公認心理師 2020-48

心の理論に関する問題です。 

心の理論の内容自体を知っていることはもちろんですが、その研究の経緯を知っておかないと解きにくい問題となっています。

かなり細かいところが出ている印象ですね(専門の方からすれば易しいのでしょうが)。

問48 「心の理論」について、不適切なものを1つ選べ。

① 自他の心の在りようを理解し把握する能力である。

② 標準誤信念課題によって獲得を確認することができる。

③ D. Premackがヒトの幼児の発達研究を通して初めて提案した。

④ 「信念-欲求心理学」の枠組みに基づき、人々の行動を予測すると考えられている。

解答のポイント

「心の理論」の歴史的経緯について理解していること。

選択肢の解説

① 自他の心の在りようを理解し把握する能力である。
② 標準誤信念課題によって獲得を確認することができる。
③ D. Premackがヒトの幼児の発達研究を通して初めて提案した。

人間が他者も人間と見なし、身体の背後に心を有していると理解するのは(簡単に言えば、他者が自分とは異なる考えや思いを持つことを理解するのは)、発達段階のいつ頃で、どのように芽生えて、どのように発展していくのか、これらについて明らかにしようとしたのが「心の理論」です。

「心の理論」という言葉は、Premack&Woodruff(1978)のチンパンジーの研究から始まりました。

相手の行動に関して推論を行う際に相手の「心」の状態にその原因があると考えることから、その状態を「心の理論」を持つとして名づけられたのです。

これを「理論」と見なす理由として、心的状態は直接的観察が不可能なので、その心的状態に関する知識は現実の行動を予想する因果的枠組みを与えるためであるとするPremack&Woodruffの立場は、多くの「心の理論」の研究に共通しています(つまり、他人の行動を予測するための因果図式を与えてくれる「理論」であるということ。この点については選択肢④でも述べます)。

彼らは、チンパンジーは相手のチンパンジーが特定の行動からある欲求や意図を持っていると思えば、最初の行動とは別の行動であっても、その欲求や意図に適う行動を実行すると推論するはずという仮説を立てました。

このように、Premack&Woodruffは、相手の意図が理解できるのであれば「心の理論」を想定できると考えましたが、その後、単なる同一視(相手のことを理解しているのではなく、自分がそうしたいことが一緒だっただけ)と、「心の理論」を使って真に相手の心を理解しているか(自他の区別があった上であるか)を見分ける必要があるという反論が出ました。

これを解決するためWimmer&Perner(1983)は、ヒトおよびヒト以外の動物が心の理論を持っているかどうかを調べる方法として、誤信念課題と呼ばれる課題を考案しました。

誤信念課題は、子どもが相手の行動を予測するために心的状態、特に特定の事柄についての信念について推論を行うことができるかを評価するもので、自分自身の信念と相手の信念が異なっていると理解できなければ正答できません。

サリーとアン課題が有名だろうと思いますが、ここでは同様に有名な「マキシ課題」を述べていきましょう。

  1. マキシと母親は店から帰ってきました。2人はいくつかチョコレートを買ってきました。
  2. マキシは引き出しの中にチョコレートを入れて、それから外に遊びに行きました。
  3. マキシが出かけている間、母親はケーキを作るためにチョコレートの一部を使いました。それから、母親は引き出しではなく、戸棚にチョコレートを入れて、2階に行きました。
  4. マキシが戻ってきました。マキシはお腹がペコペコで、すぐにチョコレートが食べたくなりました。
  • テスト質問:チョコレートを探すためにマキシはどこを探すと思いますか。
  • 統制質問:遊びに出かける前にマキシはどこにチョコレートをしまいましたか。チョコレートは今どこにありますか。

この課題に対し、心の理論を備えていないとされる年少の子ども(~3歳半くらいまで)は、話の冒頭でチョコレートをおいた場所がどこか覚えているにも関わらず、マキシは今チョコレートがある場所を探すだろうと話します。

それに対して、心の理論を備えている、だいたい4歳~5歳の子どもは、マキシがチョコレートを最初に置いた場所(引き出しの中)を探すだろうと答えます。

この答えを導き出すためには、マキシが保っているチョコレートの位置についての信念(知っていると思っていること)と、話を聞いて自分が保っている信念(自分が知っていること)とが異なっていることを、子どもが認識しなければなりません。

つまり、観察者(この課題に答える子ども)と観察された者(この場合はマキシ)が、同じ状況について異なる信念を持っているということを認識しなければならないということになります。

前述したように、ある年齢に達した子どもは、自分とは異なり、自分の視点から見ると誤っているマキシの信念を推論し、行動をその信念に帰属させることによって、正しく質問に答えることが可能になります。

