公認心理師 2022-55

障害者権利条約に関する問題です。

条約の中身を把握していることも大切ですが、一般常識で解くことが可能かなと思います。

そういう意味で非常に易しい内容だったと言えます。

問55 障害者の権利に関する条約〈障害者権利条約〉の内容として、適切なものを2つ選べ。
① 障害者の使用に特化した設計をユニバーサルデザインという。
② 障害者は、障害の程度に応じて居住する場所について制限される。
③ 障害者権利条約を実施するための法令制定に障害者は積極的に関与する。
④ 暴力等を経験した障害者の心理的回復のために適当な措置をとることが国に求められる。
⑤ 必要な支援を行うことを目的として、支援者は本人の了解なしに個人情報を取り扱うことができる。

関連する過去問

公認心理師 2021-23

解答のポイント

障害者の権利に関する条約〈障害者権利条約〉を把握している。

選択肢の解説

① 障害者の使用に特化した設計をユニバーサルデザインという。

障害者の権利に関する条約は、あらゆる障害者(身体障害、知的障害および精神障害など)の、尊厳と権利を保障するための条約です。

この条約は、21世紀では初の国際人権法に基づく人権条約であり、2006年12月13日に第61回国連総会において採択されました(日本国政府の署名は2007年9月28日)。

2008年4月3日までに中国、サウジアラビアも含む20ヵ国が批准し、2008年5月3日に発効され、2022年4月現在の批准国は185カ国となっています(なお欧州連合は、2010年12月23日に組織として集団批准した)。

2013年12月4日、日本の参議院本会議は、障害者基本法や障害者差別解消法の成立に伴い、国内の法律が条約の求める水準に達したとして条約の批准を承認し、日本の批准は2014年1月20日付けで、国際連合事務局に承認されています。

本問はこの障害者権利条約に関する出題となっているので、各選択肢と関連のある箇所を引用しつつ解説していくことにします。

まず「障害者の権利に関する条約〈障害者権利条約〉」に関しては、いくつかのサイトで見ることができますが、ここでは外務省のサイトにリンクを飛ばしておきます。

本選択肢ではユニバーサルデザインに関する内容が問われていますね。


第二条 定義
この条約の適用上、
「意思疎通」とは、言語、文字の表示、点字、触覚を使った意思疎通、拡大文字、利用しやすいマルチメディア並びに筆記、音声、平易な言葉、朗読その他の補助的及び代替的な意思疎通の形態、手段及び様式(利用しやすい情報通信機器を含む。)をいう。
「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。
「障害に基づく差別」とは、障害に基づくあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害に基づく差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。
「合理的配慮」とは、障害者が他の者との平等を基礎として全ての人権及び基本的自由を享有し、又は行使することを確保するための必要かつ適当な変更及び調整であって、特定の場合において必要とされるものであり、かつ、均衡を失した又は過度の負担を課さないものをいう。
「ユニバーサルデザイン」とは、調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計をいう。ユニバーサルデザインは、特定の障害者の集団のための補装具が必要な場合には、これを排除するものではない。

第四条 一般的義務(一部抜粋)
第二条に規定するユニバーサルデザインの製品、サービス、設備及び施設であって、障害者に特有のニーズを満たすために必要な調整が可能な限り最小限であり、かつ、当該ニーズを満たすために必要な費用が最小限であるべきものについての研究及び開発を実施し、又は促進すること。また、当該ユニバーサルデザインの製品、サービス、設備及び施設の利用可能性及び使用を促進すること。さらに、基準及び指針を作成するに当たっては、ユニバーサルデザインが当該基準及び指針に含まれることを促進すること。


上記にもある通り、ユニバーサルデザインとは「調整又は特別な設計を必要とすることなく、最大限可能な範囲で全ての人が使用することのできる製品、環境、計画及びサービスの設計」のことを言います。

この辺に関しては「公認心理師 2021-23」の中でも、教育におけるユニバーサルデザインの定義を示していますので、過去問と関連のある内容だと言えますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 障害者は、障害の程度に応じて居住する場所について制限される。

本選択肢は障害者の居住に関する内容ですね。

該当する箇所を抜き出してみましょう。


第十八条 移動の自由及び国籍についての権利(一部抜粋)
1 締約国は、障害者に対して次のことを確保すること等により、障害者が他の者との平等を基礎として移動の自由、居住の自由及び国籍についての権利を有することを認める。

第十九条 自立した生活及び地域社会への包容
この条約の締約国は、全ての障害者が他の者と平等の選択の機会をもって地域社会で生活する平等の権利を有することを認めるものとし、障害者が、この権利を完全に享受し、並びに地域社会に完全に包容され、及び参加することを容易にするための効果的かつ適当な措置をとる。この措置には、次のことを確保することによるものを含む。
(a)障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと。
(b)地域社会における生活及び地域社会への包容を支援し、並びに地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(個別の支援を含む。)を障害者が利用する機会を有すること。
(c)一般住民向けの地域社会サービス及び施設が、障害者にとって他の者との平等を基礎として利用可能であり、かつ、障害者のニーズに対応していること。

第二十二条 プライバシーの尊重
1 いかなる障害者も、居住地又は生活施設のいかんを問わず、そのプライバシー、家族、住居又は通信その他の形態の意思疎通に対して恣意的に又は不法に干渉されず、また、名誉及び信用を不法に攻撃されない。障害者は、このような干渉又は攻撃に対する法律の保護を受ける権利を有する。
2 締約国は、他の者との平等を基礎として、障害者の個人、健康及びリハビリテーションに関する情報に係るプライバシーを保護する。


上記の通り、障害者はその居住について「国が居住の自由を認める」「他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有する」「居住地の如何を問わず、プライバシーが尊重される」ということが明記されています。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 障害者権利条約を実施するための法令制定に障害者は積極的に関与する。

