公認心理師 2021-136

事例の状態に最も合致する診断基準を選択する問題です。

こうした事例の傾向が「どうして生じたのか?」を考え続けてきたのが、精神医学や心理学の仕事です。

言い換えれば、そうした思索なしに「原因不明」としてしまうのであれば、それは心理学を学ぶ者の姿勢ではないと言えます。

問136 20歳の女性A。Aは、無謀な運転による交通事故や自傷行為及び自殺未遂でたびたび救急外来に搬送されている。また、Aは交際相手の男性と連絡が取れないと携帯電話を壁に叩きつけたり、不特定多数の異性と性的関係を持ったりすることもある。現在、救急外来の精神科医の勧めで、公認心理師Bによる心理面接を受けている。初回面接時には、「Bさんに会えてよかった」と褒めていたが、最近では、「最低な心理師」と罵ることもある。Aは、礼節を保ち、にこやかに来院する日もあれば、乱れた着衣で泣きながら来院することもある。心理的に不安定
なときは、「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある。
 DSM-5の診断基準に該当するAの病態として、最も適切なものを1つ選べ。
① 双極Ⅰ型障害
② 素行症/素行障害
③ 境界性パーソナリティ障害
④ 反抗挑発症/反抗挑戦性障害
⑤ 解離性同一症/解離性同一性障害

解答のポイント

各診断の基準を把握している。

選択肢の解説

① 双極Ⅰ型障害

双極性障害に関しては、躁病エピソードと抑うつエピソードを見た上で診断基準を読んでいくことが求められます。


【躁病エピソード】

A.気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的となる。加えて、異常にかつ持続的に亢進した目標指向性の活動または活力がある。このような普段とは異なる期間が、少なくとも1週間、ほぼ毎日、1日の大半において持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。

B.気分が障害され、活動または活力が亢進した期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)(気分が易怒性のみの場合は4つ)が有意の差をもつほどに示され、普段の行動とは明らかに異なった変化を象徴している。

  1. 自尊心の肥大、または誇大
  2. 睡眠欲求の減少(例:3時間眠っただけで十分な休息がとれたと感じる)
  3. 普段より多弁であるか、しゃべり続けようとする切迫感
  4. 観念奔逸、またはいくつもの考えがせめぎ合っているといった主観的な体験
  5. 注意散漫(すなわち、注意があまりにも容易に、重要でないまたは関係のない外的刺激によって他に転じる)が報告される。または観察される。
  6. 目標指向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加。または精神運動焦燥(すなわち、無意味な非目標指向性の活動)
  7. 困った結果になる可能性が高い活動に熱中すること(例:制御のきかない買いあさり、性的無分別、またはばかげた事業への投資などに専念すること)

C.この気分の障害は、社会的または職業的機能に著しい障害を引き起こしている、あるいは自分自身または他人に害を及ぼすことを防ぐため入院が必要であるほど重篤である、または精神病性の特徴を伴う。

D.本エピソード、物質(例:薬物乱用、医薬品、または他の治療)の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。

注:抗うつ治療(例:医薬品、電気けいれん療法)の間に生じた完全な躁病エピソードが、それらの治療により生じる生理学的作用を超えて十分な症候群に達してそれが続く場合は、躁病エピソード、つまり双極I型障害の診断とするのがふさわしいとする証拠が存在する。

【抑うつエピソード】

A.以下の症状のうち5つ(またはそれ以上)が同じ2週間の間に存在し、病前の機能からの変化を起こしている。これらの症状のうち少なくとも1つは、(1)抑うつ気分、または(2)興味または喜びの喪失である。
注:明らかに他の医学的疾患に起因する症状は含まない。

  1. その人自身の言葉(例:悲しみ、空虚感、または絶望感を感じる)か、他者の観察(例:涙を流しているようにみる)によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。 (注:子どもや青年では易怒的な気分もありうる)
  2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味または喜びの著しい減退(その人の説明、または他者の観察によって示される)
  3. 食事療法をしていないのに、有意の体重減少、または体重増加(例:1ヵ月で体重の5%以上の変化)、またはほとんど毎日の食欲の減退または増加(注:子どもの場合、期待される体重増加がみられないことも考慮せよ)
  4. ほとんど毎日の不眠または過眠
  5. ほとんど毎日の精神運動焦燥または制止(他者によって観察可能で、ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的でないもの)
  6. ほとんど毎日の疲労感、または気力の減退
  7. ほとんど毎日の無価値感、または過剰であるか不適切な罪責感(妄想的であることもある、単に自分をとがめること、または病気になったことに対する罪悪感ではない)
  8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日認められる(その人自身の言葉による、または他者によって観察される)
  9. 死についての反復思考(死の恐怖だけではない)。特別な計画はないが反復的な自殺念慮、または自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画

