公認心理師 2020-31

 もう定番と言ってもよいでしょう、向精神薬の副作用に関する問題です。

まだたった3回(追加試験もあるから4回)の試験で傾向も何もありませんが「毎回必ず出ているテーマ」、つまり頻出です。

内容がいくら難しくても「この辺が出る」とわかっていれば対処できるはずですから、試験勉強をされる方は、しっかりと準備しておくようにしましょうね。

問31 抗精神病薬を長時間投与された患者に多くみられる副作用のうち、舌を突出させたり、口をもぐもぐと動かしたりする動きが特徴的な不随意運動として、正しいものを1つ選べ。

① バリズム

② アカシジア

③ ジストニア

④ ジスキネジア

⑤ ミオクローヌス

解答のポイント

抗精神病薬の副作用について理解していること。

不随意運動の臨床的分類を理解していると解答しやすい。

必要な知識・選択肢の解説

本問は不随意運動に関する理解が重要になってきます。

そもそも「不随意運動とは何か?」を理解しておくことが大切です。

この分類は簡単ではありませんが(反射とかも入ってくるとややこしい)、以下のような分類がわかりやすかろうと思います。

  • 意図的な運動:一般的な随意運動
  • 意図しない運動:
     ・不随意運動:病的な意味を持つ
     ・意図的ではないが病的とは言えない:鏡像運動、連合運動、貧乏ゆすり等
     ・反射:生理的も病的もある。脊髄反射、脳幹レベル・大脳皮質レベルの反射等

不随意運動発生の起源は、運動を起こす大脳皮質から脊髄・筋肉に至るまで、どの部位でも起源となり得ます。

臨床的に不随意運動は多くあります。

「臨床神経内科学(平山監修)」には、その分類として以下の図がありますので、参考にしておきましょう。

この中で、運動過多症状つまり不随意運動としては、振戦、舞踏運動、ジストニア、チック、ミオクローヌスが含まれ、バリズムは舞踏運動の範疇のもの、アテトーゼはジストニアに近い病態と考えられています。

不随意運動に対するアプローチは、まず症候学的分析となります。

つまり、まず運動として起きている症状を正確に観察し、従来言われているどの不随意運動に合致するかを考察していくということです。

これらを踏まえ、選択肢の解説に入っていきましょう。

① バリズム

バリズムとは、病態としては舞踏運動の極端な例と言えます。

ballismの語源はギリシャ語で「投げる」を意味する言葉で、近位筋に出現する大きな動きで、手を投げ出すように見えたことから命名されたという話です。

反復して、少しずつ変化しながら、持続的に出現している近位筋有意に出現する不随意運動です。

動きが粗大なため、外傷を受けることも多く、一日中続くので、時に運動負荷が強すぎて心不全になる患者もいます。

顔面や頸に不随意運動が出現することはほとんどなく、上下肢だけに限局している特徴を有します。

なお、バリズムは睡眠時には消失します。

1肢にだけ出るものをmonoballism、片方の上下肢に出現するものをhemiballismと呼びますが、ほとんどがhemiballismの症状なので、バリズム=hemiballismのことを意味していることが多いです。

ほとんどの患者が視床下核に病変を有しており、視床下核とバリズムの関連ははっきりしています。

ただし、視床下核全体が障害されると不随意運動は出現せず、10%程度障害されるとバリズムが出現することがわかっています。

更に、病変が一か所に限局していることも多く、不随意運動以外に神経学的所見を呈さないことがほとんどとされています。

バリズムの原因となる疾患は、発生機序が舞踏運動と同じであり、舞踏運動同様に数多くあります。

以下のようなものが挙げられます。

  • 脳血管障害:脳出血、脳梗塞、くも膜下出血等
  • 中枢神経感染症:結核、梅毒、クリプトコッカス症、トキソプラズマ症
  • 脳腫瘍:グリオーマ、髄膜腫、転移性脳腫瘍
  • 免疫性疾患:抗リン脂質症候群、強皮症等
  • 代謝性疾患:低血糖、高血糖
  • 外傷など:頭部外傷等
  • 薬物:抗てんかん薬、経口避妊薬
  • その他:大脳基底核石灰化、脳幹脳炎
ただし、バリズムを呈する患者の4分の3以上は脳血管障害であり、症状は急性に発症することがほとんどです。

