公認心理師 2021-134

社会的養護における永続性(パーマネンシー)に関する問題です。

明らかに外せそうな選択肢があるのは良いですけど、きちんとした認識をもって解答を導くのはなかなか大変な問題です。

問134 社会的養護における永続性(パーマネンシー)について、正しいものを2つ選べ。
① 里親委託によって最も有効に保障される。
② 選択最適化補償理論に含まれる概念である。
③ 対象がたとえ見えなくなっても、存在し続けるという認識である。
④ 国際連合の「児童の代替的養護に関する指針」における目標である。
⑤ 子どもの出自を知る権利を保障できる記録の永年保存が求められる。

解答のポイント

社会的養護における永続性(パーマネンシー)にまつわる資料を把握している。

選択肢の解説

① 里親委託によって最も有効に保障される。

まず、社会的養護とは、保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で社会的に養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行うことです。

社会的養護は、次の3つの機能を持ちます。

  • 養育機能:家庭での適切な養育を受けられない子どもを養育する機能であり、社会的養護を必要とするすべての子どもに保障されるべきもの。
  • 心理的ケア等の機能:虐待等の様々な背景の下で、適切な養育が受けられなかったこと等により生じる発達のゆがみや心の傷(心の成長の阻害と心理的不調等)を癒し、回復させ、適切な発達を図る機能。
  • 地域支援等の機能:親子関係の再構築等の家庭環境の調整、地域における子どもの養育と保護者への支援、自立支援、施設退所後の相談支援(アフターケア)などの機能

社会的養護は大きく分けて「施設養護(乳児院、児童養護施設、児童自立支援施設、児童心理治療施設など)で子どもを養育する方法)」と「家庭養護(里親などの、親と子どもに近い関係性の中で、家庭環境を重視し、子どもの養育を行う方法)」があります。

本問は、こうした里親委託と「社会的養護における永続性」という概念との関連性について問うているわけですね。

厚生労働省の「「新しい社会的養育ビジョン」について(概要)」によると、「平成28年児童福祉法改正では、子どもが権利の主体であることを明確にし、家庭への養育支援から代替養育までの社会的養育の充実とともに、家庭養育優先の理念を規定し、実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にした」とあります。

上記の資料における「永続的解決(パーマネンシー保障)としての特別養子縁組の推進」の項目では、以下のように記されております。

  • 永続的解決としての特別養子縁組は有力、有効な選択肢として考えるべき。
  • 特別養子縁組に関する法制度改革(年齢要件の引き上げ、手続きを二段階化し児童相談所長に申立権を付与、実親の同意撤回の制限)を速やかに進め、新たな制度の下で、児童相談所と民間機関が連携した強固な養親・養子支援体制を構築し、養親希望者を増加させる。
  • 概ね5年以内に、現状の約2倍の年間1000人以上の特別養子縁組成立を目指し、その後も増加を図る。

このように、永続的解決(パーマネンシー保証)という枠組みで語られるのは、里親ではなく特別養子縁組であることがわかりますね。

ここで一応、里親委託と特別養子縁組の違いを理解しておきましょう。

日本財団のHPより(https://www.nippon-foundation.or.jp/what/projects/nf-kodomokatei/infographics)

「里親制度」は、育てられない親の代わりに一時的に家庭内で子どもを預かって養育する制度で、里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者となります。

里親には、里親手当てや養育費が自治体から支給されます。

「養子縁組」は民法に基づいて法的な親子関係を成立させる制度であり、養親が子の親権者となります。

養子縁組が成立した家庭には、自治体などからの金銭的な支援はありません。

また、養子縁組にも2種類あり、普通養子縁組は跡取りなど成人にも広く使われる制度ですが、特別養子縁組は特に保護を必要としている子どもが、実子に近い安定した家庭を得るための制度です。

特別養子縁組では、生みの親との親子関係が消滅し、育ての親が親権を持つ、すなわち法的に親と位置づけられるということになるわけですね。

この関係は一生続く(離縁は原則不可能)ことになりますから、永続性(パーマネンシー)と表現されるわけです。

里親だと、生みの親が法的にも親であり、里親との関係は18歳までとなりますから、期間限定の仕組みということになりますね。

以上のように、社会的養護における永続性が保証されるのは、里親委託ではなく特別養子縁組です。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② 選択最適化補償理論に含まれる概念である。

