閉経の過程で血中濃度が上昇するホルモンに関する問題です。
ホルモンっていろんな種類や呼び名があって、全然覚えられないんですよね。
問22 閉経の過程で血中濃度が上昇するホルモンとして、最も適切なものを1つ選べ。
① グルカゴン
② バソプレシン
③ 卵胞ホルモン
④ 甲状腺ホルモン
⑤ 卵胞刺激ホルモン
解答のポイント
各ホルモンの加齢による変化を把握している。
選択肢の解説
⑤ 卵胞刺激ホルモン
卵胞刺激ホルモンとは、脳の視床下部から分泌されるゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)放出ホルモンというホルモンが分泌されて、脳の下垂体を刺激します。
下垂体からはゴナドトロピン(性腺刺激ホルモン)とよばれる性腺(卵巣)を刺激するホルモンを分泌することで卵胞刺激ホルモン(FSH)と黄体形成ホルモン(LH)が分泌され、この二つのホルモンが働くことにより卵巣から女性ホルモンであるエストロゲンとプロゲステロンが分泌されます。
女性ホルモンは月経、妊娠・出産などの生殖機能以外にも健康維持に重要な役割も担っています。
特に月経がある年代では、女性ホルモンの分泌の増減が毎月起こります(妊娠・出産の準備・維持のため)。
女性ホルモンの血中濃度が上がると、視床下部や下垂体に抑制をかけ、卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌を減らし、女性ホルモンの分泌を抑えます(ネガティブフィードバック)。
反対に、女性ホルモンの血中濃度が下がると、卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンの分泌を促進し、女性ホルモンの分泌を促します(ポジティブフィードバック)。
このため、卵胞刺激ホルモンの値を調べることで、女性ホルモン分泌の異常が性腺と脳のどちらに原因があるか推測することが可能です。
卵胞刺激ホルモンは、婦人科の病気のスクリーニングや鑑別診断のために行われる検査でもあり、上記の通り「FSH」と表記されます(正常値は以下の通り)。
- 卵胞期:3.01~14.72mlU/mL
- 排卵期:3.21~16.60mlU/mL
- 黄体期:1.47~8.49mlU/mL
- 閉経後: 157.79mlU/mL以下
黄体期にはFSHは低値となり、更年期で閉経後の場合には女性ホルモンの分泌が著しく下がるため、FSHは高値になることがわかります。
検査で高値の場合、卵巣性無月経、Turner症候群、低値では視床下部性無月経、下垂体機能低下症、神経性食欲不振症などが考えられます(もちろん、その年代の平均値を比較して)。
以上より、選択肢⑤が閉経の過程で血中濃度が上昇するホルモンとして適切と判断できます。
③ 卵胞ホルモン
ここで女性と関わりの深いホルモンを挙げておきましょう。
- エストロゲン(卵胞ホルモン): 女性らしい体を作る。排卵、月経を起こし妊娠に必要な子宮の環境を整える。皮膚や骨の健康、感情、自律神経の働きにも関与する。
- プロゲステロン(黄体ホルモン): 子宮の環境を整え妊娠しやすい状態にする。妊娠後は妊娠状態の安定化に関与する。
- 性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH):性腺刺激ホルモンである卵胞刺激ホルモン(FSH)や黄体形成ホルモン(LH)の分泌を促す。
- 卵胞刺激ホルモン(FSH):卵胞の成長とエストロゲンの分泌を促す。
- 黄体形成ホルモン(LH):排卵とプロゲステロンの分泌を促す。
- オキシトシン:子宮を収縮させ分娩を促す。出産後は乳汁の分泌を促す。
- プロラクチン(乳汁分泌ホルモン):乳汁の産生を促す。
また、別の視点からホルモンを捉えていきましょう。
ほとんどの ホルモンの血中濃度は加齢とともに低下しますが、高齢になっても同程度の濃度が保たれるホルモンや、より増加するホルモンもあります。
ホルモン濃度が下がらなくても、年齢を重ねるとホルモン受容体の感受性が低下するため、 内分泌機能は全般的に低下します。
