Eisenbergが提唱した向社会的道徳判断の発達レベルに関する問題です。
過去問で本問に関連するところにも触れていますね。
問15 N. Eisenbergが提唱した向社会的道徳判断の発達レベルのうち、最も高いものを1つ選べ。
① 強く内面化された価値に基づく判断
② 相手の要求に対する関心に基づく判断
③ 自分の快楽に結び付く考え方に基づく判断
④ 相手の立場に立った共感的な配慮に基づく判断
⑤ 善悪についての紋切り型の考え方に基づく判断
選択肢の解説
① 強く内面化された価値に基づく判断
② 相手の要求に対する関心に基づく判断
③ 自分の快楽に結び付く考え方に基づく判断
④ 相手の立場に立った共感的な配慮に基づく判断
⑤ 善悪についての紋切り型の考え方に基づく判断
他者にとってプラスになる行動全般が「向社会的行動」であり、その中でも愛他的行動・利他的行動は、自らの利益よりも他者の福祉や正義が大事だとする価値観に基づいた行動です。
援助行動は、他者を助ける行動で向社会的行動の一例になります。
また、分与や寄付、慰め、介護・介助など幅広い援助行動も向社会的行動に含まれます。
アメリカの発達心理学者Eisenbergは、向社会的行動には以下の4つの特徴があるとしています。
- 他者あるいは他の人々についてプラスになる行動であること。
- 外的な報酬を期待しないこと。
- 行為者に何らかの損失が伴うこと。
- 自発的になされること。
また、向社会的行動が生じるには、①他者の要求への注目:社会化経験と認知機能が行為者の個人的な変数を介して、他者の要求に関する状況を解釈して、他者の要求に気づく過程、②動機づけと助力の意図:他者の要求に気づいてから、助けるかどうかを決意する過程、③意図と行動のリンク:助けるかどうかの意思決定が行為に移される過程、行為の結果がフィードバックされる過程、の3つのステップがあるとされています。
更に、向社会的行動をするかどうかの判断の理由付けが重要であるとし、5つのレベルを挙げています。
- 自分の快楽に結びつく考え方:小学校入学前や小学校低学年くらいの時期。他者を助ける理由は、自分の利益のためか、自分の好きな人のためというレベル。
- 相手の要求に目を向けた指向:小学校入学前や多くの小学生が該当。他者の要求が自分と相容れなくても、他者の困りごとにシンプルに寄り添うというレベル。
- 善悪についての紋切り型の考え方:小学生の一部や中高生が該当。善行をすると褒められることが行動基盤となるレベル。他人に認められるかを考える。
- 相手の立場にたった共感的な理由
①共感的指向:小学校高学年の少数や多くの中高校生が該当。役割取得の感覚で他者を助ける、他者への気遣いがあるレベル。
②移行段階:中高校生の少数、それ以上の年齢の者が該当。他者を助ける理由は、内面化された価値観や義務、人の尊厳に基づくが、その理解は曖昧である段階。 - 強く内面化された価値に基づく判断:中高校生の少数だけ、小学生には見られない段階。他者を助ける理由は、内面化された価値観や義務、社会的通念、人の尊厳に基づくというレベル。
このように自分の快楽に結びつく考え方から、相手の立場にたった共感的な理由を経て、強く内面化された価値観に基づくものへと発達します。
こうした判断は、ある状況の中で自分がどう行動したらよいかを決定する基本的な枠組みとなり、より高いレベルの判断に裏付けられた向社会的行動になるに従って、安定した節度ある向社会的行動になると言えます。
一般に、共感性の高さは相手の気持ちを考え、相手を思いやる能力の高さを示していますから、共感に基づいた思いやり行動は、視点の異なる様々な人々と関わるための協調的な行動スキルの学習を促すことができ、また、より良好で安定的な対人関係を築くことができるとされています。
このように、アイゼンバーグは道徳判断を「向社会的行動」という視点から分類化を行ったということですね(同じく、道徳発達のお話で言えば、コールバーグやピアジェなどが有名ですね)。
アイゼンバーグについては、同情に関する知見も過去問で出題されていますから(公認心理師 2023-41)、こちらも参考にしておきましょう。
さて、上記を踏まえて各選択肢を見ていきましょう。
各選択肢をアイゼンバーグの道徳判断の発達レベルの順に並び替えてみます。
- 選択肢③ 自分の快楽に結び付く考え方に基づく判断
- 選択肢② 相手の要求に対する関心に基づく判断
- 選択肢⑤ 善悪についての紋切り型の考え方に基づく判断
- 選択肢④ 相手の立場に立った共感的な配慮に基づく判断
- 選択肢① 強く内面化された価値に基づく判断
このようになりますから、本問で求められている「Eisenbergが提唱した向社会的道徳判断の発達レベルのうち、最も高いもの」は、「強く内面化された価値に基づく判断」であることがわかりますね。
以上より、選択肢②、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。