公認心理師 2022-35

低出生体重児とその発達に関する理解を問う内容です。

NICUにはうちの子も入りましたね(それほど大きな問題ではなかったんですけど)。

問35 低出生体重児及びその発達に関する説明として、不適切なものを1つ選べ。
① 低出生体重児は、高体温症になりやすい。
② 低出生体重児は、単胎児よりも多胎児に多い傾向がある。
③ 極出生体重児は、運動障害や知的障害などの合併症の頻度が高い。
④ 日本における低出生体重児の出生比率は、2005年以降9~10%である。
⑤ 低出生体重児は、一般的に新生児集中治療室〈NICU〉などにおける医療ケアを要する。

関連する過去問

なし

解答のポイント

低出生体重児の特徴について把握している。

選択肢の解説

① 低出生体重児は、高体温症になりやすい。
② 低出生体重児は、単胎児よりも多胎児に多い傾向がある。
③ 極出生体重児は、運動障害や知的障害などの合併症の頻度が高い。
④ 日本における低出生体重児の出生比率は、2005年以降9~10%である。
⑤ 低出生体重児は、一般的に新生児集中治療室〈NICU〉などにおける医療ケアを要する。

本問ではいくつかの書籍と、厚生労働省が出している「低出生体重児 保健指導マニュアル」をもとに解説を書いていきましょう。

まず「低出生体重児」の定義について述べていきましょう。

低出生体重児は出生体重が2500g未満の児を指し、その中でも1500g未満は極低出生体重児、1000g未満は超低出生体重児と呼びます。

ちなみに「未熟児」とは、対外環境に適応して生きていくのに必要とされる成熟状態に到達していない徴候、つまり未熟な徴候を有する児を示しますが、現在では医学的な診断名とはみなされていません。

ここまでは出生体重による分類ですが、他にも在胎期間による分類があり、在胎22週0日から36週6日で出生した児を早産児、37週0日から41週6日で出生した児を正期産児、42週0日以降で出生した児を過期産児と呼びます(なお、早産児の中で在胎27週6日)。

流産は在胎22週未満の児の分娩を言い、死産は在胎22週以後の死亡児の分娩を言います。

続いて、低出生体重児に関する疫学について述べていきましょう。

  1. 低出生体重児の頻度:
    出生頻度には人種差があり、欧米諸国ではほぼ5~6%である。日本の出生頻度は最近増加傾向にあり9%前後とされている。
  2. 低出生体重児の出生原因:低出生体重児は早産で生まれることが多く、その原因は以下の通り。
    ①妊婦の疾患:腎疾患、妊娠高血圧症候群、心疾患、糖尿病、栄養失調症、感染症
    ②産道の疾病および異常:前置胎盤、狭骨盤、子宮筋腫、子宮内膜炎
    ③妊婦の喫煙
    ④外傷
    ⑤妊婦の身体作業:腹腔内圧を高める運動、重労働、長距離自動車旅行
    ⑥多胎妊娠:双胎は単胎に比べて出生体重は小さく、約半数が低出生体重児となる。三胎以上では大半が早産児で、体重も更に小さい。日本の双胎妊娠の発生率は100人に1人、三胎妊娠は10000人に1人と言われているが、近年排卵誘発剤や体外受精の普及により多胎児の出生が増えている。
    ⑦胎児の重症奇形
    ⑧妊婦の突然の精神的感動
  3. 低出生体重児の徴候と養育:
    体重、身長が小さく、頭部は比較的大きく、四肢は比較的短い。心血管調節が不安定なため、衣類に包まれた部位と露出部位の皮膚の色調が異なることがある。産毛が多く、頭髪はまばらで、眉毛はしばしば欠如する。爪や耳介はやわらかい。性器発育は未熟で、男児では精巣が腹腔内あるいは鼠経管内にとどまるものがあり、女児では大陰唇が小陰唇を覆っていない。睡眠が多く、生理的黄疸も強く長引きやすい。各種臓器が未発達であり、様々な病気を発症しやすいので、保温や栄養などきめ細やかな養護を行う。
    具体的には、①保温のために1500g未満の児は保育器内で養育する、②34週未満の児は経管栄養を、2000g未満の児はグルコースの点滴静注を併用する、③感染防止に努める、④無呼吸発作に注意する、⑤保育器内の児でも母親に直接触れさせるなど、母児関係確立に努める、などである。この辺に関しては後により詳しく述べる。
  4. 低出生体重児の予後:
    低出生体重児の生存率は年々増加している。最近では、例えば出生体重500~600gの死亡退院率は28%、900~1000gでは5%である。しかし、出生体重が小さいほど、様々な障害を残す確率が高くなることは間違いがない。
    低出生体重児、特に極低出生体重児は、脳性麻痺 (CerebralPalsy:CP)などの運動障害や、知的障害などの合併症の頻度が高いことが知られている(中でも、発達遅滞 (DQ:発達指数< 70)は 1000g未満で23.7%と高率)。明らかな障害のない子どもであっても、運動発達や言葉の発達が遅く、後から追いついてくる場合もあり、その発達過程は一人一人で異なる。
  5. 低出生体重児出産の予防:
    低出生体重児出産の予防法は、①早産を防止する、その既往がある妊婦は特に注意する、②妊娠高血圧症候群の早期発見と早期治療を行う、③妊娠保健管理を徹底する、④啓発教育を行う(いかなる週数でも早産のリスクがある)、などがある。

