公認心理師 2022-77

統合失調症で入院中の本人および家族への支援に関する問題です。

各支援法の概要を知っていれば、ほぼノータイムで解ける問題であると言えますね。

問77 20歳の男性A。現在、精神科病院に入院中である。Aの母親はすでに他界している。Aは 19歳のときに統合失調症を発症し、 2回目の入院である。近々退院予定であり、退院後は、父親Bとの二人暮らしとなる。BはAに対して、「また入院したのは、自分で治そうという気がないからだ」、「いつも薬に頼っているからだめなんだ。もっとしっかりしろ」とたびたび言っている。Aの主治医は、公認心理師Cに退院後の再発予防に有用な支援を検討してほしいと依頼した。
 このときCが実施を検討すべきものとして、適切なものを2つ選べ。
① Aに対するSST
② Bに対する回想法
③ Bに対する心理教育
④ Aに対するTEACCH
⑤ Aと B に対するリアリティ・オリエンテーション

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解答のポイント

各支援法の特徴を理解している。

選択肢の解説

① Aに対するSST

SSTはアメリカの精神科医リバーマンによって考案され、当初は主に精神疾患のある人たちに適用されていたが、医療機関や療育施設などで、社会的コミュニケーションに課題を抱える発達障害の子どもや大人に対しても様々な形で適用されるようになりました。

SSTは、行動理論、社会的学習理論に基づく技法であり、①教示:目標とする行動を教える、②モデリング:その行動を実際に行って見せるなどして見本を示す、③リハーサル:目標とする行動を実際に行って練習する(ロールプレイ)、④フィードバック:目標の行動が適切にできているかどうかを伝え、できていれば賞賛し、できていなければ修正点を伝える、⑤般化:トレーニング場面で獲得したスキルを日常生活のどのような場面でも、誰に対しても活用できるよう促す、という5つのトレーニングが基本要素です。

なお、「ソーシャルスキル」の定義は研究者によって多様ですが、①仲間から受け入れられること、②人との関わりにおいて好ましい結果が得られ、好ましくない結果を回避できること、③社会的妥当性、の3つの観点から特徴づけられるとされています。

本事例にような統合失調症へのSSTについては、自分の気持ちをうまく伝えられるようにする(地域で生活する上で対人関係技能を高めることは生活の質を高め、ストレス対処や再発防止にも役立つ)、服薬遵守・再発防止・薬への正しい知識を得る(退院へのステップとして導入する場合も多い)、などのように再発防止や生活の質を高めて社会復帰を目指すことになります。

こうした当事者の対人的行動(特にコミュニケーション技能)を改善する体系的な働きかけがSSTであり、日本でもデイケアなどの多くの医療施設で取り入れられております。

事例のAは統合失調症ということで、どういった症状を示しているかは不明ですが、発症年齢を考えると解体型か緊張型と思われ、2回目の入院ということで初回の急性期状態ではないと言えます。

もちろんAの状態によって適切な支援をその都度選択されるのが当然ではありますが、SSTはそこまで侵襲性の高い方法ではありませんから、Aに対して実施を検討することは十分にあり得ると言えます。

よって、選択肢①は退院後の再発予防に有用な支援として適切と判断できます。

② Bに対する回想法
⑤ AとBに対するリアリティ・オリエンテーション

ここで挙げられている「回想法」も「リアリティ・オリエンテーション」も、高齢者の認知機能の向上や維持を目指したアプローチになります。

まずは、それぞれについてざっと概要を述べていきます。

回想法は記憶の想起により人生の連続性の自覚を促し、自尊心やコミュニケーション能力を回復させる方法です。

すなわち、自尊心を高めるという個人内効果と、対人関係を促進させるなどの社会的効果の両方が期待されています。

認知症の場合は、情動機能の回復、意欲の向上、発語回数の増加、非言語的表現の豊かさの増加、集中力の増大、問題行動の軽減、社会的交流の促進、支持的・共感的な対人関係の形成および他者への関心の増加、などが効果として挙げられています。

回想法は1963年にアメリカの精神科医Butlerによって示された方法であり、「高齢者の回想法は、死が近づいてくることにより自然に起こる心理的過程であり、過去の未解決の課題を再度とらえ直すことも導く積極的な役割がある」と提唱し、これまで「過去の繰り言」「現実逃避」と否定的に捉えられてきた高齢者の回想行為を意味あるものとして論じてきたことが回想法の起点となっています。

Butlerは「ライフレビュー(人生の復習)」という概念を提出しており、ライフレビューが成功に終わった後の到達点は受容であり、人生を無駄なもの、価値のないものと見なした後の到達点は絶望です(この辺はエリクソンの8段階と同じですね)。

高齢者に回想に取り組むよう勧めることは、価値ある治療活動であり、高齢者が生涯の経験を正面から取り組み、それを客観的に捉える助けになるとされています。

回想法は「私の若い頃はね…」というセリフの繰り返しに代表されます。

認知症者の支援にあたっている人が、こうしたセリフの重要性に気づき、高齢者の過去の出来事について話し合うことは価値があると気づいたことで回想法は拡がりを見せました。