この理論に関しては「公認心理師 2019-71」で説明していますね(ブループリントには「補償を伴う選択的最適化」と記載されている概念です)。

選択最適化補償理論(補償を伴う選択的最適化理論)はSOC理論と呼ばれ、Baltesが提唱した高齢期の自己制御方略に関する理論です。

この理論では、加齢に伴う喪失に対する適応的発達のあり方として、獲得を最大化し、喪失を最小化するために自己の資源を最適化すると主張されています。

すなわち、若い頃よりも狭い領域を探索し、特定の目標に絞る(選択)、機能低下を補う手段や方法を獲得して喪失を補う(補償)、そして、その狭い領域や特定の目標に最適な方略を取り、適応の機会を増やす(最適化)とされています。

具体的には以下の通りです。

  • 喪失に基づく目標の選択(Loss-based Selection):若い頃には可能であったことが上手くできなくなったときに、若い頃よりも目標を下げる行為を指す。
    例:ボーリングで120取れていたけど、80を目標にしよう!
  • 資源の最適化(Optimization):選んだ目標に対して、自分の持っている時間や身体的能力といった資源を効率よく割り振ることを指します。
    例:週に3回はボーリングに行っていたけど、週に1回に減らそう。
  • 補償(Compensation):他者からの助けを利用したり、これまで使っていなかった補助的な機器や技術を利用したりすることを指します。
    例:自分でボーリングに行っていたけど、息子に送ってもらおう。

上記の頭文字を取って「SOC理論」とされています。

この理論は心理学的なサクセスフル・エイジングを説明する理論であり、目標を最適化した上で、喪失した能力などを見極め、それを補う方策を講じながら生きることで、幸福な高齢期が実現するという考え方ですね。

そもそも高齢者に関する理論ですし、社会的養護における永続性とは関連性が感じられないですね。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

③ 対象がたとえ見えなくなっても、存在し続けるという認識である。

本選択肢の内容は「対象の永続性」という概念のことですね。

こちらについては「公認心理師 2019-128」で詳しく述べていますね。

対象(物)が見えなくなっても、その対象が存在し続けるという概念並びにその認識能力のことで、表象の発達と関連があります。

ピアジェによると、感覚運動期を通じて発達するものとされています。

9か月未満の乳児は、物が見えなくなると、その物がなくなったかのような様子を示すが、1歳を過ぎると、探し出すことができることが明らかになっています。

近年では、赤ちゃんの注視に注目した実験方法(馴化‐脱馴化法など)が洗練されるにつれ、6か月児でも対象の永続性を認識できる様子が明らかになっています。

本選択肢は、字面として「永続性」という表現が含まれているので、おそらく本問の選択肢として入ってきたものと思われます。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 国際連合の「児童の代替的養護に関する指針」における目標である。

こちらについては「児童の代替的養護に関する指針」を参照にしつつ解説していきましょう。

この指針は、児童の権利に関する条約、並びに親による養護を奪われ又は奪われる危険にさらされている児童の保護及び福祉に関するその他の国際文書の関連規定の実施を強化することを
目的としています。

以下に本選択肢の解説と係る部分を抜き出しましょう。


これらの国際文書を背景として、この分野における知識及び経験が発展しつつあることを考慮した上で、本指針は政策及び実践の望ましい方向性を定める。本指針は代替的養護に直接的又は間接的に関わる全ての部門に幅広く普及させることを目的とし、特に以下の事柄を狙いとす
る。

(a)児童が家族の養護を受け続けられるようにするための活動、又は児童を家族の養護のもとに戻すための活動を支援し、それに失敗した場合は、養子縁組やイスラム法におけるカファーラなどの適当な永続的解決策を探ること。

(b) かかる永続的解決策を模索する過程で、又はかかる永続的解決策が実現不能であり若しくは児童の最善の利益に沿っていない場合、児童の完全かつ調和のとれた発育を促進するという条件の下、最も適切な形式の代替的養護を特定し提供するよう保障すること。