これらが低出生体重児の大まかな特徴等になります。

続いては、より詳しく低出生体重児に生じやすい問題等を見ていきましょう(ここでは、未熟児に起こりやすいことも併せて述べています)。

  1. 体温:
    在胎期間が短いほど、体重が小さいほど環境温に左右されやすい。また、重篤な感染症でも低体温になりやすい。
  2. 水、電解質代謝:
    早産児では細胞外液の割合が多いために生理的体重減少が大きいので、超早産児は適切な輸液療法とともに十分に加湿・加温した閉鎖式保育器に収容する。
  3. 腎機能:
    在胎期間が短いほど、また生後日齢が短いほど、換算糸球体濾過値が低く、尿細管での再吸収能が低い。そのため、脱水でも過量水分負荷でも容易に腎不全に陥る。また尿中へのNa排泄量が多いため、低Na血症を生じやすい。
  4. 免疫:
    免疫能が未熟なうえに母体由来のlgGが十分に移行していないため(この辺は「公認心理師 2022-27」でも述べましたね)、感染に罹患しやすい。また、重篤な感染症でも特異的な症状を呈することが少ない。
  5. 呼吸:
    早産児や仮死児では、出生時に肺水の吸収がスムーズに行われずに呼吸障害が出現しやすい。また、妊娠34週未満では肺サーファクタントの産生量が不十分であるためRDSを発症しやすい。呼吸中枢が未熟なために容易に無呼吸発作を起こす。
  6. 循環:
    早産児では、動脈管の閉鎖が遅延し、低酸素血症やアシドーシスにより容易に再開通する。また、心拍出量の予備力が乏しく容易に心不全に陥る。
  7. 中枢神経系:
    超早産児では脳室内出血を起こしやすい。また解剖学的に脳室周囲白質が虚血状態に陥りやすく、脳血流調節能が未熟なため、脳室周囲白質軟化症を合併しやすい。

上記に加えて、各種臓器の未発達に基づく病態も見ていきましょう。

選択肢①に、体温に関する内容もあるので、この辺についてはもう少し詳しく述べていきましょう。

出生直後の新生児の体温は、外気温に合わせて急激に低下します。

通常、ヒトは体温が低下したときには、基礎代謝、運動、震えによって熱を産生し、これに対処しますが、新生児では震えによる熱産生機構はあまり見られません。

その代わりに肩、脊柱、腎臓周辺に血管と交感神経組織が豊富な褐色脂肪組織をもっていて、低体温に曝されるとノルアドレナリンを分泌することで熱を産生しています。

それでも輻射(皮膚と外部環境の温度差)・対流(周囲の気流)・蒸散(呼吸器系、皮膚よりの蒸発に伴う)・伝導(接触皮膚面からの)によって失われる熱量は相当量に達します。

特に単位体重当たり体表面積が成人に比べ約3倍にもなる新生児では、輻射による体温喪失が最も問題になります。

皮下脂肪が未発達なことも拍車をかけます。

ヒトが体温を一定に保つことのできるは荷が体温調節可能温度域ですが、新生児ではこの範囲が狭く、これを超えると死の危険が迫ります。

体温を一定に保つために必要とされるエネルギー量が最も少なくて済む温度環境を中性温度環境と呼び、出生体重や日齢などによって異なりますが、皮膚温が36.5度となる環境が中性温度環境に近いと言えます。

出生体重1000gの児では出生直後で35度、生後10日以降で34度くらい、2000gの児ではそれぞれ34度と33度くらいとされています。

出生時体重が低いほど中性温度環境は高くなります。

低体温状態は低血糖症、低酸素症、アシドーシス、高K血症を招くので注意が必要です。

なお、健常新生児の場合では、着衣していることも考慮し、新生児室の室温は23度前後が好ましいとされています(出生体重によってこれも多少変わってくるということですね)。

上記のような様々な病態が低出生体重児にはあり得るので、当然ながら細やかな保育環境を準備しておくことが求められます。

小さく産まれる子どもの医療には、合併症を有する妊婦や早産が予測される妊婦を治療する MFICU(Maternal Fetal Intensive Care Unit:母体・胎児集中治療室)、子どもが生まれてから保育器に入れて体温管理等を行い、集中的に治療を行うNICU(Neonatal Intensive Care Unit:新生児集中治療室)、状態が落ち着いて育てることを主体とするGCU(Growing Care Unit:新生児治療回復室 ※施設により名称が異なる)などの設備が必要です。

やや雑な言い方かもしれませんが、出生時に何かしらの問題がある場合にはNICUでしばらく保育することになるだろうと思います(うちの子は満期産児で体重も正常範囲でしたが、出生時に呼吸が出なかった(その後の処置により、数秒後には産声を上げた)のでNICUに入りました)。

NICUなどの整った保育環境の中で、栄養、感染防止、呼吸管理、必要最小限の処置(体力の予備能が乏しいので、安静をできるだけ乱さないように処置の時間を工夫する)、母子関係確立への配慮などを行っていくことになります。

以上より、低出生体重児は低体温になりやすく、そちらが正誤判断に使われますね。

よって、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢①が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

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