災害発生後の「被災者のこころのケア」について、正しいものを1つ選ぶ問題です。
それにしても災害支援に関する問題が多かったですね、今回は。
こちらは内閣府が出している「被災者のこころのケア都道府県ガイドライン」を参考にしつつ解いていきます。
上記のように問題文で括弧書きにされている部分は、何かしらの公的な資料の存在を感じますね。
解説中の引用は上記の資料となります。
解答のポイント
「被災者のこころのケア都道府県ガイドライン」の内容を把握していること。
選択肢の解説
『①ボランティアが被災者を集め、被災体験を語ってもらう』
上記資料の「ボランティア向けパンフレット」では、被災者のこころのケアの重要な担い手となるボランティア向けにパンフレット形式でまとめてあります。
その中の「気をつけるべきこと」に以下のような記載があります。
- デブリーフィングは行わないのが基本です
デブリーフィングとは、大災害等を経験した方を集めたグループディスカッションなどで被災の状況等について語らせることです。
デブリーフィングは誤った方法で行われると害になること、また、正しい方法で行っても利益がないことがわかっています。
無理に話を聞き出すことはしないようにしましょう。
ただし、被災者が話をしたがっていることがあります。このような場合はいつでも耳を傾けるようにしましょう。 - あなた自身のこころの健康を確保しましょう
少しでも役に立ちたいとの思いから、普段以上に気負ったり、無理を重ねることがあります。ボランティアの皆さんにもストレス反応が起こることがあります。
休息・休養はよりよい支援のためにも重要です。
休む時間があまりとれなくても、できるだけほっとする時間を持つようにしましょう。
上記の通り、選択肢では逆の内容が記載されていることになります。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。
『②避難所などにおける対象者のスクリーニングは、精神科医が実施する』
発災後の避難所等におけるこころのケア対象者のスクリーニングについては、「市町村のこころのケア担当や市町村の保健センターの保健師が中心となり実施します」とされています。
そして「スクリーニング結果は、派遣されたこころのケアチームに引き継ぎ、適切な医療
機関への紹介、市町村保健センターによる継続的ケア等のスムーズな連携を実現します」となります。
すなわち、まずは保健師によるスクリーニングを行い、そこからより専門的なチームにつなげていくという順序となります。
よって、選択肢②は誤りと言えます。
『③支援者のストレス反応に対しては、役割分担と業務ローテーションの明確化や業務の価値づけが有効である』
上記資料より、以下のような箇所がありますので転記します。
被災者のケアにあたる支援者は、自身が被災者であることも多く、また外部から入った支援者についても、災害体験を被災者から聴く過程や悲惨な状況を目撃することで精神的打撃を受け、こころや身体に様々なストレス反応がでることがあります。
また、人手が足りない、情報がうまく得られない、被災者からやり場のない怒りをぶつけられるといったこともストレスの原因となります。
こうしたストレスにより、被災者と同様、支援者には以下のような反応が生じることがあります。
- 熟睡できない、眠れない等の睡眠障害
- 動悸、胸痛、胸苦しさ
- ものごとに集中できない
- 気分の落ち込み
- イライラしやすくなる
- 涙もろくなる
- 食欲不振/食欲過多
- 疲れやすくなる
- 強い罪悪感を持つ
- 無力感を感じる
- 頭痛や胃腸の調子が悪い等の身体症状
こうした状況に対しては、以下のような組織的取組、個人的取組が有効とされています。
以下が組織的取組に該当します。
- 役割分担と業務ローテーションの明確化
業務内容や責任範囲、活動期間、交替時期をできるだけ早期に明示します。 - 支援者のストレスについての教育
災害時に支援者にも不安や抑うつの反応が生じることは恥ずべきことではなく、適切に対処すべきであることを教育しておくことが有効です。 - 住民の心理的な反応についての啓発
支援活動において、住民からの心理的な反応(怒りや不安などの感情)が支援者に向けられることがあることを予め理解しておくことも重要です。 - 支援者の心身のチェックと相談体制
心身の変調についてのチェックリストを支援者本人に手渡すなどし、自己管理を促すとともに、必要があれば健康相談を容易に受けられるようなカウンセリング体制を整えることも必要です。 - 業務の価値付け
組織の中でしかるべき担当者が、支援活動の価値を明確に認め、労をねぎらうことが重要です。
以下が個人的取組に該当します。
- 仲間同士の協力
自分だけでなんとかしようと気負わずに、自分の限界を知った上で、仲間と協力し、お互いに気をつけ合い、声を掛け合いながら活動することが大切です。 - 仲間とのコミュニケーション
情報交換の時間を定期的に持ち、その日の体験を仲間同士で話し合うなど、仲間とのコミュニケーションを密にしましょう。 - 仕事にめりはりを
交替時間を守り、働き過ぎを避け、休息は十分とりましょう。家族や友人と過ごせる時間の確保し、仕事のことを考えない時間を作ることも重要です。
