公認心理師 2019-72

問72は虐待の可能性が高いとして一時保護された女子生徒への児童相談所としての対応を問う内容です。
児童相談所職員の職権の範囲を理解していることが大切になりますね。
心理支援では「自分がどこまでできて、どこからはできないのか」をクレバーに把握しておくことが重要になります(もちろん、できないことは知らないという態度はダメですけどね。無い袖を振らないということです)。

問72 14歳の女子A、中学校2年生。Aは母子家庭で育ったが、小学6年生のときに実母が再婚し、現在は継父を含めた三人家族である。ある日、Aの顔色が悪いため、友人がAを保健室に連れて行った。養護教諭がAから話を聞いたところ、Aは「あの人(継父)が夜中に部屋に入ってきて身体を触り、抱きついてくるから、家に帰りたくない」と語った。同時に「他の先生や親には絶対に言わないでほしい」と訴えた。養護教諭は重大な問題であるとAを諭し、教頭と校長に伝え、学校から児童相談所に通告した。すぐに児童福祉司が学校でAと面談し、虐待の可能性が高いと判断し、Aを一時保護した。
 現時点での児童相談所の対応として、適切でないものを1つ選べ。
①Aの了解を得て、産婦人科医の診察を受けてもらう。
②児童福祉司が、継父の性的虐待を処罰するために告訴することを勧める。
③児童心理司による面接や一時保護での行動観察を通して、被害の影響について調査、評価を行う。
④司法面接で用いられる面接技法のトレーニングを受けた職員が被害状況を確認するために面接を行う。
⑤児童福祉司が両親に対して、一時保護の理由、これからの見通し、保護者に不服審査請求の権利があることなどについて説明する。

こちらの問題は厚生労働省の「子ども虐待対応の手引き」を中心に解説を書きました。
とても量が多い資料ですけど、虐待に関わる支援者には是非把握しておいてほしい内容ですね。

解答のポイント

「子ども虐待対応の手引き」に示されている虐待対応について把握している。
特に性的虐待に係わる支援の動きを理解している。

選択肢の解説

①Aの了解を得て、産婦人科医の診察を受けてもらう。

厚生労働省が示している「子ども虐待対応の手引き」の調査及び保護者・子どもへのアプローチの項目において、調査において有用な身体医学的知識が以下のように示されております。
身体医学的所見は虐待された子どもの治療に必要なだけではなく、虐待の証明にも有用である。以下に虐待を強く疑わせる身体的所見を挙げたが、このような所見が同時に複数存在したり、何回も繰り返し存在する時には虐待の可能性は高まる。身体医学的所見は専門家でないと判断に苦しむこともある。小児病院や大学病院など比較的分化された専門家のいる病院と相談できる体制を取っておくことが望ましい」とされ、その中の婦人科的所見では「性的虐待の場合には、妊娠の有無、性器の診察や性感染症の検査が必要である。性器の外傷や性感染症の存在は性的虐待を強く示唆する」とされています。

事例では虐待の内容は詳しく述べられておりませんが、「あの人(継父)が夜中に部屋に入ってきて身体を触り、抱きついてくるから、家に帰りたくない」という表現から、性的な被害があることも十分予見できます。
その後の児童福祉司や児童心理司とのやり取りの中で、婦人科医の診察の必要性が認められれば、当該児童の福利のために診察を受けてもらうという対応はあり得るものです

以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することが求められます。

②児童福祉司が、継父の性的虐待を処罰するために告訴することを勧める。
④司法面接で用いられる面接技法のトレーニングを受けた職員が被害状況を確認するために面接を行う。

 「子ども虐待対応の手引き」の「特別な視点が必要な事例への対応」では、以下のように記載があります。

  • 児童福祉法第28条による措置や加害者に対する告訴(告発)の可能性が考えられる場合には、裁判所における手続きにおいて、証拠として活用することができるような方法で子どもからの聴取を行うこと
  • 近年、性的虐待を理由に児童福祉法第28条による措置の承認を求める審判を家庭裁判所に申し立てる事例が増加し、また、刑事事件としての告訴や告発を行う事例も見られるようになってきている。こうした場合には、裁判所の手続において、証拠として活用することができるような方法で面接を行い、その面接に基づいた記録および意見書の作成が必要となることがある

このように、特に性的虐待の場合は、刑事事件として告訴することが考えられます。

一方で、児童福祉司は「性的虐待を処罰する」ということを行う立場ではありません。
児童福祉法第13条第4項において児童福祉司の役割は「児童福祉司は、児童相談所長の命を受けて、児童の保護その他児童の福祉に関する事項について、相談に応じ、専門的技術に基づいて必要な指導を行う等児童の福祉増進に努める」と定められています。

もちろん、事例のように継父を告訴するということが、Aやその母親らとの話し合いの中で行われることもあるでしょう。
その場合であっても児童相談所での支援は、告訴の可能性も含めて情報を聴取するということに留まると言えます

