公認心理師 2023-44

被虐待児童の家庭復帰が見込まれる場合の対応に関する問題です。

私自身はこの近隣領域で仕事をしているのでノータイムで選択しましたが、領域が遠い人からすると難しい問題だったかもしれません。

問44 児童養護施設入所児童の家庭復帰が直近に見込まれる場合に、児童相談所の対応として、誤っているものを1つ選べ。
① 家庭復帰が見込まれる入所児童の意思を確認する。
② 家庭復帰する家庭の状態を具体的に直接確認する。
③ 家庭裁判所に児童福祉施設入所措置解除を申請する。
④ 要保護児童対策地域協議会と支援指針に関する協議を行う。
⑤ 家庭復帰計画は、必要に応じて中止や修正があることを、入所児童や保護者に事前に伝える。

解答のポイント

被虐待児童の家庭復帰に係る要点を把握している。

選択肢の解説

① 家庭復帰が見込まれる入所児童の意思を確認する。
② 家庭復帰する家庭の状態を具体的に直接確認する。
④ 要保護児童対策地域協議会と支援指針に関する協議を行う。
⑤ 家庭復帰計画は、必要に応じて中止や修正があることを、入所児童や保護者に事前に伝える。

社会的養護関係施設における親子関係再構築支援ガイドライン」では、退所前の支援として、支援効果についてのアセスメントが重要とされています。

施設は児童相談所と共に以下に示す「家庭復帰に関する判断基準項目」や「家庭復帰の適否を判断するためのチェックリスト」等を活用し、リスクアセスメントすることが勧められています。

また、これまでの親子関係再構築のための様々な支援がチェックリストの項目において、どのように効果が現れているのか、多面的なアセスメントが必要となります。

以下が家庭復帰に関する判断基準項目として挙げられています。

  1. 家庭復帰に向けての合意:
    既に行われた虐待は家庭復帰を考慮できるほど回復可能なものか、子ども・保護者の家庭復帰への意向、家庭復帰プログラムへの取り組み状況等
  2. 子どもの課題:
    虐待による認知の歪みや自己イメージの修正、心的外傷・トラウマ等からの回復、自身の体験及び親との関係の整理に伴う情緒的安定、対人関係の安定等
  3. 親子の関係性の課題:
    段階的親子交流の経過、信頼関係・愛着関係の修復などに伴う親子の間の安心感の醸成等
  4. 保護者の課題:
    虐待の認知、精神的な安定、子どもの立場に立った見方・配慮、養育スキル、衝動のコントロールなどによる安定した養育態度を保持できる等
  5. 安全・安心を担保し、家族を支える環境(社会資源):
    児童相談所等公的機関との良好な相談関係、公的機関の援助の受け入れ、保育所・学校等との関係、公的機関による確実なモニタリング機能の保持、緊急時の SOS に対しての即時対応体制の確保、経済的安定など安定した生活環境の保持等
  6. 家族を支えるインフォーマルなネットワークに関わる課題:
    ファミリー・グループ等の継続的支援とモニタリング、ファミリー・グループと公的機関のインフォーマルネットワークの構築
  7. リスク回避能力:
    保護者、子ども、ファミリー・グループ等の危機的場面での適切な対処能力等

上記の通り、家庭復帰が見込まれる入所児童の意思を確認することが含まれていますね。

詳しいチェック項目を挙げれば、「子どもがどの程度家庭復帰を望んでいるか、保護者との間にズレがないかをチェック」「保護者に対する恐怖心はないか、医学・心理学面の情報もチェック」「健康面・発達面の状況についてチェック」「対人関係や集団適応の状況についてのチェック」「施設職員や里親を頼り信頼する行動が見られているかをチェック」「危機状況に陥りそうになったとき対処が可能かどうかをチェック」などが挙げられています。

特に「子どもがどの程度家庭復帰を望んでいるか、保護者との間にズレがないかをチェック」の箇所には「伝聞ではなく児童相談所が面接を行う」と但し書きが示されており、具体的には保護者に言い含められていないか、家に帰ったらどこで誰と寝るのかなど生活場面の具体的なイメージがあるか、施設生活から逃避したい思いはないか、家での生活に対する不安感はどの程度か、などが例として挙げられています。

