公認心理師 2020-39

ガードナーの多重知能理論に関する問題です。 

こちらはブループリントにもバッチリ記載のある項目ですね。

公認心理師試験では、知能に関してはビネーから最近の理論まで幅広く出題されている印象がありますね。

問39 H. Gardnerが多重知能理論で指摘した知能に含まれるものとして、不適切なものを1つ選べ。

① 空間的知能

② 言語的知能

③ 実用的知能

④ 対人的知能

⑤ 論理数学的知能

解答のポイント

ガードナーの多重知能理論について把握していること。

必要な知識・選択肢の解説

知能理論にはさまざまなものがあります。

1960年代までは、知能の研究においては因子的アプローチが支配的でした。

しかし、認知心理学の発達とそれに伴う情報処理モデルの重視によって、因子によって知能を説明しようとするよりも、知的行動の底流にある精神過程を明確にしようと試みる理論が出てきました。

代表的な理論としては、「ガードナーの多重知能理論」「アンダーソンの知能と認知発達の理論」「スタンバーグの鼎立理論」「セシの生物生態学理論」があり、これらの理論はいくつかの点で異なっています。

ガードナーは、異なった文化において見られる多様な大人の役割を説明しようと試みました。

彼はこの多様性を単一の底流にある知能によって声明することはできないと信じ、その代わり、少なくとも7つの異なった知能があり、これらが各個人の中でいろいろな組み合わせで顕在化すると提唱しました。

ガードナーにとって知能は、特定の文化において価値のある問題解決やものを創り出す能力のことを指します。

アンダーソンの理論は、知能のいくつかの側面(単に個人差だけでなく、発達に伴う認知能力の増大、特殊な能力の存在、そして対象を三次元で見る能力のような個人差のない普遍的な能力の存在)も説明しようとしています。

これらの能力を説明するために、彼は、命題的思考や視覚的・空間的機能を扱う特有の情報処理装置と共に、スピアマンの一般的知能あるいは「g」と同等の基本的情報処理メカニズムの存在を提唱しています。

普遍的な能力の存在は、その機能が成熟に依存している「モジュール」の概念によって説明されています。

スタンバーグの鼎立理論は、それ以前の理論が誤りなのではなく、不完全であるという考えに端を発しました。

この理論は、内的な情報処理メカニズムに注目する構成成分理論、ある課題や状況での個人の経験を考慮に入れる経験下位理論、外的な環境と個人の知能との関係を明らかにする文脈下位理論の3つの下位理論から成っていると考えました。

セシの生物生態学的理論は、より深く文脈の役割を検討することによって、スタンバーグの理論を拡張しています。

彼は、抽象的な問題解決のための単一の一般的能力という考えを否定し、知能が多重認知ポテンシャルに基礎をおくと主張しています。

これらの潜在能力は生物学的な基盤を持ちますが、それがどのように表出されるかは特定の領域で個人が蓄積してきた知識に依存していると考えます。

これらの理論はその差異にかかわらず、いくつかの側面で共通しています。

それらは、基本的情報処理メカニズム、あるいは多重知能、モジュールあるいは認知的ポテンシャルと名前は違っていますが、知能の生物学的基盤を考慮に入れようとしている点です。

更にこれらの理論のうち3つは、個人が行動する文脈、すなわち、知能に影響を及ぼす環境的要因を強調しています。

このように知能の研究は、心理学研究の重要なテーマである生物学的要因と環境的要因との複雑な相互作用を探求し続けているということです。

これらのことを前提としつつ、各選択肢の解説に入っていきましょう。

① 空間的知能
② 言語的知能
④ 対人的知能
⑤ 論理数学的知能

ハワード・ガードナーは、知能を論理的推論の能力と見なす立場に対して、直接的に挑戦するものとして多重知能理論を発展させてきました。

彼は、異なった文化における大人のさまざまな役割に注目し、これらの役割は多様な技能や能力に依存しており、それぞれの文化で成功裏に機能していくために等しく重要なものであると捉えました。