C.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D.そのエピソードは物質の生理学的作用、または他の医学的疾患によるものではない。

【双極Ⅰ型障害】

A.少なくとも1つ以上の躁病エピソード(上記「躁病エピソード」A~D)に該当すること。
躁病エピソードと抑うつエピソードの発症が、統合失調感情障害、統合失調症、統合失調症

B.障害、妄想性障害、または、他の特定されるまたは特定不能の統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害ではうまく説明されない。


これらを踏まえて、本問の事例を見ていきましょう。

他選択肢の解説でも使い易いよう、Aの問題をわかりやすく列挙しておきましょう。

  • 自殺行動・自傷行為:自傷行為及び自殺未遂でたびたび救急外来に搬送されている。
  • 自らを傷つける衝動性:無謀な運転による交通事故。不特定多数の異性と性的関係を持ったりすることもある。
  • 理想化とこき下ろし:初回面接時には、「Bさんに会えてよかった」と褒めていたが、最近では、「最低な心理師」と罵ることもある。
  • 同一性の混乱:礼節を保ち、にこやかに来院する日もあれば、乱れた着衣で泣きながら来院することもある。
  • 気分の不安定性:「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある。
  • 激しい怒り・抑制困難:交際相手の男性と連絡が取れないと携帯電話を壁に叩きつけたり。

ここまで書けば、Aが該当しそうな診断基準はわかると思いますが、それは後回しにしておきましょう。

こういった特徴と双極Ⅰ型障害とを比べると、気分の不安定性がちょっと引っかかるような気もしないではありませんが、双極性障害の揺れ動きの期間はもっと長期的なもので、数か月数年単位での躁状態‐抑うつ状態となるのが普通です。

また、衝動的な様子もAは他者との関係で顕著に現れるのに対し、双極Ⅰ型障害ではその傾向は見られませんね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

ただし、双極性障害自体は生物的基盤を持っているという知見もあるので、他の疾患の診断が付いたとしても、やはり背景にある可能性として頭の片隅に置いておく必要があります。

② 素行症/素行障害

以下が素行障害の診断基準になります。


A. 他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式で、以下の15の基準のうち、どの基準群からでも少なくとも3つが過去12ヵ月の間に存在し、基準の少なくとも1つは過去6ヵ月の間に存在したことによって明らかとなる。

【人および動物に対する攻撃性】

  1. しばしば他人をいじめ、脅迫し、威嚇する。
  2. しばしば取っ組み合いのけんかを始める。
  3. 他人に重大な身体的危害を与えるような武器を使用したことがある(例:バット、煉瓦、割れた瓶、ナイフ、銃)。
  4. 人に対して身体的に残酷であった。
  5. 動物に対して身体的に残酷であった。
  6. 被害者の面前での盗みをしたことがある(例:人に襲いかかる強盗、ひったくり、強奪、凶器を使っての強盗)。
  7. 性行為を強いたことがある。

【所有物の破壊】

  1. 重大な損害を与えるために故意に放火したことがある。
  2. 故意に他人の所有物を破壊したことがある(放火以外で)。

【虚偽性や窃盗】

  1. 他人の住居、建造物、または車に侵入したことがある。
  2. 物または好意を得たり、または義務を逃れるためしばしば嘘をつく(例:他人をだます)。
  3. 被害者の面前ではなく、多少価値のある物品を盗んだことがある(例:万引き、ただし破壊や侵入のないもの、文書偽造)

【重大な規則違反】

  1. 親の禁止にもかかわらず、しばしば夜間に外出する行為が13歳未満から始まる。
  2. 親または親代わりの人の家に住んでいる間に、一晩中、家を空けたことが少なくとも2回、または長期にわたって家に帰らないことが1回あった。
  3. しばしば学校を怠ける行為が13歳未満から始まる。

