公認心理師 2020-107

精神保健福祉法における精神障害者の入院形態について問われています。

精神障害者の入院形態については非常に問題にしやすい内容ですから、各入院形態の内容がごっちゃにならないように理解しておきましょう。

問107 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉に基づく精神障害者の入院について、正しいものを1つ選べ。

① 応急入院は、市町村長の同意に基づいて行われる。

② 措置入院は、72時間を超えて入院することはできない。

③ 措置入院は、2名以上の精神保健指定医による診察を要する。

④ 緊急措置入院は、家族等の同意に基づいて緊急になされる入院をいう。

⑤ 医療保護入院は、本人と家族等の双方から書面による意思確認に基づいて行われる。

解答のポイント

精神保健福祉法の精神障害者の入院に関する規定を把握している。

選択肢の解説

まず基本的な知識として、精神保健福祉法で規定されている入院形態について把握しておきましょう。

【入院形態①:任意入院】

要約:本人の同意に基づく入院。人権擁護の点で基本の入院形態とされる。

特徴:入院の申し出があった場合は、管理者は退院させる必要がある。

ポイント:退院請求があっても、症状から退院はさせられないと精神保健指定医の診察・判断があれば、72時間を限度に退院を制限できる。大抵は72時間以内に医療保護入院等への切り替えを行う。

【入院形態②:医療保護入院】

要約:自傷他害の恐れはないが、家族等のいずれかの者の同意がある時は、本人の同意がなくても病院の管理者が入院させることができる。

家族等:配偶者、親権を行う者、扶養義務者、後見人又は保佐人該当者がいない場合は、市町村長の同意を要件とする。

ポイント:精神保健指定医による診察が必要!

【入院形態③-1:措置入院】

要約:自傷他害の恐れのある精神障害者に対して、都道府県知事の権限で行われる入院。

ポイント:通報があってから、職員の立会、家族等に対する診察日などの通知、2人以上の精神保健指定医の診察が必要。

退院要件:症状消退届(自傷他害の恐れが消失)を都道府県知事に提出。

【入院形態③-2:緊急措置入院(措置入院の特別な形態)】

緊急を要する場合(措置入院の正規の手続きを踏めない場合)、正規の手続きを省略して入院措置を取るための仕組み:文書やDr2名を待てない!

72時間に限って、精神保健指定医1名の診察に基づいて行う。

72時間以内に正規の措置入院手続き、他の入院形態への変更、退院のいずれかとなる。

【入院形態④:応急入院;「緊急医療保護入院」という感じ】

要約:精神保健指定医の診察の結果、自傷他害の恐れはないが、入院させないと本人の保護に著しい支障が生じる際、保護者の同意を得ることができない場合でも、本人の同意なしに、72時間に限り病院管理者の権限で入院させることができる。

これらを前提として、細かい規定等も以下の解説では見ていくことにしましょう。

① 応急入院は、市町村長の同意に基づいて行われる。

応急入院に関しては第33条の7に以下の通り規定されています。

厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院の管理者は、医療及び保護の依頼があつた者について、急速を要し、その家族等の同意を得ることができない場合において、その者が、次に該当する者であるときは、本人の同意がなくても、七十二時間を限り、その者を入院させることができる。

上記の通り、応急入院では「厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院の管理者」が入院させることができるということになっております。

なお、「市町村長」が出てくるのは医療保護入院です。

第33条第3項には以下のように規定されています。

精神科病院の管理者は、第一項第一号に掲げる者について、その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合において、その者の居住地を管轄する市町村長の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。第三十四条第二項の規定により移送された者について、その者の居住地を管轄する市町村長の同意があるときも、同様とする。

医療保護入院では、本人の同意がなくても家族の同意があれば入院させることができるという入院形態ですが、家族の意思表示が困難な場合においては市町村長の同意によって入院させることができます。

このように、本選択肢は応急入院の内容に医療保護入院の規定を混ぜ込んで作られたものであると言えますね。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

② 措置入院は、72時間を超えて入院することはできない。
③ 措置入院は、2名以上の精神保健指定医による診察を要する。
④ 緊急措置入院は、家族等の同意に基づいて緊急になされる入院をいう。
⑤ 医療保護入院は、本人と家族等の双方から書面による意思確認に基づいて行われる。

