公認心理師 2020-50

精神保健福祉法の内容ですが、ほとんどの選択肢が条項通りの記載になっています。

精神障害やその疑いのために、措置入院が必要になってくる状況があります。

本問では、その前段階である「通報」について集中的に問うてきています。

問50 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉について、誤っているものを1つ選べ。
① 裁判官は、精神障害者又はその疑いのある被告人に無罪又は執行猶予刑を言い渡したときは、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。
② 警察官は、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる者を発見したときは、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。
③ 保護観察所の長は、保護観察に付されている者が精神障害者又はその疑いのある者であることを知ったときは、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。
④ 矯正施設の長は、精神障害者又はその疑いのある者を釈放、退院又は退所させようとするときは、あらかじめその収容者の帰住地の都道府県知事に通報しなければならない。

解答のポイント

精神保健福祉法の「指定医の診察及び措置入院」につながる「通報」に関する、各立場の義務について理解していること。

選択肢の解説

① 裁判官は、精神障害者又はその疑いのある被告人に無罪又は執行猶予刑を言い渡したときは、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。

本選択肢は精神保健福祉法第24条の内容をいじったものであると考えられます。

精神保健福祉法第24条の内容は以下の通りです。

検察官は、精神障害者又はその疑いのある被疑者又は被告人について、不起訴処分をしたとき、又は裁判(懲役若しくは禁錮の刑を言い渡し、その刑の全部の執行猶予の言渡しをせず、又は拘留の刑を言い渡す裁判を除く)が確定したときは、速やかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。ただし、当該不起訴処分をされ、又は裁判を受けた者について、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第三十三条第一項の申立てをしたときは、この限りでない。

重要なのは、この条文のどこをどのようにいじってあるかがわかることですね。

まず主語が本来は「検察官」であるところを、本選択肢は「裁判官」になっています。

なお、本法で「裁判官」が主語になる箇所は見当たりません。

また「無罪又は執行猶予刑を言い渡したとき」とありますが、この点も見ていきましょう。

本来の条文では「裁判(懲役若しくは禁錮の刑を言い渡し、その刑の全部の執行猶予の言渡しをせず、又は拘留の刑を言い渡す裁判を除く)」とありますね。

この内容の理解の前提として、懲役、禁錮、拘留の違いを把握しておきましょう。

刑法第9条には「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする」とあります。

このうち懲役は「受刑者が拘置され所定の作業、いわゆる刑務作業が科せられる刑罰」、禁錮は「受刑者が拘置されるだけの刑罰で、過失犯に禁錮刑が言い渡されるケースが多い」、拘留は「1日以上30日未満の範囲で身柄が拘束される刑罰で、刑務作業は科せられないために「禁錮」の短期版とも言えますが、「懲役」や「禁錮」とは違い執行猶予が付けられることがない」となります。

ここで問題に戻ると、精神保健福祉法において検察官が都道府県知事に通報しなければならないのは、「裁判が行われたとき(執行猶予が付いたり、拘留の刑の場合を除く)」と言えますね。

ですから、執行猶予が付かない懲役若しくは禁錮の刑の判決が出た場合には、速やかに検察官は都道府県知事に通報する必要があるということですね。

問題文の「無罪又は執行猶予刑を言い渡したとき」は誤りであることがわかるはずですね。

ちなみに「無罪」と「不起訴」は違いますから注意も必要です(起訴→裁判→無罪ですから、不起訴だと裁判にもいかない)。

一つ、この条項で理解しておかねばならないのは、「不起訴処分をしたとき」にも都道府県知事への通報が必要という点です。

懲役刑や禁錮刑が確定したときに通報するのは理解できるでしょうが、なぜ執行猶予が付いたり拘留刑では通報しなくてよいのに「不起訴処分」では通報が必要なのか。

この一見して矛盾があるように感じられる点について理解しておく必要があります。

精神保健福祉法第27条には以下のような条項が定められております。

都道府県知事は、第二十二条から前条までの規定による申請、通報又は届出のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、その指定する指定医をして診察をさせなければならない。

