公認心理師 2022-100

DSM-5における素行症/素行障害に関する問題です。

反抗挑戦性障害や反社会性パーソナリティ障害との弁別も大切ですね。

問100 DSM- 5における素行症/素行障害の説明として、適切なものを1つ選べ。
① 素行症を持つ人の反抗や攻撃性は、反抗挑発症を持つ人よりも軽度である。
② 素行症における虚偽性には、義務を逃れるためしばしば嘘をつくことが含まれる。
③ 診断基準にある重大な規則違反には、性行為の強制、ひったくり及び強盗が相当する。
④ 素行症は、発症年齢によって、小児期発症型、青年期発症型又は成人期発症型に特定される。
⑤ 問題行動歴のない者でも、被害者を死亡させる重大事件を起こした場合には、素行症と診断される。

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解答のポイント

反抗挑戦性障害、素行障害、反社会性パーソナリティ障害の診断基準の把握と、これらの弁別ができている。

選択肢の解説

① 素行症を持つ人の反抗や攻撃性は、反抗挑発症を持つ人よりも軽度である。

まずここでは反抗挑戦性障害の診断基準を示します。


A.怒りっぽく/易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、または執念深さなどの情緒・行動上の様式が少なくとも6ヵ月間は持続し、以下のカテゴリーのいずれか少なくとも4症状以上が、同胞以外の少なくとも1人以上の人物とのやりとりにおいて示されている。

怒りっぽく/易怒的な気分

  1. しばしばかんしゃくを起こす。
  2. しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい。
  3. しばしば怒り、腹を立てる。

    口論好き/挑発的な行動
  4. しばしば権威ある人物や、または子どもや青年の場合では大人と、口論する。
  5. しばしば権威ある人の要求、または規則に従うことに積極的に反抗または拒否する。
  6. しばしば故意に人をいらだたせる。
  7. しばしば自分の失敗、また不作法を他人のせいにする。

    執念深さ
  8. 過去6ヵ月間に少なくとも2回、意地悪で執念深かったことがある。
    注:正常範囲の行動を症状とみなされる行動と区別するためには、これらの行動の持続性と頻度が用いられるべきである。5歳未満の子どもについては、他に特に記載がない場合は、ほとんど毎日、少なくとも6ヵ月間にわたって起こっている必要がある(基準A8)。5歳以上の子どもでは、他に特に記載がない場合、その行動は1週間に1回、少なくとも6ヵ月間にわたって起こっていなければならない(基準A8)。このような頻度の基準は、症状を定義する最小限の頻度を示す指針となるが、一方、その他の要因、例えばその人の発達水準、性別、文化の基準に照らして、行動が、その頻度と強度で範囲を超えているかどうかについても考慮するべきである。

B.その行動上の障害は、その人の身近な環境(例:家族、同世代集団、仕事仲間)で本人や他者の苦痛と関連しているか、または社会的、学業的、職業的、またはその他の重要な領域における機能に否定的な影響を与えている。

C.その行動上の障害は、精神病性障害、物質使用障害、抑うつ障害、または双極性障害の経過中にのみ起こるものではない。同様に重篤気分調節症の基準は満たさない。

現在の重症度を特定せよ
軽度:症状は1つの状況に限局している(例:家庭、学校、仕事、友人関係)
中等度:いくつかの症状が少なくとも2つの状況で見られる。
重度:いくつかの症状が3つ以上の状況で見られる。


上記からもわかる通り、反抗挑戦性障害の特徴は「怒りっぽく/易怒的な気分」「口論好き/挑発的な行動」「執念深さ」などの情緒・行動上の様式になります。

もちろん、本症の問題はアイデンティティ確立のための成長に必要な反抗的な行動とは異なるものです。

これに対して素行障害では、その診断基準Aに「他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式」とあります。

この基準内には「人および動物に対する攻撃性」「所有物の破壊」「虚偽性や窃盗」「重大な規則違反」があります。

これらと反抗挑戦性障害の基準を見比べてみましょう。

反抗挑戦性障害素行障害
怒りっぽく/易怒的な気分
しばしばかんしゃくを起こす。
しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい。
しばしば怒り、腹を立てる。

