公認心理師 2024-128

ハーグ条約実施法に関する問題です。

ハーグ条約そのものと併せて把握しておくと良いでしょう。

問128 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律〈ハーグ条約実施法〉の内容として、適切なものを1つ選べ。
① 我が国の中央当局は法務省である。
② 家庭裁判所が返還を命じることができる子の年齢には、制限がない。
③ 家庭裁判所は、子の返還申立事件の手続においては、子の意思を把握するように努めなければならない。
④ 子が常居所地国に返還されることを拒んでいるときは、いかなる状況においても、家庭裁判所は、子の返還を命じてはならない。

選択肢の解説

① 我が国の中央当局は法務省である。

こちらについては以下の条項を確認していきましょう。


(目的)
第一条 この法律は、不法な連れ去り又は不法な留置がされた場合において子をその常居所を有していた国に返還すること等を定めた国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(以下「条約」という。)の的確な実施を確保するため、我が国における中央当局を指定し、その権限等を定めるとともに、子をその常居所を有していた国に迅速に返還するために必要な裁判手続等を定め、もって子の利益に資することを目的とする。

第三条 我が国の条約第六条第一項の中央当局は、外務大臣とする。


上記の内容から、日本における中央当局は法務省ではなく、外務省(外務大臣)であることがわかりますね。

日本においては、政府が、2011年1月から、ハーグ条約の締結の是非を検討するために関係省庁の副大臣級の会議を開催し、締結賛成派、締結反対派等各方面から寄せられる意見も踏まえ、日本の法制度との整合性、子の安全な返還の確保、中央当局の在り方等について慎重に検討を行いました。

その結果、ハーグ条約の締結には意義があるとの結論に至り、2011年5月に条約締結に向けた準備を進めることを閣議了解し、返還申請等の担当窓口となる「中央当局」は外務省が担うとの方針の下、法務省及び外務省において当事者や専門家等の様々な方面からの声を踏まえつつ、実施法案が作成されました。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 家庭裁判所が返還を命じることができる子の年齢には、制限がない。
③ 家庭裁判所は、子の返還申立事件の手続においては、子の意思を把握するように努めなければならない。

そもそも子どもの返還に関する流れを把握しておきましょう。

まず裁判所において「子の返還を命ずる終局決定の確定」が行われ、これでも返還命令に応じない場合、「間接強制手続」に入ります。

間接強制手続とは、子の返還を命じられた者(債務者)に対し、子の返還義務を履行するまで一定額の金銭の支払を命じることにより、間接的に子の返還を強制させることを指します。

これでも応じられない場合、代替執行手続という「裁判所によって指定された執行官及び返還実施者が、子の解放・返還を債務者に代わって強制的に実現」することになります。

なお、一定の条件の下(間接強制では返還の見込みがあるとは認められないとき、子の急迫の危険を防止するために必要があるとき等)で、間接強制を経ずに代替執行可能とされています。

ちなみに、執行の場所が子の住居である場合には、裁判所の許可により、当該場所の占有者の同意がなくても、代替執行可能とされています。

ここで挙げた選択肢は、この代替執行手続に関する選択肢であると理解しつつ進めていきましょう。

こちらについては以下の条項を参照しましょう。


第八十八条 家庭裁判所は、子の返還申立事件の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、終局決定をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。

(子の年齢による子の返還の強制執行の制限)
第百三十五条 子が十六歳に達した場合には、民事執行法第百七十一条第一項の規定による子の返還の強制執行(同項の規定による決定に基づく子の返還の実施を含む。以下「子の返還の代替執行」という。)は、することができない。
2 民事執行法第百七十二条第一項に規定する方法による子の返還の強制執行の手続において、執行裁判所は、子が十六歳に達した日の翌日以降に子を返還しないことを理由として、同項の規定による金銭の支払を命じてはならない。


上記より、代替執行において子どもの年齢が16歳に達していた場合は、それを実施することができないとされています。

また、そうでない場合であっても、「子の返還申立事件の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め」とありますから、当然ながら「子の返還申立事件の手続においては、子の意思を把握するように努めなければならない」という選択肢③の内容は適切であると言えます。

以上より、選択肢②は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。

④ 子が常居所地国に返還されることを拒んでいるときは、いかなる状況においても、家庭裁判所は、子の返還を命じてはならない。

ハーグ条約実施法による子の返還申立事件の手続の概要は以下の通りになります。

子の返還決定手続とは、ハーグ条約締約国内に常居所を有していた16歳未満の子を、同国から日本に連れ出し、又は、日本に留め置くことによって、子が常居所を有していた国法令に基づく、申立人の子に対する監護の権利を侵害する場合に、日本で子を監護している者(相手方)に対して、裁判所が、子を常居所地国に返還するよう命ずる手続です。

こちらに関する返還事由および返還拒否事由については以下の通りです。


(子の返還事由)
第二十七条 裁判所は、子の返還の申立てが次の各号に掲げる事由のいずれにも該当すると認めるときは、子の返還を命じなければならない。
一 子が十六歳に達していないこと。
二 子が日本国内に所在していること。
三 常居所地国の法令によれば、当該連れ去り又は留置が申立人の有する子についての監護の権利を侵害するものであること。
四 当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に、常居所地国が条約締約国であったこと。

(子の返還拒否事由等)
第二十八条 裁判所は、前条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、子の返還を命じてはならない。ただし、第一号から第三号まで又は第五号に掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して常居所地国に子を返還することが子の利益に資すると認めるときは、子の返還を命ずることができる。
一 子の返還の申立てが当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時から一年を経過した後にされたものであり、かつ、子が新たな環境に適応していること。
二 申立人が当該連れ去りの時又は当該留置の開始の時に子に対して現実に監護の権利を行使していなかったこと(当該連れ去り又は留置がなければ申立人が子に対して現実に監護の権利を行使していたと認められる場合を除く。)。
三 申立人が当該連れ去りの前若しくは当該留置の開始の前にこれに同意し、又は当該連れ去りの後若しくは当該留置の開始の後にこれを承諾したこと。
四 常居所地国に子を返還することによって、子の心身に害悪を及ぼすことその他子を耐え難い状況に置くこととなる重大な危険があること。
五 子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること。
六 常居所地国に子を返還することが日本国における人権及び基本的自由の保護に関する基本原則により認められないものであること。


本選択肢で問われているポイントは、上記の第28条第5項の内容で「子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が常居所地国に返還されることを拒んでいること」になります。

もちろん、子ども本人が拒んでいたとしても、子どもの発達や年齢によっては強制的に返還することを求められるわけです(あまりに幼い場合、適切な判断ができているとは限らない、などですね)。

ですから、本選択肢にあるように「いかなる状況においても」ということはあり得ませんね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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