児童養護施設運営指針などにおける「社会的養護の原理」に関する問題です。
これは過去問から獲得できる周辺知識を活用することで、知らなくても解ける内容になっていますね。
問116 こども家庭庁が示す児童養護施設運営指針などにおける、「社会的養護の原理」に含まれないものを1つ選べ。
① 集団養育の推進
② 回復をめざした支援
③ 発達の保障と自立支援
④ 継続的支援と連携アプローチ
⑤ ライフサイクルを見通した支援
選択肢の解説
① 集団養育の推進
② 回復をめざした支援
③ 発達の保障と自立支援
④ 継続的支援と連携アプローチ
⑤ ライフサイクルを見通した支援
ここではまず、こども家庭庁が示す児童養護施設運営指針などにおける、「社会的養護の原理」を抜粋しましょう。
社会的養護は、これを必要とする子どもと家庭を支援して、子どもを健やかに育成するため、上記の基本理念の下、次のような考え方で支援を行う。
①家庭的養護と個別化
・すべての子どもは、適切な養育環境で、安心して自分をゆだねられる養育者によって、一人一人の個別的な状況が十分に考慮されながら、養育されるべきである。
・一人一人の子どもが愛され大切にされていると感じることができ、子どもの育ちが守られ、将来に希望が持てる生活の保障が必要である。
・社会的養護を必要とする子どもたちに「あたりまえの生活」を保障していくことが重要であり、社会的養護を地域から切り離して行ったり、子どもの生活の場を大規模な施設養護としてしまうのではなく、できるだけ家庭あるいは家庭的な環境で養育する「家庭的養護」と、個々の子どもの育みを丁寧にきめ細かく進めていく「個別化」が必要である。
②発達の保障と自立支援
・子ども期のすべては、その年齢に応じた発達の課題を持ち、その後の成人期の人生に向けた準備の期間でもある。社会的養護は、未来の人生を作り出す基礎となるよう、子ども期の健全な心身の発達の保障を目指して行われる。
・特に、人生の基礎となる乳幼児期では、愛着関係や基本的な信頼関係の形成が重要である。子どもは、愛着関係や基本的な信頼関係を基盤にして、自分や他者の存在を受け入れていくことができるようになる。自立に向けた生きる力の獲得も、健やかな身体的、精神的及び社会的発達も、こうした基盤があって可能となる。
・子どもの自立や自己実現を目指して、子どもの主体的な活動を大切にするとともに、様々な生活体験などを通して、自立した社会生活に必要な基礎的な力を形成していくことが必要である。
③回復をめざした支援
・社会的養護を必要とする子どもには、その子どもに応じた成長や発達を支える支援だけでなく、虐待体験や分離体験などによる悪影響からの癒しや回復をめざした専門的ケアや心理的ケアなどの治療的な支援も必要となる。
・また、近年増加している被虐待児童や不適切な養育環境で過ごしてきた子どもたちは、虐待体験だけでなく、家族や親族、友達、近所の住人、保育士や教師など地域で慣れ親しんだ人々との分離なども経験しており、心の傷や深刻な生きづらさを抱えている。さらに、情緒や行動、自己認知・対人認知などでも深刻なダメージを受けていることも少なくない。
・こうした子どもたちが、安心感を持てる場所で、大切にされる体験を積み重ね、信頼関係や自己肯定感(自尊心)を取り戻していけるようにしていくことが必要である。
④家族との連携・協働
・保護者の不在、養育困難、さらには不適切な養育や虐待など、「安心して自分をゆだねられる保護者」がいない子どもたちがいる。また子どもを適切に養育することができず、悩みを抱えている親がいる。さらに配偶者等による暴力(DV)などによって「適切な養育環境」を保てず、困難な状況におかれている親子がいる。
・社会的養護は、こうした子どもや親の問題状況の解決や緩和をめざして、それに的確に対応するため、親と共に、親を支えながら、あるいは親に代わって、子どもの発達や養育を保障していく包括的な取り組みである。
⑤継続的支援と連携アプローチ
・社会的養護は、その始まりからアフターケアまでの継続した支援と、できる限り特定の養育者による一貫性のある養育が望まれる。
・児童相談所等の行政機関、各種の施設、里親等の様々な社会的養護の担い手が、それぞれの専門性を発揮しながら、巧みに連携し合って、一人一人の子どもの社会的自立や親子の支援を目指していく社会的養護の連携アプローチが求められる。
・社会的養護の担い手は、同時に複数で連携して支援に取り組んだり、支援を引き継いだり、あるいは元の支援主体が後々までかかわりを持つなど、それぞれの機能を有効に補い合い、重層的な連携を強化することによって、支援の一貫性・継続性・連続性というトータルなプロセスを確保していくことが求められる。
・社会的養護における養育は、「人とのかかわりをもとにした営み」である。子どもが歩んできた過去と現在、そして将来をより良くつなぐために、一人一人の子どもに用意される社会的養護の過程は、「つながりのある道すじ」として子ども自身にも理解されるようなものであることが必要である。
⑥ライフサイクルを見通した支援
・社会的養護の下で育った子どもたちが社会に出てからの暮らしを見通した支援を行うとともに、入所や委託を終えた後も長くかかわりを持ち続け、帰属意識を持つことができる存在になっていくことが重要である。
・社会的養護には、育てられる側であった子どもが親となり、今度は子どもを育てる側になっていくという世代を繋いで繰り返されていく子育てのサイクルへの支援が求められる。
・虐待や貧困の世代間連鎖を断ち切っていけるような支援が求められている。
以上のように、「社会的養護の原理」に含まれているものとしては、家庭的養護と個別化、発達の保証と自立支援、回復を目指した支援、家族との連携・協働、継続的支援と連携アプローチ、ライフスタイルを見通した支援、の6つになります。
これらを踏まえれば、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は「社会的養護の原理」に含まれていると判断でき、除外することになります。
選択肢①の「集団養育の推進」については、上記の原理のうち「家庭的養護と個別化」に反するものであり、この個別化とは「一人一人の個別的な状況が十分に考慮されながら、養育されるべきである」という表現にあらわれているように、子どもの生活の場を大規模な施設養護としてしまうのではなく、できるだけ家庭あるいは家庭的な環境で養育する「家庭的養護」と、個々の子どもの育みを丁寧にきめ細かく進めていく「個別化」が必要とする考え方になります。
社会的養護において、こうした「家庭的養護と個別化」についてはかねてから進められており、里親事業の推進などはそうした理念を背景にしたものと言えます。
日本にいる約42,000人の社会的養育の子どもたちのうち、約32,000人が児童養護施設や乳児院で暮らしており、里親家庭で暮らしている子どもたちは約10,000人であり、これはOECD諸国の中で最低の水準となっています。
日本は家庭養育率が極端に低い国と言えるでしょう。
こうした背景を理解していれば、選択肢①の「集団養育の推進」はあり得ないものとわかるはずですね。
よって、選択肢①が「社会的養護の原理」に含まれないものと判断でき、こちらを選択することになります。