つまり、子どもはマキシ(他者)の信念が誤っていても、マキシ(他者)の行動を導くものであることを認識するわけです。

これらから「心の理論」を簡潔にまとめると「他者の心を類推し、理解する能力」のことを指しますが、この表現では少し不十分だろうと思います。

正確には、自分自身や他者の心的状態、つまり、信念や欲求や意図や情動などへの帰属に基づいて、行為や発言を説明し、予測し、解釈する能力の基礎が「心の理論」と言えます。

即ち、「心の理論」の成立に関しては、「自分自身の信念」と「他者の信念」が異なっていると理解できることが前提となっておりますから、「自分や他者の心的状態を理解し、把握する能力」ということになります。

以上を踏まえると、選択肢①の内容は「心の理論」を説明したものとして適切と言えますね。

ただし、選択肢③については、Premackが行ったのはチンパンジーを対象とした「心の理論」の研究になります。

そして、Premackの仮説に関する疑義に応える形で、誤信念課題などが考案されたという流れがありますから、選択肢②については適切と言えます。

以上より、選択肢①および選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。

一方、選択肢③は不適切と判断できますから、こちらを選択することになります。

④ 「信念-欲求心理学」の枠組みに基づき、人々の行動を予測すると考えられている。

本選択肢についても、ほとんど前述の内容で説明されていると思いますが、「信念-欲求心理学」という表現が聞きなれない場合も多いと思うので別枠での解説としました。

素朴理論という考え方があります。

これは、体系的な教授=学習を通してではなく、日常経験を通じて自然発生的に獲得される概念(理論)のことを指します。

「信念-欲求心理学」とはWellmanが提唱した素朴理論の一つで、ある行為を意図的にするということは「欲求を持ち、かつ、その欲求を満たすのに役立つと信じる行為を行うこと」と考える、意図的な行為を素朴理論で説明するものです。

ちなみにWellmanは「心の理論」の代表的な研究者の一人です。

「心の理論」も素朴理論の一つですが、これは先述の通り、いろいろな心的状態を区別したり、心の働きや性質を理解する知識や認知的枠組みのことを指します。

1980年代以降、発達心理学の重要なトピックスの1つとなり、主に乳幼児期の自己および他者の心の理解の問題として多くの研究がなされてきました。

この研究の一つとして、ある人の行動を説明あるいは予想するのに、信念(行為者自身の知識、想像などの認識内容)と欲求(行為者の願望や目標)からなる推論の枠組みを3歳頃から用いるというWellmanの知見があります。

Wellmanはこの推論の枠組みを「「信念-欲求」推論シェマ」と呼んでいます。

Wellmanは、「理論」とは、その知識に一貫性があり、存在論的区別を基礎にしており、そして因果的説明の枠組みをもつものであるとしました(前選択肢の解説で出ましたね)。

そして、「心の理論」における因果的説明の枠組みとは、「「信念-欲求」推論シェマ」 であり、我々は行為者の意図や心理状態を推論するために「信念-欲求心理学」を持っていると考えました。

「心の理論」の初期段階の特徴をみると、2歳児はまず「単純欲求心理学」を持つ段階であると見なすことができます。

あることについての知識や確信、意見といった信念は、それを持つ人に内的表象として付与されることがその理解には必要です。

ところが、ある外的な対象に対する欲求とは、その対象に対して、それを「欲している」という心的態度を付与すればいいだけなので、表象的な性質を持つものとして理解する必要はありません。

つまり、 2歳児では信念を理解することはできないが、こうした単純な欲求を理解すること はできるというわけです。

子どもの自発的な言語において、欲求を指示する語がより早く使われ始めることや、他者の持つ欲求からその人の行動を予想することが2歳児でも可能であることなどが、Wellmanの説明を支持するものとしてあげられています。

ところが、この「単純欲求心理学」だけでは現実で起こる人の行動を説明したり、予想したりできない状況が多くあります。

例えば、同じようにリンゴが欲しいと思っている人が2人いたとしても、この2人が同じ行動を取るわけではありません。

なぜなら、リンゴがどこにあるのかという各人の信念によって、次の行動には違いが生じるからです。

このような「単純欲求心理学」だけでは解決できない場面に出会う中で、3歳児は「信念-欲求心理学」を持つようになるとWellmanは考えました。

そして、 3歳児になれば以下のようなことが可能になると考えました。

  1. 行為者の信念や欲求に関する情報をもとにその行動を予想すること
  2. ある行動はその行為者の持つ信念や欲求によるものであることをあげて説明すること 
  3. 行為者の欲求や信念とその行動の結果が一致するかしないかということに基づいて、そこで生起する情動反応の性質を理解する (望んでいたことが起これば 「うれしい」、思 ってもみてないことが起こると「驚く」など)

以上のように、「心の理論」を「信念-欲求心理学」の枠組みで捉えたとき、ある人の行動を説明あるいは予想するのに3歳頃から「信念-欲求」推論シェマを用いると示されています。

よって、選択肢④は正しいと判断でき、除外することになります。

2件のコメント

  1. 初めて見つけました。具体的でわかりやすい説明をありがたく思いました。また、読ませていただきたいと思います

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