口論好き/挑発的な行動
しばしば権威ある人物や、または子どもや青年の場合では大人と、口論する。
しばしば権威ある人の要求、または規則に従うことに積極的に反抗または拒否する。
しばしば故意に人をいらだたせる。
しばしば自分の失敗、また不作法を他人のせいにする。

執念深さ
過去6ヵ月間に少なくとも2回、意地悪で執念深かったことがある。
人および動物に対する攻撃性
しばしば他人をいじめ、脅迫し、威嚇する。
しばしば取っ組み合いのけんかを始める。
他人に重大な身体的危害を与えるような武器を使用したことがある(例:バット、煉瓦、割れた瓶、ナイフ、銃)。
人に対して身体的に残酷であった。
動物に対して身体的に残酷であった。
被害者の面前での盗みをしたことがある(例:人に襲いかかる強盗、ひったくり、強奪、凶器を使っての強盗)。
性行為を強いたことがある。

所有物の破壊
重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。
故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で)。

虚偽性や窃盗
他人の住居、建造物、または車に侵入したことがある。
故物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(例:他人をだます)。
被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの、文書偽造)

重大な規則違反
親の禁止にもかかわらず、しばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。
親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。
しばしば学校を怠ける行為が13歳未満から始まる。

これらを見比べればわかる通り、明らかに素行障害がその問題の内容が犯罪色の強いものになっていることが理解できるはずです。

考えてみればそれは当たり前で、反抗挑戦性障害の特徴は「怒りっぽく/易怒的な気分」「口論好き/挑発的な行動」「執念深さ」などの情緒・行動上の様式に留まるのに対し、素行障害の問題は「他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式」ですから、周囲への影響が多きい=法を犯す内容になっていきますし、それと比例するように反抗や攻撃性はより強くなっていると見るのが自然ですね。

反抗挑戦性障害はまだ「怒りを自分の内に留めていたり、特定の対象に向けたもの」と読み取れますが、素行障害は「相手を特定としていない」という点も見られ、より反社会性を備えた問題と見なすことができます。

以上を踏まえれば、選択肢①の「素行症を持つ人の反抗や攻撃性は、反抗挑発症を持つ人よりも軽度である」とは到底見なすことができず、むしろ素行症の方が反社会的な問題が大きいと捉えることができます。

よって、選択肢①は不適切と判断できます。

② 素行症における虚偽性には、義務を逃れるためしばしば嘘をつくことが含まれる。
③ 診断基準にある重大な規則違反には、性行為の強制、ひったくり及び強盗が相当する。
④ 素行症は、発症年齢によって、小児期発症型、青年期発症型又は成人期発症型に特定される。

これらに関しては診断基準を確認してみましょう。


A.他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12ヵ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6ヵ月の間に存在したことによって明らかとなる。

人および動物に対する攻撃性

  1. しばしば他人をいじめ、脅迫し、威嚇する。
  2. しばしば取っ組み合いのけんかを始める。
  3. 他人に重大な身体的危害を与えるような武器を使用したことがある(例:バット、煉瓦、割れた瓶、ナイフ、銃)。
  4. 人に対して身体的に残酷であった。
  5. 動物に対して身体的に残酷であった。
  6. 被害者の面前での盗みをしたことがある(例:人に襲いかかる強盗、ひったくり、強奪、凶器を使っての強盗)。
  7. 性行為を強いたことがある。

    所有物の破壊
  8. 重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。
  9. 故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で)。

    虚偽性や窃盗
  10. 他人の住居、建造物、または車に侵入したことがある。
  11. 故物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(例:他人をだます)。
  12. 被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの、文書偽造)

    重大な規則違反
  13. 親の禁止にもかかわらず、しばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。
  14. 親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。
  15. しばしば学校を怠ける行為が13歳未満から始まる。

B.その行動の障害は、臨床的に意味のある社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしている。

C.その人が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準を満たさない。

いずれかを特定せよ
312.91(F91.1)小児期発症型:10歳になるまでに素行症に特徴的な基準の少なくとも1つの症状が発症。
312.82(F91.2)青年期発症型:10歳になるまでに素行症に特徴的な症状はまったく認められない。
312.89(F91.9)特定不能の発症年齢:素行症の基準は満たしているが、最初の症状の出現時期が10歳より前か後か判断するのに十分な情報がない。


