DSM-5に記載されている知的能力障害について、正しいものを1つ選ぶ問題です。
単純にDSM-5の基準だけを知っていれば解けるという問題ではありませんでした。
DSM-Ⅳ-TRからの変遷や、統計的な知識(正規分布の考え方)について把握していることが求められています。
解答のポイント
知的能力障害(DSM-5)の診断基準を把握していること。
知能の考え方(特に統計的な面における)、DSMの診断基準の変遷などを理解しておくと解きやすい。
知的能力障害(DSM-5)
知的能力障害は以下のような基準が定められております。
知的能力障害(知的発達症)は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害である。
以下の3つの基準を満たさなければならない。
A.臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥。
B.個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥、継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場、および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する。
C.知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症する。
また、重症度の判定では「概念的領域」「社会的領域」「実用的領域」から、軽度・中等度・重度・最重度に分けられます。
選択肢の解説
『①幼少期までの間に発症する』
DSM-5の基準に「知的能力障害(知的発達症)は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害である」とされています。
「幼少期」という限定はなく、「発達期」とかなり幅広くとっているのが特徴です。
DSM-Ⅳ-TRまでは「発症は18歳以前である」としているので、少し曖昧な表現にして幅を持たせたという感じでしょうか(一応、「発達期」とは18歳以前を指すことが多いとされています)。
知的能力障害は、多くの場合小学校~中学校で顕在化してきます。
中学校入学時には明らかな場合も多いのですが、その受容や周囲との関係性を考慮して、診断を受けないままになっている事例も少なからず見受けられます。
そういった場合でも、やはり高校進学が一つの転機にはなりますが。
ただし、高校であっても最近は「合理的配慮」のもと、ある水準までの能力の欠陥については対応する形になってきています。
もちろん、「合理的配慮」という概念は発達的問題を抱えた人を対象としている面が大きいのですが、知的能力障害と発達的問題に明確なラインを引けるかと言われれば難しいのが実際です。
そういった事情もあり、知的能力障害の診断をあまり狭くしたり(例えば、本選択肢のように発達期と限定すること)、限定的にしておくこと(DSM-Ⅳ-TRのように明確に年齢を記載すること)のマイナスも大きかろうと思います。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②有病率は年齢によって変動しない』
知的能力障害では、適応機能については療育等を通して改善できる面は見受けられますが、その基礎にある知的能力そのものを改善させることは難しいです。
知的能力の基準であるIQは、その同年齢集団との比較で数字が算出されます。
このことは、幼い頃の周囲との知的能力の開きが小さくても、周囲の発達スピードと本人の発達スピードとの違いが大きければ大きいほど、IQは開いてゆくことを示しています。
つまり、年齢を重ねたから改善するという問題ではない可能性が高いわけですね。
また、5歳で診断される人がいれば、18歳で診断される人もいるわけです。
すなわち、「発達期という長いスパンの其々の時期に診断される人がいる」+「幼い頃に診断された人が、その後の経過で知的能力障害でなくなるというわけではない」ということから、年齢層が上がるほどに有病率も上がると考えるのが自然です。
内閣府が出しているデータでも、以下が示されています。
- 18歳未満:15.9万人
- 18歳以上:57.8万人
この数字の違いは、有病率が年齢によって変動することを示しています。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
『③IQが平均値より1標準偏差以上低い』
統計の領域のお話になりますが、正規分布を描くときにさまざまな要因によってばらつきが出ます。
しかし、適切な方法で計測を行うことで、できる限りバラつきが少なくなるように正規分布を描くことが可能です。
ウェクスラー式知能検査はこの「適切な方法」ということになります。
これらで示された結果は、おおむね「平均100」「標準偏差15」とされて計算されます。
標準偏差は「バラつき具合」を示した数字で、これが大きいと高得点者と低得点者の幅が広いことを示しています。
一般に出回っている知能検査は、これをある一定の数字になるよう作られており、その数字が「15」であることが多いわけです。
IQを計算する場合、その群における「平均域」は「平均±1標準偏差」とされています。
すなわち、「100±15」ですから85~115がごく平均的な値と解釈されます。
正規分布はこの「平均±1標準偏差」内に、全体の68.2%(全体の約2/3)が含まれるように作られています。
これに対して、2標準偏差の差が出てくると、その平均からは「有意に」離れていると考えます。
数値で言えば、全体の95.4%が「平均±2標準偏差」に含まれていると言えます。
すなわち、「平均+(標準偏差×2)以上」がIQが非常に高いと言え、「平均-(標準偏差×2)未満」になってくるとIQは知的障害の水準になってくると捉えます。
このいずれもが全体の2.3%となり、その母集団から見たら非常に少ない割合であることがわかりますね。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
『④知的機能と適応機能に問題がみられる』
診断基準の最初に「知的能力障害(知的発達症)は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害である」と示されている通り、知的機能と適応機能両面の欠陥が重要になります。
知的機能としては、「臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥」と表現されています。
適応機能としては、「個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥、継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場、および地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する」と表現されているものを指します。
DSM-Ⅳ-TRまでは、知的機能による判定の度合いが大きく、適応機能については「コミュニケーション、自己管理、家庭生活、社会的/対人的技能、地域社会資源の利用、自律性、発揮される学習能力、仕事、余暇、健康、安全」について「その文化圏でその年齢に対してい期待される基準に適合する有能さ」の欠陥又は不全とされていました。
DSM-5になって、「概念的、社会的、および実用的な領域」に関して具体的な表記がなされており、適応機能面が重視されるように変更しています。
公認心理師2018追加-11で示されていた「VINELAND-Ⅱ」の価値は、こうした適応機能の測定が可能な点にあります。
以上より、選択肢④が正しいと判断できます。
『⑤重症度は主にIQの値によって決められる』
こちらはDSM-Ⅳ-TRからDSM-5に改訂された際の大きな変更点となります。
重症度については、DSM-Ⅳ-TRでは知能指数のみで判断していました。
- 軽度:50~55からおよそ70
- 中等度:35~40からおよそ50~55
- 重度:20~25からおよそ35~40
- 最重度:20~25以下
上記の通り、DSM-Ⅳ-TRでは知能指数(IQ)によって、その重症度を判定しています。
DSM-5になってから、重症度の判定では「概念的領域」「社会的領域」「実用的領域」から、軽度・中等度・重度・最重度に分けられます。
具体的に、各領域における軽度~最重度の状態像が記されているので、それに基づいて重症度の判定を行っていきます。
公認心理師2018-97にも全く同じ選択肢が記載されているので、押さえておきたいポイントであると言えますね。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。