公認心理師 2021-19

産後うつ病に関する問題です。

過去問(公認心理師 2019-101)と絡む内容もありますから、かなり選択肢を絞れるはずです。

問19 産後うつ病の説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 双極性障害との関連は少ない。
② 有病率は約10%から15%である。
③ マタニティー・ブルーズと同義である。
④ M-CHAT がスクリーニングに用いられる。
⑤ 比較的軽症がほとんどで、重篤化することはない。

解答のポイント

産褥期の精神疾患について、その概要を把握している。

必要な知識・選択肢の解説

ここではまず産褥期に生じうる精神疾患について概説していきましょう。

出産自体は(多くの場合は)喜ばしいことでありますが、同時に身体的、心理的、社会的にストレス因子になり得るライフイベントです(ホームズ&レイのリストでもLCU得点40となっていますね)。

産後、多くの褥婦は気分の浮き沈みを経験し、約1割の褥婦は産後うつになり、稀ではあるが産褥期精神病となる場合もあります。

ここでは、マタニティブルーズ、産後うつ病、産褥期精神病の3つについて、その病態機序やマネジメントについて述べていきます。

【マタニティブルーズ】

マタニティブルーズは、産後2~3日ごろから認められ、主な症状としては、急に泣けてくる、悲しくなる、不安、イライラ感、不眠、食思不振、疲労感などが挙げられます。

しかし、これらの症状はいずれも軽度であり、生活や育児には支障をきたさないものとされています。

さらに、産後10日程度でこれらの症状は自然に消失します。

マタニティブルーズの頻度は、報告によって異なりますが13~76%と非常に広くなっていますが、臨床的には約半数が経験するという印象があります。

産後うつ病との鑑別点としては、気持ち的な辛さは一定程度あるものの、生活には支障をきたさないこと、そして産後2週間以内には消失していることが挙げられます。

このため、マタニティブルーズに対しては薬物療法は不要であり、褥婦の気持ちの辛さをケアできるような体制を整えることが主となります。

臨床現場では、マタニティブルーズの症状では、その症状の程度から、産科医が精神科に診察を依頼しなければと思うことは少ないと言えます。

一般に、産後2週間検診が始まっている段階で生活に支障をきたすような気持ちの辛さが続いている場合、マタニティブルーズではなく産後うつ病をきたしていると捉えて関わることが求められます。

【産後うつ病】

DSM-5では、妊娠期間中もしくは産後4週間以内にうつ病を発症した場合「周産期の発症」として特定用語を付記することになっています。

この背景にある思想としては、産後うつ病は、一つの疾患単位というよりは、あくまでも周産期に付随して発症するうつ病の一つの表現型であるということです。

このため、産後うつ病の診断は、一般的なうつ病の診断基準を満たし、なおかつ、産後1か月以内の発症であるという基準が必要となります。

このように産後うつ病は一つの疾患単位ではありませんが、それでも特徴的な症状がいくつか認められます。

一つは流涙であり、(うつ病でも涙は流しますが)産後うつ病の場合は「涙が知らずにあふれてくることはないですか?」という質問に対して肯定する褥婦が多いです。

もう一つは強い不安や恐怖であり、不安とうつは合併しやすいですが、産後うつ病は不安に前面に出ることは珍しくありません。

産後うつ病のスクリーニングではエジンバラ産後うつ病評価スケール(EPDS)が有効とされています(「公認心理師 2019-101」に出題あります)。

エジンバラ産後うつ病質問票は、産後うつ病をスクリーニングするために英国で開発されました。

日本産婦人科医会が出している「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」によると、今日では国内外で妊娠中から使用され、妊婦並びに出産後1年未満の女性を対象に使用されているとのことです。

以下が示されております。

  • 日本人のカットオフポイント(区分点)は9点である。
  • 4段階評価で最低点が0点、最高点が30点であり、得点が9点以上だと産後うつ病の疑いがある。
  • EPDS総合点9点以上が、「うつの可能性が高い」とするものであるが、9点以上がうつ病で、8点以下はうつ病ではないと判断するものではない。また、点数とうつ病の重症度に関連はない。
  • うつ病以外の不安障害や精神遅滞など他の精神疾患でEPDS総合点が高値となることもある。
  • EPDS総合点9点以上は、抑うつ気分と興味の消失の2つのどちらかまたは両方の症状がどの程度続いているか確認する。2週間以上続いている場合は、うつ病の可能性が高くなる。
  • 2017年4月より産婦健康診査事業(産後うつの予防や新生児への虐待防止等を図るため、出産後間もない時期の産婦に対する健康診査に係る費用を助成する事業)が開始され、産後2週と産後1か月にEPDSを実施する市町村も増えている。