ガードナーは観察の結果、これらの底流にあるのは1つの精神能力ではなく、組み合わさって作用する多様な知能があるという結論を得ました。

この結果、ガードナーは知能を「特定の文化的状況あるいは共同体において重要な問題を解決するもの、あるいはものを創り出す能力」と定義しています。

そして、人が多種多様な役割を遂行することを可能にしているのは、この多重知能であるとしました。

このように、ガードナーは、知能が「もの」のような頭の中にある便利なものではなく、「潜在力、つまりそれがあることによって、特定の内容に適した思考形式に接近することが可能になるようなもの」であることをいち早く指摘した人物です。

ガードナーの多重知能理論によれば、相互に独立の7種の知能があり、それぞれがそれ自体の役割に従って脳の中の別々の機構(あるいはモジュール)として機能しています。

この7種の知能については以下の通りです。

  1. 言語的知能:話し言葉の能力を指します。音声学(言語音)、構文論(文法)、意味論(意味)、そして実用論(さまざまな状況での言語の含意と使用)にかかわるメカニズムを伴っているとされています。
  2. 音楽的知能:音による意味を創造し、伝え、理解する能力を指します。音の高さ、リズム、そして音質にかかわるメカニズムを伴っているとされています。
  3. 論理的数学的知能:行為あるいは対象物がない状況で、関係を処理し、正しく評価する能力です。すなわち、抽象的思考にかかわる能力と言えます。
  4. 空間的知能:視覚的あるいは空間的情報を知覚し、それを変形させ、はじめの刺激に関係なく視覚的表象を再創造する能力です。三次元で表象を構成し、それらの表象を移動・回転させる能力を含みます。
  5. 身体運動的知能:問題を解決する、あるいはものを作り出すために、身体の全て、あるいは一部を使う能力を指します。微細なそして全体的な運動性行為の統制および外的対象物を操作する能力も含みます。
  6. 個人内知能:自分自身の感情、意図、そして動機づけを弁別する能力を指します。
  7. 対人的知能:他者の感情、信念、そして意図を認識し弁別する能力を指します。

このようにガードナーの多重知能理論は、音楽やスポーツなど芸術・表現領域の知能を含めている点、自己と他者の理解という対人的知能の重要性を指摘している点において、従来の理論を発展させたものであると言えますね。

ガードナーは、いくつかの視点からこれら各種の知能を分析しています。

その視点とは、そこに含まれる認知的操作、天才や特異的な人の状態、脳損傷の症例による証拠、異なった文化の下での知能の現われ方、そして、進化論的発達の可能な道筋などです。

例えば、脳損傷によってはある種の知能は損なうが、他の知能には影響を及ぼしません。

また、異なった文化における大人の能力は、さまざまな知能の組み合わせの違いを表しているとこの理論では考えます。

健常な人は皆、すべての知能をある程度までは使うことができますが、個人によって比較的高い知能と比較的低い知能の独自の組み合わせがあり、それが個人差を生んでいると考えます。

よくIQが非常に高い人が飛び級で若年で大学を卒業するという話を聞きますが、そういった人たちの後を追ったドキュメントで、彼らがあまりそのIQを反映するような仕事についていないということがありますね。

実際、伝統的な知能検査(IQを測るような検査)は大学生の成績の良い予測因子ではありますが、将来の仕事上の成功や立身出世を予測するには妥当性が低いという知見があります。

大学時代に輝かしい成績だった人の何人かがその後の生活で失敗をし、逆に、成績の良くなかった学生が社会的な成功を収めるのか。

そのことを説明するのに対人的知能のような他の能力の測度が助けになるとガードナーらは主張しています。

以上より、選択肢①および選択肢②、選択肢④、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

③ 実用的知能

知能を系統発生的にとらえたフランスの心理学者ヴィオーは、人間と動物の行動を本能的行動と知的行動に分け、知的行動をさらに感覚運動的知能(実用的知能)と概念的・論理的知能に区分しました。

