事例の状態を踏まえ、最も優先して対応すべき事項を選択する問題です。
糖尿病で抑うつは起こりやすいものですから、それらの関連についても理解しつつ解いていきましょう。
問142 45歳の男性A、会社員。総合病院の内科外来で2年前から2型糖尿病の薬物療法を受けている。不眠が近頃ひどくなり、内科の主治医に相談した。Aは、 1年前から仕事が忙しくなり、深夜に暴飲暴食をすることが増えた。Aの体重が増加していることや、血糖値のコントロールが悪化していることをAの妻は心配しており、口げんかになることも多い。 1か月前から、未明に目が覚め、その後眠れないようになった。日中は疲労感が続き、仕事を休みがちである。趣味にも関心がなくなった。心理的支援が必要と考えた主治医から院内の公認心理師Bへ依頼があった。
現時点におけるBのAへの対応として、最も優先すべきものを1つ選べ。
① 睡眠衛生指導
② 家族関係の調整
③ 抑うつ状態の評価
④ 身体イメージの評価
⑤ セルフ・モニタリングの導入
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解答のポイント
事例の様々な問題のつながりを理解し、最も優先して対応すべき事項を選択できる。
選択肢の解説
① 睡眠衛生指導
② 家族関係の調整
③ 抑うつ状態の評価
④ 身体イメージの評価
⑤ セルフ・モニタリングの導入
本問では、本事例において何が中核的な問題なのかが問われています。
Aが示している問題は以下の通りになります。
- 糖尿病の治療を受けているが、血糖値のコントロール悪化が起こっている。
- 多忙があり、深夜の暴飲暴食が増えた。
- 心配した妻との口げんかが多い。
- 1か月前から、未明に目が覚め、その後眠れないようになった。日中は疲労感が続き、仕事を休みがちである。趣味にも関心がなくなった。
これらのうち、いずれを最も優先的に対応していくべきか、もしくは、どの項目がAの中核的な問題(中核的な問題が他の出来事を誘発している)と言えるか、などを考えていくことが求められます。
これらを踏まえたときに、真っ先に除外して良いのが、選択肢④の「身体イメージの評価」になります。
この選択肢を見たときに「糖尿病でボディイメージに関する知見ってあったっけ?」と疑問に思いましたが、こちらの選択肢はおそらく「深夜に暴飲暴食」と紐づけられて設定されたと考えられます(糖尿病でボディイメージとなると、食生活の調整のために本人のボディイメージを査定したり、肢の切断などでボディイメージが…ということが多いかもしれません)。
「深夜に暴飲暴食」という記述を摂食障害の可能性を示唆するものと見なしたときに、摂食障害に見られるボディイメージの歪みを査定するために「身体イメージの評価」という項目が入ってくるわけですね。
しかし、「深夜に暴飲暴食」だけで摂食障害と見なすのはやや安直であり、その前後関係を考えれば他に優先すべき事項がありそうです。
仮に「身体イメージの評価」を「糖尿病における食生活の改善のためのボディイメージ」と捉えると、それは本人の暴飲暴食を改善するためのアプローチと言えますが、それでもやはり優先すべきは別の事項になります。
これと同じく、選択肢⑤の「セルフ・モニタリングの導入」についても、糖尿病を自己管理するために、血糖値を測定したり、歩数をカウントしたり、検査データを見ながら生活を振り返り、より良い方法を考えて実践していくために設定される方針になります。
確かに本事例では、血糖値コントロールができていないという大きな問題が見られます。
しかし、血糖値コントロールだけに目を向けるのではなく、不眠の存在、疲労感の継続、仕事を休みがち、関心の低下、なども重要な情報であり、これらは抑うつ状態を示唆する情報ですから、血糖値のコントロールだけではなく抑うつ状態を視野に入れた対応が求められます(そもそも抑うつ状態の改善と、血糖値コントロールの改善はつながりやすいですしね)。