高齢者と話し合うことによって通じ合い、交流が深まる中で高齢者の過去の生活や経験を理解できるようになります。

それによって支援者は現在の会話や行動の意味をより的確につかめるようになります。

Reality Orientation=ROは、現実検討識訓練を指し、認知機能の低下した患者が見当識などの能力を高めるために行われる方法です。

24時間型(非定型)とクラスルーム型(定型)があります。

24時間型は、日常生活のあらゆる機会に「いま」の状況を確認できるような情報によって意図的に患者に働きかけます。

「いま」の状況は日常のありふれたもので確認され、時計、日付や天気などが書かれた大きな掲示板(ORボード)、食事のにおい、包丁で材料を切る音、風の冷たさなどが用いられます。

クラスルーム型は、毎日1時間程度の集中的なセッションで24時間型の補完的役割をします。
認知症病棟などで心理師が行う場合がありますね。

いずれの方法においても、参加者に強制訓練のような印象を与えないことや自尊心を傷つけないように注意することが求められます。

さて、まずAは20歳であり、統合失調症と診断されていますが認知機能の問題は明示されていません。

統合失調症だと症状・状態によっては現実検討力が低下することもあり得ますが、認知症を基本的な対象としているリアリティ・オリエンテーションの手法を用いて支援することは考えにくいと言えるでしょう。

ですから、選択肢⑤の「AとBに対するリアリティ・オリエンテーション」に関しては、少なくともAについては当てはまらないと言えそうです。

続いて、Bについてはリアリティ・オリエンテーションや回想法の実施を検討することがあり得るのか考えてみましょう。

Bの年齢は記載されていませんが、記述として見られるのは、Aに対して「また入院したのは、自分で治そうという気がないからだ」、「いつも薬に頼っているからだめなんだ。もっとしっかりしろ」とたびたび言っているということです。

こうした言葉を「認知機能の低下による」と見なすのは無理があり、やはりAの病気(統合失調症)への無理解が大きいと考えておくのが自然だと言えます。

ですから、少なくともこの時点で認知機能に問題がある場合に行われる回想法やリアリティ・オリエンテーションをBに実施することは考えないと言えますね。

よって、選択肢②および選択肢⑤は退院後の再発予防に有用な支援として不適切と判断できます。

③ Bに対する心理教育

他選択肢の解説でも述べているように、BがAに対して「また入院したのは、自分で治そうという気がないからだ」、「いつも薬に頼っているからだめなんだ。もっとしっかりしろ」とたびたび言っているのは、Aの病気(統合失調症)への無理解があるからだと考えてよいでしょう。

本選択肢の「心理教育」は、精神的な健康状態を脅かすような問題を抱えた本人やその家族に対して行われる、心理面への配慮を伴った知識・情報伝達を行う支援アプローチの総称になります。

心理教育の目的は、対象者が抱える諸問題や困難に対する対処法の習得を通して、主体的に療養生活を営める能力を獲得すること(家族への心理教育であれば、それがしやすくなるような環境を構築すること)であり、本人や家族が直面している問題について正確な情報提供や支援リソースについての紹介などが行われます。

Anderson(1980)らによる統合失調症患者の家族を対象に行った心理教育プログラムが、患者本人の再発率を低下させたという報告が有名です。

家族への心理教育では、①疾病についての理解を深めること、②家族内のストレスを下げること、③社会的ネットワークを強化すること、④家族内のストレスを高めている持続的問題を減少させることなどがプログラムとして組まれています。

Bは統合失調症への無理解があるため「また入院したのは、自分で治そうという気がないからだ」「いつも薬に頼っているからだめなんだ。もっとしっかりしろ」といった声掛けをしてしまう可能性がありますから(もちろん他にも見立てはあり得て、例えば、病理の受容に関する問題などですね)、心理教育を通して適切な病理の理解が進めば、Aにとって適切な家庭環境を構築することもしやすいかもしれません。

統合失調症に限らず、家族が当人に対して適切な対応をできることは非常に重要です。

Andersonの実績でも明らかなように、家族の対応によって当人の状態は大きく変化しますから、本問の「退院後の再発予防に有用な支援」として家族へのアプローチは不可欠と言えます。

私は多くの疾患や問題において、家族支援が不足していると考えています。

なお、この家族支援の中には、受容的に関わるだけではなく、適切な情報提供や関わりの助言、時には親自身の成長を促すなども含まれます。

従来の心理臨床では「当人がクライエント」という認識が強いためか、特に親自身の心理的成長を促すのは「別枠で親をクライエントとして行うべき」という考え方をしていて、別契約的に考えることが多いように感じています。