実際にからだを動かし、感覚器官をフルに働かせ、五感を通して焼き付けられるものが、実用的知能であり、他者から教わるよりも自らの体験を通して習得していく面が大きい知能です。

これに対して、論理的知能とは、文字や記号などを通して抽象的な思考が出来る能力を指し、これがいわゆるIQなどと絡んでくるものと言えますね。

ヴィオーは、実用的知能はその後に発達する論理的知能をさせる土台として考えました。

最初の知能検査である、ビネー=シモン尺度は、日常生活で発揮される子どもの能力(例えば、お金の名称の知識、紐結びなど)をも測定しようとしましたが、それ以後の知能検査の多くが単位時間内に多くの種類の問題を解く能力の測定を主眼とした学校知能の検査になってきたことは否定できません。

これに対して、実生活で生きていく上で発揮される能力がヴィオーの「実用的知能」になり、学校での家庭科や図工などの科目は、こうした能力の啓発を狙っている面があるでしょう。

ちなみにスタンバーグは「実践的知能」という言葉を使って、類似のことを言っていますね(こちらはむしろ情動知能とかに近い考え方なので、ヴィオーの実用的知能とはちょっと違うと思いますが)。

以上より、選択肢③が不適切と判断でき、こちらを選択することが求められます。

4件のコメント

  1. 某問題集では、実用的知能は、スターンバーグとされています。しかし、スターンバーグは、実践的知能であって、ヴィオーが実用的知能なんですね。ネットで検索すると、両説がありました。

    1. コメントありがとうございます。

      私の認識では、実用的知能はヴィオー、実践的知能はスタンバーグですね。

      実践的知能は、実践の場で獲得し活用する知識であり、言語では表現できない非形式知、潜在知、無意識知です。
      スタンバーグが述べているこの実践知の性質として…
      ①個人の経験に基づく熟達化において獲得される。明示的に教えられるというよりは、周囲の人の行動から推論したり、経験から自分で発見する。
      ②手続き的知識。形式知として言葉で表現するのが難しく、手順の形によってでしか表現できない場合が多く、主観的知識あるいは身体知として、個人的経験や熟練技能の形で存在する。
      ③現実場面で役に立つ実践知である。
      …などがあります。

      つまり、普遍的な知識ではなく、仕事の場の状況や目標依存的な知識であることが示されていますね。
      参考になれば幸いです。

  2. いつもお世話になっております。

    ネット上では、
    「多重知能理論(MI理論)の8つの知能」
    https://learn-tern.com/multiple-inteligence/
    という紹介や、
    『心の構成』(1983)で提唱した7つの知能のあと、
    「MI:個性を生かす多重知能の理論」(2001)では、さらに 3 つの知能-「博物的知能」
    「霊的知能」「実存的知能」を追加。
    https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/affiliate/misawa/download/MISAWA_study1.pdf
    という紹介がありました。

    多重理論がいくつの知能を指すかなど、数を問う問題は出ますか?

    変なご質問ですみません。

    1. コメントありがとうございます。

      >多重理論がいくつの知能を指すかなど、数を問う問題は出ますか?
      どういう問題が出るか?という質問に関しては、出題者でない以上お答えできません。

      現時点では「受験において、もともとの7つの知能の区別を把握していれば解ける問題が出題されている」ということが言えるだけで、それ以降の知見に関して出題されるかはわかりかねます。

      個人的には、知っておいて損はないのだし、覚えていないことで不安になるくらいなら覚えておくのが良かろうと考えています(臨床で使える・使えないという判断は現時点ですべきではないと思いますし、使える可能性がわずかでもあるのなら試験とは別に覚えておくと良い)。
      ただ、合計10個となると、短期記憶の範囲を超えてしまうので覚えるのが大変だろうと思います。

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