減少するホルモンには次のものがあります。
- エストロゲン(女性)
- テストステロン(男性)
- 成長ホルモン
- メラトニン
女性では、エストロゲン濃度の低下が 閉経につながります。
男性では、テストステロン濃度が徐々に減少します。
成長ホルモン濃度の減少は筋肉量の減少と筋力低下につながります。メラトニン濃度の減少は、加齢に伴う正常な起床サイクル(概日リズム)の乱れに重要な役割を果たしている可能性があります。
通常は変化しない、またはわずかにしか減少しないホルモンには次のものがあります。
- コルチゾール
- インスリン
- 甲状腺ホルモン
増加するホルモンには次のものがあります。
- 卵胞刺激ホルモン
- 黄体形成ホルモン
- ノルアドレナリン
- 非常に高齢の人では、アドレナリン
- 副甲状腺ホルモン
機能の衰えがみられる高齢者には、一見、ホルモン補充療法は有益であるように思えますが、ホルモン補充療法は一般に若返りや長生きをもたらすものではなく、むしろ有害な場合もあります(一部の高齢女性に対するエストロゲン補充など)。
とはいえ、高齢者に対するホルモン投与の有益性を調べる研究が今でも進められています。
この中でも、エストロゲン(卵胞ホルモン)は、一般的には8~9歳頃から、卵巣で分泌され、女性らしいからだ作りを助けるホルモンです。
思春期においては、乳房の成長や子宮・膣の発育などを促すとともに、身長や体重の増加に役立ちます。
女性ならではのまるみをおびたからだつきをつくるのも、エストロゲンです。
分泌量が増える12歳前後になると、女性は初潮を迎えます。
エストロゲンは、生理にも密接に関わっており、閉経まで、生理の周期ごとに分泌量の増減を繰り返します。
その後、30歳半ばまで、分泌は活発に続きます。
女性のからだの機能が整うこの頃は「性成熟期」と呼ばれ、妊娠や出産にも深く関わります。
エストロゲンには、このほか、髪や肌のうるおいを保つ働きや、丈夫な骨を維持したり、コレステロール値の調整をしたり、動脈硬化を防ぐなど、様々な働きで女性のからだを守ってくれます。
更年期は生殖期と非生殖期の間の移行期を指し、卵巣機能が衰退し始め、消失する時期に該当します。
閉経前後の数年間に相当し、通常は45歳~55歳頃になります。
卵巣中の卵細胞(卵胞)が減少してくると、卵巣ステロイドホルモンおよびインヒビンは減少し、卵胞刺激ホルモンと黄体形成ホルモンはネガティブフィードバックのため上昇します(こちらは選択肢⑤の内容の通りですね)。
なお、卵胞刺激ホルモンの値は卵細胞数が減少するにつれて、黄体形成ホルモンより早期に、そして閉経の2~3年前から上昇し始めます。
月経周期は次第に延長し、不規則となり、月経血量の減少が見られます。
卵胞のゴナドトロピンに対する反応、エストロゲン分泌量は低下し、無排卵になることが多いです。
このように、卵巣機能が低下する時期は約5~6年続き、その後、卵巣機能の完全な衰退または消失によって月経の永久的な閉止である閉経になります。
このことから、閉経の過程では卵胞ホルモン(エストロゲン)は低下することが明らかですね。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
① グルカゴン
グルカゴンとはヒトの体の中で作られる、血液中の糖分(血糖値)を上げる強力なホルモンです。
グルカゴンは、体内で最も血糖値を上げる効果の強いホルモンであり、1型糖尿病では、適切なタイミングでこのグルカゴンを分泌できなくなると言われています。
ランゲルハンス島には、α、β、δ、PPという4種類の細胞があり、それぞれグルカゴン、インスリン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチドを分泌します。
インスリンは食後の血糖値の上昇に伴って分泌されます。
同化(エネルギーを消費して物質を合成)を促進し、異化(エネルギーを畜産)を抑制します。
