公認心理師 2021-55

日本における子どもの貧困問題に関する問題です。

ここ数年の政策等をずっと私は見ていますが、どうやらこの国の舵取りをする人たちは、子どもの貧困問題を改善する気がないのだろうと思います。

問55 我が国における子どもの貧困問題について、適切なものを2つ選べ。
① 学力達成や教育機会に対する影響は小さい。
② 貧困と児童虐待の発生には、関連がみられる。
③ 子どもの貧困と関連する問題は、顕在化しやすい。
④ 貧困状態にある母子世帯の8割以上が、生活保護を受給している。
⑤ 生活保護を受給する家庭で育った子どもは、出身世帯から独立した後も生活保護を受給する割合が高い。

解答のポイント

日本の子どもの貧困に関する概要を理解している。

選択肢の解説

ここではまず貧困の定義について述べていきましょう。

日本には、政府による公式な貧困基準が存在せず、当然、公式な統計による貧困率も計算されていません(このことにそもそもの問題を感じますね)。

ここではOECD(経済協力開発機構:ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関)などで一般的に使われている子どもの貧困の定義から始めましょう。

OECDやEUなどの国際機関で先進諸国の貧困を議論する時に使われる貧困基準も、日本の生活保護法によって決められている生活保護基準も、「相対的貧困」という概念に基づいて設定されています。

相対的貧困とは、人々がある社会の中で生活するためには、その社会の「通常」の生活レベルから一定距離以内の生活レベルが必要であるという考え方に基づきます。

つまり、人として社会に認められる最低限の生活基準は、その社会における「通常」から、それほど離れていないことが必要であり、それ以下の生活を「貧困」と定義しているわけです。

OECDで用いられているのは、手取りの世帯所得(収入から税や社会保険料を差し引いて、年金やそのほかの社会保障給付を加えた額)を世帯人数で調整し、その中央値の50%ラインを貧困基準とする方法です(50%というのは絶対的なものではないので、40%や60%を用いる場合もある。実際にEUは貧困基準の一つに60%を用いている)。

この基準を用いると、親子2人世帯の場合は月額およそ14万円以下(公的給付含む)の所得しかないことになります。

上記はOECDが示している日本の貧困率ですが、この貧困率は世界の中、そして先進国の中でも高いこと明らかになっています。

こうした貧困率は子どもの貧困にも強い影響を及ぼしており、これまでは貧困になりやすかったのは高齢者でしたが、近年になって子どもの貧困率が上昇してきております。

この間、高齢者の貧困率が横ばいであることを踏まえれば、社会保障制度からの給付が高齢者に偏っていることがわかりますね。

こうした現状を踏まえ、各選択肢の解説に入っていきましょう。

なお、本問では以下の書籍を参考にしつつ解説しています。

① 学力達成や教育機会に対する影響は小さい。

貧困のもっとも大きな影響の一つとして学力があります。

国際的な学力調査では、親の学歴と職業×子どもの学力の関係が示されており、その結果、化学も読解力も数学も、父母の学歴が高いほどに高くなっています(そして、その差は拡大傾向にある)。

これはOECDが行う「学力到達度調査:PISA調査」の結果ですが、こちらでは親の社会的経済階層によって子どもの学力の平均点が大きく異なることが示されています。

このことを踏まえ、実際の子どもの学歴をみていきましょう。

貧困研究で著名な岩田正美先生は、低学歴という「不利」が、貧困者の中でも特に深刻な問題を抱えている層と密接に結びついていることを様々なデータを以て示しました。

ホームレスの調査では、学歴は「義務教育まで」が約6割であり、その後の厚労省の調査でも、中学校卒が54.5%、高卒が31.5%、短大・専門学校卒が2.9%、大卒が5.6%とされています。

ホームレスの人たちの平均年齢は50歳代なので時代背景はあるものの、それでも中卒者が半数以上というのは多いと言えます。

また若年女性においては、貧困経験と学歴との「関連はきわめて明瞭」という調査結果が出ており、結婚等で生活環境が変わりやすいと思われていた女性であっても学歴とその後の貧困経験が密接に関係していました。

上記はごく一部ですが、貧困世帯の子どもに低学歴が集中していることは明らかであると言えます。

こうした貧困家庭への低学力の集中は、単に、高校や大学の授業料が払えないという問題だけではない(それはそれでかなり問題だけど。特に大学の授業料はここ30年で跳ね上がっている。奨学金という名の「借金」を社会人1年生のころから背負わされることになるのは非常に苦しいことだと思う)。

貧困は子どもたちの間に様々な格差を生むことが指摘されており、いくつかの書籍においては「努力」「意欲」「希望」などの意識の格差が指摘されています。

「努力の格差」は、高校生が帰宅後にどれだけ学習するかを調べた研究で想定されており、学習時間は親の社会階層が高いほど長く、階層による学習時間の格差は拡大しています。

この傾向は父親の社会階層でも見て取れますが、母親の学歴でより顕著です。

「意欲の格差」は、「落第しない程度の成績をとっていればいいと思う」と回答した生徒の割合で見ており、この回答はどの層でも上昇しているものの、社会階層が下位とされた生徒の半数以上が「落第しなければよい」と考えており、上位の生徒の約3割を大きく上回っています。