続いて、家庭復帰をする場合には、以下の項目も重要になります。

  • 家庭復帰による退所の条件:
    子どもにとって家庭での生活が安全なものになったか、保護者への地域での支援体制が構築できたか、が重要になる。保護者支援の成果が得られ、家庭復帰を進めるためには、関係機関と協議し、子ども、保護者、家庭環境、地域支援機能において、家庭復帰可能な状況との評価が得られることが必要になる。家庭復帰の方針決定後は、家族交流を進展させるために面会、外出、外泊の頻度、期間を増やして家庭での生活への移行を進める中で、通園通学予定先の保育園、幼稚園、学校との情報交換、支援方法の協議も進めていく。
  • 要保護児童対策地域協議会との連携:
    子どもが家庭や地域で安全・安心に暮らせる環境を担保し、家族を支えるために地域で中心的役割を担うのが市区町村の要保護児童対策地域協議会(児童相談所、福祉事務所、保育所、幼稚園、学校、保健センター、保健所、民生・児童委員(主任児童委員)、医療機関、警察等により構成)である。家庭復帰の方針決定後は、要保護児童対策地域協議会において(転居予定の場合は転居先関係機関との引継ぎが重要になる)個別ケース検討会議を開催し、家族の現状に関する情報共有、モニタリング等関係機関の役割分担や家庭復帰後の支援方法の具体的手順を決める等総合的な支援体制を構築することになる。

選択肢④にある要保護児童対策地域協議会との連携が重要で、当然、家庭復帰にあたってもその家庭の応じた支援指針等を確認するなどの協議を行っていくことになります。

子どもが帰っていく地域の要保護児童対策地域協議会は機関連携の要であり、少なくとも家庭復帰が見込まれる場合には、児童福祉施設入所中から、いわゆる「要対協(要保護児童対策地域協議会)ケース」として関係機関が共有し、児童福祉施設で行われた養護と家庭復帰後の在宅支援を切れ目のないようにつなげていくことが必要です。

特に、家庭復帰の段階では、それまでの児童福祉施設内のプログラムの中で顕在化していなか
った課題が顕れることを十分想定しなければならないので、厚生労働省通知にある通りリスクが高まる家庭復帰からの少なくとも半年間を、児童相談所はケースに応じ、関係機関と十分連携しつつ、在宅支援をコーディネイトする中核として機能していくことが必要です。

そして、児童福祉司指導等により保護者に対して、子どもの安全・安心を担保するための家庭引き取り後の支援・指導として、児童相談所に対しての通所または家庭訪問等によるモニターを約束し、再び虐待が発生したり、リスクが高じた時の危機介入を考慮しておくことが必要です。

最後に、選択肢⑤の「家庭復帰計画は、必要に応じて中止や修正があることを、入所児童や保護者に事前に伝える」について考えてみましょう。

そもそも、家庭復帰に関しては、一定期間は「措置解除」ではなく「措置停止」として、総合的に安全な生活が十分に確認できてから措置解除を児童相談所が決定することになります。

家庭復帰した直後は虐待のリスクが高い時期になりますから、復帰時点で安心せず、一定期間のモニタリングが重要ですし、再び虐待が発生したりリスクがあるときには危機介入があると事前に十分示しておくことが欠かせません(こちらにそうした記載がありますね)。

こうした「事前に起こる事実を伝達しておく」という構えは、こうした福祉領域に限らず、非常に重要なことになります。

臨床活動の大枠での考え方で言えば「現実原則」に則った対応であり、一般的に言えば「自由とそれに伴う責任:自分が自由に行ったことに伴う責任を理解する」に関する提示でもあります。

こうした自由‐責任という表裏一体を、きちんと今の日本社会では提示することができていないことが多く、臨床場面でも「自由」を尊重するような考え方をよく耳にしますが、相手の精神的成熟度によっては「自由」よりも、それに伴う「責任」を強調しなければならないことも多いのです。

