言語の音韻面の発達について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
公認心理師2018-85などのような類似問題が出ています。
こうした問題の内容を押さえつつ、各月齢でどのような発達が生じるのかを理解しておくことが大切です。
本問は「音韻面」という限定した領域の発達について問われていますね。
もしかしたら子どもと関わる経験がある人はイメージしやすいかもしれません。
解答のポイント
言語発達について大枠を把握できていること。
音韻面に関する用語(メタ言語、ジャーゴン)について理解していること。
選択肢の解説
『①生後すぐの新生児には、クーイングと呼ばれる発声がみられる』
新生児や乳児は自力で不快を取り除く術を持っていません。
そこで泣くことによって養育者の注意を引いて、自分に代わって不快を取り除いてもらうことになります。
その泣く行為を「啼泣」と言います。
生後1~2か月くらいから啼泣以外の発声が出てきます。
「アーアー」「クークー」といった単音節のシンプルな発声で「クーイング」と呼ばれます。
啼泣が不快への反応なのに対して、こちらは心地よいときに出てくる発声です。
クーイングは生理的な発声であって、音声を知らない聴覚障害児でも生じます。
養育者は生理的な発声であるクーイングに対して、それを意味あるものとして扱い「やり取り」することが大切になります。
クーイングを赤ちゃんのおしゃべりと捉えて積極的に親が話しかけることで、続く「バブリング(喃語)」が生じてきます。
つまり、クーイングに接する中で複雑な音節からなる発声が可能になっていくということです。
この「やり取り」の重要性は、バブリングが聴覚障害児で生じないということからもわかります。
クーイングは生理的発声ですが、バブリングは他者からの反応をもって培われるということですね。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
『②1歳に達するまでに、徐々に非母語の音韻に対する弁別力は弱くなる』
乳児が言語音を識別できることを示したEimasら(1971年)の 研究以来、音声知覚の発達 に関する実験的研究が行われてきました。
その中で、母語にはない非母語の音声特徴の識別能力も検討されました。
その結果、乳児の識別能力は母語の特徴だけでなく、彼らがおそらくは聴いたことがない非母語の特徴にも及んでいることが示されており、乳児は基本的には、人の言語にみられ
る多くの音声特徴を識別する能力を潜在的に備えているとの見解が現在では一般的です。
0歳台における乳児の音声知覚の発達変化についての最初の重要なデータはWerkerらによるものです。
彼らは乳児による識別の発達変化を調べ、6~8ヵ月児は非母語の音を識別できるが、8~10ヵ月児では識別能力が低下し10~12ヵ月ではほとんど識別できなくなることを示しました。
この結果は乳児が聴くことのない母音にない音声的対立の識別能力は発達に伴い失われると解釈されました。
ただし、非母語にしかない対立であっても、当該音が母語の異なるカテゴリーに容易に対 応づけて知覚されるものについては識別能力は維持されます。
要は、似ている音については識別能力が維持されるということですが、一般には1歳になる前に識別能力は失われるとみて間違いありません。
以上より、選択肢②は適切と判断できます。
『③2歳までに言語の音韻的な側面についてのメタ言語的な理解が始まる』
対象言語と対比して、言語に関する記述をメタ言語といいます。
対象言語とは、ものや人、出来事を現わす言語表現であり、これに対して、対象言語に関する特徴を述べた表現である「名詞、動詞、音節、文」などは、メタ言語となります。
「犬が山を走る」は対象言語的表現と言えますが、「犬は名詞である」「犬が山を走る、は文である」といった言明がメタ言語的表現となります。
言語表現に対して俯瞰的に眺めた表現ですから、「ことばについて語る際に用いられることば」いうことになりますね。
音韻に対するメタ言語知識の発達の研究では、刺激語の絵が提示され、①刺激語が正常な言い方、②正常な構音からの逸脱を含む言い方(「構音の誤り」)、③語頭音節のくり返しを含む言い方(「音節のくり返し」)の3種類が実験者によって口頭で提示されました。
対象児は刺激語をよく聞いて、おかしかったらおかしいというように教示されました。
その結果、以下の点が明らかになりました。
- 「構音の誤り」に対してメタ言語知識を持つ者は、3歳で20.0%、4歳で25.0%にすぎなかったが、5歳では75.0%、6歳では100%であった。
- 「音節のくり返し」に対してメタ言語知識を持つ者は、3歳では15.0%、4歳では30.0%と低かったが、5歳では80.0%、6歳では100%であった。
この研究の結果、流暢性に対するメタ言語知識を持つ者は3歳ではわずかに15%であり、この15%の子どもも理由を言語化しうるほどの確かなメタ言語知識を持っていないことがわかっています。
上記からもわかるとおり、メタ言語は、5~6歳で発達するとされています。
メタ言語は、ことばを客観的にみることができるということですから、それは自分自身を客観視できるということと重なると考えられます。
よって、自分のことばのおかしさ(発音のおくれ、どもり、文法的なおかしさなど)に気づくのもこの時期です。
ちなみに構音に対するメタ言語知識を持つ子どもも3~4歳では少数です。
また、正常構音との違いを言語化しうる子どもは3歳では皆無であり、4歳でもほとんど存在しなかっことから、3~4歳までの構音の発達は構音に対する自覚的な知識の獲得によるものではない可能性が示唆されています。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
『④種々の音韻的特徴を持つジャーゴンが出現した後に、音節を反復する基準喃語が生じてくる』
ジャーゴンとは、言語発達において初語期における有意味語獲得の前後に現われる言葉です。
生後1歳頃、反復喃語の現象と相まって増加し、15か月頃にピークを迎えます。
それ以降は構音ができるようになるにつれて、有意味語になっていきます。
その内容は、非反復性の音節の組み合わせであり、大人と同様な言語音が混じります。
聞き手にはおしゃべりのように聞こえますが、意味不明です。
親の言語的働きかけへの応答や一人遊びのときに見られます。
ちなみに、精神病理学や失語症研究では、患者の流暢だが意味不明の発話を指します。
喃語はクーイングの後に生じるものですから、有意味語の前後に現われるジャーゴンとの順番が明らかに誤った選択肢内容になっています。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。