(c)各国を支配している経済的、社会的及び文化的状況を念頭に置きつつ、これらの点における責任及び義務を政府がより良く実施することを支援し促進すること。

(d)市民社会を含む公共部門・民間部門の双方で社会的保護及び児童福祉に携わる全ての者の方針、決定及び活動の指針となること。


つまり、この指針は「代替的養護に直接的又は間接的に関わる全ての部門に幅広く普及させることを目的」としているわけで、特に狙いとしていることの一つとして太字部分の「永続的解決を探ること」とありますね。

また、上記の指針の「一般的原則」の中の「代替的養護」の項目にも、「非公式の養護を含め、代替的養護を受けている児童に関する決定は、安定した家庭を児童に保障すること、及び養護者に対する安全かつ継続的な愛着心という児童の基本的なニーズを満たすことの重要性を十分に尊重すべきであり、一般的に永続性が主要な目標となる」とありますね。

これが、本問の社会的養護における永続性と絡む箇所になるわけです。

このように、国際連合の「児童の代替的養護に関する指針」における目標として、社会的養護における永続性は挙げられていることがわかります。

よって、選択肢④は正しいと判断できます。

⑤ 子どもの出自を知る権利を保障できる記録の永年保存が求められる。

子どもの出自を知る権利は、出自を知る権利とは「自分がどのようにして生まれたのか」そして「自分の遺伝的ルーツはどこにあるのか」を知る権利のことを指します。

人工授精や体外受精などの生殖補助医療が著しい進歩を遂げたことで、精子や卵子を第三者から提供された場合や、代理出産によって子をもうけたりした場合に、遺伝上の親はだれかという事実を、生まれてきた本人に対して知らせるべきかどうかという倫理的問題が生じます。

たとえば、非配偶者間人工授精(AID)は、無精子症などの男性不妊が原因で子のできない夫婦が、第三者から精子の提供を受けて子供をもうける手段であり、この方法によれば、不妊夫婦のみならずシングルマザーとして子供を希望する人や、同性カップルなどにも妊娠の可能性が生まれます。

その一方で、現状では精子提供者(ドナー)は匿名が条件となっており、提供者をはじめ施術を担当した医療関係者によって、提供者がだれであるかが知らされることはありません。

また、代理出産の場合には、卵子提供者ではなく、出産した女性が母親として認められて戸籍に登録されるため、法律上の両親などによる積極的開示がなければ、子供が自分の遺伝上の親を知る手段はありません。

先進国においても、親が子にその出自について開示する比率は低いレベルにとどまっていますが、親の遺伝情報を知らされないために子の健康が侵害されたり、近親婚の可能性を確認できないなどの問題が発生することも否定できません。

こうした中で、ヨーロッパなどでは、ドナーの住所や氏名などの情報にまでアクセスできる権利を認める国も増えてきており、日本でも出自を知る権利の法制化が検討されています(厚生労働省の「出自を知る権利について(案)」もご参照ください)。

さて、社会的養護における永続性との関係で言うと、厚生労働省の「新しい社会的養育ビジョン」で示されています。

こちらの資料は以下のようなものになります。


虐待を受けた子どもや、何らかの事情により実の親が育てられない子どもを含め、全ての子どもの育ちを保障する観点から、平成28年児童福祉法改正では、子どもが権利の主体であることを明確にし、家庭への養育支援から代替養育までの社会的養育の充実とともに、家庭養育優先の理念を規定し、実親による養育が困難であれば、特別養子縁組による永続的解決(パーマネンシー保障)や里親による養育を推進することを明確にした。これは、国会において全会一致で可決されたものであり、我が国の社会的養育の歴史上、画期的なことである。

本報告書は、この改正法の理念を具体化するため、「社会的養護の課題と将来像」(平成 23 年7月)を全面的に見直し、「新しい社会的養育ビジョン」とそこに至る工程を示すものである。新たなビジョン策定に向けた議論では、在宅での支援から代替養育、養子縁組と、社会的養育分野の課題と改革の具体的な方向性を網羅する形となったが、これらの改革項目のすべてが緊密に繋がっているものであり、一体的かつ全体として改革を進めなければ、我が国の社会的養育が生まれ変わることはない。

