原因帰属理論に関する問題です。
過去問で何度か出題されているWeinerの原因帰属理論ですが、本問は一捻り加えられております。
問153 30歳の男性A、中学2年生の担任教師。Aは、担任をしている男子生徒Bから、中学1年生の初めての定期テストで、テストの成績が悪かったことについて相談を受けた。その際、「準備不足だったかな」と伝え、Bを励ました。その後も、AはBを同様に励まし続け、Bも努力を続けていたが、成績が下がってきている。
原因帰属の観点から、AのBへの言葉掛けとして、最も適切なものを1つ選べ。
① 上手くいかなかったのは、問題が難しかったからかもしれないね。
② 上手くいかなかったのは、努力がまだまだ足りなかったからかもしれないね。
③ 上手くいかなかったのは、勉強方法が合っていなかったからかもしれないね。
④ 上手くいかなかったのは、予想していなかった問題が出題されたからかもしれないね。
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解答のポイント
Rotter&Weinerの原因帰属理論を把握している。
選択肢の解説
① 上手くいかなかったのは、問題が難しかったからかもしれないね。
② 上手くいかなかったのは、努力がまだまだ足りなかったからかもしれないね。
③ 上手くいかなかったのは、勉強方法が合っていなかったからかもしれないね。
④ 上手くいかなかったのは、予想していなかった問題が出題されたからかもしれないね。
本問はRotter&Weinerの原因帰属理論に関する問題で、この理論は課題の成功・失敗の原因帰属に関する有力な理論になります。
この理論では、原因帰属のスタイルを「統制(内的/外的)」と「安定性(安定/不安定)」で分類します。
これらを組み合わせると以下のような表になります。
安定 | 不安定 | |
内的統制 | 先天的な能力が原因 | 努力が原因 |
外的統制 | 課題の困難度が原因 | 運が原因 |
上記の組み合わせ4つとその例を挙げると…
- 内的+安定=本人の先天的・潜在的能力に帰属する:知能が高い、低い等。
- 内的+不安定=本人の頑張り次第の要因に帰属する:努力したから、努力が足りない等。
- 外的+安定=課題の困難度の帰属する:テストが簡単だったから、難しかったから等。
- 外的+不安定=神のみぞ知る的帰属:運が良かったから、悪かったから等。
ワイナーは帰属先によって動機づけの高低が変わってくるとしています。
動機づけが高い人は、成功の原因を能力や努力(=内的統制)に帰属させ、失敗の原因を運(=外的統制+不安定)や努力不足(=内的統制+不安定)に帰属させる傾向が強いとされており、自尊心が満たされ、努力すれば成功できるという成功期待も高い状態と言えます。
動機づけが低い人は、成功の原因を課題の難易度(外的統制+安定)や運(外的統制+不安定)に帰属させ、失敗の原因を能力(=内的統制+安定)に帰属させる傾向が強いといわれており、失敗の原因を能力に帰属させると「何をしてもムダだ」というあきらめの気持ちが強くなって達成動機が低下します。
ここまで踏まえると、まず事例状況は「中学1年生の初めての定期テストで、テストの成績が悪かったことについて相談を受けた。その際、「準備不足だったかな」と伝え、Bを励ました。その後も、AはBを同様に励まし続け、Bも努力を続けていたが、成績が下がってきている」ということですから、悪い状況であると言えますね。
こうした状況において、選択肢①の「問題が難しかったかも」は「外的+安定:課題の困難度」になりますが、外的という本人がコントロールできないものに原因帰属を行えば、意欲的になることは難しいと言えますね。
また、選択肢④の「予想していなかった問題が出題された」は「外的+不安定:運が原因」ですが、「出題された問題」という当人に操作ができないもの(つまり外的統制)に原因帰属をしたとしても、次も「また予想が外れてしまえばダメだ」となってしまい、意欲が出ることはないでしょう。
さて、ここからが難しいところです。
理論的に言えば、選択肢②の「努力が足りなかった」というのは「内的統制+不安定」ですから、本人がコントロールできる要因に帰属しているわけですから、意欲が上がると見なすことができそうです。
しかし、本問の状況を踏まえてみると、Bは「準備不足」という原因帰属をもともとなされており、これは「内的統制+不安定」であり、それに向けての努力を続けてきたわけです。
この状況で「努力がまだまだ足りないね」と言われると、いくら「内的統制+不安定」であったとしても意欲が上がるような気がしないのは素人感覚としても理解できると思います。
また、こちらの論文によるとBのように学習に失敗した場面になると、努力に帰属させるよりも、選択肢③の「勉強方法があっていなかった」のように学習方略に帰属をさせた方が意欲が向上するとされています。
勉強方法も「内的統制+不安定」ということになりますから、本人がコントロールできるという意味では意欲的になりやすいと言えますね。
同じような帰属形式であっても、そして理論的には努力に帰属させることが意欲的になるとされていたとしても、本事例のような「AはBを同様に励まし続け、Bも努力を続けていたが、成績が下がってきている」という状況を踏まえれば、努力よりも勉強方法に帰属させる方が望ましいということになります。
以上より、選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断でき、選択肢③が適切と判断できます。