B. その行動の障害は、臨床的に意味のある社会的、学業的、または職業的機能の障害を引き起こしている。

C. その人が18歳以上の場合、反社会性パーソナリティ障害の基準を満たさない。


これらを踏まえ、事例の状況を併せて見ていきましょう。

  • 自殺行動・自傷行為:自傷行為及び自殺未遂でたびたび救急外来に搬送されている。
  • 自らを傷つける衝動性:無謀な運転による交通事故。不特定多数の異性と性的関係を持ったりすることもある。
  • 理想化とこき下ろし:初回面接時には、「Bさんに会えてよかった」と褒めていたが、最近では、「最低な心理師」と罵ることもある。
  • 同一性の混乱:礼節を保ち、にこやかに来院する日もあれば、乱れた着衣で泣きながら来院することもある。
  • 気分の不安定性:「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある。
  • 激しい怒り・抑制困難:交際相手の男性と連絡が取れないと携帯電話を壁に叩きつけたり。

というのがAの特徴なわけですが、これらは「他者の基本的人権または年齢相応の主要な社会的規範または規則を侵害することが反復し持続する行動様式」とは言えないと考えられます。

他者との関係で起こるのは共通ですが、Aは他者との関係で「もがいている」「混乱している」と見なせるものですが、素行障害の基準はそうではありませんね。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 境界性パーソナリティ障害

境界性パーソナリティ障害の診断基準は以下の通りです。


 対人関係、自己像、感情などの不安定および著しい衝動性の広範な様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになります。次のうち5つ(またはそれ以上)によって示されます。

  1. 現実に、または想像の中で見捨てられることを避けようとするなりふりかまわない努力。
  2. 理想化と脱価値化との両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる不安定で激しい対人関係様式。
  3. 同一性障害:著明で持続的な不安定な自己像や自己観。
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、性行為、物質濫用、無謀な運転、むちゃ食いなど)。
  5. 自殺の行為、そぶり、脅し、または自傷行為の繰り返し。
  6. 顕著な気分反応性による感情不安定性(例:通常は 2~3時間持続し、2~3日以上持続することはまれな強い気分変調、いらいら、または不安)。
  7. 慢性的な空虚感。
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(例:しばしばかんしゃくを起こす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返す)。
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様観念、または重篤な解離性症状。

この基準とAの特徴が一致するかを見ていきましょう。

  • 自殺行動・自傷行為:自傷行為及び自殺未遂でたびたび救急外来に搬送されている。
  • 自らを傷つける衝動性:無謀な運転による交通事故。不特定多数の異性と性的関係を持ったりすることもある。
  • 理想化とこき下ろし:初回面接時には、「Bさんに会えてよかった」と褒めていたが、最近では、「最低な心理師」と罵ることもある。
  • 同一性の混乱:礼節を保ち、にこやかに来院する日もあれば、乱れた着衣で泣きながら来院することもある。
  • 気分の不安定性:「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある。
  • 激しい怒り・抑制困難:交際相手の男性と連絡が取れないと携帯電話を壁に叩きつけたり。

というのは、上記の診断基準と合致する面が大きいことがわかりますね。

ここでは、それぞれの問題がなぜ生じているかについての理解を述べておきましょう。

【境界性パーソナリティ障害について】

境界性人格障害がある人に対してカウンセリングを行ってきた先人たちの知見より、彼らに特定の性格的な反応パターンがあることが明らかにされてきました。

それが「重要な他者との関係の不安定性」です。

仕事はしっかりとできるけど、恋愛関係になると急に不安定になったり、ケンカばっかりしたり、すぐに別れたり、揺さぶってきたりということが見られます。

恋人との関係だけでなく、カウンセラーとの間でも、カウンセラーにしがみついたり、揺さぶってきたり、厳しいことを言われると自傷行為をするなど、色んな反応が見られます。

こうした他者との関係の不安定性を精神医学ではどう理解してきたのか。

心理学の世界には「二者関係」と「三者関係」という言葉があります。

説明が難しいのですが、三者関係は「間に話題がある関係」であり、二者関係は「私とあなたの関係」と考えておきましょう。

例えば、お見合いでは「ご趣味は?」などとやり取りするので三者関係になりますが、縁談がうまくいってお付き合いを始めると「私とあなた」だけで成り立つ関係になり、これが二者関係と言えます。

