公認心理師 2018-149(修正・最終版)

問149については、設問に誤りがあると思っていましたが、選択肢③が正答であると発表されました。
よって、以前の解説にあった選択肢①、選択肢②、選択肢④が「不適切」と考えた判断について修正を行っていきます。

解説を作り直してみると、自分が依存症関連障害の治療を行っていた際のうまくいかなさなどが、ずいぶん影響していたのがわかります。
また「底つき体験」に対する偏った知見を頭に入れていたので、それが歪みを生んだようにも感じています。

いずれにせよ、きちんと文献にあたりながら再度解説を試みました。

選択肢①を「適切」とする根拠

臨床精神医学講座8 薬物・アルコール関連障害」には、治療に関して以下のような記載があります。

  • 本人に飲酒問題について話しかける一番良いタイミングは、例えば飲酒による深刻な家庭内問題、警察沙汰、仕事上の問題、身体障害などが生じた後である。
  • 飲酒が問題であることを具体的に指摘し、治療を求めることを勧める。
  • 本人が頑固に従来通りの飲酒を続けるのであれば、飲酒による被害から家族は自分の身を守るために今後行動を起こすことをはっきりと宣言しておく。
  • 一方、本人が治療を求めるならば、家族はできるだけのサポートをすることも伝えておく。

これらの指摘は、選択肢のように「Aに問題を認識させる」という方法の重要性を示していると言えます。

この点については選択肢④にも記載しますが、企業側にも求められる対応です。
企業側に問題飲酒に対する一貫したアプローチが存在しないことが多いことが指摘されており、雇用する側の条件や治療を受けた場合の見通しなどを伝えることの重要性が述べられています。

そして本人を説得するような方法論として、一対一の面接または診察形式で対象者を説得し、治療に導くコンサルテーションと、対象者の問題に直接関わったことのある複数の人が一堂に会し、いたわりのメッセージを示しつつ、本人に問題を直面化させて治療を促すインターベンションがあるとされています。
本選択肢は後者に該当しますね。

よって、選択肢①は適切と判断できます。

選択肢②を「適切」とする根拠

アルコール依存症の治療においては、本人の動機づけが重要とされています。
いわゆる「底つき体験」によるアプローチや、家族コミュニケーションの変化を通して本人を誘うというアプローチ(たとえばCraft:治療を受け入れやすい環境を作ることによって、自ら治療を選んでもらう)など、様々な支援法はありますが、これらはあくまでも動機づけを損なわないようにしたり、高めようとするための工夫と言えます。

本選択肢のように「治療を受ける意向がある場合」というのは、支援の第一歩として良い状態であると言えます。
ここで家族や企業がどのように接するかは選択肢②および④に記載してありますので、ここでは選択肢後半の「合意事項を確認し、Aと約束する」というアプローチについて考えていきます。

本人の合意については、動機づけを重視するのであれば外せないところだと言えます。
合意事項としてはどのようなことが考えられるでしょうか。
例えば、これ以上飲酒すれば入院すること、定期的な治療を受けること、治療の進み具合を報告すること、などでしょうか。
もしかしたら治療内容についての合意も含まれるかもしれませんね。

ここでの合意事項の中に、飲酒をした場合、Aが不利になるような内容も含まれている可能性があります。
大切なのが合意事項が破られたら、きちんとそれを実行することです。
合意事項は脅しではなく、事実確認という意味合いが大切になります。

この辺は家庭内暴力事例でも同じような場面があって、例えば、「これ以上物を壊したり、暴力を振るうならば警察を呼ぶ」と伝え、なおかつ暴力等が止まなければ、きちんと警察を呼ぶ必要があります。
暴力は堅密な二者関係を生じさせやすく、悲惨な結果に至った事例ではこの二者関係に歯止めがかからなくなっています。
第三者を入れるということは、支援の上でとても重要です。
(この辺は斎藤環先生がわかりやすく述べられております)

ただし、約束事項は破られても、そのことに塩を塗るような対応は控えた方が良いでしょう。
中井久夫先生は「3か月は3か月の価値、1年は1年の価値」として、アルコール依存症者に対しては「ことばを信ぜず行動を信じる」としております。
3か月飲まなかったからといって明日飲まないわけではないということ、このことは支援者にとっても大事な認識だと思います。
飲むたびに、約束を破るたびに怒っていては支援にならないでしょう。

以上より、選択肢②は適切と言えます。

選択肢④を「適切」とする根拠

難治性精神障害へのストラテジー」では、いわゆる「底つき体験」について記載があります。
これは本人に飲酒問題に直面させて、飲酒によりどん底を味わったと感じることで治療意欲を生じさせる方法です。
選択肢④の「治療しなければ降格や失職の可能性も考えねばならないことを伝える」というのは、こうした状況にまでなっていることをAに伝えることで、治療意欲を引き出す狙いがあると思われます。

一方で、イネイブラー(支え手:飲酒問題の直面を難しくさせる対応をしている人々)の行動を止めさせ、底つき体験を推奨する中で、有効な底つき体験に至らず、より重大な障害や死に至ることがあり、援助者の中でも闇雲に底つき体験を重要視することに疑問が呈されてきました
最近は、否認を否定せず、問題の直面化も強調せず、共感的に接して患者とともに達成可能な目標を立てて成功体験を積み重ねていく方法が示されています。

しかし、症例によっては底つき体験を有効に使え、イネイブラーへの指導が必要な場合も少なくなく、援助者や治療者が底つき体験・イネイブラーについて理解しておくことは重要とされています。

「臨床精神医学講座8 薬物・アルコール関連障害」にも、「企業にとって大事なことは、問題飲酒者のプライバシーを尊重する一方、継続雇用を保証するには本人が治療を受けて問題を解消することが条件であることを通告しておく」とあります。
その上で、「治療中は医療機関とできる限り協力し、本人の仕事への復帰を図る。2、3年は外来通院が必要であることの了承を取る必要がある」とされています。

以上より、選択肢④は対応として適切なものの一つと言えます。

以前の解説を作成した時には、こうした「底つき体験」への有効性に疑問が呈されているという知見のみが頭にあったので誤った判断をしたと思われます。

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