これを踏まえ、ここで挙げた選択肢を確認していきましょう。

まず選択肢②の「素行症における虚偽性には、義務を逃れるためしばしば嘘をつくことが含まれる」ですが、これは診断基準Aの「虚偽性や窃盗」に「故物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(例:他人をだます)」とありますね。

ですから、選択肢②はDSM-5の素行障害の説明として適切と言えます。

続いて選択肢③の「診断基準にある重大な規則違反には、性行為の強制、ひったくり及び強盗が相当する」ですが、診断基準Aの「重大な規則違反」として挙げられているのは以下の項目になります。

  • 親の禁止にもかかわらず、しばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。
  • 親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。
  • しばしば学校を怠ける行為が13歳未満から始まる。

これを確認すれば、選択肢③の内容が不適切であることがわかりますね。

「性行為の強制、ひったくり及び強盗」が含まれているのは、診断基準にある「重大な規則違反」ではなく「人および動物に対する攻撃性」であり、この中には「被害者の面前での盗みをしたことがある(例:人に襲いかかる強盗、ひったくり、強奪、凶器を使っての強盗)」「性行為を強いたことがある」という記述があります。

このように選択肢③の内容は「重大な規則違反」ではなく「人および動物に対する攻撃性」になりますね。

そして選択肢④の「素行症は、発症年齢によって、小児期発症型、青年期発症型又は成人期発症型に特定される」ですが、これは「いずれかを特定せよ」に記述してある内容になりますね。

こちらによると、以下の3つに分けられます。

  • 小児期発症型:10歳になるまでに素行症に特徴的な基準の少なくとも1つの症状が発症。
  • 青年期発症型:10歳になるまでに素行症に特徴的な症状はまったく認められない。
  • 特定不能の発症年齢:素行症の基準は満たしているが、最初の症状の出現時期が10歳より前か後か判断するのに十分な情報がない。

このように、素行症は発症年齢によって「小児期発症型」「青年期発症型」「特定不能の発症年齢」に分けられております。

選択肢④の内容は「成人期発症型」と実際には無い記述が示されていることから、不適切な内容であると言えますね。

「青年期」という表現は定義する人物や引用する発達理論によって年齢に幅があり、一般的には成人の年齢に及んで用いられることが多いです(エリクソンとかは18歳くらいまでに留めていて、その上に成人期前期を置いていますね)。

思春期という主に生理的変化を指す概念と併せて用いられることが多い「青年期」という概念ですから、10歳以降に発症した場合を「青年期発症型」と称するのは理解できる話です(思春期が10歳から18歳くらい。それと併せて表記されることが多いのが「青年期」であり、思春期の年齢幅を想定しているのかも)。

ちなみにDSM-5におけるADHDの診断基準の中に「青年期後期および成人(17歳以上)」という表記があることから、DSM-5では10歳を境に、その前を小児期とし(下限が何歳かはわからないけど)、その後を青年期と称しており、17歳以降くらいを「成人期」と見なしているのでしょうね。

以上より、選択肢③および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢②は適切と判断できます。

⑤ 問題行動歴のない者でも、被害者を死亡させる重大事件を起こした場合には、素行症と診断される。

こちらの内容は、診断基準に関しての基本的な見解の誤りがあります。

もちろん、素行障害と診断されている者もしくはされ得る者が、その診断基準に示されている種々の問題行動の結果として、人を死亡させる重大事件を起こすことはあり得るでしょう。

ですが、素行障害と診断されるには、あくまでも診断基準にある「他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12ヵ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6ヵ月の間に存在したことによって明らかとなる」を満たすことが要件となっており、これが崩れることはありません。

もちろん、実際に診断をする場面では「君はまだ3つが11か月間しか存在していないから、素行症じゃないね」とは言わず、素行障害と見なして対応していくことになります。

しかし、本選択肢の内容は「問題行動歴のなくても被害者を死亡させる重大事件を起こした→素行障害」という無茶苦茶な論理を展開させています。

あくまでも診断は「他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12ヵ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6ヵ月の間に存在したことによって明らかとなる」に従ってなされますから、本選択肢の「問題行動歴のない者」の場合は、被害者を死亡させるような重大事件を起こしたとしても、少なくともその時点においては素行障害と診断されることはありません。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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