公認心理師 2018-124

巨大な自然災害の直後におけるサイコロジカル・ファーストエイドについて、適切なものを2つ選ぶ問題です。

サイコロジカル・ファーストエイド (PsychologicalFirst Aid:以下、PFA)は、極度のストレスをもたらす出来事の直後にどのような支援を行うべきかについて、最新の科学と国際的な合意を反映したものです。

ここでの解説は、サイコロジカル・ファーストエイド:PFAから引用しつつ行っていきます。

解答のポイント

サイコロジカル・ファーストエイド (PsychologicalFirst Aid:PFA)を把握していること。

選択肢の解説

『①被災者の周囲の環境を整備し、心身の安全を確保する』

責任をもって支援するためには「安全、尊厳、権利を尊重する」ことが重要とされており、「できる限り支援を受ける大人や子どもの安全を確保し、彼らが身体的・精神的に傷つけられないようにする」とされております。

それ以外にも選択肢と関連する記載が多く見受けられます。

  • こうした被災者の気持ちを理解し、落ち着いて受け止めることが、人びとが安全感と安心感を取り戻し、自分たちが理解され、尊重され、思いやられていると感じるための手助けになります。
  • 可能ならば安全で静かな場所を見つけて話をする
  • 差し迫った危険から遠ざける。そのことでかえって危険が生じないように気をつける
  • プライバシーと尊厳を守るために、メディアにさらされることから保護するように努める
  • 深刻なストレス反応を示している人の場合には、一人にしないように気をつける
またPFAには支援者の安全の確保についても繰り返し述べられており、支援者が安全でなければ、安定した支援が行うことが難しいことが示されております。
よって、選択肢①は正しいと言えます。

『②被災者は全て心的外傷を受けていると考えて対応する』

PFAでは、「危機に対する反応は、人によってさまざま」とされており、危機に対するストレス反応の例を次のように示しております。

  • 身体症状(震え、頭痛、ひどい疲労感、食欲不振、痛みや疼きなど)
  • 泣く、悲しみ、抑うつ気分、悲嘆
  • 不安、恐怖
  • 「警戒」する、「びくっ」とする
  • 何か本当にひどいことが起こると不安に思う
  • 不眠、悪夢
  • いらだち、怒り
  • 罪悪感、恥(生き残ったことや他の人を助けたり守ったりしなかったことなどに対して)
  • 混乱、感情の麻痺、現実感の喪失、ぼんやりしている
  • ひきこもっているように見える、身じろぎしない(動かない)
  • ほかの人に反応しない、まったく話さない
  • 見当識障害(自分の名前がわからない、自分がどこから来たのか、何が起きたのかわからないなど)
  • 自分や子どものケアができない(食べない、飲まない、簡単なことも決められないなど)

そして「このような症状が軽い人もいれば、まったくない人もいます」とされています。
生きていく上での基本的ニーズが満たされ、周囲の人からの手助けや PFA などの支援が得られれば、ほとんどの人は時間が経つにつれて回復します
ただし、苦痛が重かったり長引いたりする人に対しては、PFA だけではなく、さらなる支援が必要になることもあります。

上記からもわかるように、PFAの活動原則では心的外傷への支援が中心に置かれているわけではなく、あくまでも「深刻なストレス反応を示す人の確認」に留まっています
より専門的な支援が必要な人を見極め、次につなぐことを重視しているわけです。

よって、選択肢②は誤りと判断できます。

『③被災体験を詳しく聞き出し、被災者の感情表出を促す』

PFAには「PFA は「心理的デブリーフィング」に代わるものです。「心理的デブリーフィング」には有効性がないことがすでに実証されています」とされています。

被災者のこころのケア都道府県ガイドライン」には以下のように記されています。

  • デブリーフィングは行わないのが基本です
    デブリーフィングとは、大災害等を経験した方を集めたグループディスカッションなどで被災の状況等について語らせることです。
    デブリーフィングは誤った方法で行われると害になること、また、正しい方法で行っても利益がないことがわかっています
    無理に話を聞き出すことはしないようにしましょう。
    ただし、被災者が話をしたがっていることがあります。このような場合はいつでも耳を傾けるようにしましょう。

特に本問は「被災直後」という条件が付いております。
このような状況で心理的デブリーフィングは行わないことが基本と言えます。

今回の公認心理師試験では、本当にこの点が繰り返されていますね。
災害支援時に弁えてほしい点ということなのでしょう。

以上より、選択肢③は誤りと言えます。

『④食糧、水、情報など生きていく上での基本的ニーズを満たす手助けをする』

PFAとは、苦しんでいる人、助けが必要かもしれない人に、同じ人間として行う、人道的、支持的な対応のことです。
PFA には次のようなことが含まれます。

  • 実際に役立つケアや支援を提供する、ただし押し付けない
  • ニーズや心配事を確認する
  • 生きていく上での基本的ニーズ(食料、水、情報など)を満たす手助けをする
  • 話を聞く、ただし話すことを無理強いしない
  • 安心させ、心を落ち着けるように手助けする
  • その人が情報やサービス、社会的支援を得るための手助けをする
  • それ以上の危害を受けないように守る

選択肢の内容は、上記の箇所を転記したものと言えます。
それ以外にもPFAの活動原則を記した箇所には「生きていく上での基本的なニーズが満たされ、サービスが受けられるよう手助けする」とあります。

それ以外にも情報に関する箇所はPFAの中で多く見受けられます。

  • もし事実についての情報があるなら伝えてください。知っていること、知らないことを正直に話しましょう。
  • 相手が理解できるような方法で、情報を簡潔に伝えましょう
これらの記載は、生きていく上での基本的ニーズが満たされない限り、心理的援助サービスを受ける状態になりにくいことを示しています。
支援者はこの点に留意し、こうした基本的ニーズを満たすことが、心理支援につながると考え、従事することが重要です。
よって、選択肢④は適切と言えます。

『⑤被災者のニーズに直接応じるのではなく、彼らが回復する方法を自ら見つけられるように支援する』

PFAには以下のような記載があります。

  • 危機的な出来事が起きた後、人びとはよりリスクが高い立場に立ったり、孤独感や無力感に襲われたりすることがあります。
  • 状況によっては日常生活に支障が生じます。
  • それまでは普通だった援助が得られなくなったり、急にストレスの多い生活環境におかれたりするかもしれません。
  • 被災者を実際に役立つ支援につなぐことが、PFA の主要な役割です。
  • PFA は、たいていは 1 回限りの介入であり、あなたが援助のために現場にいるのは短い期間にすぎないことを忘れないでください。
  • 被害を受けた人びとが長期的に回復するためには、自分自身の能力を発揮して問題に対処していくことが必要となります。

PFAにも「本当の意味での回復は現地に留まり続ける人びとの力によって、何よりも本人の力によって成し遂げられるものです」とされております。
しかしそれは、中長期的な支援の中で行われることであり、災害直後の支援であるPFAでは、「彼らが回復する方法を自ら見つけられる」段階まで回復するための支援というものだと捉えられます

よって、選択肢⑤は誤りと言えます。

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