つまり、都道府県知事は通報を受けて、2人以上の指定医に診察をさせることになっております。

そして、その結果自傷他害のおそれがあると判断した場合には、同法29条に基づいて入院措置を取ることができます。

そのため、不起訴処分であっても通報が必要ということですね。

また、執行猶予が付いたり拘留刑の場合には通報の必要がないのは、司法の判断が済んでいるからということだと考えられます。

不起訴処分の場合は司法から福祉に対応が委ねられるので、都道府県知事への通報ということになるのでしょう。

いずれにせよ、本選択肢の内容は実際の条項と異なっていることがわかります。

よって、選択肢①は誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

② 警察官は、精神障害のために自傷他害のおそれがあると認められる者を発見したときは、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

本選択肢は精神保健福祉法第23条の内容となっています。

警察官は、職務を執行するに当たり、異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者を発見したときは、直ちに、その旨を、最寄りの保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならない。

このように、自傷他害の恐れがあると認められる場合に保健所長を通して都道府県知事に通報するというルートを辿ります。

本選択肢に関しては条項通りの内容と言ってよいでしょうね。

よって、選択肢②は正しいと判断でき、除外することになります。

③ 保護観察所の長は、保護観察に付されている者が精神障害者又はその疑いのある者であることを知ったときは、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。

本選択肢は精神保健福祉法第25条の内容となっています。

保護観察所の長は、保護観察に付されている者が精神障害者又はその疑いのある者であることを知つたときは、速やかに、その旨を都道府県知事に通報しなければならない。

本選択肢も条項通りの内容になっていますね。

よって、選択肢③は正しいと判断でき、除外することになります。

④ 矯正施設の長は、精神障害者又はその疑いのある者を釈放、退院又は退所させようとするときは、あらかじめその収容者の帰住地の都道府県知事に通報しなければならない。

本選択肢の内容は精神保健福祉法第26条の内容となっています。

矯正施設(拘置所、刑務所、少年刑務所、少年院、少年鑑別所及び婦人補導院をいう。以下同じ)の長は、精神障害者又はその疑のある収容者を釈放、退院又は退所させようとするときは、あらかじめ、左の事項を本人の帰住地(帰住地がない場合は当該矯正施設の所在地)の都道府県知事に通報しなければならない。

本選択肢も条項通りの内容になっています。

以上より、選択肢④は正しいと判断でき、除外することになります。

ちなみに、上記にある「左の事項」とは以下の内容を指します。

  1. 本人の帰住地、氏名、性別及び生年月日
  2. 症状の概要
  3. 釈放、退院又は退所の年月日
  4. 引取人の住所及び氏名

この点についても併せて把握するようにしておきましょう。

4件のコメント

  1. いつも勉強させていただいています。ありがとうございます。
    選択肢1で説明していただいている内容で、精神保健福祉法第24条の部分で疑問に思いました。
    「…又は裁判(懲役若しくは禁錮の刑を言い渡し、その刑の全部の執行猶予の言渡しをせず、又は拘留の刑を言い渡す裁判を除く)が確定したとき」とは、

     先生が説明されている部分 → つまり、精神保健福祉法において検察官が都道府県知事に通報しなければならないのは、「裁判の結果、執行猶予が付かない懲役刑や禁錮刑が確定したとき」と言えますね。
    と、いう「」部分の時を除くので、重めの判決が出た場合を除いて、通報するようにしなさい。という意味ではないのでしょうか?

    質問させていただきます。すみません。よろしくお願いします。

    1. コメントありがとうございます。

      いろいろごっちゃになっていましたね。
      正しい内容に修正しましたのでご確認ください。

  2. いつも勉強させていただいております。とてもありがたいです。なかなか理解できず、苦しんでおります。

    選択1について教えてください。

    (略)・・・精神保健福祉法第27条には以下のような条項が定められております。
    つまり、都道府県知事は通報を受けて、2人以上の指定医に診察をさせることになっております。
    そして、その結果自傷他害のおそれがあると判断した場合には、同法29条に基づいて入院措置を取ることができます。そのため、不起訴処分であっても通報が必要ということです。

    とありますが、自傷他害のおそれがあっても、不起訴処分となることもあるという理解でよろしいでしょうか。

    1. コメントありがとうございます。

      >自傷他害のおそれがあっても、不起訴処分となることもあるという理解でよろしいでしょうか
      その理解で相違ありません。

      というよりも、それを経て「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」での対応に流れていくわけです。

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