以上より、本問の「舌を突出させたり、口をもぐもぐと動かしたりする動きが特徴的な不随意運動」としてバリズムは該当しないことがわかります。

よって、選択肢①は誤りと判断できます。

② アカシジア
③ ジストニア
④ ジスキネジア

抗精神病薬の副作用としては…

  • 中枢神経症状:錐体外路症状、精神症状、けいれん発作と脳波異常、悪性症候群
  • 自律神経症状:抗コリン性副作用、抗ノルアドレナリン性副作用
  • 心・循環系の副作用
  • 内分泌・代謝障害:体重増加、耐糖能異常、性機能障害、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群
  • その他の副作用:肝障害、血液・造血器障害、皮膚症状、眼症状
…などがあります。
そして、ここで挙げられている選択肢は、全て中枢神経症状の錐体外路症状になりますね。

本解説では、錐体外路症状を中心に述べていきましょう。

全ての抗精神病薬は錐体外路症状の原因薬物となり得ますが、特に高力価薬物により惹起されやすく、第二世代抗精神病薬では惹起されにくいという特徴があります。

錐体外路症状は急性と慢性に分けられ、急性は抗精神病薬投与開始後数日から数週で出現し、用量依存的で、玄以に薬物の減量や中止により改善します。

一方、慢性の錐体外路症状は、抗精神病薬投与開始後数か月から数年で出現し、明らかな用量依存性はなく、原因薬物の中止後も持続することがあり、治療抵抗性を示します。

錐体外路症状は頻度の比較的高い副作用であり、アドヒアランス低下を招きやすく、その対策は重要になります。

主なものとしては、パーキンソニズム、急性ジストニア、急性アカシジア、遅発性ジスキネジアがあり、以下のその詳細を述べていきます。

1.パーキンソニズム

パーキンソニズムが生じるのは、黒質線条体系ドパミン受容体遮断により、ドパミン系に対してアセチルコリン系が相対的に有意となるために惹起されるとするドパミン・アセチルコリン不均等仮説が有力です。

振戦(手、頭、声帯、体幹、脚などの体の一部に起こる、不随意でリズミカルなふるえ)、筋強剛(無意識のうちに、筋肉がこわばり、スムーズに動けない)、無動(動きが少ない)が三徴候であり、流涎(よだれを流す)や脂漏(脂が出る。テカテカする)なども見られます。

無動は陰性症状や抑うつと間違われることもあり、鑑別が必要です。

女性や高齢者で惹起されやすい副作用とされています。

対策は原因薬物の減量・中止、抗パーキンソン病薬の併用です。

抗パーキンソン病薬としては、一般にビペリデンなど抗コリン薬が選択されますが、抗パーキンソン病薬の長期投与は遅発性ジスキネジアや認知機能障害などを引き起こす可能性があるため、漫然とした長期投与は避け、必要最小限の使用を心がけるべきです。

抗精神病薬に対する体制の形成によってパーキンソニズムが消失する場合もあり、初期のパーキンソニズムに対して抗パーキンソン病薬を併用したとしてもその数か月後に抗パーキンソン病薬を中止して、パーキンソニズムが出現しないことは少なくありません。

2.急性ジストニア

ジストニアは、持続的な筋収縮を呈する症候群であり、しばしば捻転性・反復性の運動、または異常な姿勢をきたします。

つまり、自分で制御できない(不随意の)持続的な筋肉の収縮をきたし、うねるような運動や姿勢異常が現れる神経症候群と定義されています。

他の不随意運動と異なり、ジストニア運動は同じグループの筋肉による反復した運動であることが多く、パターン化されたうねるような運動で震えもみられます。

若年男性に最も多く見られ、頸部後屈や斜頸、開口障害、嚥下障害、眼球上転などが特徴で、咽頭攣縮では生命の危険もあります。

急性ジストニアは、後シナプスドパミン受容体の遮断に反応して前シナプスからのドパミン放出が亢進し、それが受容体遮断作用を上回る結果惹起されると考えられています。

また、オピオイド受容体の一つであるσ(シグマ)受容体の関与も示唆されています。

対策は抗コリン薬を筋注し、早期に改善を図るとともに、抗コリン薬の経口投与を行います。

原因薬物の減量は変更が必要になることもあります。

3.急性アカシジア

中脳辺縁系あるいは中脳皮質系D2受容体遮断作用に加えて、ノルアドレナリン系の亢進やγ(ガンマ)アミノ酪酸(GABA)受容体の関与も考えられています。

アカシジアは鎮座不能とも呼ばれ、下肢のムズムズ感、落ち着きのなさなど自覚的な内的不穏症状、及び足踏みをしたり、歩き回ったりするなど、他覚的な運動亢進症状からなります。

不安や焦燥といった精神症状との鑑別は重要ではあるが困難な場合も少なくありません。

対策は原因薬物の減量が第一であるが、抗コリン薬もある程度有効とされています。

プロペラノロールなどのβ遮断薬やクロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬物の有効性も報告されています。