余談ですが、恋愛関係においてこの三者関係と二者関係の変わり目はひとつの危機と言えるでしょう。

その変わり目は関係が変わる瞬間と言えますから、関係の継続が困難になりやすいのです。
私は、恋愛、結婚、妊娠、出産、子育てなどを順に行った方が良いだろうと考えていますが、その一因としてこのことがあります。

つまり、二者関係・三者関係の移り目を同時期に行うことは関係の継続を困難にさせることがあるので、順序よく行っていった方が関係の崩壊を招かなくて済むということです。

もちろん、それでも関係が壊れるとは限りませんから、当人たちがそれで良いと言えば良いのですが。

境界パーソナリティの人は、この二者関係の部分に傷つきがあるとされています。

だから、三者関係(仕事の関係など)では安定したやり取りができても、二者関係(恋人関係など)になった瞬間に、その傷つきが表面化し、不安定になると考えられています。

彼らの不安定性には特徴があります。

その一つは「激しく求める」ということで、一旦二者関係に入ると、もっとと求めます。

もう一つは「疑う」ということで、激しく求めるので「週に1回しか会わなかったのを毎日会うことにした」ら安心するかと言えば逆で、むしろ7倍不安になるのです。

しょっちゅう会っていると「自分から気が逸れた」という瞬間が見つかりやすくなり、どんどん「疑う」ようになっていきます。

そのため、どんどん「こっち向いて」という風になり、ますますくっつくようになりますが、そのためにどんどん疑いが増えるという悪循環になります。

なぜこういうことが起こるのか?

多くの理論家は幼いころの母子関係に起因するとしています。

子どもの頃に母親を求めても、母親からきちんと反応がなかったり、他のことに目を向けていると、大人になったその人の内にある「子どもの心」は誰かを求めるという欲求が満たされないまま残ることになり、それが二者関係の対象に向けられることになります。

また疑うのは、上記と似ていますが「信頼したいはずの人が信頼できなかった」という体験によるとされています。

急に梯子を外されるような体験を繰り返し行っていた、例えば、安心してやり取りしていた時にいきなり不意打ちを食らうような切り捨てられ方をするなどです。

こうすることで「安心できる」「信じられる」「頼りたい」と相手に依頼する気持ちが出てきた瞬間に「切り捨てられる」「外される」「安心できない」という経験が湧きあがってくるようになります。

これが恋人やカウンセラーなど、いわば「信頼したい人」であるからこそ生じる不信感の正体と言えます。

先日、あるラーメン屋に言ってお腹を1週間ほど壊していました。

その後、そのラーメン屋に再び行ったのですが、別メニューでもおいしく感じません。

実はそれと同じです。

境界パーソナリティの人も、幼いころの経験が現在に及んでいるということですが、問題は、その傷つきが言語化以前であるということです。

こういう言語化以前の体験による傷つきは深い空虚感を生みます。

「何かが足りない」「何かが満たされていない」という感覚ですが、その「何か」がわからないのです。

ただし、その「何か」はわからなくても、安心できる対人関係が重要であることは何となくわかっている場合もあり、よって二者関係を求めることも多いです。

そして現実では安定した二者関係を求めますが、しかし、上記の理由で安定しようとすればするほどに不安定性が同じ大きさで体験されるという結果になります。

彼らの苦しみは深く、まさに「生きていることが苦しい」とも言えるでしょう。

【見捨てられ不安について】

境界例の中核的な問題として「見捨てられ不安」を挙げたのは、ジェームズ・F・マスターソンですあり、これは現在のDSM-5にも明記されている項目ですね。

マスターソンの理論も大枠では上記と同じです。

彼は、「近づけば報酬を与え(WORU)、遠ざかれば罰を与える(RORU)」ということによって、安心できる対象から離れれば恐ろしいことが起こるという認識が生まれるとし、これによって見捨てられ不安が生じると考えました。

境界例の人たちは、人とは異なる主体性を作ろうとするとき、見捨てられ不安や抑うつが、心の深層から思わず湧き上がると考えたのです。

マスターソンの理論の背景には、マーガレット・マーラーの考え方があり、その辺は割愛しますが興味のある方は理解しておくと良いでしょう(分離-個体化などが有名な概念でしょう)。

