を想定しておくことが、本事例においても重要であると考えられます。

続いては、里親委託における子どもの年齢についてです。

  1. 新生児
    特定の大人との愛着関係の下で養育されることが、子どもの心身の成長や発達には不可欠であり、今後の人格形成に多大な影響を与える時期でもあることから、長期的に実親の養育が望めない場合は、子どもにとって安定し継続した家庭的な養育環境を提供することが必要である。
    また、委託の期間が限定されている場合も、特定の大人との関係を築くことは、健全な心身の成長や発達を促すことから、里親委託は有用である。新生児については、障害の有無が明らかになる年齢を待ってから、里親委託を検討する考え方もあるが、心身の発達にとって大切な新生児の時期から里親委託を検討することが重要である。
    また、望まない妊娠や若年の妊娠などハイリスクといわれる要支援家庭については、地域の保健機関や医療機関、子育て支援機関等と協力し、児童相談所が出産前から早期の相談支援に努める。
  2. 中学生や高校年齢の子ども
    地域での生活や家庭生活の知識や技術を獲得するなどを通じ、今後の自立に向けた支援が可能である。また、子どもの状況に応じて、子どもが居住していた地域の里親に委託することにより、学校への通学や家庭での生活スタイルを大きく変えないで支援をすることができる。高年齢児を希望する里親が少ないという実情もあるが、年齢の高い里親など、中学生や高校生に対応できる里親を開拓し積極的に活用する。なお、子ども本人に里親家庭で生活する意義を説明し、動機付けを十分に行う必要がある。

上記の通り、里親委託では新生児から検討・措置することが可能になっていますから、本事例のAにおいても利用できる制度であることがわかりますね。

特に永続的な養護(公認心理師 2021-134)について見据えていくうえでも、里親委託はあり得る措置であると言えるでしょう。

なお、ガイドラインでは「できるだけ早い時期に家庭的な環境で、特定の大人との愛着関係の下で養育されることが子どもの心身の成長や発達には不可欠であり、積極的に活用する」とあるように、乳児院からの措置替えを検討する事例も多いので、選択肢①(乳児院)と併せて考えていくことになると言えます。

それと、本事例においては、出産直後であること、経済的な問題があること、他に頼れる人がいないことなどもあって「養育する意思がない」となっている可能性があり、環境の変化によって養育の意思が生じてくる可能性もあります。

ガイドラインには「里親委託へ不安を抱く保護者へは、養育里親と養子縁組希望里親との区別を説明し、養育里親による家庭的環境が子どもの成長を促すこと、社会的養護は里親委託が原則であること、保護者と子どもとの面会等は原則可能であること等を説明し、理解を得る」とありますが、こうした説明も養育の意思が生じる可能性を考えてやっておく必要がありますね。

倫理的に「こうした状況のBに将来養育の意思が出たとしても任せてよいのか?」という意見はあるでしょうが、実母であることの養育上の価値はやはり大きいものなので、そういう可能性も考慮に入れておくことが重要です(生みの親より育ての親という言葉があるように、里親や養子縁組で得られる価値も大きい。この辺は結局「人次第」と言わざるを得ない)。

いずれにせよ、本事例において年齢や状況等を踏まえても里親委託はあり得ると言えます。

よって、選択肢②は事例の時点で考えられる措置先であると判断できます。

③ 一時保護所

一時保護所は、児童福祉法第12条の4(児童相談所には、必要に応じ、児童を一時保護する施設を設けなければならない)に基づき児童相談所に付設もしくは児童相談所と密接な連携が保てる範囲内に設置され、虐待、置去り、非行などの理由により子どもを一時的に保護するための施設です。

まず前提として、本問では「措置先」について問われていますから、社会的養護における「措置制度」を活用している施設や制度を選択することが求められています。

要保護児童に対する「措置制度」で措置される機関や制度としては「乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、ファミリーホーム、里親」が挙げられ、「都道府県、指定都市、児童相談所設置市 (児童相談所)」がその可否を判断していきます。

ですから、本選択肢の「一時保護所」はそもそも本問の問い(考えられる主な措置先は?)に答えるものになっていないと言え、選択することができないと考えられます。

なお、一時保護の具体例としては以下が挙げられています。

  1. 緊急保護
    ア 棄児、家出した子ども等現に適当な保護者又は宿所がないために緊急にその子どもを保護する必要がある場合
    イ 虐待、放任等の理由によりその子どもを家庭から一時引き離す必要がある場合
    ウ 子どもの行動が自己又は他人の生命、身体、財産に危害を及ぼし若しくはそのおそれがある場合
  2. 行動観察
    適切かつ具体的な援助指針を定めるために、一時保護による十分な行動観察、生活指導等を行う必要がある場合
  3. 短期入所指導
    短期間の心理療法、カウンセリング、生活指導等が有効であると判断される場合であって、地理的に遠隔又は子どもの性格、環境等の条件により、他の方法による援助が困難又は不適当であると判断される場合

上記を踏まえれば、制度として利用できなくはないのですが、やはり一時保護はその平均入所期間(約1か月)を踏まえれば、「養育の意思がない」という本事例においてはいたずらに養育者をころころ変えることになってしまう(近い将来、別の施設や制度を利用することが前提であるから)一時保護所は選択すべきではないと言えます。

※そもそも「措置先」ではないので、上記は蛇足だと思ってください(措置先を決定するまでに僅かな期間を要するが、入院中のAならわざわざ一時保護所に連れてくる必要もない)。