産後うつ病の前景に、妊娠中からのうつ病が関連しているという報告は多数ありますから、妊娠中からのうつ状態の把握が大切になります。

エジンバラ産後うつ病質問票は、そうした妊娠中からのスクリーニングにも活用することができるものです。

エジンバラの基準にあってDSM-5のうつ病の基準にはない項目としては、「はっきりとした理由もないのに不安になったり、心配したりした」「はっきりした理由もないのに恐怖に襲われた」「不幸せな気分だったので泣いていた」が挙げられ、これらからも流涙と不安・恐怖が産後うつ病の特徴であることがわかります。

また、産後うつ病によくある特徴として、夫や家人に対してイライラするというものであり、こちらもうつ病には認められにくい症状です。

産後うつ病の有病率は報告によって異なりますが、6.5~12.9%となっており、おおよそ10%程度と考えられています。

産後うつ病のリスク因子としては以下が挙げられます。

  • 心理的側面:うつ病、不安障害、月経前症候群の既往があること。子どもの性別に対してがっかりすること。性的な虐待の既往があること。
  • 身体的側面:緊急帝王切開や切迫早産による長期の入院など。早産や低出生体重児など。
  • 社会的側面:サポート不足、家庭内暴力、妊娠中の喫煙など。

産後うつ病の治療は、うつ病の治療に準じます。

精神科が関わるような産後うつ病は中等症以上の患者であり、抗うつ薬は主にSSRIを使用することが多いです。

分娩により褥婦はエストラジオールが減少し、その結果、セロトニントランポーターが増加します。

SSRIはセロトニントランスポーターに選択的に結合し、セロトニンの再取り込みを阻害することから産後うつ病にSSRIを使用することは理にかなっています(SSRIは相対的乳児投与量:母乳を介して新生児が摂取する薬の量が低いことも知られています)。

母乳をあげたいから薬は飲みたくない、という産後うつ病の患者は少なくないでしょうから、こうした相対的乳児投与量の情報を提供することで、患者は安心して母乳を与えながら治療に臨むことができます。

なお、SSRIは効果が出現するまでに2週間程度かかるため、効果が出現するまでの間は即効性がある抗不安薬を併用することがあります。

また、希死念慮を訴えることもあるので、入院を考慮したり、家族のサポートがある場合には家族が目を離さないようにと伝えることも重要になります。

なお、マタニティブルーズと産後うつ病の違いは以下の通りになります。

マタニティブルーズ産後うつ病
持続期間10日~2週間以内2週間以上
発症時期産後2~3日産後1か月以内が多いが、数か月で発症することもある
有病率13~76%10%程度
重症度生活・育児には支障をきたさない程度生活・育児に支障をきたす
希死念慮認められない認められることもある

【産褥期精神病】

産褥期精神病の有病率は、おおよそ0.1%と考えられています。

入院に至った症例のみではありますが、出産1000あたり0.25~0.6と報告されています。

発症時期は産後4週間以内が多く、産後4週以降と比べると危険率は23倍にもなるとされています。

興味深いことに、産前に精神病状態を呈する人はほとんどおらず、産後に偏ります。

産褥期精神病を呈した女性の50~80%は、その後、何らかの精神症状を呈する可能性があります(20~50%の女性では、産後に限って精神病症状を呈すると報告されています)。

