公認心理師 2022-118

障害者差別解消法に関する問題です。

この法律は、今まで合理的配慮の領域で引用されることが多かったので、この法律自体の問題というのは初めてかもしれないですね。

問118 障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の説明として、誤っているものを1つ選べ。
① 行政機関と事業者における障害を理由とする差別が禁止されている。
② 国と地方公共団体だけでなく、国民の責務についても定められている。
③ 判断能力が不十分な障害者に対する後見開始の審判について定められている。
④ 「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として制定されている。
⑤ 障害の有無によって分け隔てられることなく、共生社会の実現に資することを目的としている。

関連する過去問

なし

解答のポイント

障害者差別解消法の概要について把握している。

選択肢の解説

① 行政機関と事業者における障害を理由とする差別が禁止されている。
⑤ 障害の有無によって分け隔てられることなく、共生社会の実現に資することを目的としている。

こちらについては第1条の「目的」を見ていきましょう。


第一条(目的) この法律は、障害者基本法の基本的な理念にのっとり、全ての障害者が、障害者でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障される権利を有することを踏まえ、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本的な事項、行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定めることにより、障害を理由とする差別の解消を推進し、もって全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする。


上記に「行政機関等及び事業者における障害を理由とする差別を解消するための措置等を定める」とありますし、「障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的とする」とされていますね。

なお、行政機関等とは「国の行政機関、独立行政法人等、地方公共団体及び地方独立行政法人」のことを指します(同法第2条第3号)。

行政機関と事業者については、第6条~第8条に以下のように定められていますね。


第六条 政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する基本的な方向
二 行政機関等が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項
三 事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する基本的な事項
四 その他障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に関する重要事項

第七条(行政機関等における障害を理由とする差別の禁止) 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

第八条(事業者における障害を理由とする差別の禁止) 事業者は、その事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。
2 事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。


このように、本法は「行政機関と事業者における障害を理由とする差別が禁止されている」と考えて間違いないですね。

よって、選択肢①および選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

② 国と地方公共団体だけでなく、国民の責務についても定められている。

こちらについては本法第4条に規定があります。


第四条(国民の責務) 国民は、第一条に規定する社会を実現する上で障害を理由とする差別の解消が重要であることに鑑み、障害を理由とする差別の解消の推進に寄与するよう努めなければならない。


こちら以外に本法で「国民」について記載があるのは、選択肢①の第1条の他、第15条(国及び地方公共団体は、障害を理由とする差別の解消について国民の関心と理解を深めるとともに、特に、障害を理由とする差別の解消を妨げている諸要因の解消を図るため、必要な啓発活動を行うものとする)になりますね。

よって、選択肢②は正しいと判断でき、除外することになります。

③ 判断能力が不十分な障害者に対する後見開始の審判について定められている。

こちらは後見制度に関するものですから、障害者差別解消法ではなく民法で定められているものになりますね。

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な場合、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。

また自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。

このような判断能力の不十分な人たちを保護し、支援するのが成年後見制度です。

法定後見制度は「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。

法定後見制度においては、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって本人を保護・支援します。

後見はほとんど判断出来ない人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護するという形になっています。

保佐人は、判断能力が著しく不十分な人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。

簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。

補助は、判断能力が不十分な人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。

大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。

民法第7条によると、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができるとされています。

ちなみに、市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされています(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健福祉法51条の11の2)。

なお、平成25年5月、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律が成立、公布されました(平成25年6月30日施行)。

これにより、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙について、成年被後見人の方は、選挙権・被選挙権を有することとなります。

また、この改正では、併せて、選挙の公正な実施を確保するため、代理投票において選挙人の投票を補助すべき者は、投票に係る事務に従事する者に限定されるとともに、病院、老人ホーム等における不在者投票について、外部立会人を立ち会わせること等の不在者投票の公正な実施確保の努力義務規定が設けられました。

こちらに「成年後見制度の利用を促進する旨の規定」がまとめられております。

以上のように、障害者に対する後見開始の審判については、障害者差別解消法ではなく民法に定められています。

よって、選択肢③が誤りと判断でき、こちらを選択することになります。

④ 「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として制定されている。

本選択肢は障害者差別解消法の中の規定ではなく、この法律が制定した経緯に関する設問となりますね。

こちらについては内閣府の「障害を理由とする差別の解消の推進」のページに以下のように記載があります。


国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として、平成25年6月、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(いわゆる「障害者差別解消法」)が制定され、平成28年4月1日から施行されました。

令和3年5月、同法は改正されました(令和3年法律第56号)。改正法は、公布の日(令和3年6月4日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から施行されます。


上記の通り、「国連の「障害者の権利に関する条約」の締結に向けた国内法制度の整備の一環として」制定されていることがわかりますね。

障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享有を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利の実現のための措置等について定める条約です。

この条約の主な内容としては、①一般原則(障害者の尊厳,自律及び自立の尊重、無差別、社会への完全かつ効果的な参加及び包容等)、②一般的義務(合理的配慮の実施を怠ることを含め、障害に基づくいかなる差別もなしに、すべての障害者のあらゆる人権及び基本的自由を完全に実現することを確保し、及び促進すること等)、③障害者の権利実現のための措置(身体の自由、拷問の禁止、表現の自由等の自由権的権利及び教育、労働等の社会権的権利について締約国がとるべき措置等を規定。社会権的権利の実現については漸進的に達成することを許容)、④条約の実施のための仕組み(条約の実施及び監視のための国内の枠組みの設置。障害者の権利に関する委員会における各締約国からの報告の検討)となっています。

障害者権利条約に関しては、外務省のこちらのページにまとまっていますね。

以上より、障害者差別解消法は障害者権利条約の締結に向けた国内法制度の整備の一環として、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を推進することを目的として制定されました。

よって、選択肢④は正しいと判断でき、除外することになります。

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