このビジョンの骨格は次のとおりであり、各項目は、工程に基づいて着実に推進されなければならない。


このように、本資料は社会的養護における永続性を前提としたものですが、この中に「子どもの出自を知る権利」についても記されています。

関連しそうなところを抜き出すと以下の通りです。


「子どもの権利保障のための児童相談所の在り方」

10)記録の保存
児童相談所に係った子どもが自分の過去を知りたいときに知ることができるのは子どもの権利である。従って、少なくとも代替養育(一時保護を含む)が行われた子どもに関しては、永年保存を行うべきである。

「特別養子縁組を含む養子縁組成立前後の養親や子どもに対する支援」

(1)子どもの出自を知る権利
子どもの出自を知る権利の保障については、断片的な事実情報ではなく、子どもの年齢に応じた方法で幼少期からのストーリーとして伝える必要があり、これが子どものアイデンティティや自尊感情など、生きていく上での土台を形成することになる。実親との生物学的な親子関係は残るが、子どもはそのことを知り、場合によっては実親との交流を継続することが子どもの権利であるという考え方もある。
ストーリーの情報源は、児童相談所や民間養子縁組機関の記録、裁判所の審判書や調査官の記録、実親の手紙や手記、戸籍等があるが、例えば、児童相談所及び民間養子縁組機関における記録保存の年限が「永年」とされているのは児童相談所の 6 割、民間養子縁組機関の 8 割に留まること、直系卑属として記載がないと戸籍を閲覧請求できないこと、裁判所資料の保存が有期であることなど保存等の在り方が課題として指摘されてきた。また、民間養子縁組機関が廃業した場合の記録保存にも課題があることから、記録の一元的管理が必要である。
思春期以降、養親との関係がこじれ、養親から養子であることを突然告げられ、戸籍情報などに養子がアクセスするケースもある。子どもが自らの出自を知ることによる利益と実親の知らされないことによる利益とをどのように調整すべきか、さらに検討が必要である。

6)永続的解決(パーマネンシ―保障)

  • 永続的解決に向けたソーシャルワークの在り方を児童相談所運営指針に明示。都道府県別の家庭復帰率と養子縁組の状況、代替養育期間を公表【国】(平成 29 年度)
  • 児童相談所において、パーマネンシー保障のための家庭復帰計画、それが困難な時の養子縁組推進を図るソーシャルワークを行える十分な人材の確保を概ね 5 年以内に実現する。【都道府県】
  • 特別養子縁組制度の改革(年齢要件の見直し、申し立て手続きなど)【国】(平成 29 年度)
  • 養子縁組成立前後の養親・養子・実親支援に関するガイドラインを策定【国】(平成 30年度)
  • 養親希望者の増加を図り、養親希望者への研修や縁組前後の支援の構築を含めた、社会的養護からの養子縁組推進計画※を策定【都道府県】(平成 30 年度に計画立案)
    ※概ね 5 年以内に現在の養子縁組数の倍増を図る計画
  • 養子縁組の必要数を毎年推計するとともに、概ね 5 年以内に養子縁組数 1000 人を達成するよう施策を進める【国】
  • 養親・養子に関する情報の一元化、養親候補者や子どもの情報を広域的にマッチングできるシステムの構築、児童相談所及び民間養子縁組あっせん機関で共通した養子縁組前委託費の創設など養親候補者の経済的負担の軽減、児童相談所及び民間養子縁組あっせん機関間連携の構築【国】(必要な財源を確保し、できるだけ早期に実現)
  • 子どもの出自を知る権利を保障できる記録の永年保存を確実に行う制度を構築【国】(平成 30 年度)

上記からもわかる通り、永続的解決(パーマネンシー保障)の中に「子どもの出自を知る権利を保障できる記録の永年保存を確実に行う制度を構築【国】(平成 30 年度)」とありますね。

以上より、選択肢⑤は正しいと判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です