以上より、選択肢③は事例の時点では考えられない措置先となります。

④ 児童自立支援施設

児童福祉法第四十四条に「児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」と規定されています。

厚生労働省の「児童自立支援施設運営指針」には、児童自立支援施設の対象児童として以下のように記述されています。

  • 子どもの特徴と背景:本施設の対象の子どもは、不良行為をなし、又はなすおそれのある子ども及び生活指導等を要する子どもであるが、①虐待など不適切な養育を行った家庭や多くの問題を抱える養育環境で育った子ども、②乳幼児期の発達課題である基本的信頼関係の形成ができていない子ども、③トラウマを抱えている子ども、④知的障害やADHD(注意欠陥多動性障害)、広汎性発達障害などの発達障害のある子ども、⑤抑うつ・不安といった問題を抱えている子ども、などが少なくない。
  • 子どもの年齢等:本施設は、18歳に至るまでの子どもを対象としており、必要がある場合は20歳に達するまでの措置延長をとることができる。
    本施設に入所している子どもは、12歳~15歳の中学生年齢の子どもが多いが、中学卒業した児童も対象であり、受け入れて支援することが求められている。

これらを踏まえて、本事例の措置先として適切か考えていきましょう。

上記のような児童自立支援施設の特徴を踏まえれば、不良行為を前提としていない本問の事例の入所先としては適切ではないと考えられます。

また、不良行為をする(しそう)という前提ですから、0歳児の入所はあり得ないと言えますね。

以上より、選択肢④は事例の時点では考えられない措置先となります。

⑤ 母子生活支援施設

児童福祉法第三十八条に「母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」と規定されています。

18歳未満の子どもを養育している母子家庭、または何らかの事情で離婚の届出ができないなどの母子家庭に準じる家庭の女性が子どもと一緒に利用できる施設であり、さまざまな事情で入所された母親と子どもに対して、心身と生活を安定するための相談・援助を進めながら、自立を支援していく施設になります。

また、母子生活支援施設は児童福祉法改正による以下のような変遷が見られます。

  • 1998年の改正:「母子寮」から「母子生活支援施設」に名称が改称され、その目的も「自立の促進のためにその生活を支援し」として、「保護する」から「保護するとともに、生活を支援する」と改正されています。
  • 2004年の改正:「退所した者について相談及びその他の援助を行うことを目的とする」と規定され、支援の対象者は退所した利用者にまで拡大しました。
  • 2002年の厚生労働省「母子家庭等自立支援対策大綱」:「母子生活支援施設や住宅など自立に向けた生活の場の整備」のもと、母子生活支援施設は、地域で生活する母子への子育て相談・支援や、保育機能の強化、サテライト型などの機能強化が求められ、施策が進められています。
    またDV被害者保護においても「改正DV法」による一時保護施設としては、母子生活支援施設が最も多くなっており、DV被害者の保護から自立支援を進めるための重要な施設となっています。

これらを踏まえて、本事例の措置先として適切か考えていきましょう。

本事例では「経済的な問題を有している」「母子家庭である」など、法律的には母子生活支援施設の利用要件は満たしていると考えられます。

しかし、本事例においては「(母親は)Aを養育する意思がなかった」とありますね。

子どもを養育する気がない母親になりますから、母子での自立を目指すという母子生活支援施設への措置は法律的に問題がなくても、現実的には困難であると見なすべきだと言えます。

「母親と子どもが一緒に生活できる住居の提供」が本施設で利用できる福祉サービスになるわけですが、この状態の母子を一緒にしておくことでネグレクトが生じる恐れも考えねばなりません。

とは言え、本事例は母子生活支援施設を利用できないというわけではありませんから、上記の臨床上の問題以外の理由も提示でいるとなお良いですね。

そこで選択肢③でも述べた手続き上の経緯が重要であり、その観点からすると、本選択肢はそもそも本問の「主な措置先は?」という問いにそぐわないと言えます。

すなわち、乳児院、児童養護施設、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設、ファミリーホーム、里親に関しては要保護児童に対する「措置制度」を用いて、「都道府県、指定都市、児童相談所設置市 (児童相談所)」がその可否を判断していきます。

対して、母子生活支援施設や助産施設は、児童の福祉に欠ける母子や経済的に困難な妊産婦を対象に、「行政への申込決定」によって「都道府県、市、福祉事務所設置町村 (福祉事務所)」が判断することになります。

すなわち、本問で「主な措置先は?」と問われている以上、「措置制度」を使って利用する施設や制度を選択する必要があり、本選択肢の「母子生活支援施設」は「措置制度」ではない以上、そもそも選択することが不適切と言うことができます。

「措置制度」と「行政への申し込み決定」の違いに関しては、厚生労働省の「社会的養護の仕組みの特徴」の資料に詳しく載っていますね。

このような諸点を踏まえると、「措置先」として母子生活支援施設はあり得ないということになり、もしも事例の状況等を勘案して母子生活支援施設が相当であると見立てられたなら「母子生活支援施設の利用を勧める」ということになるでしょう(「母子生活支援施設」に「措置する」ということは無いはずだから)。

以上より、選択肢⑤は事例の時点では考えられない措置先となります。

2件のコメント

  1. 全問解説有難うございました。
    社会福祉士国家試験の時は『社会福祉士国試 学習部屋』で勉強し、
    公認心理師をチャレンジするにあたって、こちらのサイトがとても勉強になりました
    第4回はコロナ禍の為、申し込みの後、受験直前で受けるのを辞めましたが、
    今年はGルート最後のチャンスなので、老骨に鞭打ち、励みます
    実際のクライアントへの支援に役立たせる為に
    これからもこちらのサイトとyoutubeで勉強を続けます

    1. コメントありがとうございます。
      当サイトをご活用くださり、ありがとうございます。

      >これからもこちらのサイトとyoutubeで勉強を続けます
      ありがとうございます。
      Youtubeはそのうち公開できるよう頑張ります。
      しばらくのんびり過ごした後に。

      それでは最後のチャンス、ご健闘を祈っております。

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