そして、この「事前に起こる事実を伝達しておく」という間違った使い方は、「〇〇しないと△△になるよ」といいながら、実際に〇〇をしたとしても△△を提示しないというやり方で、単なる「脅し」として使うというパターンです(要するに、こう伝えることで相手の行動を抑止しようとしているだけで、実際に△△という対応を取る覚悟が伴っていない)。

あくまでも「事前に伝達した事実」を発動する状況になれば、予告通り発動せねばならないのに、それをしないとなれば先の「自由‐責任」という重要なテーマが相手に提示されないことになり、相手の自由は尊重され、それに伴う責任は回避されるということになりかねません。

よく「事前に伝えること」という話になりますが、これは相手を慮っての対応なのではなく(もちろんそういう面はあるのでしょうし、そういう「皮」をかぶっておいた方が提示しやすい)、本質としては「自由‐責任」や「現実原則」という枠組みで語られる対応になります。

繰り返しますが、重要なのは「その事態が起こったら、予告した対応を実行する」ということであり、その際、相手がどのような反応になろうとも、基本的には変わらず対応することが重要になります。

虐待場面で、相手の親が怒ってくる、強く何かを要求してくるということは非常にあり得ることですが、そんなことで対応が変わって良いはずがありませんよね(こんなことを言う必要自体がないと思っていましたが、不祥事を見ると確認しておかねばならないのだろうと思う事態がありますね)。

いずれにせよ、家庭復帰計画の中止や修正が状況によってあり得るのであれば、そのことを事前に親子に提示しておくのは当たり前のことと言えるでしょう。

危機管理上(聞いてないと言わせないために)も重要なことになります。

上記の通り、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

③ 家庭裁判所に児童福祉施設入所措置解除を申請する。

こちらについては関係法規から見ていきましょう。

児童虐待防止法の関連個所は以下の通りです。


(施設入所等の措置の解除等)
第十三条 都道府県知事は、児童虐待を受けた児童について施設入所等の措置が採られ、及び当該児童の保護者について児童福祉法第二十七条第一項第二号の措置が採られた場合において、当該児童について採られた施設入所等の措置を解除しようとするときは、当該児童の保護者について同号の指導を行うこととされた児童福祉司等の意見を聴くとともに、当該児童の保護者に対し採られた当該指導の効果、当該児童に対し再び児童虐待が行われることを予防するために採られる措置について見込まれる効果、当該児童の家庭環境その他内閣府令で定める事項を勘案しなければならない。
2 都道府県知事は、児童虐待を受けた児童について施設入所等の措置が採られ、又は児童福祉法第三十三条第二項の規定による一時保護が行われた場合において、当該児童について採られた施設入所等の措置又は行われた一時保護を解除するときは、当該児童の保護者に対し、親子の再統合の促進その他の児童虐待を受けた児童が家庭で生活することを支援するために必要な助言を行うことができる。
3 都道府県知事は、前項の助言に係る事務の全部又は一部を内閣府令で定める者に委託することができる。
4 前項の規定により行われる助言に係る事務に従事する者又は従事していた者は、正当な理由がなく、その事務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。


上記の通り、家庭裁判所の判断については述べられていないことがわかりますね。

つまり、児童相談所は児童福祉施設とともにこれまで行った親子関係の再構築にかかわる支援とその効果について適切に評価し、家庭復帰した際の安全・安心をいかに守ることができるのか、十分に検討したうえで、慎重に措置を解除しなければならないということになります。

本選択肢に沿って述べれば、家庭復帰を決めるのは、最終的には措置権者である児童相談所であるが、「たぶん大丈夫」とか「何となく心配」という曖昧な判断ではなく、支援効果のアセスメントや家庭復帰に伴うリスクアセスメントを行い、施設側と児童相談所との協議を行わなければなりませんし、そのために面会や面接、外出や外泊の記録が判断材料となるが、その変化を整理しておくことが大切です。

以上のように、選択肢③は誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

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