そして、こうした告訴や告発の可能性がある事例では、司法面接の重要性が指摘されております。
「子ども虐待対応の手引き」の司法面接に関する箇所を抜き出します。

  • 性的虐待が司法の場で扱われることが多い欧米においては、こうした司法手続きのために用いられる面接法として、司法面接(forensic interview)と呼ばれる方法がある。
  • 司法面接は、性的虐待に関する子どもからの聞き取りが子どもに与える負担をできる限り少なくし、子どもから聞き取る話の内容が間違った誘導の結果ではないかとの疑念がもたれる可能性をできるだけ排除し、かつ、性的虐待が何らかの作為による虚偽の話ではなく実際にあった出来事であるかどうかを検討するための情報を得るという、主として3つの目的を持っている
  • わが国においては、こうした面接法は未確立であり、その妥当性や信頼性の検討はされていないが、今後、性的虐待の司法の場での取り扱いが増加する可能性が高いことを考慮に入れるなら、欧米における司法面接のあり方は参考になると思われる
  • 性的虐待に関して子どもから聴取した内容が面接者によって誤誘導されたものではないかとの疑念をもたれないために、司法面接では、子どもが自発的に話せるような技法の工夫がなされる。
  • 司法面接が一般の心理療法の面接と異なるのは、子どもの話している内容が現実にあったことであるかどうかを検討する必要があるという点であり、そのために、司法面接では事実性の検討のための材料を子どもから聴取することになる。子どもの話の事実性は、子どもの話す内容が性的虐待の特徴として従来報告されているパターンと一致するか(例えば、加害者は子どもを徐々に性的行為に慣らしていったか、あるいは、子どもに口止めや脅迫をしたかなど)、性的虐待を受けたものでなければ知り得ないであろう内容を子どもが話したか(例えば、精液の色、臭い、触感など)、あるいは性的虐待のエピソードがその頃に経験したほかの出来事と関連して述べられているか(例えば、被害を体験した頃にほかにどのようなことがあったかなど。こうしたことが判断の基準となるのは、例えば誰かに実際にはなかった性的虐待の訴えをするように教唆された場合には、エピソードそのものは教えられても、その他の出来事との関連までは教えられていないことが多いという事実による)、などによって検討される。したがって、司法面接では、こうした内容を聴取しなくてはならないわけである。
このように、本事例のように性的虐待が疑われ、告訴や告発の可能性がある場合には、司法面接という裁判所における手続きにおいて、証拠として活用することができるような方法で子どもからの聴取を行うことが望ましいと考えられます
以上より、選択肢④は適切と判断でき、除外することが求められます。
また、選択肢②は不適切と判断でき、こちらを選択することが求められます。

③児童心理司による面接や一時保護での行動観察を通して、被害の影響について調査、評価を行う。

児童心理司は、従来は心理判定員と呼ばれていたが、厚生労働省の児童相談所運営指針の改正に伴い、2005年より現在の呼称が用いられるようになりました。
児童相談所に心理判定の専門職員を配置することは児童福祉法によって定められているが、条文中に呼称についての規定はありません。
児童心理司については「児童相談所運営指針の改正について」の中で、公認心理師がその任用資格を有する者として該当することを明確化されました。

条文中に「児童心理司」という表記がないため、「子ども虐待対応の手引き」の中にもその表現はありませんが、代わりに心理職員といった表現が見られ、それが児童心理司とほぼイコールと思ってよいです。
「子ども虐待対応の手引き」には以下のような記述が見受けられます。

  • 情報収集に際しては直接出向き、面接することを原則とする。これは秘密を保持する上で重要であるばかりでなく、細かい情報を得るとともに以後の連携のためにも必要である。特に、初めての機関に対しては、お互いに慎重になりがちなので、是非訪問面接を心がける。
  • 子どもや保護者との面接では、事情聴取的な情報収集は避け、カウンセリングマインドを心がける
  • 一時保護所では、ゆるやかで規則正しい生活の中での保育や学習、スポーツやレクリェーション等を通して、行動面の観察や生活指導を行うが、この間に、児童福祉司の面接や心理職員による心理検査、精神科医の診察なども並行して実施する
  • 掃除、食事、遊び、入浴等は保護者の子どもに対する関わり方を具体的に知る機会となるため、留意して行動観察する

このように、面接や行動観察を通して、虐待の有無やその影響を判定することになります。

以上より、選択肢③は適切と判断でき、除外することが求められます。

⑤児童福祉司が両親に対して、一時保護の理由、これからの見通し、保護者に不服審査請求の権利があることなどについて説明する。

一時保護は施設入所と異なり、保護者の意思は要件とはなっていません。
すなわち児童相談所の職権で実施することが可能です。
したがって、意思を確かめ、同意を求めた上で、一時保護を行うことが原則であるが、法的には保護者の意思を確かめる必要はないということになります。

ただし、一時保護は行政処分として行政不服申立ての対象となり、保護者には不服申立権があるので、児童相談所としては、保護者に一時保護の事実を告知する必要があります
その場合には、一時保護所の具体的な所在地までも記載するのが原則です。

また一時保護に際しての対応については、「子ども虐待対応の手引き」に以下のような記述があります。

  • 保護者に対しては、「客観的な判断として面会は子どもにとってマイナスである」という説明ができなくてはならない。そのためにも保護者に対して、一時保護の理由をきちんと説明しておく必要がある。虐待と判断できるのに「育児が大変でしょうから、しばらく預かってあげましょう」という説得の仕方も有効な場合も多いが、いつまでもそのままでは、面会を拒否する理由にはならないので、配慮を要する。
  • 保護者の中には、先の見通しが持てず、いつまで経っても子どもを返してもらえないのではないかとの不安から、一時保護に反対する場合も多い。この点に留意し、先の見通しを伝えておくことが肝要である

もちろん、上記の不服審査請求の権利についても「子ども虐待対応の手引き」に記載があります。

以上より、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することが求められます。

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