そして、産褥期精神病を呈した女性の約30%は次の出産でも産褥期精神病になる可能性があります。

産褥期精神病はおそらく2つの群から構成されていると考えられています。

一つは、産後に限局して精神症状を呈しやすい群であり、もう一つは双極性障害を背景にもっている女性が産後に精神症状を呈するという群です。

症状は多彩であり、多弁になり、誇大的な話をするなど、双極性障害の躁症状を呈する例もあれば、幻覚妄想状態を呈し、言動がまったくまとまらなくなる例もあります。

産褥期精神病の治療の報告は少ないですが、Berginkらによる推奨治療は以下の通りです。

  • 産褥期精神病の入院加療を必要とする場合は、診断、安全性の評価、治療の導入である。
  • 患者のキーパーソンを把握し、治療に関わってもらう。
  • リチウムは、腎機能低下や過去に副作用が出たことがわかっている等使えない場合を除いて、急性期治療の第1選択である。
  • 電気痙攣療法、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬は重症の躁状態、精神病症状に対して有用な補助的治療である。電気痙攣療法は産後の躁状態と比べて重症の緊張病症状や精神病性うつ症状が続く場合に考慮すべきである。
  • リチウムは産後6~9か月は継続する。産後に限って症状が出た女性で、心理社会的ストレスが少ないときに寛解を保っている女性の場合、漸減する。
  • 精神病症状を伴う産後うつには、気分安定薬なしには抗うつ薬は使わない。気分の不安定性が増悪する可能性がある。

これらを踏まえて、各選択肢の解説を行っていきます。

① 双極性障害との関連は少ない。

上記の通り、産褥期精神病では双極性障害を有する女性にリスクが高いことが示されていますが、こちらに関しては産後うつ病でも同様であるとされています。

米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のWisner氏らは、産後まもない女性1万人を対象に調査したところ産後4~6週の時点で10%以上にうつ病が認められ、そのうち23%が双極性障害だったとの研究結果を米医学誌「JAMA Psychiatry(電子版)」に報告しています(精神疾患の症状が現れた時期は産後4週以内が40.1%と最多で、妊娠中が33.4%、妊娠前が26.5%と続いた)。

こちらについては、出産を機に双極性障害になるのではなく、双極性障害患者は出産後の再発率が高いということですね(出産時の心身のバランスや環境の変化によって、気分の波が大きく振れるという見方もあるでしょう)。

また、元々双極性障害の治療を行っていた場合、妊娠中に双極性障害の薬物療法ができない可能性もあるため(炭酸リチウムやバルプロ酸が妊娠中は禁忌)、症状が出現しやすくなるとも言えます。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 有病率は約10%から15%である。

前述の通り、産後うつ病の有病率は報告によって異なりますが、6.5~12.9%となっており、おおよそ10%程度と考えられています。

ちなみに私がチェックした書籍はこちらになります(本問の解説はこちらに基づいています)。

報告によって多少の違いはあってしかるべきですから、本選択肢の「約10%から15%」というのと合致すると考えても良いでしょう。

以上より、選択肢②が適切と判断できます。

③ マタニティー・ブルーズと同義である。
⑤ 比較的軽症がほとんどで、重篤化することはない。

上記でも述べた通り、マタニティブルーズ≠産後うつ病です。

また、選択肢⑤の「比較的軽症がほとんどで、重篤化することはない」というのは、産後うつ病に関する説明ではなく、マタニティブルーズの説明であると考えられます。

よって、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

④ M-CHAT がスクリーニングに用いられる。

M-CHATは自閉症スペクトラムスクリーニング尺度です。

一部の項目が全国の1歳6ヶ月乳幼児健診で必須チェック項目となっているほか、一部の自治体の健診では悉皆スクリーニングとして活用されています。

18~24ヵ月の幼児が対象なので、保護者が記入し評価者が採点を行うという方式を採用しています。

こちらのページに、実際の物があるのでご参照ください。

上記にもある通り、産後うつ病のスクリーニングはエジンバラ産後うつ病評価スケール(EPDS)が有効とされています。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

1件のコメント

  1. お世話になっております。
    「Berginkらによる推奨治療・・ベンゾジアゼピン系薬は重症の躁状態、精神病症状に対して有用な補助的治療である。」とされいますが、この推奨はいつ頃のことでしょうか。というのは、近年欧米ではベンゾジアゼピン系薬は、依存性を避けるため使われていない、と聞きます。Berginkさんがこの報告を出されたのはいつ頃でしょうか。或いは、Berginkさんはベンゾジアゼピン系薬の依存性という考え方には賛成されていないのでしょうか

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