公認心理師 2020-23

家族再統合に関する問題です。

家族再統合は、その成否にかかわらず行う必要があります。

そう考える理由は解説内で示しています。

問23 児童の社会的養護における家族再統合について、最も適切なものを1つ選べ。

① 家庭復帰が困難な子どもは対象ではない。

② 児童福祉施設は、家族再統合には積極的に関与しない。

③ 家庭裁判所は、申立てがあった場合、直接保護者に適切な治療や支援を受けることができる。

④ 子どもが、家族の歴史や事情を知った上で、肯定的な自己イメージを持つことができるよう支援する。

⑤ 施設や里親などにおける子どもの生活が不安定になるため、分離中の実親との交流は、原則として控える。

解答のポイント

家族再統合の手順や目的について理解していること。

選択肢の解説

① 家庭復帰が困難な子どもは対象ではない。
④ 子どもが、家族の歴史や事情を知った上で、肯定的な自己イメージを持つことができるよう支援する。

家族再統合によって、子どもと親が再び家族として機能していくことが理想です。

しかし、実際には支援効果が上がらないこともあり、その場合は、生い立ちの整理や肯定的な家族イメージの形成への支援などとともに里親などのより永続的な養育の場の検討が必要になってきます。

また、虐待者や家族の理解が深まらず、親との現実の交流が子どもに悪影響を及ぼすため長期の分離が必要という判断がある場合も、子どもの回復と成長への支援や過去の捉え直しや肯定的な親イメージの醸成の作業をしつつ、里親などのより永続的な養育を提供するプランを作成することを余儀なくされます。

こうした状況における家族再統合の考え方について「社会的養護関係施設における親子関係再構築支援ガイドライン」では以下のように述べられています。

家庭復帰という形の親子関係の再構築ができなくても、施設で過ごし自立するまでに、子どもが生い立ちの整理をできるように働きかけたり、心の中の親との関係再構築を支援したり、あるいは永続的な養育を受けられる場を提供することにより、子どもが人や世界を肯定的に眺めることができるようなることが大切である。

子どもが自尊感情を持てるようになることが、その後の社会適応を良くし、将来、その子どもが親になった時にも自分の子どもの気持ちのサインにすぐに応答でき、子どもに不安を与えない養育ができるようになると言われている。

精神分析的な言い方をすれば、内的イメージとしての親との関係をどのように納めていくのか、ということになるだろうと思います。

私はこのようなときにいつも思うのが、倉光修先生が折りに触れて述べられている「諦める(明らめる)」ということです。

「心の傷」が非常に深刻であったり、何度も繰り返したりして、そのイメージや苦痛の再発生が抑えられない場合や、当該欲求の十分な満足が現在の環境では得られそうもない場合もあります。

また、「心の傷」が取り返しのつかない事態によって生じることもあります。

このような場合は、人は怒りや悲しみの時期を経て、「諦め」の境地に至るしかないように思われることもしばしばです。

ただし、この「諦め」は、giving it upではなく、むしろmaking it clearすなわち「明らめ」に近いのです。

心が傷つく体験は避けられないし、一度体験したことは文字のように消せません。

また、生物として基本的な欲求は感じないわけにはゆきません。

こういった真実を、いわば、明らかに認識するのです。

このような境地が訪れると、これからの人生でやりたいことで、しかも自分の価値観に照らしてやるべきと思うことが自然に浮かび上がってくることがあり、これを倉光先生は「個人的当為」と表現しています。

「心の傷」の深浅はともかくとして、それは生涯発生し続けるものですが、そのような痛みに耐えながらも個人的当為を措定し、それを実行していくとき、人は「心の傷」を克服したと言えるのかもしれません。

親が子どもを愛さなかった、大切にしてくれなかった、一緒にいることができない人だったという現実は、変えようがないものです。

それを受け容れること、そして親のことを「諦める」ことはとても苦しいことです。

しかし、それを「明らめ」、つまりその真実を認識することで、ようやく先に進むことができるのだと思います。

支援者には、その過程で生じるさまざまなもがきを受けとめ、子どもが「諦め(明らめ)」ることができるように存在し続けることが求められます。

私は、現実的な家族再統合が成るか否かは「結果論」に過ぎないと思います。

大切なのは、家族がどのような形になろうが「(可能であれば子ども自身が僅かでも主体性をもって)再統合に向けて働きかけた」という事実だと思うのです。

その働きかけは、家族の歴史や事情を把握し、子どもが生まれてから(場合によっては生まれる前から)今の自分までの繋がりを感じられるようにするために欠かせません。

そして、この「生まれてから(場合によっては生まれる前から)今の自分までの繋がり」は人生の確かさを与えてくれます。

この確かさは子どもが「真実を認識すること」を助けるでしょう、結果として家族再統合が成らなくても。

つまり、家族の再統合が困難な事例(家庭復帰が困難な子ども)であっても、家族再統合の試みは重要であり、それを通して「肯定的な自己イメージを持つことができるよう支援する」ことが家族再統合の本質的な目的だろうと思います。

