医療法で規定されている医療提供施設を選択する問題です。
こういうタイプの問題では、正答以外の選択肢で挙げられている機関の法的根拠や役割を知っておくことが大切ですね。
問31 医療法で規定されている医療提供施設として、正しいものを1つ選べ。
① 保健所
② 介護老人保健施設
③ 市町村保健センター
④ 地域包括支援センター
⑤ 産業保健総合支援センター
解答のポイント
各施設の法的根拠と役割を把握している。
選択肢の解説
① 保健所
保健所は、地域住民の健康や衛生を支える公的機関の一つであり、地域保健法を根拠法としています(地域保健法の第5条~第17条)。
その役割については、地域保健法第6条~第8条に以下の通り規定されています。
第六条 保健所は、次に掲げる事項につき、企画、調整、指導及びこれらに必要な事業を行う。
一 地域保健に関する思想の普及及び向上に関する事項
二 人口動態統計その他地域保健に係る統計に関する事項
三 栄養の改善及び食品衛生に関する事項
四 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生に関する事項
五 医事及び薬事に関する事項
六 保健師に関する事項
七 公共医療事業の向上及び増進に関する事項
八 母性及び乳幼児並びに老人の保健に関する事項
九 歯科保健に関する事項
十 精神保健に関する事項
十一 治療方法が確立していない疾病その他の特殊の疾病により長期に療養を必要とする者の保健に関する事項
十二 エイズ、結核、性病、伝染病その他の疾病の予防に関する事項
十三 衛生上の試験及び検査に関する事項
十四 その他地域住民の健康の保持及び増進に関する事項
第七条 保健所は、前条に定めるもののほか、地域住民の健康の保持及び増進を図るため必要があるときは、次に掲げる事業を行うことができる。
一 所管区域に係る地域保健に関する情報を収集し、整理し、及び活用すること。
二 所管区域に係る地域保健に関する調査及び研究を行うこと。
三 歯科疾患その他厚生労働大臣の指定する疾病の治療を行うこと。
四 試験及び検査を行い、並びに医師、歯科医師、薬剤師その他の者に試験及び検査に関する施設を利用させること。
第八条 都道府県の設置する保健所は、前二条に定めるもののほか、所管区域内の市町村の地域保健対策の実施に関し、市町村相互間の連絡調整を行い、及び市町村の求めに応じ、技術的助言、市町村職員の研修その他必要な援助を行うことができる。
最近はコロナに関しての一般的な質問を受け付ける等もしていますし、学校で感染者が出た場合の対応は保健所の指示に従って決められることが多いです。
さて、もう少し具体的な活動についても理解しておきましょう。
- 地域保健に関する思想の普及及び向上に関する事項:健康日本21に関すること
- 栄養の改善及び食品衛生に関する事項:調理師及び製菓衛生師免許交付手続き。食品の製造、流通、調理及び販売施設・卸売市場・集団給食施設に対する営業許可及び監視指導、諸届出の受理など。食中毒について、医師からの報告の受理(食品衛生法第58条)及び食中毒の原因調査。
- 住宅、水道、下水道、廃棄物の処理、清掃その他の環境の衛生に関する事項:上水道等水道の諸届出の受理、立入検査、指導。河川や井戸、プールなどの水質検査。公害対策(大気汚染、水質汚濁、土壌汚染など)。
- 医事及び薬事に関する事項:医療関係免許(医師、歯科医師、看護師、薬剤師、栄養士など)申請の受付窓口。医薬品販売業、毒劇物販売業の許可・登録等。医療法に基づく医療監視(医療機関への立ち入り検査)。
- 保健師に関する事項:市町村保健師等への教育や研修、指導、相談など。
- 公共医療事業の向上及び増進に関する事項:災害時に災害医療コーディネーターを介して、所管地域内のDMAT等の救護班へ指示・調整。
- 母性及び乳幼児並びに老人の保健に関する事項:母子健康手帳の交付、妊婦健康診査、乳幼児健康診査及び相談の受付。
- 精神保健に関する事項:措置入院について、通報・申請の受理及び入院の決定(精神保健福祉法29条)など。
上記は一部ですが、他の法律との絡みがある部分も見られますね。
以上のように、保健所は医療法に規定されている医療提供施設に該当しないことがわかります。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。
② 介護老人保健施設
こちらについては医療法第1条の2に以下の通り規定されています。