インスリンにはさまざまな作用がありますが、このうち、主に骨格筋と脂肪組織へのグルコース取り込みの促進、並びに肝臓におけるグリコーゲン分解と糖新生の抑制などの作用の結果として、インスリンは血糖値を低下させます。
一方、血糖値が低下するにつれて分泌されるグルカゴンは、肝臓に対するインスリンの作用のいくつかについてインスリンとは逆の作用を発揮し、血糖値を上昇させるように働きます。
血糖値の上昇にかかわるホルモンは、グルカゴンの他、成長ホルモン、糖質コルチコイド、甲状腺ホルモン、副腎髄質ホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン)などがありますが、血糖値を低下させるのはインスリンだけです。
そのため、インスリンが分泌されにくくなったり、インスリンは分泌されても作用が発揮されにくくなると、血糖値が高い状態、つまり糖尿病になります。
このように、血糖値を上昇させるホルモンということになります。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② バソプレシン
下垂体後葉からは抗利尿ホルモンとオキシトシンが分泌されます。
このうち、抗利尿ホルモンのことをバソプレシンとも呼びます(vasopressin:vaso=血管、press=加圧、を意味する)。
バソプレシンは、集合管(腎臓に存在する管系。遠位尿細管に続き、尿を排泄する通路となる)での水の再吸収促進による抗利尿作用を持つとともに、血管平滑筋の収縮による血圧上昇作用も有します。
すなわち、バソプレシンは腎臓から排出される水分量を制御することで体内の水分量を調節する役割を担っています。
バソプレシンは腎臓から排泄される水分量を減少させるので、その結果、体内により多くの水分が保持され、体内のナトリウム濃度が薄まります。
ちなみに、血液中のナトリウム濃度が低いことを低ナトリウム血症と言います。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
④ 甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンは、胎児や新生児では脳および身体の組織の正常な発育に必要とされ、あらゆる年齢層でタンパク質、炭水化物および脂肪の代謝を調節します。
トリヨードサイロニンは核内受容体への結合活性が最も高く、サイロキシンにはわずかなホルモン活性しか認められませんが、サイロキシンは長時間保持されトリヨードサイロニンに変換されるため、トリヨードサイロニンの貯蔵庫として働きます。
要するに、こうした甲状腺ホルモンは、熱やエネルギーをつくるため、血糖値を上げたり、心臓の収縮力を高めたりする作用があり「からだを元気にするホルモン:エネルギーを作ったり、神経系の活動を活発にする」と言えます。
甲状腺ホルモンは全ての細胞の代謝活性を高め、正常な神経系の成熟と身体の正常な発達と成長に重要な役割を果たすのです。
ある本に「もし、あなたがオタマジャクシなら、カエルに変態するのに必要なのは、きわめて微量の甲状腺ホルモンです!」とありました(わかりやすいようなわかりにくいような)。
甲状腺ホルモンの重要性を知る最良の方法は、甲状腺ホルモンの欠乏(甲状腺機能低下症)や過多(甲状腺機能亢進症)の影響について知ることですね(この問題など)。
ちなみに、更年期障害の疲れやすい、ほてり、ホットフラッシュ、イライラする、動悸などの症状は甲状腺機能異常(機能亢進、機能低下のどちらか)に当てはまるような症状が多く、それが本選択肢が設定された理由と言えるかもしれません。
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)の男女比は約1:4で20~50代に多く、甲状腺機能低下症(橋本病)の男女比は約1:20で20~60代に多いことが知られています。
更年期だからと言って甲状腺ホルモンが必ずしも低下する、増加するということは一概に言えないことがわかりますね。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。