この背景にあるのは興味の少なさであり、「授業がきっかけとなって、更に詳しいことを知りたくなることがある」に同意した生徒が、社会階層が低いほど少ないという結果になっています。

「希望の格差」としては、社会階層の低い子どもたちは「誰でもがんばれば」という考えから「頑張っても仕方ない」になりつつあることが指摘されおり、しかもその傾向は拡大して言っています。

この調査では、「希望」を「苦労に耐える力」として、この力が衰退している中で若者が実現不可能な夢を見てフリーターやパラサイト・シングルを生み出しているとしています。

このように、子どもの貧困は学力や教育機会の著しい減少につながっていることがわかります。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 貧困と児童虐待の発生には、関連がみられる。

欧米における子どもの貧困研究で旅重ねて指摘されるのは、児童虐待と家庭の経済環境の関係です。

上記の書籍では、児童虐待と貧困の間には統計調査で裏付けられる相関関係があるとして4つの調査結果を挙げています。

2002年度の調査では、児童虐待として保護された501件のケースの家庭の状況を分析した結果、「生活保護世帯」が19.4%、「市町村民税非課税」「所得税非課税」世帯が併せて26%でした。

合わせると半数近くになり、低所得の世帯に児童虐待事例が偏っていることがわかります。

世帯タイプ別では、母子世帯が30.5%、父子世帯が5.8%、母子と内縁の夫世帯が9.9%と、ここでもひとり親世帯の割合が多いことがわかります。

また2003年の調査では、東京都内の児童相談所が受理して児童虐待として対応した約1700件の事例の保護者の就労状況は、実父が定職についているのは55.5%に過ぎず、無職が17.6%と多くなっています。

何らかの職がある実父は67.7%であり、東京と全体の81.6%に比べると14%低くなっています。

ひとり親世帯が多い上に、ふたり親世帯であっても、父親の職が安定的ではない割合が高いことがわかります。

また、児童虐待につながった家庭の状況についてでは、一番多い回答は「ひとり親家庭」と「経済的困難」であり、「育児疲れ」がある場合でも「経済的困難」が複合的な状況で挙げられています。

日本においては、貧困と虐待との関連は積極的に議論されてきませんでしたが、その背景には「貧困=虐待」というイメージを固定させてしまうような差別を避けたいという配慮もあったと考えられます。

しかし、虐待を発生させるような家庭の経済状況を取り上げてこなかったことにより、虐待を防止するために必要な手段が講じられてこなかったとも言えます。

全国児童相談研究会では、児童虐待防止のためには「児童虐待対策そのものの充実に合わせ、貧困対策・労働対策など広く国民生活全般を支援する」必要があると提言しています。

以上のように、貧困と児童虐待とは密接な関連があると考えられます。

よって、選択肢②は適切と判断できます。

③ 子どもの貧困と関連する問題は、顕在化しやすい。

こちらはまず世間の貧困に対するイメージがあろうかと思います。

先述のように、一般に貧困を「相対的貧困」という、「必要」の水準や内容は、その社会で広く受け入れられている生活習慣や文化との関係で社会的に決まるという考え方で捉えていきます。

しかし、貧困のイメージとして、飲み食いにも困るといった感じを持っている人がおり、これは「絶対的貧困」という生命を維持するに足る必要栄養量を基礎とし、それが欠けている状態のことです。

つまり、貧困に対するイメージを「絶対的貧困」に置いていると、当然ながらそれよりはゆとりのある「相対的貧困」を貧困と認識しなくなるでしょう(つまり、目には入っているけど、見えない状態となる。顕在化しなくなるとも言い換えてよいでしょう)。

まずは、この貧困のイメージを多くの人が「相対的貧困」に合わせていくことが大切だろうと思います。

また、清貧という表現にあるように「つつましく生きる」が貧困のイメージとして強い場合、貧困者がスマホを持っている、服を買っている、嗜好品を得ている、などがイコール貧困ではないとなってしまいがちです。

ですが、実際にはスマホがないと仕事のシフトが組めない、連絡が取れない等の問題も多く発生しますし、生きていくためには欠かせないものに現代社会ではなりつつあります。

これも貧困のイメージを「絶対的貧困」に置いていることの問題と言ってよいでしょうね。

こうした視点は、貧困に陥っている当人たちが有していることが少なくないため、自らを貧困状態と見なしていない場合や、貧困であることを表に出そうとしない場合もあり、これも貧困が見えにくい要因の一つと言えるでしょう。

また、他の選択肢でもありますように、貧困は様々な問題の根っこにある事態ですが、それ故に多くの問題に隠れて見えなくなるということもあります。

ひとり親世帯、外国人家族、家庭内暴力や虐待、健康問題、ドロップアウトや不登校、予期せぬ妊娠・若年出産・未受診妊婦、という個別の問題の方がクローズアップされ、貧困問題としては扱われなくなるということです。

