公認心理師 2018-15

エリクソンのライフサイクル論についての設問です。
基本的な内容から、凝ったものまで幅広く、という印象です。
さすがに「青年期の課題は○○である」のような単純な問題は出ませんでしたね。

解答のポイント

エリクソンのライフサイクル論について理解している。
特に、各段階における「課題」や「獲得」されるものについても把握していることが求められる。

選択肢の解説

『①人の生涯を6つの発達段階からなると考えた』

エリクソンの「ライフサイクル論」は、以下の8段階からなるとされています。
この理論では、各機能の発達には臨界期があると考える生物学的漸成説を基盤とし、それぞれに特定の人生課題=発達課題がある8つの「発達段階」を質的変化の過程として捉えました。

  1. 乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃):基本的信頼感 vs 不信感
  2. 幼児前期(1歳6ヶ月頃~4歳):自律性 vs 恥・羞恥心
  3. 幼児後期(4歳~6歳):積極性(自発性) vs 罪悪感
  4. 児童期・学齢期(6歳~12歳):勤勉性vs劣等感
  5. 青年期(12歳~22歳):同一性(アイデンティティ) vs 同一性の拡散
  6. 成人期前期(就職して結婚するまでの時期):親密性 vs 孤立
  7. 成人期後期;壮年期(子供を産み育てる時期):世代性 vs 停滞性
  8. 老年期(子育てを終え、退職する時期~):自己統合(統合性) vs 絶望

以上より、選択肢①の内容は不適切と言えます。

ちなみに、この理論は「心理社会的発達理論」とか「ライフサイクル理論」などとも呼ばれていますが、私は一貫して「ライフサイクル論」と呼んでいます。
理論的な理由などでは一切なく、「ライフサイクル論」が8文字=8段階ということで覚えやすいからです。

『②成人期前期を様々な選択の迷いが生じるモラトリアムの時期であると仮定した』

モラトリアムは本来は経済学用語で、災害や恐慌などの非常時において、債務の支払いを「猶予」することや「猶予期間」を指します。
エリクソンはこの言葉を青年期の特質を表すために用い、青年期を「心理社会的モラトリアム」と呼びました
よって、選択肢②の内容は不適切と言えます。

身体的な成長だけでは社会生活を営むことはできず、そのためには心理的・社会的な成長が不可欠です。
青年期は、こうした能力がまだ十分に発達していないとして、社会的な責任や義務がある程度猶予されているということですね。

エリクソン自身、18歳以降学校教育を受けておらず、28歳まで放浪の旅をしていましたが、その体験とモラトリアム概念は無関係ではないでしょうね。

『③青年期を通じて忠誠〈fidelity〉という人としての強さ又は徳が獲得されると考えた』

エリクソンは、8つの発達段階と、その段階における「課題と危機」、課題を乗り越えることで「獲得するもの」を示しています。
獲得するものについては以下の通りです。

    1. 乳児期(0歳~1歳6ヶ月頃):希望
    2. 幼児前期(1歳6ヶ月頃~4歳):意思
    3. 幼児後期(4歳~6歳):目的
    4. 児童期・学齢期(6歳~12歳):有能感
    5. 青年期(12歳~22歳):忠誠性
    6. 成人期前期(就職して結婚するまでの時期):愛
    7. 成人期後期;壮年期(子供を産み育てる時期):世話
    8. 老年期(子育てを終え、退職する時期~):英知
    設問にある「忠誠」とは、さまざまな社会的価値やイデオロギーに自分の能力を捧げることができる状態を指します。
    これが正常に獲得されないと、自分のやるべき事が分からないまま日々を過ごしたり、逆に熱狂的なイデオロギーに傾いてしまうと考えられています。
    ちなみに「ライフサイクル論」は、各発達段階において到達されうる解決の成功と失敗の両極端によって記述されますが、実際にはその発達の結果は両極端の均衡においてなされます。
    そして、自我の力の発達が段階的に進むように、世代的にも伝えられていく価値として、人間的な強さとしての「徳」の発達を考えています。
    以上より、選択肢③の内容は適切と考えられます。

    『④各発達段階に固有のストレスフルなライフイベントがあると仮定し、それを危機と表現した』

    エリクソンは、それぞれの発達段階には成長や健康に向かうプラスの力(発達課題)と、衰退や病理に向かうネガティブな力(危機)がせめぎ合っており、その両方の関係性が人の発達に大きく影響すると仮定しています。
    しかし、それらが何かの出来事をきっかけとして生じるとはされていません
    よって、選択肢④の内容は不適切とできます。
    こうした外界との関連で発達を述べたニュアンスがあるのは、レヴィンソンでしょうか。
    彼は成人期を四季に喩え、ライフサイクルに焦点を当て、おおよそ25年間続く4つの発達期を考えました。
    そして人生は約25年つづく発達期が繰り返され、各発達期は互いに重なる約5年の過渡期でつながっているとしました。

    • 前成人期(0歳~22歳):親や社会に保護されながら生きる時期
    • 成人前期(17~45歳):自分で人生を切り開く自覚を持つ時期
    • 中年期(40歳~65歳):真の自分として生きることを決断する
    • 老年期(60歳以降):死を自覚しつつ新たな生への希望を獲得する

    過渡期は以下の通りです。

    • 成人への過渡期(20-25歳)
    • 人生半ばの過渡期(40-45歳)=中年期危機
    • 老年への過渡期(60-65歳)
    彼は、3つの過渡期について「内的世界と外的世界」の変化が起こり、今までの発達期で用いてきた生活構造(その人の自己と外界の境界にあって、自己と外界をひとつの形にまとめていた構造)の作り変えが行われるとしています。

    ちなみにレヴィンソンの覚え方。
    むかし、トヨタからレビンという車が出ていました。
    加速も早く人気もあったのですが、事故が多くて保険も高くつく車です。
    ずっとレビンを乗っていたけど、結婚して子どももできたし(過渡期)、「レビンはソンかなぁ」と車を買い替える…というイメージ。
    私はこれで覚えていました。

    また「ライフイベント」という表現で思い出されるのは、ホームズ&レイの社会的再適応評価尺度でしょうか。
    生活事件よりも日常生活の中にある比較的小さなストレスへの主観的評価を重視した考え方で、43項目のライフイベントと、そのストレス強度を数値化しました。

    『⑤成人期後期に自身の子どもを養育する中で、その子どもに生成継承性〈generativity〉が備わると考えた』

    ブループリントにも記載のあった「生成継承性」とは、エリクソンの作った造語で、generate(生み出す)とgeneration(世代)を掛け合わせた言葉です。
    やまだ(2003)はこの言葉を「生成継承性」と訳しました。
    世代と世代の関係性を作る中で、同じものを継承していくことと、新しいものを生成していくという矛盾する働きが必要であるという概念です。
    成人期後期(世代性vs停滞)が達成されたときに生み出されるとしました。
    選択肢⑤では「子どもに生成継承性が備わる」とされていますが、この点が不適切です。
    生成継承性が備わるのは、子どもにではなく成人期後期にある人ですね。

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