私はこの考え方は実践的ではないと認識しており、クライエントの改善に必要と認められれば、その親の心理的成長を促す面接も行っていくべきだと思いますし、そこに契約的な線引きを行うのは「自然なものに不自然なものを導入する」という感覚があり、支援の滑らかさを損なうように感じています(不登校などでは、その辺は一体のものと見なした方が自然な場合が多い)。

もちろん個人開業などを考えれば、そう単純にいかないというのはわかりますが、本人と家族を別個のものとして見なすのは、その時々の見立てに沿って、あくまでも「治療や支援の一環」として判断されるべき事項だと言えます(例えば、親子の結びつきが強い、特に親側のしがみつきが強い場合は、そこに距離を取らせるために「当機関ではそういうことになってるんですよ」と分ける形で行うのは「見立てに沿った支援の一環」ですよね)。

とは言え、私のこの考えは揺り籠~20代半ばまでの臨床実践を通して感じることですから、より個人としての責任が強くなるそれ以上の年齢のクライエントを対象にしている臨床家からは別の意見もあり得るでしょうね。

いずれにせよ、本事例においてBに対して心理教育を検討するのは妥当であると言えますね。

よって、選択肢③が退院後の再発予防に有用な支援として適切と判断できます。

④ Aに対するTEACCH

TEACCHとは、Treatment and Education of Autistic and related Communication handicapped Childrenのそれぞれの頭文字をとった造語であり、日本では「自閉症と関連するコミュニケーション障害児の治療と教育」と訳されています(ティーチ、と読みます)。

1966年にアメリカのSchoplerらが自閉症児を中心とする発達障害児のための「子どもの研究プロジェクト」を立ち上げました。

その成果が認められ、1972年にノースカロライナ州の自閉症児支援の一つとして、ノースカロライナ大学医学部精神科に設立されたプログラムがTEACCHです。

1960年代のアメリカでは、フロイトの精神分析の考えが主流であり、自閉症も心の病であると考えられていました。

ショプラーの師であるブルーノ・ベッテルハイム(愛はすべてではない、が有名ですかね)は、冷蔵庫のように冷たい母親が原因で自閉症になるという考えていました。

しかしながら、自閉症児のきょうだいはほとんどがノーマルであるという事実から、多くの学者(リムランド、ウィング、ラターなど)が情緒障害児説に疑問を感じており、その中でショプラーはその原因を神経心理学、つまりは脳の障害ではないかと考えるようになったのです。

当時から多くの自閉症児の臨床に関わっていたショプラーは、多くの自閉症児が言葉の理解が弱く、異なった状況から情報を統合することができなかったり、定型発達の子どもと比べて感覚が異なっていると考えました。

しかし、一方では視覚的な刺激に強いこともわかっていたので、自閉症児の学習スタイルをオーガナイズする方法として、視覚的な強さを利用するべきではないかと考えるようになりました。

こうした流れの中でショプラーは、自閉症児を治すという発想ではなく、自閉症児のスキルを向上させることへと方法を転換し、それらを補うためには、自閉症児に活動しやすいような場を設定する、いわゆる「構造化」による支援を考えるに至りました。

まずは自閉症であるかどうかの適切な診断と発達評価を重視し、自閉症の子どもを最も知っているのは保護者であるため、親を共同治療者あるいは専門家の仲間として関わることが有効であると考えました。

そのため、自閉症の子どもだけではなく、親のスキルの向上にも焦点を置くようになっています。

こうしたいわゆるペアレントトレーニングの流れが出てきたということですね。

TEACCHですが、特徴が以下のようにまとめられております。

  • 自治体規模の介入:ノースカロライナ州政府の全面的なバックアップと全州規模での実施。
  • ゆりかごから墓場まで:幼児期から成人して地域で生活するまで、障害児の一生を地域で生活するための長期的体系的プログラムである。
  • 自閉症児の文化:自閉症の人々の行動様式を文化の一つとして捉え理解しようとする。
  • 親は共同療育者:専門家のセラピストの支援と同等以上に、親の療育への関与が期待される。
  • 構造化された教育:予測不能な状態が苦手である特性を持つ自閉症児に対して、整理され、構造化された環境をつくる。

ASD児は、乳幼児期からその特徴が出始め(特徴的なのが言語によらないコミュニケーションの発達の遅れ。共同注意など)、3歳以降になると対人関係上の特徴(呼ばれても振り返らない、積極的に関わろうとしない等)や興味の特徴(一定のパターンの運動に没頭する、順序や物の配置が同じであることに強くこだわる、文字や数字などの記号的なものにこだわる等)などが出てきます。

TEACCHプログラムの特徴は、こうした早期の段階から支援をはじめ、地域社会で暮らすことを目指しているという点にあり、それが「ゆりかごから墓場まで」ということの意味になります。

ですから、ノースカロライナ州政府との協力により州内で生涯にわたる支援システムが構築されており、学校への支援、進学や就労時の移行支援、成人期の就労や居住支援なども行っています。

このようにTEACCHプログラムはASDに対する支援法の一つになりますから、統合失調症と診断されているAに対して検討される支援法ではありませんね。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

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