以上より、選択肢③の内容は正しいと判断できます。
『④避難所などにおけるコミュニティ形成について経験のあるNPOへの研修を迅速に行い、協力体制を整備する』
選択肢の内容は、上記資料における「コミュニティにおけるこころのケアの広報(発災前)」にて示されております。
その内容は以下の通りです。
- 関連 NPO 等のリストアップと市町村における研修によるノウハウの共有
都道府県担当部局として避難所等におけるコミュニティ形成について経験のある NPO等をリストアップします。
また、市町村においては、リストアップした NPOのキーパーソンによる避難所・仮設住宅担当部局・避難所責任者(予定者)に対する研修を開くなどして、避難所等におけるコミュニティの形成方法等についてのノウハウを共有します。 - 広報内容の検討・広報の実施
地域に対するこころのケアの方法についての広報内容を検討します。
上記の検討を踏まえて、地域に対するこころのケアの方法についての広報を実施します。
以上より、選択肢の内容は「災害発生後」ではなく「発災前」のものとなります。
よって、選択肢④は誤りと言えます。
ちなみに上記資料には、「避難所・仮設住宅等におけるコミュニティの維持回復や再構築について」が示されております。
そして、大きく分けて「自発的なコミュニティ形成を促す取組」と「行政やボランティアなどによるコミュニティ形成の仕掛け作り」が明示されています。
以下に避難所での取り組みを中心に抜粋していきます。
自発的なコミュニティ形成を促す取組としては以下の通りです。
- 「居心地の良い居場所」の設置
- 被災前の生活環境の維持
- 避難所の運営・役割分担を通じた避難住民同士のコミュニケーション促進
- 避難所における自治活動が活発化するような「仕掛け」の実施
そして、これらの活動におけるNPOの役割については以下のように示されております。
- 同避難所における以上のような活動は、経験の豊富な NPO 団体が支援に入っていたこと以外にも、阪神・淡路大震災、中越地震その他の自然災害を経て、その他の災害支援 NPO 団体、ボランティア団体でも、同様の取組がある程度はできる状況になってきていると考えられます。
- 例えば国の取組では、内閣府の「防災ボランティア活動検討会」が平成 16 年度以降開催されており、これを通じて全国 40 団体程度のボランティア拠点が横の繋がりを構築し、情報共有を図っています。
- このうちの一つの団体にでもアクセスできれば、そこからの繋がりを通じた支援を受けることが期待できます。
『⑤悲嘆が強くひきこもりなどの問題を抱えている被災者を「見守り必要」レベルとして、地域コミュニティのつながりで孤立感を解消する』
上記資料の「ケアの必要性に応じた適切なケアの提供」の項では、「こころのケアレベルの考え方」が示されております。
こちらは被災者の特性に応じて「一般の被災者」レベル、「見守り必要」レベル、「疾患」レベルの 3 段階に分けられます。
- 「一般の被災者」レベル
「一般の被災者」レベルの方へのこころのケアでは、地域コミュニティの維持回復・再構築が非常に効果的です。復興期においてはコミュニティの力を活用し、できるだけ多くの被災者が「お互いにつながっている」という実感を得られるようにする必要があります。
そもそも人は社会的存在であり、人と人とのつながりやネットワークにより孤立感を解消することで、こころの健康度が向上するものです。
特に、復興期においてはコミュニティの力を活用し、できるだけ多くの被災者が「お互いにつながっている」という実感を得られるようにする必要があります。 - 「見守り必要」レベル
このレベルでは、ケアを行わないと「疾患」レベルに移行する可能性が高い被災者や、悲嘆が強く引きこもり等の問題を抱えている被災者を対象として、これらの被災者に対する傾聴、アドバイス等のこころのケアを実施します。
また、医療ケアの必要性について判断し、必要に応じて医療機関や精神科医が含まれるこころのケアチームの紹介や、地域コミュニティへの引き継ぎを行うことが求められます。
このレベルのサービスについては、保健師、精神保健福祉士、こころのケアに関する短期の訓練を受けた医師・看護師によるケアが想定されます。 - 「疾患」レベル
このレベルにおいては、発災により医療ケアが必要と判断された被災者や発災前から精神疾患を持つ患者への処方・投薬等の精神科医療ケアが含まれます。
また、必要に応じて入院治療等も必要となりますが、被災地で精神科病院の機能が喪失している場合は、遠隔地への入院手配等も行うことが求められます。
以上より、選択肢前半の「悲嘆が強くひきこもりなどの問題を抱えている被災者を「見守り必要」レベル」とするのは適切といえます。
一方で、「見守り必要」レベルの被災者への支援として「地域コミュニティのつながりで孤立感を解消する」という選択肢後半の内容は瑕疵があります。
「見守り必要」レベルでは、上記の通り専門家の支援が必要となってきます。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。