私は、壮絶な体験をした子ども(家庭復帰が難しいほどの親)であるほど、子どもが「肯定的な自己イメージが持つこと」は大変困難であり、子どもの一生をかけても達成できるとは言えないと考えています。

「子孫を残さないことや、自ら死を選ぶことが、この連鎖を止める唯一の手段」と思えるような事例も、やはりあります。

しかし、そのような現実を体験している子どもたちの傍に居続けることが私たちの仕事だろうと思うのです。

死に瀕している人(=床)がいて、その人と面する(=臨む)から「臨床」なのです。

子どもたちは、もしかしたら「生きているのが死ぬよりも苦しい」ような現実を生きています。

そんな子どもたちに臨むのが私たちに与えられた役割なのです。

以上より、選択肢①は不適切であり、選択肢④が適切と判断できます。

② 児童福祉施設は、家族再統合には積極的に関与しない。

児童福祉法第48条の3には以下のように定められております。

乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設及び児童自立支援施設の長並びに小規模住居型児童養育事業を行う者及び里親は、当該施設に入所し、又は小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託された児童及びその保護者に対して、市町村、児童相談所、児童家庭支援センター、教育機関、医療機関その他の関係機関との緊密な連携を図りつつ、親子の再統合のための支援その他の当該児童が家庭(家庭における養育環境と同様の養育環境及び良好な家庭的環境を含む)で養育されるために必要な措置を採らなければならない。

このように「乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設及び児童自立支援施設の長並びに小規模住居型児童養育事業を行う者及び里親」は、家族の再統合のための支援を行う必要があります。

ここで確認しておかねばならないのが、本選択肢の「児童福祉施設」が児童福祉法においてどこを指すのかということです。

これは児童福祉法第7条に規定されています。

この法律で、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、児童心理治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとする。

このように見れば、上記第48条の3の施設と合致することがわかりますね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 家庭裁判所は、申立てがあった場合、直接保護者に適切な治療や支援を受けることができる。

児童虐待防止法第11条には、以下のように定められています。

都道府県知事又は児童相談所長は、児童虐待を行った保護者について児童福祉法第二十七条第一項第二号又は第二十六条第一項第二号の規定により指導を行う場合は、当該保護者について、児童虐待の再発を防止するため、医学的又は心理学的知見に基づく指導を行うよう努めるものとする。

上記の児童福祉法第27条第1項第2号や同法第26条第1項第2号は、児童相談所などに通わせて指導を行うことを指しています。

当該指導に従わない場合には、児童虐待防止法第11条第3項において、都道府県知事による勧告を行うことができるとされているので、積極的に勧告を行うことになります。

この勧告を行うことにより、効果的に援助を実施できることが期待されるほか、次の手続きを採る際の前提条件となることから積極的な運用が行われています。

当該勧告に従わない場合には、同条第4項に基づき、必要があると認める場合は、一時保護を行い、第28条措置等の必要な措置を講ずるものとされているので積極的な運用が行われています。

また、同条第5項では、必要に応じて親権喪失宣告の請求を行う旨も規定されており(家庭裁判所は関係者(親族など)の申立てにより、その親権を失わせて子どものために後見人を選ぶことができる)、これらの連続した対応を採ることにより、子どもの最善の利益を確保するよう努めることが重要です。

なお、これらの場合には家庭裁判所の審判を仰ぐ必要があるため、援助指針、保護者への援助とこれに対する保護者の態度等を具体的に記録しておくことが求められます。

このように、保護者に対して直接指導を行うのは家庭裁判所ではなく、都道府県知事又は児童相談所長であると言えますね。

家庭裁判所に出される「申立て」については、第28条に係わるものですね。

保護者から虐待を受けている子どもの安全を図るため、保護者の意思に反してでも子どもを保護者から引き離さなければならない場合がありますが、このとき児童相談所長は子どもを児童福祉施設に入所させたり、里親に委託するなどの措置の承認を家庭裁判所に求めます。