- 医療は、生命の尊重と個人の尊厳の保持を旨とし、医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手と医療を受ける者との信頼関係に基づき、及び医療を受ける者の心身の状況に応じて行われるとともに、その内容は、単に治療のみならず、疾病の予防のための措置及びリハビリテーションを含む良質かつ適切なものでなければならない。
- 医療は、国民自らの健康の保持増進のための努力を基礎として、医療を受ける者の意向を十分に尊重し、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局その他の医療を提供する施設(以下「医療提供施設」という)、医療を受ける者の居宅等(居宅その他厚生労働省令で定める場所をいう。以下同じ)において、医療提供施設の機能に応じ効率的に、かつ、福祉サービスその他の関連するサービスとの有機的な連携を図りつつ提供されなければならない。
上記の通り、病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、調剤を実施する薬局などは「医療提供施設」と称することになっております。
介護老人保健施設は介護保険法を根拠法としており、介護保険が適用される介護サービスで、在宅への復帰を目標に心身の機能回復訓練をする施設です。
病院での治療を終え病状が安定した人が、リハビリに重点を置き在宅復帰を目的とする施設(要介護1以上が対象)と、過去問では解説していますね(「公認心理師 2020-20」です)。
作業療法士や理学療法士等によるリハビリテーション、また、栄養管理・食事・入浴などのサービスまで併せて提供されます。
また、リハビリだけでなく、医療提供も充実しているという面(医療や看護、栄養管理、介護など)があるので医療提供施設に含まれるわけですね。
上述の通り、在宅復帰を目標とし、入居期間は原則として3~6ヶ月の期間限定になっているが、現状は「リハビリがうまく進まず目標とする身体状態まで回復していない」「家族の受け入れ態勢が整わない」などの理由から、その期間で自宅に帰れないケースも多いですね。
入居期間が限定されているため終の棲家にはなり得ず、特別養護老人ホームの入居待ちとして利用している人もいるのが現状です。
以上より、介護老人保健施設は医療法における「医療提供施設」に含まれていることがわかります。
よって、選択肢②が正しいと判断できます。
③ 市町村保健センター
市町村保健センターは健康相談、保健指導、健康診査など、地域保健に関する事業を地域住民に行うための施設で、地域保健法を根拠法に多くの市町村に設置されています。
以下の通り、地域保健法第4章(第18条~第20条)に規定されています。
第十八条 市町村は、市町村保健センターを設置することができる。
② 市町村保健センターは、住民に対し、健康相談、保健指導及び健康診査その他地域保健に関し必要な事業を行うことを目的とする施設とする。
第十九条 国は、予算の範囲内において、市町村に対し、市町村保健センターの設置に要する費用の一部を補助することができる。
第二十条 国は、次条第一項の町村が市町村保健センターを整備しようとするときは、その整備が円滑に実施されるように適切な配慮をするものとする。
市町村保健センターの母子保健業務は児童虐待防止とも関連があるとされていますね。
保健所と市町村保健センターは、どちらも「地域保健法」に基づいて設置され、地域住民の保健や衛生を支えるということを目的としていますが、両者の運営自治体や役割は異なります。
保健所は都道府県、政令指定都市、中核市及び東京の特別区の設置・運営なのに対し、市町村保健センターは市町村が設置・運営しています(その名の通りですね)。
保健所の業務は、健康診断など地域住民の健康づくりのための直接的な業務も行なっていますが、選択肢①の通り、多岐にわたります。
対して、市町村保健センターの業務は、地域住民の健康づくりの場として、直接的かつ対人的な業務に特化しています。
市町村保健センターの業務としては、「母子保健(母子健康手帳の交付から新生児健診、離乳食教室など育児を支援する業務)」「成人・老人保健(定期健診や成人病健診、健康教室、訪問相談などを開催する業務)」「予防接種」「健康教育(生活習慣病の予防講座や健康づくりに関する冊子の作成、配布などの業務)」などになります。
以上のように、市町村保健センターは医療法に規定されている医療提供施設に該当しないことがわかります。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。
④ 地域包括支援センター
地域包括支援センターは、介護保険法を根拠法として(2005年の介護保険法改正で制定された)、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関です。