ちなみに、見捨てられる不安というのは正常なものです。

そもそも子どもにとって最大の不安は「置き去りにされること」です。

子どもは自分だけで生きることができませんし、そのことを実感として理解しています。

置き去りにされれば生きていけないので、当然相手にすがりついたり、優れた自分でいようとするというパターンも出やすいものです。

それを健康な形で軟着陸させていくために必要なのが、子どもが自分から離れたり悪いことをしたりしても「安定して関わり続ける」ということです。

これを「叱るとダメなんだ」と思わないでください。

むしろ叱るという体験は不可欠なものです。

「叱られるけど、大切にされる」という相反する体験を何度も積むことが、子どもが社会化していくために欠かせない体験です。

また、子どもが失敗したときに「そんなあなたが大好きだ」と言えるかが大切です。

どうやって子どもの内に「優れていなくても愛される」という思いを入れ込んでいくか、それは子どもが失敗したときが大きなチャンスと言えるでしょう。

【理想化とこき下ろし】

メラニー・クラインは、ポジションという概念を提出しています。

まずはこれをざっくりと説明します。

赤ちゃんにとって、外界はぶつ切りであり、自分の一部と認識されています。

つまり、泣いたときにやってくるお母さんの顔も手も乳房も、すべて一つの対象としては見なされていません(これを部分対象と呼びます)。

この部分対象には、赤ちゃんにとって良いことをしてくれる良い対象と、自分の要求とはずれたことをしてくる悪い対象があり、これらも別々のものと認識されています。

しかし、赤ちゃんが成長してくると、こうした外界にある部分対象は、どうやら一つの母親という人間であると認識されてきます。

このとき、子どもがそれまでに重ねてきた体験がどのようなものであったかによって、部分対象を一つにまとめることが可能か否かが分かれます。

部分対象を一つにまとめる(まとまると全体対象と呼びます)ためには、赤ちゃんが積み重ねてきた体験が「良い>悪い」となっていることが求められます。

良い体験だけで構成されている世界は完璧で、自分の要求を100%満たしてくれるわけですが、どうやら実際はそうではないらしいと子どもが感じます。

この自分にとって100%の世界(ある種の妄想的な世界)を崩すためには、「基本的には良い体験で満たされていて、悪い体験もないわけではないけど、このくらいなら混ぜてあげてもいいかな(本当は嫌だけどね!)」というくらいに「良い体験>悪い体験」になっていることが重要なのです。

そこそこ「良い体験>悪い体験」となっていれば、完璧な母親に完璧でない母親を混ぜ込んで「大体は自分にとって良いことをしてくれるけど、ちょっとはずれるお母さん」といった感じに母親のイメージが移行することになります。

これが「全体対象」になるということです。

メラニー・クラインはこの段階のことを「抑うつポジション」と呼んでいますが、なぜ抑うつなのかというと、完璧な母親に不完全な母親イメージを混ぜ込むことは、要は母親に対する幻滅が生じるわけです。

その幻滅を「抑うつ」と表現しているわけですね。

こうした「抑うつポジション」に移行できれば良いのですが、先ほど述べたように「悪い体験>良い体験」となっていると、そううまくはいかなくなります。

悪い体験(自分にとって不適切なことばかりしてくる母親という部分対象)が沢山ある中で、ちょっとしかない良い体験を混ぜたとしても、その子どもにとって「僕の母親は基本的に自分にとって良い体験をもたらしてくれない」わけですから、良い対象と悪い対象を混ぜたくないわけです。

こういう時に子どもが精神世界で何を行うのか?