家庭裁判所はその申立てを受け、子どもの健やかな成長に適うかを基準に、それらの措置を承認するかどうかを判断することになります。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤ 施設や里親などにおける子どもの生活が不安定になるため、分離中の実親との交流は、原則として控える。

本選択肢では「施設や里親などにおける」と表記されておりますが、このそれぞれについてガイドラインが示されていますので、各事項について見ていきましょう。

まず施設については「社会的養護関係施設における親子関係再構築支援ガイドライン」に記載がありますので、この内容をまとめつつ説明していきましょう。

虐待などの理由で施設入所児より親子交流が制限されている場合、子どもの支援や職員と親の信頼関係の構築が軌道に乗ってきた段階で、親と子どもと施設、児童相談所の間で、具体的な交流の在り方とその後の親子関係再構築などについて確認します。

課題解決に向けて計画を策定することが可能になれば、それぞれの目的に添った交流を開始することになります。

交流を開始するにあたっては、親から子どもに対して、施設入所に至った経緯を説明して貰い、施設入所の目的を説明して貰うことが大切です。

子どもによっては、自分の責任で施設入所に至ったと思っていることもあり、その修正のためにも親自身による説明が必要となります。

施設職員は、親に対して施設での子どもの生活の様子を詳細に説明し、施設に入所してからの子どもの状態をよく知ってもらう必要があります。

その上で、施設職員と児童相談所職員が親子両方の思いを確認し、親子交流が始まる。

交流後には、親子それぞれと共に必ず振り返りを行い、感想や不安を聴き、関わりに対する助言を行って、交流を表面的に終わらせないように支援することが重要です。

一方、子育てに自信がなく交流に対して不安を感じる親に対しては、子どもとの交流の間に親と職員の面会日を設け、次の交流に対する意味づけと動機づけを行うこともよりよい交流への支援となります。

その効果を児童相談所と共に分析して評価を行い、面会、外出、施設内宿泊、外泊、長期外泊とステップアップさせていくことが大切です。

適切な評価のため、児童相談所と連携を取って家庭訪問等を行い、環境の安全性や決まり事が守られているか等の確認をしておくことは重要です。

このように、施設では「子どもの支援や職員と親の信頼関係の構築が軌道に乗ってきた段階」になれば、段階的に親子の交流を行っていくことになります。

では里親委託の場合についても見ていきましょう。

里親については「里親養育における親子関係調整及び家族再統合支援のあり方に関する調査研究 報告書」に記載があります。

ここには「里親養育における家族再統合支援の目標」が以下の通り掲げられています。

  1. 親の養育行動と親子関係の改善を図り、家庭に復帰する。
  2. 家庭復帰が困難な場合は、一定の距離をとった交流を続けながら、納得しお互いを受け入れ認めあう親子関係を構築する。
  3. 現実の親子の交流が望ましくない場合あるいは親子の交流がない場合は、生い立ちや親との関係の心の整理をしつつ、永続的な養育の場の提供を行う。

このように、「家庭復帰が困難な場合」であったとしても交流を行っていくことになっています。

その理由は選択肢④の解説で述べたとおりと思われます。

ただし、児童相談所が、実親からの要望だけで突然面会を実施すると、里親や子どもの混乱を招いてしまう。子どもの現在の状況を考慮し、里親と情報共有しながら面会のスケジュールを設定する必要があるのは当然ですね。

面会交流の第一歩を踏み出すことができれば再統合の可能性が高まるため、面会交流に向けて、児童相談所を中心とした各支援機関による、実親や子ども、里親それぞれとの関係づくりやサポートが重要となります。

また、上記の報告書ではアンケート調査を行っており、その結果からは、面会交流において重要な要素である面会交流の方法や内容、面会後の子ども・里親・実親への支援については十分に把握できていないものの、面会交流に関する要因が、里親委託から実家庭への復帰を達成する上で、重要な条件となりうることが示唆されています。

以上より、施設や里親などに委託されていたとしても、実親との交流は家族再統合において重要な意味を持つことが示されています。

もちろん親子の交流は、それなりに混乱を生じ、子どもの不安定を招くものかもしれませんが、それは家族の再統合に避けては通れないものとも言えます。

子どもにとってみれば、親を安全な対象と見なすために「何度も石橋を叩く」ような言動が見られることも考えられますし、どんなに安全に見えても「この橋は渡りたくない」というような思いになることも、経緯を踏まえれば自然な感情です。

こうした自然な感情を抑え込むのでもなく、先送りするのでもなく、どう関わっていくかが「再統合」には欠かせない作業であると言えます。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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