公認心理師 2020-125

青年期のアイデンティティの発達についてはエリクソンの理論が代表的なものですが、それを展開していったのがマーシャになります。

ここで問われているのは、マーシャが示した自我同一性地位の各型の特徴ですね。

問125 J. E. Marcia が提起した自我同一性地位について、正しいものを1つ選べ。
① 同一性達成型とは、人生上の危機を経験し、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒している地位である。
② 早期完了型とは、人生上の危機を発達早期に経験し、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒している地位である。
③ モラトリアム型とは、人生上の危機を経験しておらず、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒していない地位である。
④ 同一性拡散型とは、人生上の危機を経験していないが、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒しようと努力している地位である。

解答のポイント

Marciaの自我同一性地位について「危機の有無」と「傾倒の有無」で理解している。

選択肢の解説

青年期のアイデンティティの発達に関するエリクソンの理論は、ジェームズ・マーシア(Marcia, J. E.:1980,1966)によって検証され、展開されました。

Marciaは、半構造化面接法と文章完成法テストを用いてアイデンティティの測定を行い、この判定においては、アイデンティティの危機または探求の経験と、現在の傾倒(積極的関与:commitment)の二つの側面が重視されました。

ここでの「危機」とは、児童期までの過去の同一視を否定したり再吟味する経験を指しています。

また、「傾倒」とは、危機後の意味ある選択肢の探求の末に自己決定したことに対してどれだけ強く関与し、自分の資源を投入しているか、そのあり方を示しています。

Marciaは、この「アイデンティティ・クライシスの有無」と「ある生き方への傾倒(=具体的には自分の考えや信念を明確にもち、それらに基づいた行動を一貫して示すことを指す)の有無」によって、アイデンティティ確立の程度を、「達成型」「早期完了型」「同一性拡散型」「モラトリアム型」の4つに分けました。

つまり、各型は「アイデンティティの危機の有無」×「生き方への傾倒の有無」によって分けられており、本問はこの2領域の有無の把握を求めているものです。

一般に「同一性拡散」→「早期完了」→「モラトリアム」→「同一性達成」という順番になるとされていますが、早期完了のままであったり、他の発達の順序も見出されています。

また、1つの地位のままでいる人が5割以上いることもわかってきました。

さらに、変化した場合でも「向上」している場合は、「退歩」している場合に比べて、多少多い程度であるという報告があります。

今までになされてきた研究結果をまとめると、以下のようになります。

  1. 同一性の達成は年齢とともに一貫して増加する。
  2. モラトリアムの数には一貫した増減はない。
  3. 早期完了の数は一貫して減少する。
  4. 同一性拡散の数は減少するか、同程度である。
  5. 同一の地位に安定している青年の数は、同一性達成で最も多く、モラトリアムで最も少ない。

このように、実際にはアイデンティティの発達は様々な様態があるということになりますね。

ですから、アイデンティティ・クライシスは、青年期以降も現れ、アイデンティティは生涯にわたって模索していくものとなります。

これらを踏まえ、各選択肢でアイデンティティの型の解説をしていきましょう。

なお、以下では一般的なアイデンティティ発達の順番である「同一性拡散」→「早期完了」→「モラトリアム」→「同一性達成」を踏まえ、各選択肢の順番を入れ替えて解説していきます。

まずは同一性拡散からですね。

④ 同一性拡散型とは、人生上の危機を経験していないが、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒しようと努力している地位である。

「同一性拡散」はエリクソンのアイデンティティ混乱に替わって、Marciaが命名した用語です。

この範疇に入る若者には、過去にアイデンティティの危機を経験した者もいるが、未だ経験していない者もいます。

しかし、いずれの場合においても、彼らはまだ自分自身についての統合的な感覚をもっていません。

つまり、同一性拡散は「危機経験もなく傾倒もないため、自分とは何者なのかわからない状態」であると言えます。

彼らは「興味」を表明することはあるかもしれないが、実際にいずれかの方向へ足を踏み出すような、行動を開始しようとはしません。

彼らは宗教あるいは政治にはまったく興味はないと答えます。

中には冷ややかな態度を示すものもいれば、あるいはただ浅薄で混乱しているように見える者もいます。

もちろん、何人かはいまだに若すぎて、青年期のアイデンティティの発達段階にまで達していない者もいるということです。

このように、同一性拡散型では「人生上の危機を経験していない」という選択肢前半の内容は正しいのですが、「職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒しようと努力している」というのは誤りであることがわかりますね。

