公認心理師 2022-69

児童養護施設に入所が決まった幼児に対する初期の支援方針に関する問題です。

それぞれの選択肢の対応の目的、それが採用される状況やなぜ除外されるのかをきちんと説明できるようにしておきたいところですね。

問69 4歳の男児A。Aの養育は精神障害のある母親Bが行っていた。1歳6か月時の乳幼児健診では、発語がなく、低体重で、臀(でん)部がただれていた。母子で自宅に閉じこもり、Bが不調のときは、A は菓子を食べて過ごした。ある時、Aに高熱が続くため、小児科を受診したところ、感染症が疑われた。一方、う歯(虫歯)が多数あり、発語も乏しく低栄養状態もみられたため、児童相談所に通告された。Aの一時保護が医療機関に委託され、Aは入院加療となった。Aの入院中にBの精神症状が増悪したために、Aは、退院後に児童養護施設に入所することになった。
 入所初期のAへの支援方針として、最も適切なものを1つ選べ。
① リービングケアを開始する。
② 発語を促すために、言語聴覚療法を開始する。
③ Aのプレイセラピーを通して、トラウマ体験の表現を促す。
④ 歯磨きや整髪、衣類の着脱などの身辺自立を優先して訓練する。
⑤ 食事や就寝、入浴など、日課の一貫性が保たれるように工夫する。

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なし(あるかもしれないけど、絞れない)

解答のポイント

事例の状況でクライエントに最も必要な対応が理解できる。

選択肢の解説

① リービングケアを開始する。

児童養護施設では、以下のように様々なケアが存在します。

  1. アドミションケア:入所する前の準備としてのケアはアドミッションケアと言います。施設入所前に生活のリズムを整え、施設の見学や体験などを行います。
  2. インケア:施設に入所した子どもたちの日々の生活を支えるのがインケアになります。児童養護施設職員の主な仕事であり、子どもたちの心身が健やかに成長できるように様々な支援を行います。
  3. リービングケア:施設を退所する前の準備期間に行う支援をリービングケアと言います。退所後は今までの生活とは大きく変わります。大きな環境の変化にも対応ができるよう、想定できる事を事前に準備していきます。個室や別の棟で一人暮らしの練習を行う場合もあります。
  4. アフターケア:施設を退所した子どもたちのへの支援です。「ケアリーバー」という言葉があるように、施設を出た後は公的責任で保護されていた状態ではなくなるので、困難に直面する児童も多くいます。なので、退所した後であっても施設職員の方々のケアが必要になってきます。

上記の通り、リービングケアは退所準備ケアであり、入所施設からの自立に向けた準備の取り組みです。

施設を退所する前に退所の準備をするわけですが、その準備に関する支援を指す言葉になりますね。

厚生労働省のページには、以下のように記載がありますね。


  • 入所している子どもが、施設退所後の生活に円滑に移行し、自立した社会生活を送るためには、社会生活で必要な生活技術を身につけるトレーニングや実際に自立した生活体験を積むなどのリービングケア(退所準備)が重要になる。
  • そのためには、子どもの個別ニーズに応じたリービングケア(退所準備)を行うことができる自活寮などの設置が必要である。
  • リービングケア(退所準備)を行う場合は、適切なアセスメントに基づく課題設定・目標設定を行い、支援内容や方法・期間等を工夫し実施する必要がある。また、取組についての集積・分析を行い、リービングケア(退所準備)の実践モデルやプログラムを研究・開発することも必要である。
  • リービングケア(退所準備)においては、子どもの状況に応じて、職場体験・職場実習の実施などにより職業観を身につける取組が重要であり、地域の企業の協力を得ることやハローワークなどとの連携が必要である。また、就職自活している施設出身者の体験談を聞く機会を設けるなどの取組も有意義である。
  • リービングケアに当たっては、子どもの退所先と情報を十分に共有し、子どもが適応しやすい環境を整備することが重要である。