さらに、貧困問題は物理的な面だけでなく、心理面にも多大な影響を及ぼすことがわかっています。

孤立感や疎外感の高さが有意であることが示されており、こうした心理的な問題も「顕在化しづらい」という意味では同じだろうと思います。

以上より、子どもの貧困やそれと関連する問題は、社会認知等の問題によって顕在化しづらいと言えます。

よって、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 貧困状態にある母子世帯の8割以上が、生活保護を受給してる。

生活保護制度は、憲法第25条に定められた「健康で文化的な生活」をすべての国民に保証するための制度です。

日本の生活保護制度は、受給資格がその世帯の困窮の度合いのみによって判断され、家族タイプや障害の有無、困窮に至った要因によって差別されない極めて包括的なセーフティネットです。

困窮の度合いは、その世帯の所得が政府が定める最低生活費を下回っているかどうかによって判断され、下回っている場合は、その差額が支給されます。

生活保護制度は子どもがいる世帯も対象になりますが、その運用は非常に厳しく、貯蓄や財産はひと月の生活費の半分以下、頼れる親や親せきがいない、稼働能力(働く能力)もない、と判断されない限りは、ほとんど保護の対象にはなりません。

特に稼働能力の要件は、勤労世代の親には厳しいものがあります。

日本では長く「働ければ生活保護基準以上の生活ができるだけの収入が得られる」という判断があり、保護の対象になるには医療機関から「就労は不可能」と診断書をもらわない限り難しいのが普通です。

そのため、子どもの保護率(全子どもの中で生活保護を受けている子どもの割合)は非常に低く、約1%に過ぎません。

2005年においては、0歳から5歳の子どもの保護率は0.7%、6歳から19歳の子どもの保護率は1.1%でした。

これらの数値は、推定される貧困率(約15%:上記のOECDの基準を参考に)と比べると、保護率はその1/10にも満たないことがわかります。

母子世帯に限ってみると、世帯保護率(母子世帯の中で生活保護を受けている世帯の割合)は、7%と推計されています。

すなわち、子どもの貧困に対して、生活保護制度は限定的な役割しか果たしていないことがわかります。

制度的には、最低生活費までの所得が保証されるはずであるが、実際にその恩恵を受けているのはごく一部の世帯だけと言えますね。

この背景には、国による所得再分配(税制度や社会保障制度のこと)がうまくいっていないことも一因でしょう。

OECDの調査によると、日本は唯一、再分配後の所得の貧困率の方が、再分配所得前の貧困率よりも高いことが明らかになっており、言い換えれば、社会保障制度や税制度によって子どもの貧困率は悪化しているということになります。

税金等は「ここで持っていかれるけど、将来もらえたり、社会サービスの中で返ってくるから」という面があったはずですが、どうやらそれは日本においては正しい認識ではないということですね。

かつて報道等で生活保護世帯が無駄遣いをしているなどがありましたが、日本の母子世帯は生活保護にかかっていても「福祉依存」と呼ばれる状態になっていないのは統計上明白です。

生活保護を「みじめ」「みっともない」と思わせるような情報が出され、そのことによってサポートされない人が出てくるのはこの国の大きな問題だと個人的には考えています(小田原市が不適切なジャンパーを作った事件などもありましたね)。

以上のように、日本において貧困状態にある母子世帯の生活保護率は非常に低いと言えます。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ 生活保護を受給する家庭で育った子どもは、出身世帯から独立した後も生活保護を受給する割合が高い。

こちらは貧困の連鎖に関するものですね。

貧困世帯に育つ子どもが、学力、健康、家庭環境、非行、虐待など様々な側面で、貧困でない世帯に育つ子どもに比べて不利な立場にあることが示されています。

こちらは「現在の経済状況」と「現在の子どもの状況」をかけ合わせてみたものであるが、実際には子ども期に貧困であることの不利は、子ども期だけに納まるものではありません。

この不利は、子どもが成長し大人になってからも持続し、一生、その子に付きまとう可能性が極めて高いことが明らかになっています。

上記を指摘した有名なものが、大阪市堺市の生活保護を受給している世帯の「貧困の連鎖」です。

生活保護を受けている3924世帯を調べた結果、うち25%が親の世代においても生活保護を受給していました。

これが母子世帯に限ってみると、この数字は41%まで跳ね上がります。

こうした連鎖は貧困そのものに限らず、親の学歴と子どもの学歴の継承という形でも見られ、また、職業階層の継承という形でも見られます。

こうした学歴や職業階層の連鎖が、貧困の連鎖とも大きく関わっていることは想像に難くありません。

また、生活保護を受けている19の母子世帯に対するインタビュー研究では、「不利の蓄積」が記録されています。

こちらでは19世帯のうち14世帯は実家が不安定職業であり、12世帯が経済的困難を経験しており(うち、生活保護経験は3世帯)、半数以上が親の離婚や父親の死亡を経験しています。

さらに古いデータではありますが、1976年に生活保護を受けている中高年単身者63名への調査では、未成年時の過程において貧困であったのは44%、父の死亡を経験したのは21%、母の死亡を経験したのは24%、長い間病人がいたのが27%であったと報告されています。

このように、生活保護世帯は、親の世代からの「不利」を引き継いでいることが数多く示されています。

よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

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