良い体験をもたらす対象と、悪い体験をもたらす対象をすっぱりと切り離すという心的戦略を無意識に行うとされています。

これはスプリッティング(分裂)と呼ばれており、これによって「理想化とこき下ろし」が生じると見られています。

良い対象と悪い対象がすっぱり分かれており混ざっていない状態ですから、目の前の人を良い人と認識すれば「100%良い人」になり、神様のような全能的な存在として見なすということもあります(これがいわゆる理想化ですね)。

しかし、そのように見える人でも自分の思い通りにならない瞬間が見えてくるわけであり、そうすると「良い人にも欠点はあるよな…」とはならず、「この人は100%悪い人だ」とスパッと逆に振れることになりこき下ろすという行為になるとされています。

子どもは、こういうやり方によって「僅かしかない良い体験」を守っていると言えます。

しかし、その良い体験を親の全イメージとして見なすには無理があるのが客観的な見方であることはわかると思います。

そのためメラニー・クラインはこの状態のことを「妄想-分裂ポジション」と呼んでいます。
妄想は「自分にとっての100%の存在を信じている」ということであり、分裂は「僅かしかない良い部分を守るために、悪い部分と良い部分を分裂させている」ということを指しています。

こういう現象は児童養護施設にいるとよくわかります。

酷い虐待を受けた子どもたちが、親のことを悪く言うかと言われれば、必ずしもそうではありません。

むしろ「僕のお母さんは遊園地に連れてってくれた!」などのように、競うように自分の親がしてくれた「良い部分」を主張します。

こういう現象はまさに悪い対象と良い対象を混ぜないことによって「僅かしかない良い部分」を守っている、ということなのです。

やはり悲しいのは、被虐待児が語る親の良い部分は、あくまでも断片的であり、一回限りの体験が多いということですね。

このような事態が境界性パーソナリティでも生じるとされています。

見捨てられ不安が生じる流れを示しましたが、それはこのような「妄想-分裂ポジション」が生じる状況とも重なることがわかると思います。

カーンバーグは境界性パーソナリティ障害の診断基準として「内的対象関係の病理」を挙げており、これはこの項目で述べた内容のことを指しています。

【自己を傷つけること】

境界性パーソナリティ障害では、確かにリストカットのように自分を傷つける行為が多いように感じます。

ただし、そこにはさまざまな意味が含まれており一義的に捉えるのは難しいでしょう。

思いつく意味を挙げていくと以下の通りです。

まずは「しがみつき」の方法として生じる場合です。

自分が誰かから見捨てられないように、自分に焦点が向くようにするために自分を傷つけるという行為に走ることがあるでしょう。

強い見捨てられ不安がある場合、視野狭窄が起こりますから「今ここ」だけでも自分に注目されるならばそれでよいという刹那的な行動になりがちです。

また、長いストレスフルな生活を送っていると、解離という対処法が採用されている場合が少なからずあり、解離は自傷行為を生じやすくさせます。

解離は「現実を他人事として捉えることによって、心的衝撃を軽減する」という機能ですから、それ自体が悪いわけではありません。

しかし、解離という対処法があらゆる場面で出現するようになると、その人が自分の人生を生きている感覚や、過去の自分と今の自分の連続性が失われてしまいます。

自傷行為には、こうした解離状態からの離脱という意味も含まれており、生体にとってはインスタントな治療法の一つと見なすことも可能です。

その他にも葛藤耐性が低かったり、フラッシュバックが生じやすいなど混乱する状況に出会うと自傷が出るということもあります。

こうした様々な状況で自分を傷つける行為が生じやすく、また、それを抑制する力も育っていないことが多いとされています。

以上のように、Aには境界性パーソナリティ障害の基準で示されているような病態が見られますね。

よって、選択肢③が適切と判断できます。

④ 反抗挑発症/反抗挑戦性障害

反抗挑戦性障害の診断基準は以下の通りです。


A.怒りっぽく/易怒的な気分、口論好き/挑発的な行動、または執念深さなどの情緒・行動上の様式が少なくとも6ヵ月間は持続し、以下のカテゴリーのいずれか少なくとも4症状以上が、同胞以外の少なくとも1人以上の人物とのやりとりにおいて示されている。

【怒りっぽく/易怒的な気分】

  1. しばしばかんしゃくを起こす。
  2. しばしば神経過敏またはいらいらさせられやすい。
  3. しばしば怒り、腹を立てる。

【口論好き/挑発的な行動】

  1. しばしば権威ある人物や、または子どもや青年の場合では大人と、口論する。
  2. しばしば権威ある人の要求、または規則に従うことに積極的に反抗または拒否する。
  3. しばしば故意に人をいらだたせる。
  4. しばしば自分の失敗、また不作法を他人のせいにする。