むしろ、元々あった血糖値のコントロールの大変さに加え、多忙によって抑うつ状態が誘発されたと考えるのであれば、血糖値のコントロールに目を向けた対応は逆効果になることも予測することができます(客観的には必要なものであったとしても、本人の心理的負担を増加させることになりかねない)。
ですから、本事例の時点で「セルフ・モニタリングの導入」というのは第一選択になり得ないと考えられます。
さて、先述のように、本事例では抑うつ状態が生じていると考えられます。
1年前からの多忙により、元々できていた(と思われる)血糖値コントロールが不良になり、それが妻との関係にも影を落としていると思われます(妻との関係は、抑うつ状態による抑制のきかなさが影響している可能性も大きい)。
1か月前からの不眠も、経過を考えれば、糖尿病自体の問題よりも多忙によって生じてきた可能性が高いと考えられ、疲労感の継続、関心の低下などの明らかな抑うつ状態を招いていると考えられます。
つまり、抑うつ状態を基盤として、不眠や家族関係の悪化を招いていると考えることができますから、選択肢①の「睡眠衛生指導」や選択肢②の「家族関係の調整」を第一選択とするのは本質から外れた対応になりそうです。
不眠や家族関係の悪化が、抑うつ状態と関連して生じていると考えるのであれば、まずは抑うつ状態についてアプローチするために必要なことを実践していくことが求められます。
なお、薬物療法以外のアプローチで不眠を改善させようとする場合、不眠自体(睡眠衛生指導など)にアプローチするだけでなく、その他の生活全般の心身についてアプローチしていくことが重要です。
例えば、その人が罪悪感や恒常的なストレスを感じているような状況であれば、どれだけ「睡眠」だけを変えようとしてもうまくいかないことがほとんどであり、遠いようであっても生活全般のその人の過ごし方を見ていく、手を入れていくことが大切になるように感じています。
上記の通り、現状は不眠、疲労感の継続、関心の低下といった抑うつ状態について正しく評価し、対応していくことが大切であると考えられます。
抑うつ状態の改善によって、家族関係や睡眠状態の改善が期待できますし、それまで血糖値コントロールができていたのであれば、そちらの改善も期待したいところです。
抑うつ状態の評価によっては、多忙になっている仕事の調整ということになるかもしれませんし、仮に深夜の暴飲暴食が仕事のストレスで生じているのであれば、その辺の改善も考えられるかもしれませんね。
以上のように、現時点では選択肢③の「抑うつ状態の評価」が優先されると考えられます。
そもそも糖尿病で抑うつ状態は生じやすい問題であると言えます(本事例のような多忙がなかったとしても)。
抑うつ状態になると、例えば、ホルモンや自律神経など、からだの働きを調節するさまざまな機能に不具合が生じ、このうち、糖尿病に関係する変化としてインスリンの作用が弱くなる(インスリン抵抗性)が挙げられます。
そればかりではなく、抑うつ状態になると意欲や集中力が低下し、予約どおりに通院したり、薬を定められたとおりに服用するといった糖尿病の治療に必要な行動が行えなくなったり、健康的な食生活や身体活動量を保つことが困難になったりして、その結果、糖尿病をよりよくコントロールすることが難しくなる場合も少なくないのです。
このような状態が長期間続くと、高血糖や低血糖のために緊急に医療機関を受診する機会が増えたり、糖尿病の合併症が進みやすくなったり、健康なからだを維持していられる期間(健康寿命)が短くなったり、医療費の負担が増加したりするとも言われています。
これらの点を踏まえると、糖尿病の支援のためにも、抑うつ状態の査定は優先的に行われるべきということがわかりますね。
なお、実際の支援では、抑うつ状態の評価に加え、糖尿病の面にも何かしらのアプローチを行っていく可能性もあります。
また、それだけではなく、家族関係の調整等も同時に行ってくこともあり得るでしょう。
あくまでも、試験問題として「何を最も優先すべきか」という視点で言えば「抑うつ状態の評価」になりますが、実践では同時にいろいろやっていると考えておくことが大切です。
以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。