公認心理師 2018追加-95

災害発生後早期の支援について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。

この問題文を読んで、サイコロジカル・ファーストエイド(PFA)を連想できることが大切です。
「First Aid」ですからその対象は、「重大な危機的出来事にあったばかりで苦しんでいる人々」になります。
2018年9月9日実施の試験では複数出題されていましたし、追加試験でも出題されたということになります。
確実に押さえておきたい項目です。

解答のポイント

災害初期の支援について、特にPFAを中心に把握していること。

選択肢の解説

『①身体に触れて安心感を与える』

PFAの「言ってはならないこと、してはならないこと」として、「適切であることを確信できない場合には、相手の体に触れてはいけません」と明記されています

また「身体に触れる」という行為は、異文化において特に注意が必要であることもPFAに記載されています
異文化におけるPFAの注意事項の一つにも挙げられており、以下のような点が記載されています。

  • 身体に触れることについての習慣はどうか
  • 手を握ったり、肩に触れても構わないか
これらについては注意が必要とされています。
文化人類学者はその文化に入り、生活を共にする中で、その文化を描き出していくのですが、その際「宗教がわからないと恐ろしい」らしいです。
我々にとって普通の行いが、相手の文化では非常に大きな意味を持つこともあり、何気ない行動の瞬間に刃がきらめくことも起こり得ます。
身体に触れるという行為は、その文化や宗教によって持つ意味が変わってきます
そういったことも踏まえた支援が重要になりますね。
また、そもそも心理支援で身体に触れるということの意味を考えておくことが大切です。

心理支援において身体に触れることが絶対にありえないかと言われれば、その置かれた状況によって「絶対にあり得ないとは言えない」と返さざるを得ません。

言うまでもなくカウンセリングにおいて身体接触は禁止されています(臨床動作法などの場合は話が別ですから混同させないように)
例えば、泣いている人の頭をなでる、という行為についても、それが成人であれば当然、子どもであっても行わないのが基本です。

それはカウンセラーという職業について回る枠組みのようなものです。
クライエントもそれを知っていることが多く、クライエントの心理的課題によっては、一種の試し行動として身体接触の要求がなされます。
カウンセラーが自分の職業的な枠組みを超えて対応することが適切な事例もありますが、試し行動の場合は「カウンセラーが枠組みを超える=安定した対象ではない」という認識を持たせることになってしまいます。
つまり、支援にならないということですね。

上記は特殊な状況かもしれませんが、対話を中心としたカウンセリングを想定した場合、身体接触の有無は関係性の変容を招く可能性が高いです
それをどう扱うかも含めて専門家の役割なのかもしれませんが、やはり身体接触をカウンセリングで用いるのはかなり難しいと言わざるを得ません。
端的に言えば、身体接触は「その効果や反応、その後の予測が立てられない」のです

いずれにせよ、多くの学派のカウンセリングでも、災害早期の支援でも、身体接触は控えるのが基本であり、行うにしてもかなりおっかなびっくりという感じが良いでしょう。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。

『②GHQ-28を用いて被災者の健康状態を調査する』

GHQ精神健康調査は、主として神経症者の症状把握、評価および発見にきわめて有効なスクリーニング・テストとされています。
また、一般診療科の受診患者や、地域住民の非器質性・非精神病性精神障害をスクリーニングする優秀な手段として世界的に幅広く使用されています。
こちらは目的に合わせて60問の他に30問、28問、12問の短縮版が用意されており、GHQ-28は身体的症状、不安と不眠、社会的活動障害、うつ傾向の把握に優れています

唾液中のコルチゾール(ストレス反応の指標になる)とGHQ-28の得点に正の相関がみられたという報告があるなど、災害精神医学研究において、GHQ‐12や28等の一般的な質問表は広く使用され、その評価も解り易いものが多いとされています

こうした被災者の健康状態の調査は必要なことの一つでしょうが、本問にあるような「災害発生後早期の支援」として適切か否かを考えていくことが重要です

PFAには支援者の安全の確保についても繰り返し述べられており、支援者が安全でなければ、安定した支援が行うことが難しいことが示されております。
具体的には以下のような記載が該当します。

  • こうした被災者の気持ちを理解し、落ち着いて受け止めることが、人びとが安全感と安心感を取り戻し、自分たちが理解され、尊重され、思いやられていると感じるための手助けになります。
  • 可能ならば安全で静かな場所を見つけて話をする
  • 差し迫った危険から遠ざける。そのことでかえって危険が生じないように気をつけるプライバシーと尊厳を守るために、メディアにさらされることから保護するように努める
  • 深刻なストレス反応を示している人の場合には、一人にしないように気をつける

