配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律〈DV防止法〉について、正しいものを1つ選ぶ問題です。
基本的な内容を把握していることを求められている内容ですが、それだけにきちんと押さえておくべき内容となっています。
特に「配偶者」の定義や保護命令の種類と期間、DV防止法の改正に伴って変化した箇所についての把握は重要ですね。
法律の改正、特にDV防止法のような社会的要請度の高い法律における改正は、実際上の課題を解消するための改正であることが多いので、改正点は重要になります。
解答のポイント
DV防止法の基本的な内容を把握していること(改正点も含め)。
選択肢の解説
『①女性から男性への暴力は対象外である』
DV防止法第1条には、以下のように規定されています。
- この法律において「配偶者からの暴力」とは、配偶者からの身体に対する暴力(身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすものをいう)又はこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動(以下この項において「身体に対する暴力等」と総称する)をいい、配偶者からの身体に対する暴力等を受けた後に、その者が離婚をし、又はその婚姻が取り消された場合にあっては、当該配偶者であった者から引き続き受ける身体に対する暴力等を含むものとする。
- この法律において「被害者」とは、配偶者からの暴力を受けた者をいう。
- この法律にいう「配偶者」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含み、「離婚」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあった者が、事実上離婚したと同様の事情に入ることを含むものとする。
この法律においてDVの被害者とは「配偶者からの暴力を受けた者」と規定されているのみであり、性別については特段の規定がありません。
こちらの資料をご覧いただければわかるとおり、男性の加害者の人数はほぼ横ばいですが、女性の加害者の人数は徐々に増加しております。
直近のデータである平成29年において、妻がDV加害者となった件数の割合は17.2%となっており、2割弱のDV事件においては妻が加害者、夫が被害者となっているのです。
このことからも、性別の限定は不適切であることがわかりますね。
それでもやはり男性の加害者が多い状況ではあります。
しかし、いわゆるデートDVでは、女性の加害者が半数ほどであるというデータがあるなど、性別によって加害者・被害者が偏るということは今後も減っていく可能性が高そうです(これが良いことかどうかはわかりませんが)。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②被害者の保護命令申立ては警察に対して行う』
保護命令の申立てについてはDV防止法第10条に規定されています。
「被害者が、配偶者からの身体に対する暴力を受けた者である場合にあっては配偶者からの更なる身体に対する暴力により、配偶者からの生命等に対する脅迫を受けた者である場合にあっては配偶者から受ける身体に対する暴力により、その生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときは、裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、次の各号に掲げる事項を命ずるものとする。ただし、第二号に掲げる事項については、申立ての時において被害者及び当該配偶者が生活の本拠を共にする場合に限る」
保護命令の申立てをする前には、まず以下の手続のいずれかをする必要があります。
- 配偶者暴力相談支援センター又は警察へ相談し、又は援助若しくは保護を求めること
- 配偶者からの暴力を受けた事情に関する被害者の供述を記載した書面について、公証人による認証(公証人法58条の2第1項)を受けること
現実には後者の手続には費用がかかることから、前者の手続が採られることが一般です。
上記の通り、申立ては警察ではなく裁判所に行うことが規定されております。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
『③保護命令のうち被害者への接近禁止命令の期間は1年間である』
DV防止法では、身体的暴力をふるわれた・生命に対する脅迫を受けた被害者が、配偶者と会わないようにするために「保護命令」を申立てることができます。
申立てを受けた裁判所は、被害者が身体または生命に重大な危害を受ける可能性があると判断した場合、「保護命令」を発令しますが「保護命令」とは以下の命令の総称です。
1.被害者への接近禁止命令:DV防止法第10条第1項第1号
「命令の効力が生じた日から起算して六月間、被害者の住居(当該配偶者と共に生活の本拠としている住居を除く)その他の場所において被害者の身辺につきまとい、又は被害者の住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないこと」
※電話やメールでの接触までは禁止されていない。
2.退去命令:DV防止法第10条第1項第2号
「命令の効力が生じた日から起算して二月間、被害者と共に生活の本拠としている住居から退去すること及び当該住居の付近をはいかいしてはならないこと」
※暴力を受けて着の身着のままで家を飛び出した人に対して、加害者を家から遠ざけて必要な荷物をもって引っ越すためというイメージ。
3.被害者の子または親族等への接近禁止命令:DV防止法第10条第3項
「…被害者がその成年に達しない子と同居しているときであって、配偶者が幼年の子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていることその他の事情があることから被害者がその同居している子に関して配偶者と面会することを余儀なくされることを防止するため必要があると認めるときは、…その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、当該子の住居、就学する学校その他の場所において当該子の身辺につきまとい、又は当該子の住居、就学する学校その他その通常所在する場所の付近をはいかいしてはならないことを命ずるものとする。ただし、当該子が十五歳以上であるときは、その同意がある場合に限る」