措置入院については、第29条第1項に規定があります。

  1. 都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。
  2. 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。
  3. 都道府県知事は、第一項の規定による措置を採る場合においては、当該精神障害者に対し、当該入院措置を採る旨、第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。
  4. 国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、病床に既に第一項又は次条第一項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、第一項の精神障害者を入院させなければならない。

このように、措置入院では2名以上の精神保健指定医による診察が必須とされています。

選択肢③の根拠はこちらになりますね。

「措置入院」に関しては、入院期間に関して規定はありませんが、急を要する場合には「緊急措置入院」という形態をとって入院させることになります。

こちらについては第29条の2に規定があります。

  1. 都道府県知事は、前条第一項の要件に該当すると認められる精神障害者又はその疑いのある者について、急速を要し、第二十七条、第二十八条及び前条の規定による手続を採ることができない場合において、その指定する指定医をして診察をさせた結果、その者が精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人を害するおそれが著しいと認めたときは、その者を前条第一項に規定する精神科病院又は指定病院に入院させることができる
  2. 都道府県知事は、前項の措置をとつたときは、すみやかに、その者につき、前条第一項の規定による入院措置をとるかどうかを決定しなければならない。
  3. 第一項の規定による入院の期間は、七十二時間を超えることができない。
  4. 第二十七条第四項及び第五項並びに第二十八条の二の規定は第一項の規定による診察について、前条第三項の規定は第一項の規定による措置を採る場合について、同条第四項の規定は第一項の規定により入院する者の入院について準用する。

このように、緊急措置入院は「都道府県知事」が行うものであり、精神保健指定医「1名」の診察によって判断が可能で、入院期間は「72時間」を超えることはできません。

ですから、この72時間の間に正規の措置入院手続き、他の入院形態への変更、退院のいずれかの判断になるわけです(「急を要する」入院なわけですから、退院ということはないのでしょうけど)。

すなわち、選択肢②の内容は「措置入院」ではなく「緊急措置入院」の72時間という制限を混ぜ込んだものと言えますね。

また、緊急措置入院の判断を行うのは都道府県知事ですから、選択肢④の内容は誤りと言えますね。

選択肢④にある「家族等の同意に基づいて緊急になされる入院」は、「医療保護入院」となります。

こちらについては、第33条に以下のように規定があります。

精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。

    1. 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
    2. 第三十四条第一項の規定により移送された者

この通り、選択肢④の内容は医療保護入院のことを指していることがわかりますね。

また、選択肢⑤の「本人と家族等の双方から書面による意思確認に基づいて行われる」ですが「医療保護入院」の説明としては誤っております。

上記の通り、「家族等のうちいずれかの者の同意」によって可能なのが「医療保護入院」ですね。

「書面による意思確認」については、任意入院で行われていることです。

任意入院については、第21条に以下のように規定されています。

精神障害者が自ら入院する場合においては、精神科病院の管理者は、その入院に際し、当該精神障害者に対して第三十八条の四の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせ、当該精神障害者から自ら入院する旨を記載した書面を受けなければならない。

こちらでは「当該精神障害者から」とだけありますから、選択肢⑤の「本人と家族等の双方から」というのは任意入院には該当しない部分と言えますね。

ほかの規定でも書面で知らせる旨はありますね(例えば、医療保護入院において都道府県知事が退院の要件を記した書面を提示する等)。

以上をまとめると…

  • 選択肢②:措置入院ではなく、緊急措置入院の内容(72時間を超えて入院できない)になっている。
  • 選択肢④:緊急措置入院ではなく、医療保護入院の内容(家族の同意でOK)になっている。緊急措置入院は都道府県知事が行う。
  • 選択肢⑤:医療保護入院ではなく、任意入院っぽい内容(任意入院は本人だけで良いが、選択肢は家族も入っている)である。医療保護入院は家族等の同意で良い。

…といった形で、様々な入院形態の正確な理解が求められている内容になっていますね。

以上より、選択肢②、選択肢④および選択肢⑤は誤りと判断できます。

また、選択肢③が正しいと判断できます。

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