これらからもわかるとおり、まずは「あなたは安全だ」ということができ、そして本人が実感できるような状況を手に入れること、それに努めることが求められます。
その上で、必要な調査を行い、適切な支援につなげていくのです

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

『③災害以前から治療を受けている疾患がないかを被災者に確認する』

災害被災者の中には、健康状態に配慮が必要な人や、身体疾患、精神疾患を持つ人も含まれています。
PFAにも「慢性疾患、身体や精神の障害を持つ人、高齢者は特別な支援を必要とすることがあります」と記載されています

そのための手助けとして、以下が挙げられています。

  • 安全な場所に移動する手助けをする。
  • 飲食、綺麗な水の確保、自分のケアなどの、生きていく上での基本的ニーズを満たすことができるように手助けする。あるいは関係機関から供給された資材で、避難場所を作る手伝いをする。
  • 健康に問題はないか、何か定期的に薬があったのかたずねる。薬の入手や、医療サービスが利用できる場合はその利用の手助けをする。
  • 支援が必要な人に付き添う。その場を離れなければならないときは、代わりの支援者を確保する。長期的な支援を提供するためには、要支援者を保護機関か他の適切な支援につなぐことを考える
  • 利用可能な支援を受ける方法について情報を提供する。
上記のように、元々の疾患の有無は重要で、それに伴い薬などが緊急で必要になることもあるでしょう。
実際に被災時における精神疾患患者への薬の提供は大きな問題となりました。

以上より、選択肢③は適切と判断できます。

『④被災者のグループ面接で避難生活の不満を互いに話し、カタルシスが得られるようにする』

こちらの選択肢が「心理的デブリーフィング」について述べていることがわかることが大切です。
公認心理師2018-124にも同様の選択肢がありましたので、そちらを転記します。

PFAには「PFA は「心理的デブリーフィング」に代わるものです。「心理的デブリーフィング」には有効性がないことがすでに実証されています」とされています。

被災者のこころのケア都道府県ガイドライン」には以下のように記されています。
  • デブリーフィングは行わないのが基本です
  • デブリーフィングとは、大災害等を経験した方を集めたグループディスカッションなどで被災の状況等について語らせることです
  • デブリーフィングは誤った方法で行われると害になること、また、正しい方法で行っても利益がないことがわかっています
  • 無理に話を聞き出すことはしないようにしましょう。
  • ただし、被災者が話をしたがっていることがあります。このような場合はいつでも耳を傾けるようにしましょう。
このような状況で心理的デブリーフィングは行わないことが基本と言えます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

『⑤強い精神的ショックを受けた被災者が混乱して興奮している状態を、正常な反応として静かに見守る』

PFAでは「深刻なストレス反応を示す人の確認」が重要視されています。
確認項目として以下が示されています。

  • ひどく動揺している人、自分で働けない人、呼びかけても応答がない人、ひどくショックを受けている人がいないか
  • もっとも苦しんでいる人々は誰か、どこにいるのか

支援にあたっては、こうした「深刻なストレス反応を示す人」をスクリーニングすることが大切です。

被災者のこころのケア都道府県ガイドライン」には、一般支援者・地域のサポート役用スクリーニング用チェックリストが公開されていますが、そうした情報を基に「こころのケアの必要レベル」を見極めることが大切です。
こころのケア対象者のスクリーニングは、市町村のこころのケア担当や市町村の保健センターの保健師が中心となり実施します。
スクリーニング結果は、派遣されたこころのケアチームに引き継ぎ、適切な医療機関への紹介、市町村保健センターによる継続的ケア等のスムーズな連携を実現します。

スクリーニングでは、「一般の被災者レベル」「見守り必要レベル」「疾患レベル」などがあります。
「一般の被災者レベル」ならば、できるだけ多くの被災者が「お互いにつながっている」という実感を得られるようにすることによって改善しやすいとされています。

一方で「見守り必要レベル」は、ケアを行わないと「疾患」レベルに移行する可能性が高い被災者や、悲嘆が強く引きこもり等の問題を抱えている被災者であり、これらの被災者に対する傾聴、アドバイス等のこころのケアを実施します
また、医療ケアの必要性について判断し、必要に応じて医療機関や精神科医が含まれるこころのケアチームの紹介や、地域コミュニティへの引き継ぎを行うことが求められます
このレベルのサービスについては、保健師、精神保健福祉士、こころのケアに関する短期の訓練を受けた医師・看護師によるケアが想定されます。

ちなみに「疾患レベル」は、発災により医療ケアが必要と判断された被災者や発災前から精神疾患を持つ患者への処方・投薬等の精神科医療ケアとなります。
選択肢の内容は「見守り必要レベル」に該当すると思われ、「正常な反応として静かに見守る」のは支援として適切でないことがわかります
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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