公認心理師 2019-101

問101は産後うつ病に関する問題になっています。
産後うつ病の診断基準や特徴、薬剤の使用、エジンバラ産後うつ病質問票の理解などが求められていますね。

問101 妊娠・出産とうつ病の関連について、適切なものを1つ選べ。
①産後うつ病は産後1週間以内に発症しやすい。
②産後うつ病は比較的軽症であり、自殺の原因となることは少ない。
③抗うつ薬を服用している女性が妊娠した場合、直ちに服薬を中止する。
④エジンバラ産後うつ病質問票〈EPDS〉の得点が低いほどうつ病の可能性が高い。
⑤妊娠中のうつ病のスクリーニングにもエジンバラ産後うつ病質問票〈EPDS〉が用いられる。

産後うつ病はDSM-5では「周産期うつ病」としてまとめられていますが、本問ではあくまでも「産後うつ病」に関する内容の設問として設定されています。
「周産期」と呼ぶ場合は、気分症状が妊娠中又は出産後4週間以内に始まっている場合を指します。

3~6%の女性が、妊娠中または産後数週~数か月の間に抑うつエピソードを発症し、産後の抑うつエピソードの50%は、実際には出産前から始まっています。
それ故に「周産期エピソード」としてDSM-5ではまとめられているということですね。
その辺を間違えないようにしましょう。

解答のポイント

産後うつ病の診断基準や特徴、妊婦への薬剤の使用の可否、エジンバラ産後うつ病質問票などへの理解があること。

選択肢の解説

①産後うつ病は産後1週間以内に発症しやすい。
②産後うつ病は比較的軽症であり、自殺の原因となることは少ない。

先述のように、あくまでも「産後うつ病」として解説を進めていきます(周産期うつ病ではない)。

産後うつ病は気分の落ち込みと興味の減退を主症状とした状態が分娩後新たに発症したものを指します
そのため、妊娠期間中から存在したうつ病が分娩後まで続いている場合や、分娩後かなり時間が経ってから発症したうつ病はこれに該当しません。
ちなみにDSM-Ⅳでは、分娩後4週間までに発症したうつ病を産後うつ病と診断するとしています
しかし、これについては意見が分かれており、研究では分娩後4週間~1年の間としている場合が多く、臨床現場でも、この時期に発症したうつ病を産後うつ病としてよいだろうという見解があります。
いずれにせよ、選択肢①の「産後1週間以内」というのは、範囲として狭すぎることがわかりますね

産後うつ病の発生率は、欧米では13%ほどと言われており、日本では1991年の調査では3.1%と報告され、産後うつは少ないと思われていましたが、近年では12.8%と諸外国と比較しても大差ないという結果が示されております。
症状はうつ病のそれと同じであり、抑うつ気分、興味の減退または消失、睡眠障害、食欲低下、体重減少、易疲労性、集中力の低下、焦燥感、希死念慮または自殺企図などがあります

以上より、選択肢①および選択肢②は不適切と判断できます。

③抗うつ薬を服用している女性が妊娠した場合、直ちに服薬を中止する。

こちらは周産期のうつ病に対する薬理学的治療の基本原則が問われている内容ですね。
妊娠期では、未治療と治療の両者の場合における、女性と胎児に与える潜在的なリスクとベネフィットのバランスを考慮することが求められます
一方、産褥期では、母乳育児の場合には薬物の乳幼児への移行をゼロか最小限にするための対応が迫られます。

特に「治療上の有益性が危険性を上回る」という判断が迫られる状況について理解しておくことが大切です。
薬物を継続した場合には、催奇形性、胎児毒性、新生児毒性、新生児離脱、母乳育児による影響、長期的行動奇形性などの危険性が問題になります。
一方、薬物を中断した場合には、未治療の結果、精神症状の再燃が懸念されます。
具体的には、妊娠に対する自己管理能力の低下による早産、産科的合併症、胎児発育不全、出産困難などの身体的合併症に限らず、うつ病による自殺、衝動行為、家庭内の人間関係の増悪、育児能力の低下、母子間の愛着への影響といったメンタルヘルス上の問題が生じます。

つまり、薬物を継続すれば母体への安全が確保できるが、薬物による胎児・新生児・幼児のリスクが増大することになります。
そのため、周産期の向精神薬の治療に伴うリスク・ベネフィットのバランスは極めて重要な課題と言えるでしょう。

