公認心理師 2021-93

WHOによる国際生活機能分類の説明に関する問題です。

こちらの問題については「ICF(国際生活機能分類)‐「生きることの全体像」についての「共通言語」‐」を一読しておくと解きやすかったですし、これを読んでおくとICFについて理解しやすいだろうと思います。

問93 世界保健機関〈WHO〉による国際生活機能分類〈ICF〉の説明として、正しいものを1つ選べ。
① 分類対象から妊娠や加齢は除かれる。
② 医学モデルと心理学モデルに依拠する。
③ 社会的不利が能力障害によって生じるとみなす。
④ 生活上のプラス面を加味して生活機能を分類する。
⑤ 心身機能・構造と活動が、それぞれ独立しているとみなす。

解答のポイント

ICFの概要を理解している。

特に改訂前との変更について理解していることが大切になる。

選択肢の解説

③ 社会的不利が能力障害によって生じるとみなす。

障害に関する国際的な分類としては、これまで、世界保健機関(WHO)が1980年に「国際疾病分類(ICD)」の補助として発表した「WHO国際障害分類(ICIDH)が用いられてきたが、WHOでは、2001年5月の第54回総会において、その改訂版として「ICF:International Classification of Functioning, Disability and Health」を採択しました。

ICFは、人間の生活機能と障害に関して、アルファベットと数字を組み合わせた方式で分類するものであり、人間の生活機能と障害について「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の3つの次元及び「環境因子」等の影響を及ぼす因子で構成されており、約1500項目に分類されています。

これまでの「ICIDH」が身体機能の障害による生活機能の障害(社会的不利)を分類するという考え方が中心であったのに対し、ICFはこれらの環境因子という観点を加え、例えば、バリアフリー等の環境を評価できるように構成されています。

このような考え方は、今後、障害者はもとより、全国民の保健・医療・福祉サービス、社会システムや技術のあり方の方向性を示唆しているものと考えられます。

上記の通り、本選択肢の「社会的不利が能力障害によって生じるとみなす」という考え方は、ICFの改訂前の「ICIDH」のものであることがわかります。

ICFの前身であるICIDH(国際障害分類、1980)が「疾病の帰結(結果)に関する分類」であったのに対し、ICFは「健康の構成要素に関する分類」であり、新しい健康観を提起するものとなっています。

生活機能上の問題は誰にでも起りうるものなので、ICFは特定の人々のためのものではなく、「全ての人に関する分類」となったわけですね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

① 分類対象から妊娠や加齢は除かれる。

生活機能低下を起こす原因のひとつとして「健康状態」がありますが、これは ICIDHでは疾患・外傷に限られていたのと異なり、ICFではそれらに加えて妊娠・加齢・ストレス状態その他いろいろなものを含む広い概念となっています。

妊娠や加齢は「異常」ではなく、妊娠はむしろ喜ばしいことであるが、これらは「生活機能」にいろいろな問題を起こしうるものだからです。

このことからも ICF が障害のある人などの特定の人々にのみ関係する分類ではなく、「すべての人に関する分類」になったことがよくわかりますね。

以上のように、ICFではその分類にあたって妊娠や加齢も含まれることがわかります。

こちらの資料の中にも、妊娠や加齢の記述がありますね。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 医学モデルと心理学モデルに依拠する。

ICFモデルの基本的な性格は、一言でいえば「医学モデルと社会モデルとを総合した統合モデルである」ということです。

ICF の基本である「生活機能を全体としてとらえる」ということは「「心身機能」「活動」「参加」の3つのレベルのどれにも偏らず、全体を見落としなくとらえる」ことです。

これは当然のことのように聞こえるかもしれませんが、実はこういう見方に到達するまでに、世界的にもかなりの年月を要しました。

それ以前に種々の考え方があって大きくは次の 2 つのモデルに分けられます。

  1. 医学モデル:障害を個人の問題としてとらえ、健康状態(病気、等)から直接的に生じるものであり、障害への対処は、治癒(一般医療)あるいは個人のよりよい適応と行動変容(リハビリテーション、等)を目標になされる。
    「心身機能」(および「健康状態(病気など)」)を過大視し、それによって「活動」も「参加」も決まってしまうかのように考え、また環境の影響も一部しか考えない見方である。
  2. 社会モデル:障害を個人の特性ではなく、主として社会によって作られた問題とみなす。したがって、この問題に取り組むには社会的行動が求められ、障害のある人の社会生活の全分野への完全参加に必要な環境の変更を社会全体の共同責任とする。よって、問題なのは社会変化を求める態度上または思想上の課題であり、政治的なレベルにおいては人権問題とされる。このモデルでは障害は政治的問題となる。社会的な「参加」と「環境因子」を過大視する傾向がある。

ICF はこれら両極端を総合し、それによって生物学的、個人的、社会的観点を総合した首尾一貫した見方を提供し、次の3点が大きな特徴とされています。

  1. すべてのレベルを重視:特定のレベルや要素(健康状態、環境因子など)を過大視せず、全体を見、全体的にとらえる。
  2. 相互作用を重視:生活機能の3レベルが互いに影響を与え合い、さらに一方では「健康状態」、他方では「環境因子」と「個人因子」がそれらと影響を与えあうという相互作用を重視する。但し「相対的独立性」をも忘れない。
  3. 「プラス面」から出発:プラス面を重視し、マイナス面をもプラス面の中に位置づけてとらえる。