以下の通り、介護保険法第115条の46に規定されています。
地域包括支援センターは、第一号介護予防支援事業(居宅要支援被保険者に係るものを除く)及び第百十五条の四十五第二項各号に掲げる事業(以下「包括的支援事業」という)その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設とする。
高齢者が住み慣れた地域で安心して過ごすことができるように、包括的および継続的な支援を行う地域包括ケアを実現するための中心的役割を果たすことが 地域包括支援センターに求められています。
具体的な業務としては、地域支援事業のうちの包括的支援事業、すなわち…
- 介護予防事業のマネジメント
- 介護保険外のサービスを含む、高齢者や家族に対する総合的な相談・支援
- 被保険者に対する虐待の防止、早期発見等の権利擁護事業
- 支援困難ケースへの対応などケアマネジャーへの支援
…の4つの事業を地域において、一体的に実施する役割を担う中核拠点として設置されています。
センターには、保健師、主任ケアマネジャー、社会福祉士が置かれ、専門性を生かして相互連携しながら業務にあたることになります。
なお、厚生労働省からは「地域包括支援センターの手引き」が示されています(ちょっと古いですけど)。
以上のように、地域包括支援センターは医療法に規定されている医療提供施設に該当しないことがわかります。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。
⑤ 産業保健総合支援センター
産業保健総合支援センターは、厚生労働省が管轄する「独立行政法人 労働者健康安全機構」が運営する公的機関です。
独立行政法人労働者健康安全機構が、産業医、産業看護職、衛生管理者等の産業保健関係者を支援するとともに、事業主等に対し職場の健康管理への啓発を行うことを目的として、全国47の都道府県に産業保健総合支援センター(さんぽセンターと呼ばれています)を設置しています。
産業保健総合支援センター(さんぽセンター)では主に次の業務を行っています
- 窓口相談・実施相談:産業保健に関する様々な問題について、専門スタッフが実地又は、センターの窓口(予約)、電話、電子メール等で相談に応じ、解決方法を助言しています。
- 研修:産業保健関係者を対象として、産業保健に関する専門的かつ実践的な研修を実施しています。また、他の団体が実施する研修について、講師の紹介等の支援を行っています。
- 情報の提供:メールマガジン、ホームページ等による情報提供を行っています。また、産業保健に関する図書・教材の閲覧等を行っています。
- 広報・啓発:事業主、労務管理担当者等を対象として、職場の健康問題に関するセミナーを実施しています。
- 調査研究:地域の産業保健活動に役立つ調査研究を実施し、成果を公表・活用しています。
- 地域窓口(地域産業保健センター)の運営:小規模事業場の支援を行っています。
なお、産業保健総合支援センターの下には地域産業保健センターが地区ごとにあり、ここでは労働者数50人未満の事業場に対する産業保健サービスを無料で行っています。
地域窓口(地域産業保健センター)で提供している主なサービスとしては、以下の通りです。
- 従業員の健康管理に関する相談対応
- 健康診断の結果についての医師からの意見聴取
- 長時間労働者に対する面接指導
- 個別訪問による産業保健指導の実施
厚生労働省が出しているパンフレットから引用すると、産業保健総合支援センターの業務としては、「メンタルヘルス対策」「治療と仕事の両立支援対策」「研修、相談対応」などが挙げられており、詳しくは以下の通りです。
メンタルヘルス対策では、専門スタッフ(産業カウンセラーや社労士等)が事業場に訪問し、メンタルヘルス対策の計画作成やストレスチェック制度の導入・職場環境改善に関する実地相談、管理監督者や若手労働者に対するメンタルヘルス教育などを行っています。
治療と支援の両立支援対策では、専門スタッフが事業場に訪問し、両立支援制度の導入支援、患者(労働者)と企業の間の個別調整支援などを行っています。
研修・相談対応では、産業医等の産業保健スタッフや事業者等を対象として、メンタルヘルス対策や、治療と仕事の両立支援をはじめとする産業保健をテーマに研修を行ったり、窓口・電話・メールで相談に応じ、解決方法を助言します。
以上のように、産業保健総合支援センターは医療法に規定されている医療提供施設に該当しないことがわかります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。