【執念深さ】

  1. 過去6ヵ月間に少なくとも2回、意地悪で執念深かったことがある。

注:正常範囲の行動を症状とみなされる行動と区別するためには、これらの行動の持続性と頻度が用いられるべきである。5歳未満の子どもについては、他に特に記載がない場合は、ほとんど毎日、少なくとも6ヵ月間にわたって起こっている必要がある(基準A8)。5歳以上の子どもでは、他に特に記載がない場合、その行動は1週間に1回、少なくとも6ヵ月間にわたって起こっていなければならない(基準A8)。このような頻度の基準は、症状を定義する最小限の頻度を示す指針となるが、一方、その他の要因、例えばその人の発達水準、性別、文化の基準に照らして、行動が、その頻度と強度で範囲を超えているかどうかについても考慮するべきである。

B.その行動上の障害は、精神病性障害、物質使用障害、抑うつ障害、または双極性障害の経過中にのみ起こるものではない。同様に重篤気分調節症の基準は満たさない。


これらを踏まえて、本事例を見ていきましょう。

  • 自殺行動・自傷行為:自傷行為及び自殺未遂でたびたび救急外来に搬送されている。
  • 自らを傷つける衝動性:無謀な運転による交通事故。不特定多数の異性と性的関係を持ったりすることもある。
  • 理想化とこき下ろし:初回面接時には、「Bさんに会えてよかった」と褒めていたが、最近では、「最低な心理師」と罵ることもある。
  • 同一性の混乱:礼節を保ち、にこやかに来院する日もあれば、乱れた着衣で泣きながら来院することもある。
  • 気分の不安定性:「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある。
  • 激しい怒り・抑制困難:交際相手の男性と連絡が取れないと携帯電話を壁に叩きつけたり。

というAの特徴と、反抗挑戦性障害の基準は合わないことがわかります。

確かに怒りっぽさは見えますが「かんしゃく」「腹を立てる」というニュアンスと異なることがわかるでしょうし、権威ある人物への反抗的な態度というものでもありませんね(一応、公認心理師は権威的ではないと考えて)。

また、執念深いという基準もAには合わないものですね。

以上より、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 解離性同一症/解離性同一性障害

診断基準は以下の通りです。


A.2つまたはそれ以上の、他とはっきりと区別されるパーソナリティ状態によって特徴づけられた同一性の破綻で、文化によっては憑依体験と記述されうる。同一性の破綻とは、自己感覚や意思作用感の明らかな不連続を意味し、感情、行動、意欲、記憶、知覚、認知、および/または感覚運動機能の変容を伴う。これらの徴候や症状は他の人により観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある。

B.日々の出来事、重要な個人的情報、および/または心的外傷的な出来事の想起についての空白の繰り返しであり、それらは通常の物忘れでは説明がつかない。

C.その症状は、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

D.その障害は、広く受け入れられた文化的または宗教的な慣習の正常な部分とは言えない。
注:子どもの場合、その症状は想像上の遊び友達または他の空想的遊びとしてうまく説明されるものではない。

E.その症状は物質(例:アルコール中毒時のブラックアウトまたは混乱した行動)や他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものではない。


これを踏まえて事例を見ていきましょう。

  • 自殺行動・自傷行為:自傷行為及び自殺未遂でたびたび救急外来に搬送されている。
  • 自らを傷つける衝動性:無謀な運転による交通事故。不特定多数の異性と性的関係を持ったりすることもある。
  • 理想化とこき下ろし:初回面接時には、「Bさんに会えてよかった」と褒めていたが、最近では、「最低な心理師」と罵ることもある。
  • 同一性の混乱:礼節を保ち、にこやかに来院する日もあれば、乱れた着衣で泣きながら来院することもある。
  • 気分の不安定性:「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある。
  • 激しい怒り・抑制困難:交際相手の男性と連絡が取れないと携帯電話を壁に叩きつけたり。

このAの特徴と合致する部分があるとすれば、「「みんな死んじゃえ」と叫ぶことがあるが、後日になるとそのときの記憶がないこともある」というところかもしれません。

この記憶の無さを解離症群の健忘と思ってしまう可能性はありますが、それは間違いです。

別選択肢で示したように、この記憶は「良い」と「悪い」を混ぜ込めないことによって起こるものと見なすのが自然ですね。

以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です