こちらは本条約に関する国の義務に関する内容ですね。

関連する箇所を抜き出してみましょう。


第四条 一般的義務(一部抜粋)
1 締約国は、障害に基づくいかなる差別もなしに、全ての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進することを約束する。このため、締約国は、次のことを約束する。
2 各締約国は、経済的、社会的及び文化的権利に関しては、これらの権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、また、必要な場合には国際協力の枠内で、措置をとることを約束する。ただし、この条約に定める義務であって、国際法に従って直ちに適用されるものに影響を及ぼすものではない。
3 締約国は、この条約を実施するための法令及び政策の作成及び実施において、並びに障害者に関する問題についての他の意思決定過程において、障害者(障害のある児童を含む。以下この3において同じ。)を代表する団体を通じ、障害者と緊密に協議し、及び障害者を積極的に関与させる。
4 この条約のいかなる規定も、締約国の法律又は締約国について効力を有する国際法に含まれる規定であって障害者の権利の実現に一層貢献するものに影響を及ぼすものではない。この条約のいずれかの締約国において法律、条約、規則又は慣習によって認められ、又は存する人権及び基本的自由については、この条約がそれらの権利若しくは自由を認めていないこと又はその認める範囲がより狭いことを理由として、それらの権利及び自由を制限し、又は侵してはならない。
5 この条約は、いかなる制限又は例外もなしに、連邦国家の全ての地域について適用する。


上記のように、この条約の締結国には法令及び政策の作成及び実施において障害者当人を積極的に関与させることが明記されています。

よって、選択肢③は適切と判断できます。

④ 暴力等を経験した障害者の心理的回復のために適当な措置をとることが国に求められる。

こちらは暴力からの自由に関する内容が問われています。

内容を抜粋していきましょう。


第十六条 搾取、暴力及び虐待からの自由
1 締約国は、家庭の内外におけるあらゆる形態の搾取、暴力及び虐待(性別に基づくものを含む。)から障害者を保護するための全ての適当な立法上、行政上、社会上、教育上その他の措置をとる。
2 また、締約国は、特に、障害者並びにその家族及び介護者に対する適当な形態の性別及び年齢に配慮した援助及び支援(搾取、暴力及び虐待の事案を防止し、認識し、及び報告する方法に関する情報及び教育を提供することによるものを含む。)を確保することにより、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待を防止するための全ての適当な措置をとる。締約国は、保護事業が年齢、性別及び障害に配慮したものであることを確保する。
3 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力及び虐待の発生を防止するため、障害者に役立つことを意図した全ての施設及び計画が独立した当局により効果的に監視されることを確保する。
4 締約国は、あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の被害者となる障害者の身体的、認知的及び心理的な回復、リハビリテーション並びに社会復帰を促進するための全ての適当な措置(保護事業の提供によるものを含む。)をとる。このような回復及び復帰は、障害者の健康、福祉、自尊心、尊厳及び自律を育成する環境において行われるものとし、性別及び年齢に応じたニーズを考慮に入れる。
5 締約国は、障害者に対する搾取、暴力及び虐待の事案が特定され、捜査され、及び適当な場合には訴追されることを確保するための効果的な法令及び政策(女子及び児童に重点を置いた法令及び政策を含む。)を策定する。


上記の通り、「あらゆる形態の搾取、暴力又は虐待の被害者となる障害者」について「認知的及び心理的な回復、リハビリテーション並びに社会復帰を促進するための全ての適当な措置をとる」ことが定められていますね。

よって、選択肢④が適切と判断できます。

⑤ 必要な支援を行うことを目的として、支援者は本人の了解なしに個人情報を取り扱うことができる。

本選択肢の内容について、直接的な言及は条約内に見られませんが、関連しそうな箇所を抜き出しておきましょう。


第五条 平等及び無差別
1 締約国は、全ての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保障する。
3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。
4 障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない。

第十二条 法律の前にひとしく認められる権利
1 締約国は、障害者が全ての場所において法律の前に人として認められる権利を有することを再確認する。
2 締約国は、障害者が生活のあらゆる側面において他の者との平等を基礎として法的能力を享有することを認める。
3 締約国は、障害者がその法的能力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとる。
4 締約国は、法的能力の行使に関連する全ての措置において、濫用を防止するための適当かつ効果的な保障を国際人権法に従って定めることを確保する。当該保障は、法的能力の行使に関連する措置が、障害者の権利、意思及び選好を尊重すること、利益相反を生じさせず、及び不当な影響を及ぼさないこと、障害者の状況に応じ、かつ、適合すること、可能な限り短い期間に適用されること並びに権限のある、独立の、かつ、公平な当局又は司法機関による定期的な審査の対象となることを確保するものとする。当該保障は、当該措置が障害者の権利及び利益に及ぼす影響の程度に応じたものとする。
5 締約国は、この条の規定に従うことを条件として、障害者が財産を所有し、又は相続し、自己の会計を管理し、及び銀行貸付け、抵当その他の形態の金融上の信用を利用する均等な機会を有することについての平等の権利を確保するための全ての適当かつ効果的な措置をとるものとし、障害者がその財産を恣意的に奪われないことを確保する。


この条約は障害者であろうがなかろうが、その人を一人の人間と捉えていくという当たり前のことを確認している内容と言えます。

ですから、考え方としては「障害者であろうがなかろうが、それはダメだろう」というものはダメなんです。

よって、いくら支援のためであっても「本人の了解なしに個人情報を取り扱う」のは、明らかにその人の権利を侵害する行為であると言えますね。

もちろん、個人情報保護法で定められている「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」という場合であれば、本人の同意を得ずに情報を得ることが可能ですが、本選択肢の内容はそれに合致しませんね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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