公認心理師 2020-42

 高齢者虐待防止法に関する問題です。

そこまで難しい内容ではありませんが、細かいところで迷いが生じるかもしれません。

その迷いが本番では普段ならしないミスを誘いますから、確かな知識をもって解くことができるようにしておきましょう。

問42 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律〈高齢者虐待防止法〉について、誤っているものを1つ選べ。

① 市町村は、高齢者を虐待した養護者に対する相談、指導及び助言を行う。

② 養護者又は親族が高齢者の財産を不当に処分することは虐待に該当する。

③ 国民には、高齢者虐待の防止や養護者に対する支援のための施策に協力する責務がある。

④ 警察署長は、高齢者の身体の安全の確保に万全を期すために、市町村長に援助を求めなければならない。

⑤ 身体に重大な危険が生じている高齢者虐待を発見した者は、速やかに、そのことを市町村に通報しなければならない。

解答のポイント

高齢者虐待防止法の内容を把握していること。

選択肢の解説

① 市町村は、高齢者を虐待した養護者に対する相談、指導及び助言を行う。

こちらは高齢者虐待防止法第6条の「相談、指導及び助言」の内容であると考えられます。

市町村は、養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため、高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行うものとする。

重要なのは、この条項の内容を正しく認識しているか否かです。

「養護者による高齢者虐待の防止及び養護者による高齢者虐待を受けた高齢者の保護のため」とあり、この前半部分は「防止」のためですから、虐待が起こる前の段階を指しています。

これに対して、後半部分には「養護者による高齢者虐待を受けた高齢者」とありますから、虐待が起こってしまった後の状況を指していると見なすのが自然ですね。

そして、「高齢者及び養護者に対して、相談、指導及び助言を行う」と続き、この主語部分は「虐待をされた高齢者や虐待をした養護者に対して」と読み替えることができます。

このように本選択肢の内容は高齢者虐待防止法第6条のことを指していると言えます。

本法では加害者支援も含んでいるということですね。

以上より、選択肢①は正しいと判断でき、除外することになります。

② 養護者又は親族が高齢者の財産を不当に処分することは虐待に該当する。

高齢者虐待防止法第2条第4項に以下の通り規定があります。

この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。

一 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為。

イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。

ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。

二 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。

いわゆる、身体的虐待、ネグレクト、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待と呼ばれているものが本法では上記のように規定されています。

ポイントになりそうなのが、経済的虐待だけ「親族」が入っていることかもしれません。

他の虐待種は養護者や養介護施設従事者が加害者になることを想定されているのに対し、経済的虐待に関しては加害者の幅を持たせているということです。

確かに、経済的虐待以外は高齢者に関わる人物が起こしやすいと思いますが、お金が絡むと遠くの人間関係も含めて考える必要が出てくるのだろうと何となく理解できますね。

この辺の知識が曖昧だと「親族が入っているのは間違いでは…」となってしまう恐れもあるので、しっかりと把握しておきましょう。

以上より、選択肢②は正しいと判断でき、除外することになります。

③ 国民には、高齢者虐待の防止や養護者に対する支援のための施策に協力する責務がある。

高齢者虐待防止法第4条には、以下のように国民の責務が定められています。

国民は、高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等の重要性に関する理解を深めるとともに、国又は地方公共団体が講ずる高齢者虐待の防止、養護者に対する支援等のための施策に協力するよう努めなければならない。

この内容は、本選択肢のそれと合致していると言えますね。

この選択肢で迷うことがあるとするならば「責務」という言葉の取り扱いだろうと思います。

この「責務」を「義務」だと思っていると、第4条の末尾にある「協力するよう努めなければならない」という本条項が「努力義務」であるという点で、間違っているという判断をしてしまう恐れがあります。

このような責務規定とは、法律の目的や基本理念の実現のために各主体の果たすべき役割を宣言的に規定するものです。

国民の責務になると、各人が自覚をもって責任ある行為や勤めを行うことで、義務に比べて政策的目標の意味に近いものになります。

これに対して義務とは、法律や社会通念などを根拠に各人がおかれた立場において当然行うべきであるとされるものですから、こちらの方が拘束力は強くなりますね。

このように、私たちが何気なく使っている言葉でも、「法律用語としては、こういう意味になる」ということがあります。

こうした点にも気をつけながら選択肢判断をしていきましょう。

以上より、選択肢③は正しいと判断でき、除外することになります。

④ 警察署長は、高齢者の身体の安全の確保に万全を期すために、市町村長に援助を求めなければならない。

高齢者虐待防止法で警察署長に関する規定は第12条にあります。

第1項:市町村長は、前条第一項の規定による立入り及び調査又は質問をさせようとする場合において、これらの職務の執行に際し必要があると認めるときは、当該高齢者の住所又は居所の所在地を管轄する警察署長に対し援助を求めることができる。

第2項:市町村長は、高齢者の生命又は身体の安全の確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に、前項の規定により警察署長に対し援助を求めなければならない。

このように「市町村長」が「警察署長」に対して援助を求めるという内容になっていることがわかりますね。

本選択肢の内容は、「警察署長」が「市町村長」に援助を求めるという表現になっていますから、高齢者虐待防止法第12条の内容が逆になっていますね。

よって、選択肢④が誤りと判断でき、こちらを選択することが求められます。

⑤ 身体に重大な危険が生じている高齢者虐待を発見した者は、速やかに、そのことを市町村に通報しなければならない。

こちらは高齢者虐待防止法第7条に定められている「養護者による高齢者虐待に係る通報等」に関する内容になっております。

第1項:養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。

第2項:前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。

第3項:刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、前二項の規定による通報をすることを妨げるものと解釈してはならない。

本選択肢の内容は上記の第1項のものと言えますね。

本条項のポイントは、第1項の「これを市町村に通報しなければならない」と第2項の「これを市町村に通報するよう努めなければならない」の弁別だろうと思います。

この弁別点は「当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている」か否かになります(危険が生じている場合は第1項に、そうではない場合は第2項に基づいて考えていく必要がある)。

本選択肢はこの点について「身体に重大な危険が生じている」としてありますから、第1項の内容が採用されることになります。

以上より、選択肢⑤は正しいと判断でき、除外することになります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です