以上より、選択肢④は誤りと判断できます。

② 早期完了型とは、人生上の危機を発達早期に経験し、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒している地位である。

早期完了型の若者は、同一性達成の若者と同様に職業やイデオロギー的立場にかかわっていますが、これまでにアイデンティティの危機を脱したような兆候は何ら見られません。

例えば、彼らは自分たちの家族の宗教に疑いを抱くことなく受け入れています。

政治的な立場について尋ねると、彼らは今までそれについて十分考えたことがないと答えることが多いとされています。

つまり、早期完了型では「危機経験はないが、自分の信念に基づいた行動をしている状態」と言えます。

彼らの中にはそれにかかわっていてまた協調的であるように見えるものもいるが、柔軟性のない、教条主義的で重農的に見える者も存在します。

また自分たちのもつ吟味したことのないルールや価値を脅かすほどの、何らかの大きな出来事が生じた場合、彼らは自分を失い、どうしていいかわからなくなるような印象を受けるとされています。

このように、早期完了型は「人生上の危機を発達早期に経験し」という本選択肢前半の内容は誤りであると言えます。

対して「職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒している地位」というのは正しい表現であると言えますね。

傾倒が可能なのは、彼らがまだ本当の意味で危機を経験していないからであると言えるでしょう(経験が多くなると迷うことが多くなるのは、多くの人が経験していることだろうと思います)。

以上より、選択肢②は誤りと判断できます。

③ モラトリアム型とは、人生上の危機を経験しておらず、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒していない地位である。

モラトリアムは、現在アイデンティティの危機にいる若者です。

彼らは積極的に答えを探してはいるが、親たちが自分たちへ抱く願望と自分自身のもつ興味・関心との間の葛藤を解決していません。

つまり、モラトリアム型とは「危機の最中で、自分の信念に基づいた行動をしようとしている状態」と言えます。

彼らは一時期、一連の政治的あるいは宗教的信念を強く表明することがあるかもしれませんが、それは再考した後にそれらを棄却しようとする場合に限られます。

良く見れば、彼らは繊細かつ論理的で、柔軟的に心を開いているようにみえるが、悪く言えば、心配性であり、自己正当的で、優柔不断のように見えるとのことです。

このように、本選択肢の「人生上の危機を経験しておらず」に関しては誤りであることがわかりますね。

一方で「職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒していない地位」というのは適切であり、ニュアンスを言えば「葛藤のさなかにいるので、そこまで積極的に人生の重要な領域に傾倒することができない、もしくは傾倒はあっても曖昧」という感じでしょうか。

いずれにせよ、選択肢③は誤りであると判断できます。

① 同一性達成型とは、人生上の危機を経験し、職業などの人生の重要な領域に積極的に傾倒している地位である。

同一性達成型に状態にある若者は、すでにアイデンティティの危機を脱しており、その間、積極的な問いかけを行い、自己を明確にする時期を通過しています。

つまり「自分にとって意味のある危機を経験し、自分の信念に基づいて行動している状態」と言えます。

彼らは観念論的立場に関わり、独力で具体的行動をとり、一つの職業に就くことを決定しているとされています。

例えば、自分自身の将来については、単に医学予科の化学を専攻しようというのではなく、将来は医者になると具体的に考え始めています。

彼らは、家族の宗教ならびに政治的信念を再検討しており、結果的に自分自身のアイデンティティに適合しないと思われる場合は、それらを棄却することができます。

以上のように、同一性達成型はアイデンティティの危機(人生上の危機)を経験しており、職業等の人生の重要な領域に積極的に関わっていることがわかりますね。

以上より、選択肢①は正しいと判断できます。

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