公認心理師 2024-114

自閉症児にみられる主要な特徴に関する問題です。

「自閉症児」という言葉は診断学から言えば古いものであり、現在では自閉スペクトラム症と称されています。

問114 自閉症児にみられる主要な特徴に該当しないものを1つ選べ。
① 実行機能の障害
② 限定的で固定された興味
③ コミュニケーションの障害
④ 学童期から生じる運動機能の退行
⑤ 感覚刺激に対する過敏さや鈍感さ

選択肢の解説

① 実行機能の障害
② 限定的で固定された興味
③ コミュニケーションの障害
④ 学童期から生じる運動機能の退行
⑤ 感覚刺激に対する過敏さや鈍感さ

まずはDSM-5の診断基準を確認しておきましょう。


A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)。

  1. 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ。
  2. 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
  3. 人間関係を発展させ、維持し、それを理解することの欠陥で、例えば、さまざまな社会的状況に合った行動に調整することの困難さから、想像遊びを他者と一緒にしたり友人を作ることの困難さ、または仲間に対する興味の欠如に及ぶ。

B.行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)。

  1. 常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し)。
  2. 同一性への固執、習慣への頑ななこだわり、または言語的、非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)。
  3. 強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではない対象への強い愛着または没頭、過度に限局したまたは固執した興味)。
  4. 感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音または触感に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)。

C.症状は発達早期に存在していなければならない(しかし社会的要求が能力の限界を超えるまでは症状は完全に明らかにならないかもしれないし、その後の生活で学んだ対応の仕方によって隠されている場合もある)。

D.その症状は、社会的、職業的、または他の重要な領域における現在の機能に臨床的に意味のある障害を引き起こしている。

E.これらの障害は、知的能力障害または全般的発達遅延ではうまく説明されない。知的能力障害と自閉スペクトラム症はしばしば同時に起こり、自閉スペクトラム症と知的能力障害の併存の診断を下すためには、社会的コミュニケーションが全般的な発達の水準から期待されるものより下回っていなければならない。


こうしたDSM-5の記述の中には、「限定的で固定された興味(基準B-3)」「コミュニケーションの障害(基準A)」「感覚刺激に対する過敏さや鈍感さ(基準B-4)」が含まれていることがわかりますね。

また、ASDは「社会的コミュニケーションおよび社会的相互作用の障害」と「限定した興味と反復行動ならびに感覚異常」を主症状する症候群でありますが、こうした症状を説明する代表的な理論としては、こころの理論障害仮説の流れを汲む「共感‐システム化理論(EmpathizingSystemizing Theory)」「実行機能理論(ExecutiveFunction Theory)」「弱い中枢性統合(全体的統合 )理論(Weak Central Coherence Theory)」「社会脳理論(Social Brain Theory)」などがあります。

弱い中枢性統合理論については「公認心理師 2024-26」にて解説があるので、こちらも参照にしてください。

選択肢①の「実行機能の障害」については、上記の「実行機能理論」に基づいたものであると考えられるので、こちらについて簡単に解説していきましょう。

実行機能とは「意思決定や抽象的思考、合目的的な活動を円滑に進めるためのさまざまな高
次機能」や「目的達成のために適切な問題解決の様式を維持する能力」と定義され、非常に包括的でさまざまな能力を含むことが想定されている概念です。

具体的には、計画性(planning)、認知的柔軟性(cognitive flexibility, set shift)、抑制(inhibition)、ワーキングメモリなどが含まれます。

ASD特性は、これらの実行機能の機能不全によって生じるとするのが実行機能理論になります。

ASD児に実行機能課題を実施した研究では、結果が強固に一貫しているというわけではない
が、認知的柔軟性の成績の低下は多く報告されています。

認知的柔軟性とは、状況の変化に合わせて思考や行動を推移させる能力で、認知的柔軟性の代表的な課題はウィスコンシン・カード・ソーティング課題になります。

ウィスコンシン課題では、参加者は「図形」「色」「数」のいずれかの規則性にのっとってカードを分類していくのだが、どのような規則性かは知らされないので、分類後の正解か不正解かのフィードバックから規則性を見つけ出していくことになります。

この課題では正解がある一定回数続くと、規則性が予告なしに変更され、参加者はそれまでの規則性をあきらめて、再び規則性を探し出す必要が生じるわけですが、ASD児は規則性を見つけ出すのが難しく、規則性が変わった後でも以前の規則性に固執してしまう間違いが多いことが報告されています。

認知的柔軟性の成績は、社会性には関連しないが、反復行動に関連するという結果も得られて
います。

このように行動を柔軟に変えることが困難なため、限定した興味と反復行動を生じると考えられており、これらの結果から、ASD児の明示されていない規則性を理解する苦手さ(もしかすると暗黙の了解の理解の苦手さにつながるかもしれない)、融通の利きにくさなどの臨床症状の存在が示唆されているのです。

以上のように、ASDでは実行機能の障害が特徴の一つとして示されています。

上記の通り、選択肢④の「学童期から生じる運動機能の退行」については、ASDの特徴として挙げられてはいません。

この特徴については、小児期崩壊性障害に該当するものと考えられます。

小児期崩壊性障害は、成長に伴って獲得した言語・対人行動・運動機能・排便機能などがある時期を境に退行していく疾患をいいます。

ポイントは「運動機能の退行」というところで、発達性協調運動障害も運動機能の問題を示しますが、「退行」という表現で表されるのではなく「この症状の始まりは発達段階早期である」とされています。

退行という表現を使うということは「獲得していたものができなくなる」というニュアンスを含みますから、小児期崩壊性障害のそれを示していると考えるのが妥当でしょう。

小児期崩壊性障害はDSM-5には存在しない基準ですから、ICD-10の基準を述べておくと


この診断は、少なくとも2歳まで外見上は正常に発達したのち、それまでに獲得した技能が明らかに喪失したことに基づいてくだされる。この障害は質的な社会機能の異常を伴っている。重篤な言語の退行、あるいは言語喪失、遊び、社会的技能および適応行動のレベルの退行が通常みられ、時に運動統制の解体を伴う大小便のコントロールの喪失がしばしば起こる。 典型的には、周囲への全般的な関心喪失、常同的で反復性の奇妙な行動、および社会的相互関係とコミュニケーションに関する自閉症に似た障害が付随する。 ある点でこの症候群は成人期における認知症と似ているが、以下の3つの主な点でそれと異なる。(通常ある型の器質的脳機能障害が推定されるが)同定可能な器質的疾患や障害の証拠が認められないことがふつうである。技能の喪失の後、ある程度の回復のみられることがある。そして社会性およびコミュニケーションの障害は、知的低下というよりも、自閉症に典型的にみられる質的偏りである。


ただ、選択肢内にある「児童期」という表現は、主に小学校前半を指す言葉ですから、小児期崩壊性障害の出現はもう少し前という印象があります。

その辺の違和感はありますが、とりあえず「運動機能の退行」という言葉からは小児期崩壊性障害を連想することが大切になるでしょう。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は自閉症児に見られる主要な特徴に該当すると判断でき、除外することになります。

また、選択肢④が自閉症児に見られる主要な特徴には該当しないと判断でき、こちらを選択することになります。

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