このようにICFでは、生活機能のさまざまな観点の統合をはかる上で「生物・心理・社会的」アプローチを用いています。

したがって、ICFが意図しているのは1つの統合を成し遂げ、それによって生物学的・個人的・社会的観点における健康に関する異なる観点の首尾一貫した見方を提供することです。

以上より、ICFが「医学モデルと心理学モデルに依拠する」というのは正しい認識ではありません。

もともと、医学モデルと社会モデルという2つのモデルに沿って考えていたものを統合し、生物・心理・社会モデルという統合的に捉えていくというのがICFの考え方になります。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

④ 生活上のプラス面を加味して生活機能を分類する。

ICFは「生活機能」というプラスを中心として見ており、ICFの前身であるICIDHが「障害」というマイナス面だけに注目していたことに対して180度の転換ですが、これはもちろんマイナスを無視するものではありません。

ICFにおけるマイナス面は以下の通りとなっています。

  • 機能障害(構造障害を含む)(Impairment):「心身機能・構造」に問題が生じた状態
  • 活動制限(Activity Limitation) :「活動」に問題が生じた状態
  • 参加制約(Participation Restriction) :「参加」に問題が生じた状態

このように、ICFでもマイナス面を捉えてはいますが、その捉え方に違いがあります。

ICFとICIDHとのマイナスの見方の違いとして、ICF は各レベルでプラスを前提として、そこに問題が生じた状態(マイナス)をみるのであり、ICFでは「マイナスをプラスの中に位置づけている」ということが特徴と言えます。

上記にICIDHとICFの対比を示していますが、以下が根本的に異なる点となります。

  1. ICIDHはマイナスの3つのレベルの関係だけをみる。
  2. ICFは3つのレベルのそれぞれにおいてプラスとマイナスの両方をとらえ、同一レベルの中でのそれらの相互関係をみる。また異なったレベルの間のプラス同士、マイナス同士、またプラスとマイナスとの間の複雑な関係をみる。

このように、本選択肢の「生活上のプラス面を加味して生活機能を分類する」というのはまさにICFの特徴であるということが出来るわけです。

よって、選択肢④は適切と判断できます。

⑤ 心身機能・構造と活動が、それぞれ独立しているとみなす。

ICFは、「生活機能」の分類と、それに影響する「背景因子」(「環境因子」「個人因子」)の分類で構成されています。

そして生活機能に影響するもう一つのものとして「健康状態」(ICD で分類)を加えたのが「生活機能モデル」(下図)になります。

このような生活機能モデルとしてとらえることなしに、単なる分類として各項目をバラバラにみるだけでは ICF としての意味はないと考えられます。

生活機能の3レベル(「心身機能・構造」:心身の働き、「活動」:生活行為、「参加」:家庭・社会への関与・役割)はそれぞれが単独に存在するのではなく、相互に影響を与え合い、また「健康状態」・「環境因子」「個人因子」からも影響を受けます。

これを示すために ICFのモデル図では、ほとんどすべての要素が双方向の矢印で結ばれており、これが「すべてがすべてと影響しあう」という相互作用モデルです。

影響の仕方にはマイナスの影響もあればプラスの影響もあり、たとえば、環境因子の例として、点字ブロックは目の不自由な人にとってはプラスの効果があっても、歩行困難のある人にはマイナスになることもあるわけです。

この影響の与え合いの内容・程度は一人ひとりの例で皆違うのであり、どの要素がどの要素にどう影響しているのかを具体的に捉えることが重要です。

ただし、他の要素からの影響で全てが決まってしまうのではなく、各レベルには「相対的独立性」があることも忘れてはなりません。

「生活機能」には3つのレベル(階層)が設けられていますが、大事なのは各階層の間には、「相互依存性」と「相対的独立性」とがあるということです。

「相互依存性」とは、上記で既に述べている、生活機能モデルの各要素が互いに影響を与え合うということで、これは生活機能モデル図では矢印で示されています。

一方、「相対的独立性」とは、互いに影響は与えあうけれども、それぞれのレベルには独自性があって、他からの影響で全部決まってしまうことはないということを指しています。

もし他のレベルで全部決まってしまう、たとえば典型的な「医学モデル」の考え方ですが、心身機能・構造」レベルが決まれば、それで「活動」レベルも「参加」レベルもすべて決まってしまうのであれば、そもそも3つのレベルを分ける必要はありません。

そうではなく、それぞれのレベルにかなりの独自性があるからこそ、3つに分けて別々にみる必要があるということです。

このように、生活機能では「心身機能・構造」「活動」「参加」という3つのレベルを設けていますが、これらには「相対的独立性」があると同時に、「相互依存性」もあるということが示されています(ICFでは特に相互依存性が重視されていますね)。

本選択肢の「心身機能・構造と活動が、それぞれ独立しているとみなす」というのは、上記の相対的独立性の説明にはなっていますが、ICFにおける生活機能の捉え方には「相対的依存性」もありますから、この記述は適切な内容とは言えませんね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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