薬物管理上の判断は、うつ病の経過と重症度、薬剤への反応、過去の治療的、家族歴、既往歴、最近の薬物治療、薬物に対する副作用、病前性格、妊産褥婦および家族の薬物療法に対する希望などを考慮して、最終的にはケースバイケースでの対応が優先されます
基本としては、慢性や中等度から重症のうつ病に対しては、可能なら単剤で最少容量から服薬を開始して、漸増するという薬物療法を開始します
また、薬物療法と同等の治療効果を期待できる場合は、非薬物療法を検討することになります。
既存にうつ病がある場合、薬物中断後の再発リスクは高いとされています。
妊娠後の治療継続群の再発率は26%であるのに対して、妊娠後の治療中断群の再発率は68%と高く、胎児曝露に関した相対的リスクのみならず、抗うつ薬などの継続中止と関連する再発・増悪という高いリスクも考慮する必要があります。

近年、自殺が周産期死亡の原因として重要であることが指摘されています。
従って、妊婦にとってうつ病を治療することの有益性は高いと言えるでしょう。
断薬のリスクなども踏まえて考えると、妊娠したからといって直ちに断薬という判断は採らないのが一般的です。
なお、抗うつ薬による胎児への影響はさまざま研究されており、その結果もさまざまですが、概ね胎児への影響は多大ではないというものに留まっている印象です。
むしろ、投薬を中止することによる妊婦への影響などが懸念されている面が大きいでしょう
授乳禁止薬剤(放射性医薬品、抗がん剤、ストリートドラッグ)以外のほとんどの薬剤は、母乳育児中の母親に使用できるとされていますね。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④エジンバラ産後うつ病質問票〈EPDS〉の得点が低いほどうつ病の可能性が高い。

産褥期においては、EPDSを使うことがスクリーニングに効果的とされています。
これは自己記入式質問紙で、短期間で記入できるため、最近では退院前や家庭訪問のときにスクリーニングのために用いられています。
4段階評価で最低点が0点、最高点が30点であり、得点が9点以上だと産後うつ病の疑いがあるとされます

ただし、EPDSはスクリーニングするためのものであり、産後うつ病と診断するためのものではありません。
9点以上となった場合には、次の段階として精神科医や心理職などの支援を受けるように勧めることが重要になります
2017年4月より産婦健康診査事業が開始され、産後2週と産後1か月にEPDSを実施する市町村も増えてきております。

なお産婦健康診査事業とは、産後うつの予防や新生児への虐待防止等を図るため、出産後間もない時期の産婦に対する健康診査に係る費用を助成する事業です。
産後2週間、産後1か月時の2回、問診、診察、体重・血圧測定、尿検査に加えて、EPDSを実施することで、産後の初期段階における母子に対する支援を強化し、妊娠期から子育て期に渡る切れ目のない支援体制を整備することが目的です。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤妊娠中のうつ病のスクリーニングにもエジンバラ産後うつ病質問票〈EPDS〉が用いられる。

エジンバラ産後うつ病質問票は、産後うつ病をスクリーニングするために英国で開発されました。
日本産婦人科医会が出している「妊産婦メンタルヘルスケアマニュアル」によると、今日では国内外で妊娠中から使用され、妊婦並びに出産後1年未満の女性を対象に使用されているとのことです
以下が示されております。

  • 日本人のカットオフポイント(区分点)は9点である。
  • EPDS総合点9点以上が、「うつの可能性が高い」とするものであるが、9点以上がうつ病で、8点以下はうつ病ではないと判断するものではない。また、点数とうつ病の重症度に関連はない。
  • うつ病以外の不安障害や精神遅滞など他の精神疾患でEPDS総合点が高値となることもある。
  • EPDS総合点9点以上は、抑うつ気分と興味の消失の2つのどちらかまたは両方の症状がどの程度続いているか確認する。2週間以上続いている場合は、うつ病の可能性が高くなる。

産後うつ病の前景に、妊娠中からのうつ病が関連しているという報告は多数ありますから、妊娠中からのうつ状態の把握が大切になります。
エジンバラ産後うつ病質問票は、そうした妊娠中からのスクリーニングにも活用することができるものです

以上より、選択肢⑤は適切と判断できます。

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