公認心理師 2018-93

災害時の支援について、正しい選択肢を選ぶ問題です。
サイコロジスト・ファーストエイドを中心に解説を書いていきます。

サイコロジスト・ファーストエイドについては問1でも出ており、登場回数が多くなっております。
やはり、災害支援については重要なトピックスと考えられているということかもしれないですね。

解答のポイント

サイコロジスト・ファーストエイドの内容を把握していること。
災害支援の歴史的な流れについて理解していること。

選択肢の解説

『①被災直後の不眠は病的反応であり、薬物療法を行う』

被災者の傷つきにはさまざまであるが、以下のように分けることができます。

まずは「災害体験それ自体による衝撃」です。
災害時の強い衝撃に直面した時には、交感神経が過覚醒状態になるため、不安・恐怖が高まり自体の全体がつかめなくなります。
恐怖を感じる刺激に注意が集中し、かつ記憶が亢進して、その場の情景や恐怖感が強く刻み込まれます。
こうした強い衝撃の体験は、意欲の減退、抑うつ気分、不安、不眠、食欲の低下、不注意などを生じさせます

また「悲嘆、喪失、怒り、罪責」もあります。
災害直後の衝撃から、次第に失われた家財や死傷および将来への不安など現実的な問題が浮かび上がってきます。
また自分に落ち度があるように感じたり、サイバーズギルトを生じることもあります。
自分がそのような運命に陥ったことへの怒りが、援助者に向けられることもあります。

さらに「社会・生活ストレス」も生じます。
これは新しい環境に入るにあたってのストレスです。
具体的には種々の心身の不調、不定愁訴、不眠、苛立ちなどが増加します。
プライバシーの確保、生活環境の調整、子どもや老人、感染症対策が重要です。

上記からも読み取れるように、また、心的外傷における反応の表現として「異常な状況下での正常な反応」とされるように、災害時の不眠などの反応は病的なものではなく、正常な生物としての反応と見るのが適切です。

もちろん支援として、不眠が続き、それがその人の日常生活や精神生活に大きな支障をきたしていると判断されるなら薬物療法も取りうる手段の一つです。
ただし、まずは通常の援助活動を入念に行うことが最善の方法とされています。
被災者の現実的な不安に対応し、その原因となっている生活上の困難をできる限り軽減するような援助を行うことが重要です。
不眠の支援については、まずは安心して睡眠をとることができる状況の確保が最優先になります。

夜寝にこだわらない等、詳しい対応についてはこちらに記載がありましたので、ご参照ください。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②被災者に対する心理的デブリーフィングは有効な支援である』

心理的デブリーフィングは、災害直後の数日から数週間後に行われる急性期介入であり、ストレス反応の悪化とPTSDを予防するための方法であると主張され、各国に広められたが、PTSDへの予防効果は現在では否定されており、かえって悪化する場合も報告されています

トラウマ的体験を話すように促し、トラウマ対処の心理教育を行うものだが、有害な刺激を与え、自然の回復過程を阻害する場合があります。

欧米では、消防士や警察官、軍人などに対して頻繁に行われています。
急性期に援助的な配慮で被害者を包むことは必要であるが、体験の内容に踏み込んで感情の表出を促す必用は無いとされています。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

『③危機的な状況で子どもは成人よりリスクが高く、特別な支援を必要とする』

心理的応急処置(サイコロジスト・ファーストエイド)は、災害やテロの直後に子ども、思春期の人、大人、家族に対して行うことのできる効果の知られた心理的支援の方法です。

こちらのフィールド・ガイドの中に、「特別な注意を必要とする可能性が高い人」として子ども(青年を含む)が挙げられています
その理由としては以下の通りです。

  • 危機的な出来事によって、安心感を与えてくれる人々や場所、日課などのような、馴染んできた世界を壊す。
  • 性暴力、虐待、搾取の危険が高い。
  • 子どもは生きていく上での基本的ニーズを自ら満たすことができない。
  • 幼い子どもは自分の周りで何が起こっているのか分かっておらず、保護者の支えが特に必要とされている。
また、「子ども特有のストレス反応」や「保護者が子どものためにできること」「子どものために言うべきこと、すべきこと」などの項目が設けられ、具体的に記載されています
支援を行う上では、非常に重要な内容となっています。
以上より、選択肢③は正しいと判断できます。

『④被災者の悲観的な発言には、「助かって良かったじゃないですか」と励ます』

繰り返しますが、心理的応急処置(サイコロジスト・ファーストエイド)は、災害やテロの直後に子ども、思春期の人、大人、家族に対して行うことのできる効果の知られた心理的支援の方法です。

こちらのフィールド・ガイドの中に、「言ってはならないこと、してはならないこと」が列挙されています。
この中に「被災者がしたことや、しなかったこと、あるいは感じていることについて価値判断をしてはいけません」とされており、「そんなふうに思ってはいけませんよ」「助かって良かったじゃないですか」は禁句であることが明記されています。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

『⑤被災者から知り得た情報は、守秘義務に基づき、いかなる場合も他者に話してはならない』

支援全般において、相手のプライバシーを守り、秘密を守ることが重要です。
しかし、先ほどから示している心理的応急処置のフィールド・ガイドの中に「プライバシーを尊重し、相手の秘密を守りましょう(やむを得ない場合を除く)」とあります。

この「やむを得ない場合」は、例えば自傷他害などの事態が考えられます。
現任者講習会テキストの「秘密保持の例外状況」では、以下が示されています(p28)

  1. 明確で差し迫った生命の危険があり、攻撃される相手が特定されている場合。
  2. 自殺等、自分自身に対して深刻な危害を加えるおそれのある緊急事態。
  3. 虐待が疑われる場合
  4. そのクライエントのケア等に直接かかわっている専門家同士で話し合う場合
  5. 法による定めがある場合
  6. 医療保険による支払いが行われる場合
  7. クライエントが、自分自身の精神状態や心理的問題に関する訴えを裁判等に提起した場合
  8. クライエントによる明示的な意思表示がある場合
これらの場合においては、守秘義務を超えて支援を行うことを視野に入れる必要があります。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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