自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉の基本的な特徴として、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
問題文の「基本的な特徴」をどう捉えるかが肝だと思います。
ここでは、以下の点が重要と捉えて解いていきます。
- 「基本的な特徴」=どのASD事例にも生じる特徴である。
- 上記より、診断基準においても記載されている可能性が高い。
- 「いくつかのASD事例には生じるけど、生じない事例もある」という特徴については、「基本的な特徴」と考えることはできない。
- 診断分類上、別の障害と捉えることができるものは除外してよい(基本的特徴が合致していれば、別の障害に分類される可能性は低いはず)。
これらの点を踏まえ、各選択肢の検証を行っていきましょう。
解答のポイント
問題の性質より、DSM-5等の公的な基準に記載されている内容が重要であると当たりをつけることができること。
ASDの診断基準を把握していること。
選択肢の解説
『①場面緘黙』
場面緘黙はDSM-5では「選択性緘黙」と表記されています。
診断基準は以下の通りです。
- 他の状況では話しているにもかかわらず、話すことが期待されている特定の社会的状況(例:学校)において、話すことが一貫してできない。
- その障害が、学業上、職業上の成績、または対人的コミュニケーションを妨げている。
- その障害の持続期間は、少なくとも1カ月(学校の最初の1カ月だけに限定されない)である。
- 話すことができないことは、その社会状況で要求されている話し言葉の認識、または話すことに関する楽しさが不足していることによるものではない。
- この障害は、コミュニケーション症(例:小児期発症流暢症)ではうまく説明されず、また自閉スペクトラム症、統合失調症、または他の精神病性障害の経過中にのみ起こるものではない。
上記の記述より、場面緘黙は自閉スペクトラム症の基本的特徴として見做されていないことが明らかです。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
『②ひきこもり』
「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」においては、発達障害とひきこもりの親和性について触れられています。
一方で、ひきこもりとは「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には 6 ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念」であり、診断名や臨床単位とはされていません。
ひきこもりとASDをはじめとした発達障害との関連については、「何かしらの発達的課題があり、そのことが周囲に認識・理解されず、そのために生じる周囲との摩擦が本人のストレスになる可能性がある。このようなストレスが過剰になった場合に、ひきこもることでそれを回避するが、そのひきこもりという対処自体によって精神的に不健康な状態を持続させてしまうというパターンから抜け出せなくなる」という二次的にひきこもりが生じるという見解が中心です。
以上より、ひきこもりはASDの基本的特徴として見做されていないことが明らかです。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
『③ディスレクシア』
ディスレクシアとは「読みの障害」を指します。
※書字表出の障害は「ディスグラフィア」と言います。
DSM-5の限局性学習障害に該当し、読字の障害を伴う場合(読字の正確さ・読字の速度または流暢性・読解力)はそれを特定するように求められています(315.00(F81.0))。
ディスレクシアはADHDやASDとの併存が多いとされていますが、あくまでも併存し得るということに留まります(ASDのみの併存は比較的少なく、ADHDとの併存が多いようです)。
このことは、限局性学習障害の項目にも、ASDの項目にも除外診断として双方が示されておらず、更には、それぞれの診断基準に類似点も見られません。
すなわち診断分類上、これらは別の障害として捉えられていると言え、問題文にあるような「ASDの基本的な特徴」とは考えることができません。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
『④言葉の発達の遅れ』
ASDにおけるコミュニケーションの障害は、完全に会話ができないケースもあれば、言葉の遅れ、会話の理解が乏しい、格式張った過度に字義通りの言語を使うなど、さまざまなパターンがあります。
知能の障害や、言語の障害を併せ持っていることも少なくありません。
ただし、DSM-5の診断基準のうち、言語発達の遅れを前提としている記述は見られず、「該当すれば特定せよ」の箇所に「言語の障害を伴う、または伴わない」が見られます。
このことは、ASDに言語の障害が必ずしも生じるとはされていないことを示しており、問題文にある「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害〈ASD〉の基本的な特徴」とすることは難しいと判断できます。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
『⑤通常の会話のやりとりの困難』
DSM-5の診断基準のうち「A.複数の状況で社会的コミュニケーションおよび対人相互反応における持続的な欠陥があり、現時点または病歴によって、以下により明らかになる」では、以下の点が示されています。
- 相互の対人的-情緒的関係の欠落で、例えば、対人的に異常な近づき方や通常の会話のやりとりのできないことといったものから、興味、情動、または感情を共有することの少なさ、社会的相互反応を開始したり応じたりすることができないことに及ぶ。
- 対人的相互反応で非言語的コミュニケーション行動を用いることの欠陥、例えば、まとまりのわるい言語的、非言語的コミュニケーションから、視線を合わせることと身振りの異常、または身振りの理解やその使用の欠陥、顔の表情や非言語的コミュニケーションの完全な欠陥に及ぶ。
またDSM-5におけるASDの重症度水準では、以下のような記載があります。
- レベル1:支援を要する
完全な文章で話しコミュニケーションに参加することができるのに、他者との会話のやりとりに失敗したり、友人を作ろうとする試みが奇妙でたいていうまくいかないような人。 - レベル2:十分な支援を要する
言語的および非言語的コミュニケーション技能の著しい欠陥で、支援がなされている場面でも社会的機能障害が明らかであったり、対人的相互反応を開始することが制限されていたり、他者からの対人的申し出に対する反応が少ないか異常であったりする。 - レベル3:非常に十分な支援を要する
言語的および非言語的社会的コミュニケーションの技能の重篤な欠陥が、重篤な機能障害、対人的相互反応の開始の非常な制限、および他者からの対人的申し出に対する最小限の反応などを引き起こしている。
例えば、意味をなす会話の言葉がわずかしかなくて相互反応をほとんど起こさなかったり、相互反応を起こす場合でも、必要があるときのみに異常な近づき方をしたり、非常に直接的な近づき方のみに反応したりするような人。
以上より、ASDの診断基準および重症度診断においても、通常の会話のやりとりの困難は含まれており、こうしたコミュニケーションの障害はASDの基本的特徴と捉えられていると言えます。
よって、選択肢⑤は適切と判断できます。