本事例は児童養護施設に関する内容ですから、児童養護施設の退所になると大きく家庭復帰か進学や就職による自立生活への移行になりますね。

児童養護施設への措置理由が改善され(多くの場合は、家庭環境が改善され)、家族のもとに帰る場合、試験的に自宅での生活を行います(短い日数から始め、徐々に日数を伸ばしていくのが一般的ですね)。

施設職員はこれまでの施設での生活を保護者に伝えてスムーズに生活が移行できるようにサポートする、試用期間中に児童相談所職員と家庭訪問を行い、自宅での様子の聞き取りや、生活状況の確認を行うなどの支援を行っていきます。

家庭復帰をする際には、今まで通っていた学校を転校しなければならない場合があるので、転校先の学校の見学、通学路の確認や教師との顔合わせはもちろん、必要に応じて転校前の学校で行っていた学習面での配慮などの引継ぎも欠かせません。

進学や就職などで一人暮らしを始める場合、新生活の基盤を整える必要があり、具体的には家具や家電などの生活用品の購入、アパートの契約やライフラインの開通など、一人暮らしを始めたことのある人ならわかると思いますが、いろんなことをやらねばなりません(これは引っ越しのたびにやらねばならないことの学びでもありますね)。

施設によっては一人暮らしの練習をする部屋が用意してあり、集団生活から離れて寝起きや家事を一人で行うことになり、料理や買い物の練習も積極的に行って自立した生活に備えていくことになります。

どちらかと言えば「リービングケア」という表現は、進学や就職によって自立生活に移行していく場合のことを指すことが多いように感じています。

自立生活への移行ではなく、家庭に復帰する場合、具体的には虐待家庭に改善が見られて子どもを家庭に戻す場合などは「親子関係再構築支援」と表現することが多いのではないでしょうか。

広義には「施設からの退所準備のためのケア」になるでしょうし、狭義では「自立生活に向けてのケア」という印象を持っています(この認識が正しいのかは不明ですが…)。

さて、本事例では医療機関に委託されていたAが児童養護施設に入所するという段階ですね。

ですから、退所準備のためのケアであるリービングケアというのは明らかに矛盾があるわけです。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 発語を促すために、言語聴覚療法を開始する。
③ Aのプレイセラピーを通して、トラウマ体験の表現を促す。
④ 歯磨きや整髪、衣類の着脱などの身辺自立を優先して訓練する。⑤ 食事や就寝、入浴など、日課の一貫性が保たれるように工夫する。

これらは一括で解説していくことにしましょう。

まずはAの問題・状況を挙げていきますね。

  • 精神障害を有する母親に養育されており、ネグレクトの疑いが強い。
  • ネグレクトに起因してと思われる、臀部のただれ、多数の虫歯、低栄養が見られる。
  • 1歳半の時点で発語が見られていない。
  • 医療機関で一時保護ののち、児童相談所に入所することになった。

重要なのは、上記のうち何を重視し対応していくかということであり、それによって選択する選択肢が変わってくるわけです。

ネグレクトに注目した場合は選択肢③のプレイセラピーが、言語の遅れに注目した場合は選択肢②の言語聴覚療法が選択されることになるわけです。

そして、虫歯などに注目した場合は選択肢④の身辺自立訓練が方法として採られることになりますね。

ですが、これらよりも先んじて行われるべきなのは、選択肢⑤の生活の一貫性を保つ工夫になります。

ネグレクト状態であったと想定されるAにとって、食事・就寝・入浴などの生活日課が一貫性をもって行われる「日常」を経験することが、安定の第一歩となります。

昔から心理的な問題は「贅沢病だ」と見なす意見があり、その根拠として発展途上国では心理的問題は少ないということが言われています。

「贅沢病だ」という意見は行き過ぎにしても、確かに心理的問題というのは「生活がある程度保たれていないと生じない」という面があり、これはマズローの自己実現欲求がそれ以下の欲求が一部でも満たされていないと生じないというのと事情は同じであると言えます。

ですから、選択肢②~選択肢④の対応は、確かにAに起こっている「具体的な問題・課題」の解決としては「正しい方法」ではあるのですが、そうした「正しい方法」が機能するための基盤を作っていくのがAの状況では大切になるのです。