※被害者本人ではなく子どもにも接近禁止をしておかないと、子どもに会いにきたという理由で被害者に会いに行くことができてしまう。
4.電話等禁止命令:DV防止法第10条第2項各号
「前項本文に規定する場合において、同項第一号の規定による命令を発する裁判所又は発した裁判所は、被害者の申立てにより、その生命又は身体に危害が加えられることを防止するため、当該配偶者に対し、命令の効力が生じた日以後、同号の規定による命令の効力が生じた日から起算して六月を経過する日までの間、被害者に対して次の各号に掲げるいずれの行為もしてはならないことを命ずるものとする」
- 面会を要求すること。
- その行動を監視していると思わせるような事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
- 著しく粗野又は乱暴な言動をすること。
- 電話をかけて何も告げず、又は緊急やむを得ない場合を除き、連続して、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、若しくは電子メールを送信すること。
- 緊急やむを得ない場合を除き、午後十時から午前六時までの間に、電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信し、又は電子メールを送信すること。
- 汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付し、又はその知り得る状態に置くこと。
- その名誉を害する事項を告げ、又はその知り得る状態に置くこと。
- その性的羞しゆう恥心を害する事項を告げ、若しくはその知り得る状態に置き、又はその性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、若しくはその知り得る状態に置くこと。
これらの行為の総称を「保護命令」と呼んでいます。
上記の通り、接近禁止命令は1年間ではなく6カ月です。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
『④婚姻関係以外の単なる同居中の交際相手からの暴力は対象外である』
選択肢①で示した通り、この法律における「配偶者」には、婚姻の届出をしている配偶者のほか、事実上婚姻関係と同様の事情にある者も含むことになっています。
ですが、本選択肢の「単なる同居中の交際相手」という表現が、「婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とみなすのは難しいように感じます。
すなわち、DV防止法において本選択肢の内容は「配偶者」とはなりません。
しかし、平成25年の改正をもって生活の本拠を共にする交際相手からの暴力及びその被害者について法律を準用することになっています(DV防止法第28条の2に規定)。
ちなみに「準用」とは「ある事項に関する規定を、それに類似するが異なる事項について、必要な変更を加えた上で当てはめることをいうこと」を指します。
ただし「生活の本拠を共にする交際」に当たるかどうかの区別は、あくまで共同生活の外形的な客観状況によることを原則として判断されるものであり、まずは配偶者暴力相談支援センター等で相談すると良いでしょう。
下記のような場合は、DV防止法を準用できることになっています。
- 配偶者(事実婚の相手方を含む)からの暴力と同様に、婚姻と同様の共同生活を営んでいることによる「囚われの身」の状況が存在し、かつ、外部からの発見・介入が困難であると考えられるものであること
- 被害者の保護のために加害者に対する退去命令が必要とされる事案も想定されること
- 生活の本拠を共にする関係にある場合の主たる判断要素である「生活の本拠を共にすること」は、外形的事情を踏まえて裁判所が判断可能なものであり、この要件を設けることで保護命令の適用範囲の明確性が担保されると整理し、配偶者暴力防止法において保護命令の対象とする
実際に「生計を同じくしている」という条件があると、DVを受けていたとしてもDVと認定されない事例が多くなってしまうことは想像に難くありません。
実家があるけど転がり込んでいる、などの場合は当てはまらないわけですからね。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
『⑤緊急時の安全確保のための施設には、厚生労働大臣が定めた基準を満たした母子生活支援施設が含まれる』
DV防止法第8条の3には「福祉施設による自立支援」が以下の通り規定されています。
「社会福祉法に定める福祉に関する事務所(次条において「福祉事務所」という)は、生活保護法、児童福祉法、母子及び父子並びに寡婦福祉法その他の法令の定めるところにより、被害者の自立を支援するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない」
こちらの条項については平成16年の改正によるものです。
これまでも福祉事務所は被害者の自立を支援してきたが、法において、福祉事務所は、生活保護法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法その他の法令の定めるところにより、被害者の自立を支援するために必要な措置を講ずるよう努めなければならないことが明確化されました。
ちなみに、本選択肢にある「母子生活支援施設」は、児童福祉法第38条に定められる施設です。
「母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」
上記のDV防止法の改正により、一時保護施設として母子生活支援施設が位置づけられ、DV被害者保護から生活の基盤づくりを行い、自立支援を行う施設であることが法律上も明記されました。
以上より、選択肢⑤が正しいと判断できます。