4.遅発性ジスキネジア

抗精神病薬の長期投与による黒質線条体系の後シナプスドパミン受容体の感受性亢進により惹起されるとするドパミン受容体過感受性仮説がよく知られています。

また、フリーラジカル形成による神経損傷説も唱えられています。

舌を突きだす、口をもぐもぐさせるなど口顔面の異常運動の出現頻度が高く、四肢の舞踏病様運動や体幹をくねらせる運動異常は頻度が低いです。

現在のところ、有効性が確立された治療法は存在しないため、抗精神病薬の投与量を必要最小限とし、予防に重点を置くことが求められます。

原因薬物の減量や中止、ビタミンE投与などが試みられています。

なお、遅発性ジスキネジアと一般的なジスキネジアがあり、前者はほとんど抗精神病薬使用後に出現し、後者の多くは抗パーキンソン病薬などのドパミン関連薬剤使用時に出現します。

呈する症状は運動の種類としては同じようですが、原因・治療などにおいて両者で全く異なるため、この2種類は分けて理解しておくことが重要です。

このように、問題文にある「舌を突出させたり、口をもぐもぐと動かしたりする動きが特徴的な不随意運動」として見られる抗精神病薬の副作用は遅発性ジスキネジアになります。

よって、選択肢②および選択肢③は誤りであり、選択肢④が正しいと判断できます。

⑤ ミオクローヌス

ミオクローヌスは多様な不随意運動であり、その原因と病態生理は多岐にわたります。

複数の筋肉群が同時に素早く収縮します。

具体的には、急に物を投げるような動作や立っている状態で急に転倒するなどがあります。

ミオクローヌスを最初に記載したのはフリードリヒですが、その1881年の報告に登場した「paramyoclonus multiplex」は非常にすばやい電撃的な筋収縮を指すために新たに作られた用語でした。

一般的にミオクローヌスといえば不随意の筋収縮ですが、筋緊張が一瞬消失するタイプもあり、その場合は陰性ミオクローヌスと呼ばれます。

また、ミオクローヌスは一部の筋群に限局して現れることが多いですが、分節全体、あるいは全身に広がることもあります。

また、常に特定の部位にだけ現れることもあります。

ミオクローヌスの分類には病因に基づくもの(本態性または症候性)、出現部位に基づくもの(局在性、分節性、全身性)、てんかん性か否かに基づくもの(てんかん性または非てんかん性)があります。

しかし、てんかん性と非てんかん性の特徴を併せ持ち、てんかんと運動障害の中間に位置するように見えるミオクローヌスも存在します。

実際、ミオクローヌスの分類は複雑であり、これまで提唱されてきた分類方法には一長一短ありますが、ここではワイナー&ラングの4群(生理的ミオクローヌス:吃逆や入眠時ミオクローヌスなど、本態性ミオクローヌス:神経病理学的異常を伴わないもの、症候性ミオクローヌス:基礎疾患をもつもの、ミオクロニーてんかん:てんかん発作の症状として出現するもの)に分けたなかから「ミオクロニーてんかん」について紹介していきましょう。

ミオクローヌスは全般てんかんの患者にも見られ、ミオクローヌスが主要症状のてんかん症候群もあります。

このタイプのてんかんには良性非進行性の症候群から、例外なく死に至る進行性のものまであります。

Janzの「おはようミオクローヌス」としても知られる非進行性の若年ミオクロニーてんかんは思春期に発症し、覚醒直後のミオクローヌス、早朝の全般性強直間代発作が特徴であり、欠神発作が生じることもあります。

若年ミオクロニーてんかんはありふれたてんかん症候群であり、全てんかんの5~10%を占めます。

家族性成人ミオクロニーてんかんは若年ミオクロニーてんかんと似ているが、成人期に発症します。

日本人の家系で染色体8q24との連鎖が報告されていますが、スペインの家系では連鎖は認められず、このてんかん症候群も遺伝的に被均質と思われます(これは若年ミオクロニーてんかんも同じ)。

進行性ミオクローヌスてんかんは、ミオクローヌスを伴う悪性のてんかん症候群です。

これは、ミオクローヌス、強直間代発作、失調、認知症が進行性に悪化の一途をたどります。

小児期後半か思春期に発症することが多いとされていますが、その年齢でも発症します。

脳波では汎性除化とさまざまな棘波、多棘波、棘徐波複合を認め、顕著な光感受性を示します。

ミオクローヌスと同期させて記録した脳波からはてんかん発作として矛盾しない皮質起源の所見が得られてはいるが、すべての症例で認められるわけではありません。

進行性ミオクローヌスは難治であり、てんかん発作とミオクローヌスを完全に抑制することはできないとされています。

以上より、本問の「舌を突出させたり、口をもぐもぐと動かしたりする動きが特徴的な不随意運動」としてミオクローヌスは該当しないことがわかります。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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