そうした「安定した生活」「一貫した生活」が保障される状況の中で、Aがトラウマ反応を示せば即座に選択肢③の対応を取ったり、言語の未発達による問題(例えば、言語の未発達とは感情を収める言葉という箱(=言葉)が少ない・弱い状態なので、感情的になりやすいなど。これと虐待による感情爆発とを見分けられないと支援者としてはマズイ)が生じているなら選択肢②の対応が選択されます。

ちなみに、選択肢③のトラウマケアについてですが、トラウマのケアを行うのであれば、やはり選択肢③ではなく選択肢⑤が第一選択になります。

被災者支援でも言われることですが、生活の安定がないと「心の問題」については表現されにくいのが常識ですから、まずは生活の安定を目指すのが「心理支援」になるわけです(これをわかってない人が一時期の被災地には多くいて、「カウンセラーお断り」という札が避難所に貼られていたくらいです。カウンセラーであれば、まず生活の手伝いをするというのが仕事として行うべきことですね)。

もしかしたら、選択肢④と選択肢⑤で迷う人がいるかもしれません。

選択肢⑤が優先されるのは、選択肢④が「身辺自立」ということを目標に据えている点であると言えます。

4歳のAが置かれていた状況を鑑みれば、Aの身辺自立が成立していないのは「当たり前」と言えます。

先ほどのトラウマの例と同様に、まずは選択肢⑤の生活の一貫性を重視し、その中でAの身辺自立をテーマに関わっていくことができそうであれば、生活の一貫性の中に身辺自立のアプローチも含めていくというのが実際的なところではないでしょうか。

もう一つ、心理支援の視点から選択肢④を除外する理由を述べておきましょう。

それは「身辺自立」というのは、大枠で言えば「自立という方向性に向けての支援」になりますが、Aにはこの方向性の支援が適切か見極める必要があります。

ネグレクト(もしくはそれに準ずる状況)を経験しているAにとって、そして、母親に精神障害があり十分な心理的養育がなされていない可能性が高いAにとって、「自立という方向性の支援」は「孤立へのアプローチ」になる可能性があります。

子どもの心理支援において、私は「甘え」という現象を非常に重要視しているわけですが、明らかに親に対する「甘え」がテーマになっている事例において、自立を促すアプローチ、具体的にはお手伝いをさせる(お母さんがいなくなっても大丈夫なように…みたいな動機で)などの関わりは控えてもらうことが多いです。

「甘え」のテーマは他者との一体感を志向する欲求なわけですが(というか、他者との分離を自覚した故に出てくるのが「甘え」のテーマ。違う存在だと認識したからこそ、一体感を求めて「甘える」わけですね)、そうしたテーマが生じている人に対して「自立:一人でも生きていけるように」というアプローチは、心の状態と対応に不一致が生じていることになりますね。

本事例のAにおいても、十分な養育環境になかったこと、養育者の問題が大きかったことなどを踏まえれば、今後はこういったテーマが出現してくる可能性があり、その辺の見立てなしに選択肢④の「身辺自立を目指すアプローチ」は控えることが大切です。

では、甘えのテーマが生じていると見なされた場合、身辺自立の課題はどうするのかというと、施設の養育者にやってもらう・手伝ってもらう・やっている時に傍にいてもらう、などの段階を踏んでやっていくことで、「一人だけど一人じゃない」という内的状況を作り、「孤立」ではなく「真の自立:内的な存在があり「一人だけど一人じゃない」中で活動する。自分で行えることはやるが、他者にも助けを求めることもできる」を目指していくことになります。

そして、こうした身辺自立のテーマへのアプローチやその必要性も、選択肢⑤の生活の一貫性を保つ中から見立てていくということになるわけですね。

生活の一貫性を保つことによって、実験室的な状況を作り、Aの問題を見立てやすくするという面もあることを忘れてはいけません(流動的な要因を減らすことによって、Aに影響を与える因子を絞り、Aが示す言動の背景を想定しやすくするということ)。

以上の理由より、選択肢②、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

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